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ジェルドレア道場

ジェルドレア道場のある山は、かなり歩きやすい。

地面には石の破片があちこちにあり、草は何度も踏まれた跡がある。おかげで生えているのは短い草ばかりなので、歩いていくのは簡単だ。

草が鬱蒼と生い茂っていたら、道場までの道のりは大変だっただろう。


「魔法で何度か焼き払われた跡があるな」


魔法の痕跡があちらこちらにある。

おそらく、大規模な火魔法で山を全焼させ、聖魔法で樹木を甦らせ、なんてことを繰り返しているのだろう。

それにしても、見事な聖魔法だ。こんな凄腕の聖魔法の使い手が敵にまわったら、相当手こずるに違いない。攻撃しても攻撃しても、瞬時に回復してしまうだろう。


一度、魔法の気を探ってみるか……。


――白魔法『心眼』

山にいる魔法使いたちの様子を探る。

『心眼』は白魔法の技の一つで、視野の拡大や察知、対象物の分析などを高いレベルで可能にする。


中腹にあるジェルドレア道場から少し離れたところで、何組かが戦っているのが判る。どれも、二人一組で対戦をしているようだ。模擬戦闘だろうか?

現在戦っているのは10組。あまり魔法の出力は高くないな……。


次の瞬間、背中に悪寒が走った。


「あ、やば…………気付かれたか」


明らかに、ボクの方を見る気配があった。その視線はジェルドレア道場から。どうして気付けたんだ?

もしや白魔法か? ボクと同様に? あり得なくはないが……。


「さすが最高峰の武道場。ボクなんかまだまだか」


こちらに向かってくる気配はないから、迎撃される恐れはないだろう。

ボク自身は殺気は出していないので、敵だとは思われなかったのかもしれない。


ここで殺気を出したら、魔法攻撃を連射されるのだろうか?

ちょっと興味はあるが、怖いからやらない。ボクは臆病だからね。


「行きますかー」


この山の植物は、以前ボクが住んでいた島の植物とは全然違う。

島にも木は生えていたが、もう少し背は低かったし、色も若干異なる。

コルト町といい、この山といい、ずっと島にいたボクにとっては見慣れないものばかりだ。


「摘んでおくか。せっかくだし」


島では暇潰しに採集ばかりしていたからな。その癖がつい出てしまう。

リュックサックには、既に採集してあるコルト町の石や空気が入っている。

できれば、コルト町から魔物の侵入を防いでいた聖鍵も、欠片でいいから回収したかったが……。ほんのちょっとだけ、刃物で削ったりして。

まぁ、削ったせいでもし効果が消えたら、大変なことになるからな。諦めた。



まったりした道中だったが、数時間もすれば道場が見えてきた。

ワグドさんは「大人が丸一日かけても辿り着けない」とか言っていたが、そんなことなかった……。

嘘だったのか? ま、いっか。


剣を持つ者、杖を持つ者、弓を持つ者、さまざまが、道場の周囲で鍛錬している。


近付くにつれて、騒音が大きくなる。

闘気を混じらせた叫び声、剣戟の音、魔法の音、弓の弦が弾かれる音――それらの音を聞いていると、自然と胸も高鳴ってくる。みんなが切磋琢磨に励んでいる。いいねえ。

いよいよ、ジェルドレア道場に入れる。


そこは開けた土地だった。山の斜面を一部切り取ったのだろう。

中央にある道場の周囲には石畳が敷いてあるが、他は地面のままだ。

修行者たちは、それぞれ鍛錬の方法が異なるようで、同じ剣を持つ者でも、

ただ振っている者、剣に魔法をまとわせている者、打ち合っている者とさまざまだ。


近くで鍛錬をしていた人達に頭を下げながら、道場の前まで行く。

「ごめんください」と挨拶をする前に、中から人が出てきた。

50歳くらいの女性で、眼光が半端でなく鋭い。髪は短く切り揃えられており、七分丈の袖から抜き出ている腕は傷だらけだ。


音もなく奥からやってきたその女性は、ボクを見て、微かに溜息をしたように見えた。何だ?


