色々と真実発覚
案内をしてくれたメイドさんは色々と首を傾げる状況であっただろうが、取り合えずかなり汚いし散らかった姉の研究室ではない部屋へ案内して貰い、更に一時退出して貰うことにして姉と二人だけでお互いの近況を話した。
正直姉のボサボサで自重なく伸びた髪やくたびれた服をどうにかしたかったが、取り合えずそれは多少の時間がかかるため今は脇に置いておく。
テーブルを挟んだ向い合わせのソフィアにそれぞれ座り、情報交換をスタート。
そして、いきなりぶっ飛んだ話から始まった。とんでもない事に、俺の死亡とその後を聞かされた。その話をし始めた途端にボロボロと涙をこぼす姉の姿に否応なく事実であることを信じさせられた。
そうして、この世界に居る理由と今までの経緯を話して貰った。色々と思うところはあるものの(特に俺の死亡話)一旦姉からの話は切り上げ、俺の話へと移った。
俺の記憶は店に入ったとき(俺が死んで)から後は既にこの世界から始まっている事と地球での記憶の一部が欠如している事(人の名前)を説明し、この世界での出来事を語った。
姉の名前も覚えていないし、自分の元の名前もわからないと言ったときはショックの余り顔面蒼白になっていたが、名前がわからないだけで他の部分(姉と過ごした日々やその他地球での思い出)は覚えていると力説したところで顔色が少しだけ戻った。が、一部でも忘れている。と言うことが余程ショックだったのか完全に再起するのに暫くの時間が必要だった。
俺は俺で、自分が「死んだ」なんて事を知ってしまってショッキング。・・・・・なんて事はなかった。涙しながら話す姉を見て嘘だとは全然思っていないが、はっきり言ってしまえば今生きているのだからショックの受けようがなかった。
そんな自分に起こった出来事よりも姉に起きた様々な出来事を聞き、姉の抱いたであろう様々な感情を思うと申し訳ないやら心配してしまうやらと実に様々な感情を抱いた。言ってしまえば『ショック』だった。と言う事だ。
「取り合えずこんなところかしら?それで・・・勇ちゃん・・・今は『蒼ちゃん』か。は、これからは暫くお城に居るのよね?」
「だね。取り合えず王様からの依頼があるし、先に欲しい情報も報酬として貰ったしね。」
最も、欲しい情報(召喚について)所かその他諸々の情報をもった超絶関係者と出会えたので、報酬と考えるとかなりの儲け物で、いっそ「貰いすぎ?」と思わなくもなかったりする。
「さて、情報交換も終わったし、これからの事を話したいんだけど・・・。それよりも・・・・蒼ちゃんが勇ちゃんなのは記憶の時点で間違いないにしても・・・・・・・・・ん~。」
「どうしたの?」
「・・・・・なんかね。・・・・・ちょっと違和感?って言う程でもないんだけど・・・・。もしかしたら~。って感じで勘が言ってるんだよね?」
「なにを?」
珍しく煮え切らない姉の態度。話を進めようとすると姉から「一つ魔術を作って」と要望が入った。因みに、俺の技能や性質は勿論のこと。ソウルの内容は全部話してあるし、姉のソウルも全部聞いている。お互いに「あり得ない!?」と言う感想を言い合ったのは笑い話だろう。
さて、姉から要望された魔術は「DNA鑑定」。その魔術を使って俺と姉を鑑定せよ、と訴えてきた。
俺としては「何を今さら?」って感が半端なくあったのだが、姉に押しきられる形でしぶしぶ鑑定した結果、予想外の結果が出た。
『血縁関係無し』である。
「やっぱり!!!!なんか変だと思ったんだよね~。」
と納得してかなり顔がにやけている。
姉弟であったのが、赤の他人と結果が出たのに何故に喜べるのか?なんて事を考えながら姉に何故解ったのかと尋ねる。
「別に確信を持ってたわけじゃないよ?さっきも言った通りただの勘だから。ただ勇ちゃんからほんの少しだけ変わって蒼ちゃんになったのが何となく判った?感じかな?」
聞けば容姿は全くもって変化無いそうだ。最も姉の時間感覚で言うなればおよそ100年ぶりに俺と出会ったわけであるから、そもそもそんなにハッキリと俺の容姿を覚えているのか?と思うのだが、「勇ちゃんを忘れるなんてあり得ない」と言う一言でバッサリ切られてしまった。
「あぁ。なんて事でしょう!お姉ちゃんが長年抱いてきた数々の悩みが一気に解決したわ!!」
「?具体的に言うと?」
「お姉ちゃんと蒼ちゃんはもう姉弟じゃない!と言うことはだね。・・・・恋をしてもいいじゃないか!?」
「・・・・・・・・・」
拳を天に突き上げ立ち上がり、叫ぶ様なの姉の発言に頭がフリーズしてしまった。
つまり、『長年』と言っているぐらいなのだから、地球にいた頃、本当に姉弟の関係だった頃から姉は俺に思いを寄せていたことになる。
それほど鈍いとは思っていないので、当然姉の事を疑惑の眼差しで見ていたことはあるのだが、それこそ『姉弟』と言う事実があり「それはないだろう」と判断することになった。勿論重度のブラコンであるとは確実に思っていた。
「・・・そ、それはーー。所謂、告白なのでしようか?」
「そうね。でも蒼ちゃんはまだ『姉弟』って事がネックになってお姉ちゃんを一人の女としては見てはくれないでしょうから、『宣戦布告』と言っても過言では無いわね!」
ハイテンションで俺をビシッと擬音が聞こえてくる様な見事な指差しをしてそう宣った我が姉。いや、元姉と言うべきだろうか?
