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完全″全″欠  作者: ル・ヴァン
降り立った世界
9/49

異界を知る(7)

 昼を少し過ぎた辺りで村に到着。そしてそのままギルドに直行。

 当然そこにはカウンター越しに受付嬢(ジーナ)がいる。暇そうに(実際暇なんだろうが)カウンターに頬杖をついていた。


「戻ったよ。」

「おや、お帰り。意外に早かったね。

その坊主が足を引っ張ってもう少しかかるかと思っていたんだけどね。」

「いやいや、なかなかの腕だったよ。

知識があれば私なんか必要なかっただろう。」


 それを聞いたジーナは「ほぉ。」と本当に意外そうに俺に視線を向けてきた。


 問答が一段落して、早速とソウルと魔石を取り出すシェイラルカ。

「1、2、3・・・・。10体かい。なかなかの団体さんじゃないか。報告では5体だったんだけどね~。どれ。」

 そう言って奥の方へと向かいゴソゴソと何かを探りだして、戻ってきた。

「はいよ。」

「あぁ。」

 短いやり取りで何をしてるかわからない俺は首をかしげて見ていた。すると、シェイラルカはソウルを取り出してジーナが持ってきた石板の上に置いた。

 その石板はソウルがピッタリはまるような窪みがあるだけの石の板だった。そして、ソウルを手で触れたまま

「ゴブリン6体を依頼に従い討伐した。」

と口にする。特に何も起きる事はなく、そのまま手を離してソウルを消す。


「次は坊主!あんただよ!」

「はっ、はい!」

ボーッとしていた俺に声をかけるジーナ。

「ど、どうすれば?」

「この石板はな、《真偽の石板》と言う魔道具だ。

本当の事を言えばさっきみたいになにも起こらない。

が、嘘を言うと石板が黒くなる。」

 シェイラルカがしっかり説明してくれた。そこはジーナの仕事だろうと思うのだが、当のジーナは我関せずの態度だった。


 なんかそんな物が、地球にもあったな~。などと思いながら、言われた通りにソウルを置く。

「えっと、依頼の通りに?4体のゴブリンを討伐しました?

で、良いんですか?」

 当然本当の事を言っているので石板にはなんの変化もない。シェイラルカに視線を向けると、首縦に振ったので、そのまま手を離すと、石板の上でソウルが消えていった。


「これが報酬だ。確認しな。」

 そう言ってカウンターに2種類のコインを数枚並べるジーナ。銀のコインが1枚、銅のコインが6枚あった。

 シェイラルカはそれを受けとり、更にジーナからGP石を受け取った。

 本来は報酬は良しとしても、GP石だけは個人個人にしっかり渡す。でないと一人がGP石を独占してランクを上げてしまう。ってことが前にあったらしい。が、今ジーナはシェイラルカに全部渡した。

 勿論、ジーナが仕事を適当にしているのも事実だが、それ以上にシェイラルカを信用しているからと言うのが大きいだろう。


 シェイラルカは俺に今受け取ったGP石を手のひらを広げて見せながら、もう一方の手でGP石を摘まんで俺に渡してくる。

「これを噛み砕くか、そのまま飲むかしてくれ。」

「わかりました。」

受け取りながら了承する。

そして、そのまま口に放り込み飲み込んだ。

特に変化はない。俺が飲み込んだのを確認すると、シェイラルカもGP石を飲んだ。

「それじゃ行こうか。

ジーナ。また来るよ。」


 ギルドを出た俺達は宿の俺の部屋で話始めた。

「さて、報酬を分けようか。

依頼の達成が銀貨1枚と銅貨6枚。本来は5体の捜索と討伐で銅貨8枚だったんだがな。数が倍だったから、報酬も倍になってる。・・・ほら、銅貨8枚だ。」

と報酬の半分を渡してきた。だが、半分を受けとるのはおかしくないだろうか?俺が殺したのは10体中4体だ。つまり貰うべき報酬は4割のはず。銅貨8枚の倍が銀貨1枚と銅貨6枚ならば、銅貨では16枚になる。16の4割は6.4枚。四捨五入として銅貨6枚が俺の妥当な報酬だろう。

