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完全″全″欠  作者: ル・ヴァン
降り立った世界
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異界を知る(1)

 「えっと。・・・・・ここ何処????」


 俺は理解不能の状況にいる。目の前に広がるのは森。鬱蒼と生い茂る木々と、無遠慮に伸びる雑草。 まるで木を、森を飲み込まんとするほどの蔓たち。

 その目に映るのは、アマゾンのような景色。こんな場所、俺は知らない。

「イヤイヤイヤイヤ。マジで意味がわかんないよ。

こんなときは・・・。え~っと。そう!そうそう。落ち着くんだ。パニックになったらダメだ。」


 何かのテレビ番組で言っていたのを辛うじて思い出す。パニックなってしまったら的確な判断が出来なくなるとかなんとか・・・。当然だけど。


 深呼吸を繰り返しながらテレビで言われなくてもわかるような話を思い出して、なんとか思考を落ち着かせようと努力する。


 だけど、そんな俺を嘲笑うかのように事態は進んでいく。

「スゥ~ハァ~。スゥ~ハァ~。

な、なんとか落ち着いてきた・・ような?」

「ガサ」


 茂みをかけ分ける音と共に俺の視界に現れたのはこの世には存在するものではなかった。

 いや俺が知らないだけかもしれないが。

「ギッギギ。」

「な、な、な、なんだよ。これ。」

 その姿は異様としか言えない。

 先ずは浅黒い緑色の肌。大きさは恐らく1m程度。恐らくなのは人の形をしている癖に四足歩行してるためだ。

 そして、何より特質しなければならないのは顔の作り。

 顔の半分程もあるのは口。そして目はなく、耳はまるでウサギの様なもの。その耳は何かを突き刺すかのように尖っている。勿論ウサギのような可愛らしい耳ではない。

 そんな不気味で異様なものは、油の切れたロボットのような動き方で首を左右に小刻みに振っていた。

 そんなのが突然目の前にやってきた俺は、当然ながら一瞬にしてパニックに陥る。


 完全に頭が真っ白になった俺は一歩後ずさる。その時に偶々落ちていた木の枝を踏む。当然そのようなものを人間のような重い生き物が踏んでしまえば・・・

「パキッ」


「ギ!?」

 音がなった方に、即ち俺の方に瞬時に顔を、と言うより耳をこっちに向ける。

 そして、スンッスンっと匂いを嗅ぐような音と共に軽く上下に頭が動く。

 すると何かがいるのを確信したのだろう。大きな口がニタリと開く。

 瞬間。


 ゾクリと全身に悪寒が走り、足から完全に力が抜けてしまいその場に尻餅を付いてしまう。そのとき俺は恐怖に支配されていた。

 気が付けば訳のわからない森の中、醜悪としか言えない生物。そして、俺を認識したときのあの表情(表情と言って良いのかわからないが)。

 この数分で起こった出来事全てが恐怖の対象だった。

 死を目前にして、恐怖で何も出来ない俺に対してその生物は四肢で地を蹴り飛びかかってきた。異様に大きな口をこれでもかと言うくらいに広げながら・・・。


 このまま来れば確実に頭に当たるだろう軌道。

それを恐怖で埋め尽くされた脳で行動したのは人としての防衛本能だろう。ただの条件反射で腕を軌道上に持ってきていた。

 そんな行動が間に合ったのは奇跡だろう。

 しかし、奇跡でもなんでもその行動でなんとか死を免れることができた。

 が、当然そんなことをすれば自分の腕がどうなるかなど火を見るより明らかと言うものだろう。

「があ゛ぁぁぁぁぁー!!!!!」

 今まで感じた事の無い強烈な痛み。その痛みに思わず上げた絶叫が森に響き渡る。

 飛び掛かってきた勢いで仰向けに倒れた俺の胸にはおびただしい量の真っ赤な液体。

目の前には今尚腕の肉に食い込み続ける歯を持つ不気味な生物。


 恐慌状態だった俺は痛みによってなんとか思考することが出来るようになる。もっとも思考と言えるほどのものではないが・・・。

「痛い!痛い!」

(なんだよ!何なんだよ!?どうなってるんだよ!?!?)


 訳がわからないままに醜悪な生物の顔を殴る。当然下からそんなことをしても上手く力が入るわけがなく、腕を離してくれるわけもなかった。

 だが、冷静からほど遠い状態の俺は効果が薄い攻撃と呼べないような攻撃を続けた。

 その行動がまたしても奇跡を呼ぶ。たまたま急所のような場所に当たったのだろう。

「ギャ!!」

と声をあげて俺の上から転がり落ちる。


 俺の拳が当たった箇所を両の手で押さえながら「ギャ!ギャ!」と鳴きながら俺の直ぐ横の地面で転がっていた。

 醜悪な生物をなんとか退かすことが出来た俺は必死に力を込めてヨロヨロと立ち上がる。どうすれば良いのかわからない俺はつい先程まで行っていた行動が影響したのだろう。直ぐ側で転がり続けている生物の頭を片足で踏みつける。

 さらに鳴き声をあげるが、そんなの関係ないとばかりに何度も何度も足で踏みつける。

「何なんだよお前は!?何なんだよここは!?」

 今の現状に文句を吐きながらの行動。

次第に聞こえてくる鳴き声が小さくなっているが、それには全く気付かずに何度も何度も何度も踏みつける。


 鳴き声が聞こえなくなって暫く。

完全に息切れを起こして気だるさで上がらなくなった足を見つめていた。

 その足元には最早頭の原型を止めていない生物が横たわっていた。


ピロ~ン♪

《レベルが上がりました。》


「れ、れべる?」

 突然の音で我に帰る。そして唐突に告げた声は無機質な機械が喋るような声だった。

 聞こえた内容に思わず声を出して呟く。

 更なる混乱へと叩き落とされた俺は呆然と立ちすくむしかなかった。


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