「ストナード・ガリシュと申します」


ひとまず頭を下げる。


「あたしはリン・メルガ。ここの長を務めてる。で、何の用だい? 白魔法の使い手」


「……お気付きでしたか」


「気付かないわけないだろう。隠す気もなかったくせに」


感覚の鋭い者は、相手の体を流れる魔法の性質から、どの魔法の使い手か見破ることができるらしい。

さらに卓越した者は、「君は火魔法を4割、水魔法を3割、風魔法を3割の頻度で使用しているね」なんている判定ができるそうだ。ジェルドレア道場の長ともなれば、朝飯前の技術だろう。


山に入ったボクを察知し、ここに来るまでずっと監視していた気配は、この人に違いない。


「あんたみたいなのは珍しいからね、気付くのも簡単さ。他と紛れないからね。それで、何しに来た?」


「是非、ここで修行させても――」


「――ダメだ」


言い切る前に断られた。

マジか。


「……えっと、何故でしょうか?」


「白魔法を使うってことは、ノルモン島の生き残りなんだろ?

 じゃあ、ウチなんかで修行しても意味ないよ」


「どういうことですか?」


「はぁ……ちょっと待ってな」


リン・メイガさんは道場を出て、裸足のまま地面に立った。


そいて、右足を半歩前に出して、地面を踏みしめる。


――『全員戻れ』


「うぐっっっ!!」


いきなり頭をガツンを殴られたような衝撃が走る。いや、それだけじゃない。肉体も強張っている。

なんだこれは!? 風魔法か?


「おや、これを見るのは初めてかい?」


ふらついているボクを見て、リン・メイガさんは大層愉快そうな笑みを浮かべた。


「……闘気に意思を練り込んで、魔法で飛ばしたのでしょうか……? 風魔法と土魔法で同時に」


「おや、目がいいね。その通りだよ」


風魔法によって空気中にメッセージを飛ばし、土魔法によって地中にメッセージを走らせたわけか。

なんて技だ。


「広域向けの伝達手法としては、優れているだろう。空中に浮かんでる奴にも地中に潜っている奴にも届くからね」


無茶苦茶だ。なんて荒業だ。衝撃のせいか、まだ頭の中で鐘が鳴っている。

どうしてこの山の植物は元気がないのか? 今のような技を食らっているからだ。


「耐性の弱い人は、倒れてしまうんじゃないですか?」


「心配いらないよ。そんな軟弱はすぐに死ぬ」


「……」


四方八方から人が集まってきた。


「遅いねえ。さっさとしないか!!」


今度は大声を出すのか。

声も十分大きいぞ。


ーさっさとしないか

――さっさとしないか

―――さっさとしないか


やまびこが聞こえてくる。

こんなに大きな声が出せるなら、最初に魔法で伝達なんかしなくてもよかったんじゃないのか?

くっ、まだ頭が痛い。


「ようやく集まったか。フィリーはいるか?」


「はい」


「おいで」


人の群れの中から、少女が出てきた。

剣を背負い、黒い服に身を包んでいる。


「こいつはフィリー・ナピア。まだ16歳だけどね、ここじゃ一番強い」


リン・メイガさんは、隣にいるボクに向けて、そのフィリーという少女を紹介してくれた。


「フィリーです」


少女が軽く頭を下げた。ボクより2歳下か。


「ストナード・ガリシュと申します」


フィリーと名乗る少女をまじまじと見る。

あれ? 結構可愛い。

栗色の髪に、くっきりとした瞳、赤い唇。


「さて、今からフィリーとストナードで決闘をしてもらう」


「「え?」」


フィリーと同時に、声を発してしまった。


他の人たちもざわめいている。


「あの、フィリーさんって、ここで一番強いんですよね?」


慌てて、リン・メイガさんに確認する。


「ああ。あたしを除いてね」


当たり前だ。

あなたのような人に勝てるわけがない。


「安心しな。もし死にそうになったら、止めるから」


そういう問題なのか?


「いいのですか?」

あ、やっぱり。フィリーさんもリン・メイガさんに確認している。

うん、いきなり戦うんじゃなくて、まずは相手の実力をきちんと見極めてからの方が……。


「フィリー、全力でいくんだよ」


「分かりました」


真面目な表情でフィリーさんは頷く。

あれ?

なんか了承してる。


「いい見世物なんだから、他は静かに見てるんだよ」


おい。


「あ、そこのお前。奥から飲み物とお菓子を持ってきてくれ」


おいおいおい。


「ストナードは何か言いたそうな顔をしているが、話はフィリーとの戦いが終わってからだよ。分かったね?」


マジか。



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