なにがなんだか訳がわからず、慌てる俺をよそに姉は何を想像してなのか両頬に手を当てて頬をほんのり紅く色付かせて、「いやんいやん」と身を捩っていた。
キチンとした身形でやっていれば可愛らしかったのだろうが、残念ながら見た目はホラー寄りだよな。と益もない事を考えて現実逃避をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんとも数奇な事よ・・・・」
ところ変わって王様の執務室。
正に仕事の場!と言うべき雰囲気を放つ机や机の上の羽ペンや書類の束。各種政治精通していそうな本が収まった本棚。政治関係のあれやこれをあーでもないこーでもないと話したり、お互いの少しでも良い利益を求めて騙したり騙されたりのドロドロした駆け引きを行うためであろうテーブルと向かい合う形で置かれた対のソファ。
そんな濃厚な仕事臭漂う部屋でありながらも嫌味がない高級感溢れる調度品や部屋は流石は一国の王の執務室と言えるだろう。
お陰でガッチガチ緊張していたりするのだが・・・・。
それはさておき。
この場には俺と姉は勿論ながら国王様を始め、政務大臣、おっさんで小太り。財務大臣、おっちゃんでヒョロリン。軍部大臣、渋いイケメンおっちゃんでガチムキ。人事大臣、眼鏡が似合いそうなインテリ系お姉さん。ゼロ騎士なる役職名の騎士(ただ一人しか拝命が許されていない近衛の騎士)、白銀と金と緑(というか翠)で綺麗にかつ、威圧的なフルアーマー(現在兜なし)に身を包んだ爽やかイケメンお兄さん
総勢8名が姉の「大事なお話」の一言で集まっている。
追記すると、姉はちゃんと身なりを整えていて、「どこの王女さま?」と言う感じになっている。
そんな国の重要人物集まる中で俺と姉(元)の関係を話し終え、王様から思わずといった感じで漏れた言葉が、「数奇な話」であった。
まぁ、王様の言う通り正に『数奇』な話だろう。
因みに余り関係ないが、姉が居た『召喚研究所』なるものはこの国には存在していないし、どこの国にもない。昔は各国にあったらしいが、次第に廃れていってしまい民間に研究する者しか居ないそうだ。
当初は姉に協力するためにかなり熱心な研究が行われていたらしいが、いつの間にか一人で研究するようになった姉と各国が話し合った結果、廃れていく事になったそうだ。
それに、姉は言ってしまえば伝説上の存在であり、英雄であり、世界の恩人と同時に神の使徒なのである。そんな存在をたかだか一国の、それも一部所のトップとは言えそんな所に収まっていているのは不自然だ。とのことなので、『召喚研究所』と言う独立した組織がこの国の一室に間借りしていた。って感じの話であった。更に言うと、この『召喚研究所』は民間とも一切関係がなかったりする。
そんな研究所に行くのに何故王の許可が必要だったのかと疑問に思ったのだが、姉の説明によると「表向きは国営の研究所としていて、誰彼構わず通さないように」と頼んでいたらしい。余程変な奴でなければ何か研究のヒントになるかもしれないから通してもらって構わない。とも伝えていたらしく、その変な奴と言うのに俺は引っ掛かることなく通されたのだった。
そんな姉の立場は少々特殊。なので自分の行動や自分の様々な事象は王様たちへ報告をしておかなければ色々と不都合が出るらしい。なので、姉からの説明は包み隠さずの事実を話す事になったのだった。
「まさか、レイ様の血縁者とは知らず大変粗相をしてしまった。平にご容赦願いたい。」
そういって頭を下げる国王側一同。
今ここに居る国の重要人物は自らの仕事をかなぐり捨てて瞬く間に集まったのだが、その結果として俺は非常に居心地が悪い。
「お、俺・・・じゃなくて、私に頭を下げるのはどうかと思われます。頭をあげてください。」
「そう言う訳には・・・・。」
顔が見える程度には頭を上げてくれたのだが、その顔には見るからに『困惑』を浮かべる王様。少し前に見た威厳のある余裕すら感じる表情は見る影もない。
「それにどうやら俺・・・私はこの世界に来たことによって体に変化があったようで、姉との血の繋がりは無くなってしまったようでして・・・。なので、本当に弟と言えるかどうかは怪しいので・・・。」