 シェイラルカに俺の考えを言うと、

「ほぅ。算術が出来るのか。しかもなかなか早いな。

まぁ、確かにそうだが、君は一文無しだろ?何も言わず受け取れば良いものを・・・。

あぁ。・・・・よし。じゃあこうしよう。君の報酬は銅貨6枚でなら良いんだろう?」

何かを思い付いた顔をして、銅貨6枚を渡してきた。不思議に思いながら、頷き受け取る。

「よし、これでいいな。じゃぁ夕食の材料でも買い出しに行こうか。」

俺は同意して再び宿から出るのだった。


 買い出しと言っても実に簡易なものだった。

肉と簡単な調味料はシェイラルカが持っているらしく、野菜だけを買いにいくことになった。

 店は他の家と変わらない大きさだった。故に店となると当然小さい。

 ドアから入ると左右に長さ1m程の3段棚と、真ん中に同じ長さの台があり、そこに商品が文字通り所狭しと並んでいた。


 一つ一つシェイラルカにどんな野菜なのかを聞いて4種類ほど買い、店を出た。


「それで、何処で料理が出来るんですか?」

店から出て早速聞いてみる。

こっちだ。と言って歩き出したシェイラルカの後ろから付いていった。


 ここだ。と案内されたのは一軒の家だった。

「えっと、ここはもしかしてシェイラルカさんの家ですか?」

「いや、違うぞ。大体家があるならば宿に泊まらんだろう?

ただの空き家を使う許可をもらっただけだ。」

言われてみれば当然だ。だが余りにも自然にドアを開けるもんだからもしかしたらと思ったのだった。


 家に入り、キッチン(料理場と言うらしい)を確認してみると、多少ホコリが積もっていた。

空き家なので当然と言えば当然だろう。

 そんな料理場は主に石で出来ている。コンロの形をした物が2つ置いてあり、火はこれを使うらしい。

 どうやって使うかわからないのでシェイラルカに手本を見せてもらう。使い方は実に簡単で、レバーを下ろすだけ。火の強さもレバーで変えれる優れものだった。どんな仕組みか全くわからなかった。ホースが繋がってるわけでもないのでガスではないだろう。シェイラルカに聞いてみると魔力が燃えているらしい。

 名前は火花。まぁ確かに火の花に見える。

 水には便利な道具はなく、井戸から汲んで来て使うそうだ。


 シェイラルカにの持ってる布を借りて、井戸から水を汲んできて掃除を始める。

 シェイラルカはと言えば頼んだぞと言って、奥の部屋でごろ寝をし始めた。部屋も掃除しないと汚ないだろうにと思いつつ掃除に集中した。


 掃除が終わる頃には夕方まであと少しと言う時間だった。

「ふぅ。それじゃ料理始めますかね。」

「ん?掃除は終わったか?」

 部屋でごろ寝をしながら尋ねてきたシェイラルカに顔向けて、はい。と答えて料理に取りかかる。返事をしたときに見えた彼女は、しっかりと下に布を敷いていた。

(いつの間に・・・まぁ、普通に考えれば最初からなんだろうけど・・・)


