異界を知る(6)
料理のレベルの間違いを修正しました。
目的の場所へと向かう一時間の間に、ソウルを確認してみた。
案の定技能が更新されていた。
他は変わっていないようなので、技能だけをよく見てみる。
習得技能
調理:4 異界刀術:2<new> 異界の体術:1
鑑定:5
となっていた。
新しく『異界刀術』が加わったのだが、何故かレベルが2になっている。
『刀術』を変換したと言っていたから、てっきりレベル1だと思っていたのだが・・・。
あれだけ日本で才能が無いと言われてきた俺。
それが、ちょっと素振りしただけで『異界刀術』がレベル2と言うのはどういうことだろうか?
それと、大体使う武器の種類によってスキル的なもの(この世界の場合技能)が変わるはず。
俺がさっきやったのは確かに古流剣術だが、使った武器は刀ではない。この場合は刀でないと使用できないのが異世界の常識だと思っていたのだが・・・。
ここでは、使う物からの影響ではなく、どう使うかが影響するのだろう。じゃないと俺の技能が説明できない。
自分の技能について考えながら歩き、シェイラルカとはなにも話さずに目的地に着いてしまった。
「さて、この周辺を少し探索しようと思う。
だがその前に、ゴブリンについて少し話しておこう。
姿は実際に見てるようだし、その辺は省かせてもらう。」
ゴブリンは、あの大きな耳と嗅覚で周辺を探る。
攻撃方法は飛び掛かってきてからの噛みつきだけ。
はっきり言ってしまうと、ただの獣。(シェイラルカ談)
(ゴブリンと言えば、背が小さい人形で、こん棒とか錆びた剣とかで武装してるイメージが強いんだけどな。)
「特に注意しなければならない事は、ハッキリ言ってない。
だが、油断はするな。たかがゴブリンだが、人間の体くらいならどうとでも出来るからな。」
その辺は実体験でわかっているので、素直に頷く。
例え異世界だろうが人間の体の耐久力なんてたかが知れてる。
ソウルにも防御力などに関するような項目は存在していなかった。
人は呆気なく死ぬ。
それが、ここでも常識。それを忘れず、しっかりやっていこう。で、なければ姉に会えず、日本に戻ることもできない。
「探索でも、二人で移動するが、なるべく会話は控えよう。
会話が原因でこっちより先にゴブリンに気付かれたら嫌だからな。
なにか質問があるなら今のうち聞いておくが?」
特に問題も質問も無いので大丈夫だと答えて二人して歩き出す。
それから暫く。目撃された場所周辺を探索すると、10体程のゴブリンが集まっていた。
ゴブリンから俺たちまでの距離はそれほど離れていない。恐らく100m程だろう。
その位置から俺たちは静かに佇んでいた。
100m離れた位置から見ている生物のその様は異質。
目がない生物が群れでいるなんて、日本では見ることすら叶わないだろう光景。
そんな光景を前にしても、特に思うことのない現地人は静かに剣を抜き、俺に視線を合わせる。
「行くぞ。」という問い掛けなのだろう。
シェイラルカ程静かに剣を抜ける技量はないが、俺も出来るだけ静かに剣を抜いて、その場に鞘を置いておく。
そうしてから、大丈夫だと意味を込めて頷く。
シェイラルカが先に駆け出し、それに続く俺。
ゴブリンの群れとの戦闘が開始された。
シェイラルカは群れの右側へ、俺は逆から行こうと左へと進路を変える。
ゴブリンたちは俺らが走り出して直ぐにこちらに気付き、こちらへと四足歩行で向かってきていた。
シェイラルカが右、俺が左に進路を変えると、それに合わせるようにゴブリンたちもそれぞれ別れる。
シェイラルカの方に6体、俺に4体。
実力的に良い感じじゃないかと思った。
先行していた1体とあと3m程のところで剣振り下ろしながら大きく右足を踏み出す。
飛び掛かって来たところで剣がゴブリンの頭に当たる。
メキャッと音がして地面へと叩きつける。
(ちっ。全然斬れねぇ。『古流刀術』じゃ無理だな。
斬る剣技ではなく、叩き斬る感じでやった方がこの剣には合ってる。)
瞬時の判断で戦闘スタイルの変更を決める。
レベル2の技術を捨てて、力任せの素人攻撃へと変える。
ピロ~ン♪
『剣術』を習得しました。
また1体が飛び掛かってきていたのを横凪ぎの一撃で右へと吹き飛ばしたところでアナウンスが頭に流れる。
(五月蝿い!戦闘中は黙ってろ!)