「例えそうであったとしても、お二人が姉弟であったと言う事は変わらぬ事実の模様。であるならば、我々からみれば十分に敬うべき御方です。・・・ただ、残念ながら一部の阿呆・・・失礼しました。無礼な者たちが居るのも事実でして・・・。その者たちは我々がなるべく排除いたしますので、全ての者がそうであると断じてしまわずに願いたい。」
と再び頭を下げてしまわれた。
まるで俺らがこの世界の人々を殺戮できる様な口ぶりである。確かに、『世界の救世主』と呼ばれる姉の力はとんでもないので、実行する、しないに関わらず(当然、しない。になるが)可能かもしれない。
何せ能力ランクが全てSS(戦闘面は)であり、レベル1000を越えている。
正直再会の場面で突撃された俺が生きているのが不思議なくらいの篦棒な力であることは実感はなくても想像はできるし、その上魔術や戦技、技能や性質もかなりの充実ぶりで、明らかにヤバそうな名前のものまであったりする。
そんな姉が本気でやろうと思えば可能かもしれない。まだまだこの世界の強者と呼ばれるような人とは出会っていないが、少なくとも姉が簡単に殺されるようなことはないだろう事は俺でもわかる。
だが、普通に考えれば一個人が全世界を敵に回して勝てるのかとは少し首を傾げたくなる。ましてや『世界の救世主』と呼ばれる姉ではなく、俺の力で可能だろうと予測して、世界の行く末を心配している。
心配せずとも俺の力では無理だ。少なくとも今は・・・・。
そんな王様たちの心配事にあーでもないこーでもないと色々と言葉を尽くし、勘違いを正して、漸く恐ろしく脱線した話を元のレールに戻すことが出来た。
「これから私は蒼と共に在ります。これからの事はまだ決まっていませんが、決まり次第そちらには報告します。取り合えず今回は蒼が私の弟であったこと。そして、今は違うこと。これからは蒼と共に在ること。以上三点を報告としておきます。」
地球で言うところの『聖母』モードに突入していた姉から簡単に報告される。まぁ、少しの間は王様からの依頼があるし、今後の事を決めるのに姉ともう少し情報交換をしてから話し合う必要もある。結局のところもう少しここから動くことはないだろう。
「そ、それはつまりー・・・・い、いえ、わ、わかりました。」
国王御一行が了承を示して、この場は解散となった。
何かに気が付いた国王御一行だったが、少し懐疑的な表情を浮かべながらもスルーしてくれたことに心の中で感謝と色々と気を使わなければならないことにお悔やみと謝罪を浮かべて部屋を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後誰も何事も行動も出来事もなく、明けて翌朝。
朝食の調理が終わり、昼食の仕込みが始まるまでの僅かな時間を使って米の調理方法を指導するために王宮調理場に訪れていた。
「さて、今日から少しの間指導をしていくことなった蒼です。よろしくお願いします。」
白い服に白い前掛け、個人個人で若干色合いが違うながらもおおよそ茶色いと言えるだろうズボンの10数人の人たちの前で軽く挨拶をする。
「話は伺っています。こちらこそよろしくお願いします。」
俺の挨拶に深々と頭を下げ返す若い男。若いと言っても、恐らく30は過ぎた年であろうが、周りの他の人を見ると40を越えてるような人もちらほら見える。
他の人は極端に若そうだったり、挨拶をした人と同年代程度に見える。
てっきり一番年のいってそうな人が挨拶すると思っていたのだが、この挨拶をした人が責任者と考えて良さそうだ。
「料理長をしているガガと言います。そしてこっちが」
「副料理長のキレイヌです。」
ガガと名乗った人は意外な若さではあるが、才能ある者ならば年長者を押さえて上の立場に就くことも出来るであろう年齢に見えるが、副料理は驚きが隠せない。
何せどうみても今の俺の年齢、すなわち18歳程度にしか見えない。勿論ただ単に、若く見えるだけで、この人も才能ある者で、ある程度の年齢で副料理まで上り詰めたのかもしれない。が、更に驚いたことにこの料理場唯一の女性であったからだ。
別に料理は男の仕事だ!!なんてい言うつもりもないし、思ってもいない。だけれども、唯一の女性がこの職場でやっていくには少々の努力では済まないだろう。ましてや副料理ともなれば更にだ。