 材料を見てみる。

 シェイラルカが何処からともなく持ってきた何かのブロック肉とさっき買ってきた4種類の野菜。

野菜たちは、赤いカボチャの形をしたアカボと葉から伸びる実の厚さが1cm程で円の形の薄く黄色いタクタク、ジャガイモ(ネ)とハクサイ(シロハ)に見える物がある。

 シェイラルカに聞いた話だとアカボとタクタクの2つが炒め物に、ネとシロハがスープに使われるらしい。


 取り合えずそれぞれの野菜と肉を少しずつ味を確かめてみる事にする。

 包丁は無いので代わりにナイフをシェイラルカに借りている。

 他にも全体が金属で出来たフライパン(焼き板)と直径30cm深さ15cm程の寸胴鍋(スープ釜)も借りている。


 スープ釜で水を沸かしながら材料の準備をする。

 アカボは見た目がカボチャだが、簡単にナイフが入る。皮はカボチャと一緒で少し厚目だった。タクタクは大根みたいに薄い皮だった。

 肉はブロックから薄切りにして数切れ切り取る。

2つの野菜の皮を剥いて肉と一緒に炒めてみる。味付けは一切していない。

炒めたら早速1つずつ食べてみる。

(肉は牛に近いかな?でも固い。それに獣臭い。

まぁ食べれなくは・・・ないかな・・・?

アカボは・・・ん!?これってジャガイモじゃん!?なんで炒め物にしか使わないんだ?いや、シェイラルカさんから聞いただけだから使うかもしれないけど。

次はタクタクは、ん~。大根?かな。少し苦味が強いかな。

これもなんで炒め物に・・・。)

味を確かめて次に移る。


 ネはジャガイモの見た目らしく皮は薄い。前の2つと同じように皮を剥く。シロハは一番外側の葉を剥いでおく。

ネは薄めに切り取り、シロハは葉先と根元を少し切り取り、湯の沸いたスープ釜に入れて煮る。

(先ずはネ。ふむ、これはニンジンかな?

シロハは、わお!白菜まんまじゃん。

スープの具材はまぁこれはわかるね。)

味の確認を済ませてからメニューを考える。

 調味料は塩と数種類のハーブと香辛料を混ぜた七味のようなもの。

 あとは調味料ではないがイロー焼(黒いパン)。

使えるのはそれだけだ。これでどうしたものか。

まぁ、足りないものを買いにいくのも手だろう。






 結局料理すると言いながら、簡単なもので妥協してしまった。

(悔しいです!こっちの食材や料理を知りたい・・・。

知りたい・・・?あっ!?・・・鑑定あったじゃん。)


 今更ながら思い出し更に落ち込む。

 仕方ないので完成した料理とも言えないような品を鑑定してみる。




名称:イロー焼   製品ランク:F+


作製者:蒼


イローを捏ねて焼いた物。

多少手が加えられていて、少し柔らかい。


名称:野菜のスープ    製品ランク:E-


作製者:蒼


タクタク、ネ、シロハの入った塩スープ。


名称:ワルフのステーキ   製品ランク:E+


作製者:蒼


下処理を施されたワルフの肉のステーキ。



名称:茹でアカボ    製品ランク:F+


作製者:蒼


水で茹でて塩を振りかけたアカボ。


(これは出来が悪いだろう。)

味見をしたときに自分の店にある様々な調味料が欲しいと切に思った俺だったが、そんなものが手に入るわけがなく、仕方無しの味付けだった。

 本職の料理人ならばどうとでも出来たのかもしれないが、俺の腕では現状これが精一杯だった。


「シェイラルカさん。出来ました。」

終にうたた寝をしてしまっていたシェイラルカに声をかける。

「あ?あぁ・・・。すまんな。寝てたか。

ありがとう。早速頂こうか。」

 立ち上がり、背伸びをしてから料理場へとやって来た。


 それから二人で机に料理を並べて椅子に座る。

特に何も言わずにスープに口をつけるシェイラルカが固まった。

「あ、あの~。すいません。思ってたよりも上手く出来なくて・・・。」

恐る恐るシェイラルカを見ながら声をかける。

「何を謝っている?普通に上手いぞ。流石技能持ちの料理だな。」

首をかしげながら言ったあとは、感心するように他の物も次々に口にしていた。

 まずかったわけではないとわかり、ホッと胸を撫で下ろしてから、俺もスープを飲む。

 途端、固まる俺。

スープを思わず見てからもう一口飲んでみる。

(おいおいおい。なんだこれ。味見したときと全然違うじゃないか。どうなってんだ???)

