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骸狩り姫の降誕

白い鷹の描かれた王旗が、王宮の頂上ではためている。

それは絶対的な王権の象徴だった。


しかし、今は、違う。

数マイル四方に及ぶ巨大な宮殿内には、無骨な鎧を身に覆った兵士たちがひしめいている。

王宮は、見渡す限りに広がる大軍によって囲まれていた。


革命だ。


王と貴族が礎となって、この大国は長年の繁栄を築いてきたが、この数年、王の政策は失敗続きだった。

王の権威は、急激に落ちていた。


王に向ける人々の視線が徐々に冷めていった中、逆に力を培った貴族もいる。

研鑽と改革を推し進めた有力な貴族たちの代表格が、ブランダーク伯爵だ。


齢40とはおよそ不似合な活気と闘気にあふれた肉体に、知略謀略に長けた頭脳。

「ブランダーク伯爵家の中興の祖となるに違いない」と、伯爵領内の領民から確かな賞賛を勝ち得ている。


そのブランダーク伯爵は、王宮を囲む革命軍の総大将として、後陣の中央で静かに王宮を睨んでいる。

「王宮が陥落するのも、もはや時間の問題ですな」

ブランダーク伯爵の脇に控えていた家臣が言った。


家臣の発言の通り、誰の目にも、王宮が陥ちるのは時間の問題だった。

ブランダーク伯爵が率いる革命の大軍勢は、およそ10万。

一方、王宮側に立って戦う兵士は、今のところ1人も見受けられない。


それもそのはず。

ブランダーク伯爵の冴えた策略によって、国内のほとんどの貴族は革命軍に組している。

王宮直属の近衛兵までもが、賄賂を掴まされて、ブランダーク伯爵側に寝返っていた。


今、王宮のあらゆる門は閉じられている。

籠城というわけだ。

ただ、いくら籠城したところで、王家の敗北は決定的。

10万の兵に囲まれたこの状況で、王家が採れる打開策など何もないだろう。

むしろ、ここでもし打開策をひねり出せるような知恵者が王家にいれば、過去の政策はことごとく成功していたに違いない。


ブランダーク伯爵は、王宮の頂上を睨み続けている。


――これまで散々、王には怒りを抱いてきた。あの憎い王旗をこの手でへし折るのが待ち遠しいわ。

斥候の知らせでは、王宮の門や窓は全て閉じている、とのこと。虫の這い入る隙間もないらしい。

兵を突入させるには難儀するだろうが、・・・・・・なに、焦ることはない。あと少し。あと少しなのだ。

今の王家には、誰もが失望を重ねてきた。もう我慢の限界だ。

わしが王位を簒奪するからといって、この国が大きく変わるわけではない。現存の制度は、出来る限り存続させる方針だ。

今後のわしの執政によって、人々の暮らし向きは、向上するに違いない。

――というのが、ブランダーク伯爵の考えだ。


現に、ブランダーク伯爵領内は栄えている。

ブランダーク伯爵は、確かに有能な執政者なのだろう。

それを知っているからこそ、他の貴族も王家に反旗をひるがえしたのであるが。


革命軍として名乗りを上げている誰もが勝利を確信している中、異変に気付いたのは、やはり、

絶え間なく王宮をにらみ続けていた革命軍総大将ブランダーク伯爵だった。


鳩が、一斉に、飛び立った。

おそらく王宮の庭園で飼われていたのだろう、純白の鳩たちが、瞬く間に王宮から逃げていく。


「何が起こったのだ?」

「鳩の世話番が、檻から解放したのでしょうか?」

「我々の侵攻に身の危険を感じて、逃げ出したのでは?」


革命軍の兵士たちが次々に憶測を口にする中、静かに、王宮の中央扉が動いた。

木製の巨大な扉が、ギシギシと音を立てながら、おごそかに開いていく。

――大砲でも飛び出すのか?

前衛の兵士たちは、弓と銃を構える。革命軍が持ち出してきた移動式の大砲は、いつでも弾を発射できる。

魔法使いたちも、すぐさま攻撃魔法を展開できる体勢だ。


「最後の足掻きか。あの腑抜けた王家も、土壇場では往生際が悪くなるか」

そんなブランダーク伯爵の呟きに答えるように、開かれた扉から、1人の兵士が現れた。


「1人・・・・・・?」

――どういうことだ? 

講和のための使者だろうか? それにしては、甲冑を身に着け、あまつさえ剣まで携えているのは奇妙だ。

しかも、あの甲冑は女物。


女戦士が1人出てきて、一体何をするというのか?


その女戦士が、剣を抜き、天を指した。

剣先から、まばゆい光を放出されて・・・・・・



ブランダーク伯爵の思考は、ここまでだった。


女戦士が王宮に引き返したとき、その背後にあったのは、宮殿を侵した革命軍の兵士の死体の山だった。

実に簡潔な殺戮だった。

女戦士が扉から姿を現してからのわずかな時間で、10万の革命軍の9割以上が死んだのだ。


一体、どんな剣技か、どんな魔法か、それとも神の御業なのか。

この大事件は、遠い異国にまで衝撃をもって伝えられたが、そもそもの出来事を直に目にした者が少ないため、事実を正確に把握するものは少ない。


この殺戮の現場から命からがら逃げ切った少数の者たちは、半ば狂乱したように、その女戦士について語った。

そして、その女戦士に対する呼び名は、いつしか統一されていった。



尊敬と恐怖と憧憬と忌避が入り混じった感情でもって、かの女戦士は、


――「骸狩り姫」と、呼ばれている。



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