「意外にお若いですね。お二人とも・・・」
「よく言われます。」
苦笑と言う表情で肯定するガガ。適度に肌は焼けていて、料理場と言う戦場で鍛え上げた引き締まった体。異世界特有の不思議なくらい違和感のない紫の髪を短く刈り上げた男だ。顔は優しそうであり、イケメンの類いには入るだろうが、驚くほどではない。この人の最も注目するべき点は身長だろう。恐らく180以上の身長を持っていると思う。
「これでも腕は確かだと自負しています。」
少しムッとしながら返すキレイヌ。深紅と言っていい髪を肩の辺りで切り揃えた美女。返事もそうだったが少し気難しい印象を受ける顔立ちではあるが、美女であるのは一目瞭然である。胸は残念ながら可もなく不可もなくと言う大きさではあるが、背も肉付きも女性としては丁度良い感じのものだろう。因みに彼女も周りの男衆と同じ様な色合いのズボンをはいている。だからどうした?って感じの情報ではあるが何となく「あっ。ズボンなのね。」と思った。
「気分を悪くしたようで、すいません。」
取り合えず謝罪をいれてから話を進める。
「お二人に限らず腕が確かなのは俺も疑っていません。逆に俺の方が料理人としての腕は低いでしょう。ですが、知識としては負けるつもりはありません。それもあってこの場に立っています。若造が、や未熟者が、と不快に思う点があるとは思いますが、知識を奪ってやるくらいの心意気でよいので俺の話を聞いてもらえたらと思います。」
ある程度自分を下にしつつ相手を上げる。でも、他の部分では俺の方が上だ。だから、反抗意識を持っていても良いから言うことだけは聞け。っと言う感じの事を遠回しに発言する。
これで、余り争い事が苦手な奴は「認めて貰ってるようだからこっちも認めて話ぐらい聞いてやろう」的な感じの印象を受けるだろう人種が三割から半数。「挑発しやがって!言われなくても奪ってやる!」みたいな感じで対抗意識を持つであろう職人気質の人種がこれまた三割から半数。どちらにも属さない奴が適当に言うことを聞いてくれるだろう人が残り。って感じになるだろうと思う。
思っていたのだが・・・・。
(あっちゃ~~~~。ものの見事に全員に火い点けちゃったよ・・・・。)
となってしまった。
一見優しそうな料理長のガガですら、顔は穏やかな笑みを浮かべているが、その目にはメラメラと炎が見えるようだ。言わずもなが、キレイヌに至ってはガガ以上の炎を宿している。
(やっちまったかな?・・・・しゃあないよね?・・・・・・・・・・・・・・・・・・頑張ろ。)
こうして始まった『俺VS王宮料理人たち』の戦争が始まりましたとさ。
泣きたい・・・・・・。
先ずは実際に俺が実演をする。
実演をしながら精米、磨ぎ、水の量、火の加減やタイミング、最後の蒸らし。これらの注意点を含めたやり方を一通り説明した。意欲に燃えた・・・・いや、殺気立った空気の中での事だったから精神力がガリガリ削られてはいたがなんとか説明と実演を終えて、実際に食べて貰う。
流石に王様自らが「旨かった」と言っていたのを聞いていたためか、はたまた元々美味しくないだけで食べ物であることを理解しているからなのか、実際に調理はした事があるからかはわからなかったが、口に入れるのには躊躇いはなかった。それでもやはり「不味い」と言う先入観を持っているため、疑わし気な表情を浮かべながら口にしていた。
いくら殺気立つほど対抗意識を燃やしていても、流石は味覚を鍛えられた料理人たち。皆一様に驚きの声を上げ、表情も驚きを表していた。
「あれだけ試行錯誤したのに・・・」
「これは・・・・本当に悔しいな。」
ガガとキレイヌがそれぞれに苦汁の顔をと声を漏らす。
取り合えず開幕戦は俺の勝利かな?判定する意味があるかは判らんけど・・・。
「説明と実演はこれで終わりです。そして、これは、あくまで基本。一度覚えてしまえば、手軽とは言いませんが難しくはない筈です。発展してのレシピの習得も考えていますのでキリキリいきましょう。」
王様には習得予定日は伝えてあるので余りのんびりしている暇はない!なので、有言実行!キリキリと巻いていきましょう!
ってな訳で、早速皆には実践して貰おう。