 味見したときは確かに思った。足りないと。美味しくないわけではないが、日本人には物足りなかったのだ。

 それはそうだろう。塩と隠し味的感覚で七味っぽいものを入れただけだ。だが、今目の前にあるスープは美味しいのだ。

 自分で作っておきながら美味しいと思うのは自意識過剰だろうと思われても仕方ないが、もう一度言おう。

 美味しいのだ。

 野菜たちの旨味がしっかりと融合し、塩の僅かな酸味とごくごく少しの辛味がなんとも言えない味を出していた。

サッパリとしたスープは、スッキリした旨さだった。


 それからは、一心不乱に食べた。

 他の品も美味しくなっていたのだ。

 ステーキは柔らかくなり、香辛料(七味っぽい物)の辛味と肉の脂の甘味が絶妙に絡まり、上品な旨さだった。と、同時に香辛料で抑えられながらも、僅かな獣の臭いが肉と言うものをこれでもかと実感させてくれた。

 茹でたアカボはジャガイモの味なのでこれも大変美味しかった。フカフカの食感とイモの旨味。そして塩の味がアクセントになり、見事な塩ジャガだった。

 残念ながらイロー焼は若干柔らかくなって、ボソボソが多少無くなった程度で、味自体は変わらなかった。それでも、そのまま食べるよりも食べやすかった。

二人とも食べ終わり、少しの間余韻に浸っていたところたでシェイラルカが先に口を開いた。

「非常に旨かった。まさかこれほどのものを作るとは思わなかったよ。」

 そう言うシェイラルカの顔は微笑を浮かべていて、とても落ち着いた雰囲気だった。

「正直自分でも驚いています。作ってるときに味見した時はガッカリしていたんですが・・・。なんだか、出来上がってしまうと味が全然違いました。」

 正直に思っていることを話すとシェイラルカから答えが帰ってきた。

 なんでも料理の技能は料理に関する技術だけが効果あるだけではないとのことだった。自然と味の方が作り手のイメージしている味に近づこうとしているらしい。

 その効果こそが料理技能の最たる効果なのだそうだ。

 確かに、イメージしていた味に近づいている感じだった。調味料自体が無いので完全にイメージ通りとはならないが、それでも日本で同じ材料と調味料だけで作ってもこうはならなかっただろう。

 この世界の技能と言うものは大変素晴らしい物だと感じたのだった。


 そこから宿へと向かい、今日稼いだ自分の金で宿を借りた。

 そして、井戸の水で体を拭いた。お湯もあるらしいが、別料金だったのでタダの井戸水で吹いたのだが、秋の始まりのような気候のここでは少し寒かった。

そうして、布団の中で冷えた体を丸めて眠りについたのだった。


 翌朝目覚めて、体を起こした俺が目にしたのは、広くなった部屋と、宿にはなかったクローゼットらしき物と姿見などの家具だった。

 木造の部屋と言うのは変わりなかったが、なんだかベッドも布団も良いものに変わっていて、少し豪華な部屋になっている。

 訳がわからず呆然としていると、ドアをノックしたあとに一人の女性が部屋に入ってきた。


 貴族然とした佇まいで、質素ながらもどこか上品な赤のワンピース風の服を着ていた。

 その様は水色の髪の毛と相反しながらも、凛々しい顔つきが綺麗にその2つを見事に纏め上げ、息を飲む程の美しさだった。


「お目覚めになりましか?」

優雅に一礼をした後に尋ねてきたのは、皮鎧姿が良く似合う人ではなかった。

「シェ、シェイラルカ・・・さん?」

「はい。」と頷き、微笑む彼女はあの荒々しく野性的な彼女ではなかった。

 どこまでも優雅で、気品のある凛々しく美しい貴婦人だった。

 混乱してワタワタしている俺にさらに追い討ちをかける。

「ソウ殿。これより父に・・・領主に会っていただきたい。」

つまりは、そう言う人だったと言うこと。


理解すると同時に堪らず叫んでしまう俺の声が村に響き、それがその日の村の目覚まし時計になった。


「ど、どゆことぉぉぉぉぉ~~~~~!?!?!?」


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