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完全″全″欠  作者: ル・ヴァン
魔神と神
43/49

システム

 調理場に着き、ガガから使える材料を見せて貰う。


「ソウさん。期待してますよ。」

 なんて、爽やかに邪念の無い笑顔を浮かべて声をかけてくる。


「嫌味か」と言いたくなるが、表情や眼を見る限り本当に期待しているようだ。何がそんなに態度を改めさせた原因かは今一わからないが、ガガは俺の事を本当に認めてくれているようだ。


 俺。と言うより、日本人が作る物と言えばご飯は欠かせないだろう。が、今回はあえてご飯は無しにする。


 ハッキリ言ってご飯無しになると俺が作れる物はかなり限られてくる。どうしても、ご飯ありきのおかずが主なレパートリーであるし、喫茶店で出していた物はそもそもが軽食の類いであって、夕食には余り向かない。

 それでも、覚悟をした今となってはキレイヌに認められたい気持ちがある。だが、再びご飯を出してしまうとキレイヌが納得しない可能性が有るように思えてなら無い。そのため、レパートリーが少なくなる方針を取らざるおえない。と思う。


 それを踏まえて用意された食材たちを見る。流石に場所が場所なだけに、食材は豊富で色々とある。一つ一つ鑑定して、それでもどんな食材なのかわからないものは火を通して味見をし、食材を確認した。

 幾つものメニューが浮かびはするが、そもそも作り方がわからなかったり、わかるものでも怪しかったりと言うものを除外していくとかなり限られる。


 その中で俺が選んだ物は・・・・。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今日の夕食はいつもより少し遅めになるらしい。

 何時もならば、王族や重鎮たちの夕食が終わったすぐあとくらいに食べて、翌朝の仕込みを済ませて一日が終わる形だそうだが、今日だけはすべての仕事を終わらせたあとに食事として、あとは寝るだけにしてもらった。


 一人で十数人分を用意するのに時間がかかってしまい、いつもの時間と言うやつに完成しなかった為だ。

 その際キレイヌからキツイ目で見られていたのに気が付いた。多分『時間くらい計算しておけ』と思われたのだろう。


 そんなこんなで、皆が各々のタイミングで席に着き始める。

 全員が席に着いたのを確認し、配膳を開始する。


 因みにだが、場所はTHE食堂と言う感じの広い部屋である。


「今日、俺が用意させてもらったのは丸く平たい形をし、具材やチーズを乗せてあるピザと言う物。

 そして、棒状の物はフライドポテト。

 そして、茶色く丸い物が唐揚げ、リング状の物をイカリング、それから魚のフライです。

 飲み物は炭酸水と言う物で、そのまま飲むか、お酒や果汁を加えて飲んで下さい。混ぜる場合は炭酸水を多目で味の濃い物。お酒の場合はキツイお酒を混ぜると良いと思います。

 そして、パスタも用意させてもらいました。ソースはクリームソースとペペロンチーノ、ミートソースを用意してあります。

 デザートとして、アイスクリームも用意してあります。」


 以上が用意したものだ。

「設備も無いのに無理だろう」と言われる品物、特に『炭酸水』なのだが、いやはや『創造魔術』様々だ。

 色々と欠けた知識だったが、それでもなんとかそれらしいものを用意できた。あくまでそれらしいものなので、やはり現代物と比べると違う。


 そして、一つ心残りがある。

 パスタのメニューにナポリタンを加えたかったのだが、生憎ケチャップが存在していないし、作り方もわからなかった。

 トマトからどうにか出来ないかと試行錯誤したが、納得できない味にしかならず、渋々諦めることになった。


「見たこともない料理が幾らかあるな。しかも、米がない。てっきり、米を使ったものを出してくると思っていたんだが・・・・。」

 料理を観察しながらポツリ呟く様に口を開くキレイヌ。


「凄いですね。馴染みのあるパスタですが、普通の物とは違う様ですし・・・・。」

 流石にパスタに関してはある程度メニューが開発されていて目新しさはない。が、この世界で本来使われる筈の具材を入れなかったり、逆に入れない具材を入れてあったりする。


 全く新しいパスタになってくると少し難しかった。ここに醤油や味噌があれば話は変わってくるが、無いものは仕方ない。断念したナポリタンはケチャップがないので、当然まだ開発されていない。なので、余計に心残りがあったりする。