アナウンスに内心文句を吐きながら、吹き飛ばしたゴブリンを一瞬で確認。
右腕が肩から千切れ飛んでいるのを確認すると、脅威はないと判断し残り2体に集中する。
2体は横に並ぶように俺へと向かってきていた。その為、飛びかかるタイミングもほぼ同時だった。
飛び掛かってきているのを慌てることなく対応する。
右に流れていた剣を右下に下げて、左上へと斬り上げる。
顎に当たり、ゴキッと音がして真上に吹き飛ぶ。
左のもう1体の飛び掛かりは、剣の勢いを利用して右へと回転しながら移動して避ける。
通りすぎて着地したら、後ろから斬り下ろしを背中へと叩きつけて黙らせる。
次に左半回転をしながら横凪ぎに剣を振る。
すると、斬り上げで吹き飛ばしたゴブリンが重力に忠実に降りてきたところを見事に捉えて横に吹き飛ばした。
周りを確認してみると、足元には頭が割れているやつ、後ろには背中が抉れた奴、左には頭の横半分がなくなっている奴、右には鳴き声をあげながらなんとか体を起こそうとしてる奴がいた。
まだ生きてる奴のところまでいって頭を一突きして黙らせた。
シェイラルカを見てみると丁度最後の1体を突き刺したところだった。
「いやはや、いきなり逆方向に進路を変えるから心配したぞ。
まぁ、全く問題なかったようだがな。なかなか有望じゃないか。」
最後の1体を殺して後ろのポーチから布を取り出して、剣の血を拭いながら俺のところまでやって来た。そして、剣を鞘へと入れながら俺に話しかけてきた。
「ありがとうございます。正直自分でも不思議に思ってます。
戦闘になったら急に落ち着いてしまって、どう言うことなんでしょう?」
なんだか自分じゃないような、もう一人の自分が出てきたような感じがした。
(なんだか、脳内で使ってた言葉使いも荒かった気がするし・・・)
だが、ゴブリンを殺したときの感触はハッキリと覚えているし、もちろん記憶もある。間違いなく俺が考えて行動していたのだが・・・。
「それはソウルに書いてあった括弧の付いたものだな。言っただろう?括弧の中のランクは戦闘以外。そして、括弧のランクは低い。
つまり、戦闘になれば本来の力が出せる。
それがソウの場合は知能と精神。と言うことだ。」
(それはわかってるんだけど、あれが本来の俺とは思えないな。
まぁ、火事場のバカ力的なものかな?)
と自分なりに納得する。
「さて、ソウの実力も見れたしさっさとやることやって帰ろう。」
そう言って俺が腕を斬り飛ばし、頭を一突きして殺したゴブリンに手を置く、
「《ハント》。」
するとゴブリンの体が僅かに発光する。
光はすぐに消えて、彼女の手には2枚のカードを持っていた。
「こうやってソウルと魔材を取り出す。」
2枚のカードを表にして俺に見せる。
「こっちほ魔材だ。ゴブリンの場合は歯だ。
これをギルドに持っていけば、使えるようにしてくれる。」
「どう言うことでしょう?使えるようにとは?」
「今はまだ使えない。この魔材は魔気を帯びているのは話したな?この魔気はかなりの毒だ。当然このままじゃ使えない。それにどう見てもゴブリンの歯には見えないだろう?
このカードを魔材に変える事の出来る道具がギルドにあり、更に魔気も除去してくれる。そうして、初めて使えるし、触れる様になる。因みにこのカードのままであれば、魔気は漏れないから安心して良いぞ。」
なるほどなるほど。
説明を聞いた俺は早速とばかりに、自分で仕留めたゴブリンのもとに向かう。
1体の体に手を・・・・
(手を・・・置く!?こんなキモいものにさわるのか!?
いやいやでもそうしなければ・・・)
葛藤。一斉一代の決断の時である。
だが答えは決まっていて、要は覚悟を決める事が出来るかどうかと言うことだ。
暫く手を空中に漂わせて、自分の世界に浸っていると
「何してる?」
「は!?」
シェイラルカに背後から声を掛けられて我に返る。
さっさとしなければとわかっているのだが、日本人にこれは厳しい。
「な、なんだか触るのに躊躇いが有りまして・・・。」
「・・・ふむ?可愛らしい女みたいなことを言うな?
別に良いが。剣で触れても良いぞ。」
思わず両手を地につけて、項垂れる。
(そ、そんな方法があるのになぜ、シェイラルカさんは直接触るんだ!?)
剣を当ててハントと口にすると、ゴブリンの真上にフヨフヨと2枚のカード(ソウルと魔材)が空中に浮かんだ。
それを手に取り、無事にハントが完了した。
残りのゴブリンも同じようにしてハントを完了した。
因みにハントする。と言うのは、ソウルや魔材を回収する。と言うことだ。
即ち、ハントが完了。は、ソウルと魔材を回収しました。って事になる。
それから、ハントが完了した後の死体はシェイラルカが四苦八苦しながら専用の道具で起こした火によって焼却された。
こうしておかなければ、ゴブリンたちの血の臭いで良からぬものが森から出てくる可能性があるからだ。
更に、人も魔物も死体となるとアンデット化。つまり、ゾンビとなってしまう。ゾンビにも色々と種類があるそうだが、総じて生きたものを襲う事が本能らしい。
なので、ハントし終わった魔物の死体や、人の死体は焼却するようにシェイラルカから教わり、村に戻るのだった。