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10 質問とバナナ




 あれから日常を取り戻した様に以前と変わらない日々が続く、重症だった捕虜達も教会から戻り作業をしている。


 なんとこの国は捕虜達の国と不戦条約を結んだ。そして今、同盟する方向で話を進めていて、これが成立すれば捕虜達も開放される事だろう。


 その為か今では牢屋にいるもののカギは掛けられておらず自由に出入りできる。ただ、本人達の希望で今まで通り作業を続けていた。


 そりゃココに何もせず食べて暮らした前例がいるんだ、同じ道は通りたくないだろう。捕虜達は運動と割り切って働いている。


 俺の食事も以前の液体に戻っている。ただ、以前の管は使っていないので喋る事は出来た。だから俺はバナナの刑を覚悟して固形物が食べたいとお願いしてみた。


 「言う事言うまでお預けだよ」


 本から目を離さずそれだけ答える。意外な反応と答えが返ってきたので俺は恐る恐るもう少し話をしてもいいか聞いてみると。


 「そうだな、少し位なら良いよ。あと、答えられない事もあるからな」


 そう言うと本を置いてこちらを向いた。こんな機会は二度と無いかもしれない、このチャンスに聞けるだけ聞いておこう。


 「まず、名前が知りたい。それと何故拷問をしないのか? だな」


 「名前は言う事言ったら教えてあげる。それに心に十分ダメージあったと思うけど足りなかった? それ以上は大人しくしてればする必要無いしね。前にも言っただろ、言う気の無い奴を痛めつけるのは時間の無駄だって」


 言いたい事は解るが、それを言わせるのが仕事だろうに。それに


 「なんかさ、捕虜達は名前知ってそうなんだが……」


 「やけに拘るね、もっと他に聞く事は無いのか? まっ推察の通り捕虜達は知ってるよ、外で教えた。もちろん口止めをしてるからこの中で口にはしないけどね」


 「名前を知らないと話し辛いと思ったんでな。俺の国は今どうなってる? 話せる範囲でいいから教えて欲しい」


 これは流石に無理だろうし聞けても嘘の可能性が高いだろうな。


 「受け取り方は其々だね、私からしたら【危うい】の一言に尽きるよ。これから結ばれる西の国との同盟の規約の中に【東の国に対し戦争を起こす場合、全面協力を確約する】って文言が書かれてる。もちろん戦争が起こらなければ意味は無いけど今後の予定に組み込まれてるから時間の問題だね」


 衝撃の発言だった。もちろん嘘の可能性はあるが捕虜達の扱いの変化や態度を見る限り信憑性はある。それに、彼女の普段と変わらない物言いに不自然さが無い。


 それが真実なら今直ぐ駆け付けたい。駆け付けたいが……。俺の心を読んだ様に彼女が続ける。


 「今の君が行っても何も出来ないよ。だけどそれは君自身が招いた怠慢だ、私に責任転嫁しないでくれよ」


 「何を言う、お前がこんな体にしたくせにっ!」


 あまりの物言いに熱くなり怒鳴るが彼女はいたって平静に返す。


 「それはどうだろう? 拘束されてるとは言えまったく動けなかったか? ある程度動ける余裕があったなら体を鍛えられた、違うか? 少なくともそこまで悪くなる事はならなかった筈だ。


 お前が口を噤んでいるのも忠誠心のつもりでいるが、それも自分への誤魔化しで単に死にたくないだけだろう。お前はただ死にたくない、痛い思いをしたくない、そんな思いから大人しくしていたんだ。

 本当に国を思っていたなら脱獄や開放された時の事を考えない訳が無い。その時の為に例え痛めつけられても体を鍛える事は出来たんじゃないのか?」


 返す言葉が浮かばない。確かに俺は罰を恐れて大人しくしていた。この体もその結果だろう。死を恐れて逃げる事を考えた事は無い、ただ口を噤んでいた結果、殺されなかっただけで、そこに誇りも忠誠心も無かった。


 以前の拷問係に痛めつけられた時には、耐える度に感じていた忠誠心も今は虚しく感じてしまう。


 「ここでお前の忠義について議論する気は無いから。他に質問はあるかい?」


 「……………………」


 「なら話はここまでだね」


 「なあ、質問は終わりで良い。今更だけど体を鍛えたいんだが……いいか?」


 彼女は黙って俺を見つめている。もちろん無理な願いなのは解っている。それでも自分の怠慢と不忠義を知ってしまったなら、やるべき事が見えたから、鍛えずには居られなかった。例え拷問されたとしても。


 「――君には考えるべき事が他にもあって、そっちを優先して欲しかったんだけどね。まぁいいさ、その願いを聞いたとして私に何か得があるのかい?」


 「得は……無い。許してくれるなら、情報以外の事なら大人しく言う事を聞くし逃げ出す事もしないと誓う」


 「そうか、なら一つ教えとく事がある。有る意味鏡を見た時よりショッキングな事だけど、鍛えるというなら覚悟すること」


 あれ以上に酷い事がまだあるのか ?! それでも、決めた事だ。


 「……聞かせてくれ」


 「あの時、お前が気を失った後、拘束具の留め金は外してある。お前はあの時から自由に出来た。それを知らなかったのはお前に逃げる気も抵抗する意思も無かった事に他ならない。……己の恥を知れ、バカ」


 そんな……外れてるだって?


 確かに留め金は外されていて拘束は簡単に外せた。それじゃ俺は今まで本当に……動けるのにただ寝て過ごしていただけなのか?


 確かにショックだ。怠慢で醜くなっていたのは体だけじゃなかったのか、心さえも腐りきっていたのか。なんと酷い現実だろう、もはや騎士を名乗る資格も無い。


 「約束通り、逃げるなよ」


 彼女は本を手に取り読み始める。彼女の声が冷たく心に響いた。



 鍛える事の意味を見失う。今の俺に祖国に戻る資格はあるのだろうか?




 ――こんなに酷い拷問は初めてだ。






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