 そもそも、醤油があれば和風パスタが作れたし、もしかしたら馬鹿正直にご飯を主にしたメニューにしていたかもしれない。


 取り合えず皆は全ての品を少しずつ皿に盛り、味を確かめるようにゆっくりと口にいれていく。


「・・・・はは。これはもう敵わん。」

 たった一口。この世界のこの地方でよく食べられるミートソースパスタを食べたガガが、フォークを置き額に手を当て天井を見上げ、呟いた。


「文句無しに旨いよ。」

 今まで敬語だったガガの口調が砕けている。余り気にすることでもないので、そのままにしておこう。

 他の面々も一口、口に入れて目を白黒させている。


 反応がオーバーに思えるが、『不味い』と思われての反応ではないようなので「ホッ」と胸を撫で下ろす。


 今回の料理はどちらかと言えば家庭料理の枠に入るだろう。正直料理人を納得させるためのメニューではない。と思う。

 料理の最高品などと言われると何が出てくるかを考えれば当然の事だろう。思い浮かべるのは、フランス料理のフルコースや和食の御膳などを思い浮かべるだろう。他にも色々あるだろうが、俺が思い浮かぶ最高の料理はこの二つだった。


 眼で楽しむことが出来る飾りつけやナイフやフォーク、箸を入れたときに楽しめる工夫。そして、もちろん味も一級品。

 そんな、料理は到底俺には作れない。


 この世界で料理人として生きていく覚悟はしたが、俺がなる料理人はこんな風な高級な料理を振る舞う料理人ではない。と言うかなれない。

 下町の食堂や酒場などで、振る舞う料理しか作れない。そして、作りたいと思う。勿論可能ならば高級な料理も作ってみたいが、残念ながら調理方法を知らないし、知っている人もいないだろう。


 そんなこんなで、俺が『出したい料理』を出した結果がこれである。当然ながら、材料の兼ね合いもあったが為の料理だ。


 そんな俺の料理に不満や不評はなく。皆は大いに喜んで口を、手を動かしていた。


 俺も一通り皆の反応を伺ってから席に着き自作の料理に舌鼓を打った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「貴方の想いをバカにしたこと。また、私の勘違いで貴方を罵倒した事を深く謝罪します。」

 ピシリと背筋を伸ばし、口上を述べた後に深々と頭を下げるキレイヌ。


「いえ。謝らないで下さい。キレイヌさんのお陰で俺は大事なことに今更ながら気づかされました。逆に俺から謝罪と、感謝を・・・・。すいませんでした。そして、ありがとうございました。」

 キレイヌに負けぬ様、姿勢を正して頭を下げた。


 キレイヌはキョトンとしていたが、その後は満面の笑みを浮かべてくれた。






「さて、面白味の無い話はこれで終わりです。

 ソウさん。今日はトコトン付き合ってもらいますよ。」

「?」

「ははは。確かに!これはもう、寝てる場合ではないな!」

「いっちょやるぞ!!」

「おうよ!」

「当たり前だ!」

「・・・・ん。」

 キレイヌの発言に今までは成り行きを見守り黙っていたガガ、そして他の料理人たちが口々に賛成の意を唱え始めた。

 中には賛成の意を唱える連中を横目に見ながら、キレイに食べ尽くされた食器類を素早く片付ける者もいた。


 何に対しての賛同なのか、何が突然始まったのか。

 ワケわからないまま眺めていた。


 ゾロゾロと移動し始めた皆は迷うことなく調理場へと向かって行く。更に調理場には片付けをしていた人達まで気合い十分と言う顔で待ち受けていた。


「何が始まるのか?」そう問うた答えは「何言ってんの?」と言う一同のありがたい呆れた眼と表情であった。


「ソウさん。あれだけの料理を私たちに振る舞っておいて『何をする』か聞くなんて・・・・やっぱり舐めてる?」

「いやいや!」

 冷ややかなキレイヌの声音に全力で否定する。


「あれほどの味を出されたら負けてられない!って思うけど、それよりも何よりも貴方に教わりたい気持ちの方が強いのよ。そして、断然その方が私たちのためにもなるから、変なプライドは持たないわ。その代わり・・・・トコトン付き合って貰うわよ。」

 言葉尻にハートのマークが付いていそうなオチャメな声音でウインクをかますキレイヌ。


 言葉も表情もキツイ彼女が、今なおキツメの表情でするウインクは不思議と可愛らしく少しクルものがあった。







 ドドドドドドドドドドドドドド

 その瞬間に響いてきた地響きのような音。


「な、なに!?」

「なんだ!?」

 口々に音の原因に疑問の声を不安そうにあげる。



 が、俺は違う意味で不安を感じ、更に懐かしい光景がもうすぐ現れるであろうことに何故か、本当になんでか、なんでかな~、暖かい何かが胸にあった。



「誰!!??私の蒼ちゃんに色目を使ったのは!!!!????」


 なにをどう感じているのか、不思議姉センサーが作動し颯爽と登場したのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 姉の登場(乱入)により、その場はとても料理をする状況ではなくなった。


 調理場には紅一点のキレイヌしかいないので、自然と?姉の矛先はキレイヌに向かう。

 困惑し、必死に否定と(なだ)めを試みるキレイヌだが、焼け石に水。そして、俺が宥めに参加すると今度は「この子の味方をするの?」と今度はわんわんと泣き始めた。


 取り合えず皆には解散を促し、姉を介抱と慰め?をしながら姉の部屋へと向かう。が、途中で姉の部屋を知らないのに気が付き、仕方なく俺の部屋へと向かった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「落ち着いた?」

「・・・・・あの女には何の好意を持っていないし、何の行為もしていないのね?」

「何もないよ。只の仕事関係者だよ。」


 やっと安心し、落ち着いた姉を眺めながら明日の事に想いを馳せる。

(明日は先ずは皆に謝らないとな・・・。特にキレイヌさんにはマジで頭を下げないと・・・・。

 にしても、あの雰囲気は料理をする気だったんだよ・・・・な?しかも、俺に教えろみたいな事を言っていたし・・・。調理方法としてはあの場に出した料理は、恐らく簡単に推測することが出来るだけの腕をもった人たちだ。そんな人に何を教えることがあるのだろう・・・。ちょっとしたアドバイスならば可能だろうが・・・・。)


 なんて、考えていると当然姉が気にし始める。

「何を悩んでるの?」

「あ~。いやね。あの人たちが知らない料理を教えることは出来るから、今回の王様からの依頼を受けたんだけど。姉ちゃんが乱にゅ・・・じゃなくて、来たときにさ、俺から料理を教わろうとしていたんだ。間違いなく技術はあの人たちの方が上なのに、知識以外何も教えることは出来ないだろう?って思ってさ。」


「料理の出来ない私から言わせるならば何が違うかわからないんだけど・・・・」

 と首を傾げる姉。

 なので、俺の考えを話してみた。


 今回出した『ミートソースパスタ』を例にしよう。


 ミートソースパスタはこの世界にもあるごく普通の料理だ。これは姉も勿論知っている。


 そのミートソースパスタを俺と、例えば料理長であるガガが作ったとしよう。普通に考えればガガが作った方が美味しくなるはず。なのだが、あの反応を見ると俺が作った方が美味しかったのだろう。


 これを一つの前提にする。


 もう一つの前提として『俺には料理人としての技術と呼べるものはない。』

 と言うことだ。

 これは、調理を横目ながら見ていたガガならば簡単に見抜けたはずである。と言うか、あの場に居たあの人たちはほぼ全員が把握しているはずである。


 にも関わらず、アドバイスではなく。料理を教えてくれとキレイヌが言い、皆が同意していたように見えた。

 この場合俺からしてみたらアドバイスと言うものではない。と言える。


 アドバイスとは、日常会話の様に「今度はこうしてみれば?」と軽くするもの。と言う感じがする。勿論そのアドバイスが、本人にとっては青天の霹靂(へきれき)の様な事もあるだろうが、あくまでアドバイスを送る側は軽い気持ちである。


 だが、今回は明らかに違うと思える。

 料理をしようとしていたことから考えられる事は、皆が調理しているのを見て、俺が横から口を出す。と言う感じになるだろう。

 これは、アドバイスとは言えない。と思う。『指導』と言えないだろうか?


「ってことだよ。」

「なるほどね。まぁ。人によってはアドバイスの域だと言えるかもしれないけど、あの人たちはプロだから変な人から指導はされたくないだろうし、かといって軽いアドバイスなんて聞かないわね。

 結局のところ全く聞かないか、認められる人物からの指導か、この二つに一つだろうね。」


「それは、わかる。わかるからこそわからない。

 技術のない俺から何で指導してもらおうなんて思うんだ?」


「ちょっと待って。蒼ちゃん。もしかしてこの世界のシステム理解してない?」

「ん?」


 いきなりの話題変更と内容の意味不明の話題に首を傾げる。

「まぁ。わかってたらこうはなってないだろうけど・・・・。」


 姉からこの世界のシステムなるものを聞くことになった。


 一つ。

 この世界の生物には『技能』と『性質』が備わっている。

 この二つは文字通りの意味である。


『技能』。これは技術。『性質』。これは特性や特質。である。


 ここまでは、俺もわかっていた。

 問題はここから先である。


「良い?『性質』に関してはソウルに出る説明のままの効果を発揮するの。だから、『性質』に関しては特に説明はしなくて良いわ。それに反して『技能』。これは漠然と『~が出来る。』程度しかソウルには表示されない。」


 姉の言う通りで、例えば『剣術』の説明を見てみても、『剣を扱うことが出来、戦闘が可能。』とでて、そのあとに『レベルにより技量が変わる。』としか出てこない。


「『技能』の名称はそのまま捉えてくれたら良いわ。『剣術』ならば剣。『体術』ならば体を扱う技術と言うこと。ここまでは、教えて貰わなくても丸分かりだけど、レベルが関わってくるとそうじゃなくなるわ。

『技能』のレベルって言うのは、謂わば『再現能力』。

 何かを使うとき『こんな風にしよう。』って感じで頭でイメージするよね?そのイメージを実際に行動しようとしても技術がなければ無理。でも、技術があれば可能。でも、技術の熟練具合によってイメージ通りに出来るかが変わってくる。

 このイメージを実行する際に補助する度合いを示したのがレベルってこと。

 これが、『技能』とそのレベルの説明よ。」


 言われてみればなるほどと思う話だ。


「これを踏まえて話を戻しましょう。

 多分蒼ちゃんの料理はこの世界にはまだ無い味をイメージして、熟練の調理方法もイメージしながら作っているでしょ?だって蒼ちゃんは地球で研磨されてきた料理を『再現』しているはずだから。」

「・・・・うん。何か色々納得できたよ。

 確かに味は地球で食べた中で一番美味しかった物を、技術はTVとか、資料で読んだ事を考えながら作ってた。

 それに、剣を振ったときも地球(向こう)で振ったときより良い感じで振るえたのは先生や姉ちゃんの姿を考えていたから、『技能』が補助してくれたんだな。」


 と色々と得心がいった。


「他の事も知らないだろうから、この際教えておきましょ。

 蒼ちゃん。この世界で当たり前にある『レベル』や『能力値』、『職業』について。

 簡単なものから言うと『職業』は『技能』の『再現能力』を広く、小さくしたものね。

『技能』は、『剣術』とは剣だけ。『体術』は他と少し違って効果範囲が広いけど、それでも体を使う事に対してだけ。『料理』は料理だけ。って感じで一つの事に対して効果がある。その分その一つに対しての『再現能力』の補助効果は大きくなる。

 対して『職業』は、その『職業』が行える行動全てに『再現能力』の補助を行うの。でも、さっき言ったように一つに対しては『技能』程の効果はない。これが、『職業』の役割や効果と言えるものよ。一応『身分』とか、『地位』を表すことも出来るけどね。まぁ、これは人の社会でだけだし、国が変わったらその辺の事もガラリと変わっちゃうからどうでも良い事ね。」


「次に『能力値』。

 ゲームみたいに数値じゃなくてランクで表されているけど、これはおおよそではあるけれど数値化することも出来るの。

 Fが最低の1。そこから上に上がる度に倍にしていく。Eなら2。Dなら4。Cなら8。って感じ。

 これに、レベルを掛けるとおおよその数値に直すことが出来るの。

 因みに一般的に平均的な数値としては15歳で成人となった男性が、レベル15の能力Eで、数値化して30ね。この30って言うのが、極々普通の人って感じの数値よ。

 それと、少しだけ先にレベルの話をすると、特別に何もしなくても普通に生きているだけで一年に1だけレベルアップするよ。

 あっ。そうそう。私にも蒼ちゃんにも括弧の付いた能力が有るけど、これだけは計算方法が違うの。ランクを数字にするのは変わらないんだけど、レベルは15で固定だから、一生変わらないのよ。」


 これを聞くと俺ってかなり弱い状態で目が覚めたことが判った。

 良くゴブリンと出会って怪我だけで済んだものだ。

 しかも、その後はガンガン殺っちゃってるし。かなり無茶苦茶して、危ない橋を渡っていた事を今更ながら知り、冷や汗を流した。


「じゃあ。次は『レベル』ね。

 これはね・・・・・。」


 この世界のシステムの説明はまだまだ続く。

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