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完全″全″欠  作者: ル・ヴァン
旅立ち
24/49

思わぬ展開

 襲撃者たち五人との『話し合い』が終わり、俺たちはマスクル地方を治める『フィットマス』の屋敷を目指していた。


 町並みは流石に『町』と言われるだけはある。

 今まで立ち寄ってきた村でゴミや(家畜などの)糞等は流石に見受けられなかったが、臭いがきつかった。

 勿論我慢できないほどでは無かったが、そこかしこから農業での土の独特の臭いや、家畜などの臭いがしていたのだ。


 だが、『町』ではその様なことはなかった。

 場所によって臭う場所もあるようだが、区間整理をしているため関係者以外は立ち寄ることはないのだ。


 この町は、長方形の様な形をしている。

 町の区間としては、町の門からメインストリートが真っ直ぐに延びていて、殆どの店はこのめメインストリートに居を構えていた。

 ここが所謂『商業区』と言われる区間だ。

 俺らが泊まった宿は門から5分もしないところにあり、『武具』や『薬品』、『ハンターズギルド』が建ち並んでいる。

 主に旅人やハンターが利用するようなものが門近くにある様だ。


 そこから少し町の中心へと歩を進めると、『野菜』や『肉』、『日用品』などの生活に必要なものを取り扱う店が現れる。

 食料品を扱う店の殆どは店先に商品を並べて、朝から声を張り上げ呼び込みをしていた。

 ここまで来ればこの町の住人を見受けることが出来る。


 メインストリートから外れた両脇には、住人たちの住まいが建ち並んでいて、更にメインストリートとは逆へと行くと畑や家畜等を見ることが出来るそうだ。


 メインストリートの最奥には領主の屋敷があり、その付近はこの町での重要役に付く者の家がある。

 流石にこの辺りの家々は確りした作りの建築物で、飾り付けなどは無くとも職人の腕を凝らした作りで、知識が無くとも思わず「高そう」と言う感想が頭に浮かんできた。


 それらを横目に見ながら、興奮していた。

 まるでタイムスリップしたかの様な情景に心が踊ったのだった。

 実際は、時間を飛び越えたのではなく、世界を飛び越えたのだが・・・・


 それはさておき。

 暫くメインストリートを歩くと、一番奥に見事な『貴族の屋敷』を相応しい(?)大きさと外見をした建物が見えてきた。

 これまで見てきた建物は木造と一目でわかる物だったが、この屋敷は白色の石(?)で出来ているようだった。

 表面も綺麗にならされたもので、武骨さはなく、『綺麗』と言えるものだった。


 勿論白一色ではリッパには見えない。所々に木も使われているし、金だと思われる物も使われた装飾品が散りばめられていた。

 センスの良さが伺える建築物だった。

 俺にセンスは無いが・・・・そんな俺でもわかるほどと言えば良いのだろう。


 正面には門、そのまままっすぐ進むこと5mほどで扉へと辿り着く。

 扉は2mほどの高さだろう。立派な木製作りの扉だ。

 扉の上、2階部分にはベランダとして突き出ていた。柵も設けられていて、木製のようだ。

 左右には対称の作りの建物が続いていて、左右には1階部分だけがあるようだった。

 勿論窓もあり、この世界で一般的な木製の窓ではない。キチンとガラス製である。が、木の枠が格子状にしてあり、その間にガラスがはめられていた。


 中央の2階建てだけで普通の日本人宅よりも少し大きいだろう。

 更に左右にも続いている建物だが、どちらか1つで日本人宅には十分だろう大きさを誇っていた。


 そんな立派な屋敷を遠くから見ながら歩き、門へと辿り着いた俺たちを迎えたのは、ヴィンスの屋敷と同じく、入り口で見張りをしている門番だった。違いがあるのは門番が二人居ることだ。

 その門番たちにシオンが話しかける。身分を話し、フィットマスへの取り次ぎを頼んだが、


 「奥方だけが来る理由がわからん。

どうしてもと言うならば、領主のヴィンス様を連れてこい。」

等と言って方を竦めていた。バカにした様な印象を受ける物言いだった。

 言葉事態は遠回しな言葉だが、様は「お前たちは偽物だ。だから会わせない。」と言うことだろう。


 そこで、再び町の門番にも見せていた短剣を見せて再度フィットマスへ取り次ぎを頼んだ。


 最初はバカにしていた門番が、町の門番と同様に短剣を見た瞬間から態度を一変し、急いで一人の門番が屋敷の中へと入っていった。


 「あの短剣は効果抜群ですね~。」

 など、適当な感想述べていると、残った門番から睨まれてしまった。


 少しも経たないうちに屋敷に入っていった門番が戻ってくる。

 「お待たせしました。こちらへどうぞ。」

と背筋を伸ばし、きっちりと案内をしようとした。

 さっきの無礼は謝らなくていいのだろうか?と思ったが、当のシオンが余り気にしていない様な感じに見える。なので、俺が気にしても仕方ないと、門番に案内されるシオンの後ろをシェイラルカと共に付いていった。


 門番に案内され屋敷の中へと入る。

 そこには執事とメイドが一人づつ待っていた。


 屋敷に入ると左右には廊下が延びている。

 真っ直ぐ進めば豪華な扉があり、扉の少し手前の左右には、緩やかなカーブを描いた階段が2階に続いていた。


 そこからは門番に代わり、執事とメイドが案内をするとのことだった。

 門番は一礼して、屋敷の外へと出ていった。


 二人に案内されて通されたのは、屋敷に入って右側にある一室だった。

 右側にはどうやらこの部屋しかない様で、かなりの大きさの部屋だ。

 だけど、外から見た感じよりも若干狭く感じる。


 中央にはテーブルと、テーブルを挟むようにソファが2つある。

 絨毯は赤と金の豪華なものが敷かれていて、右側には腰辺りまでの高さのタンスが置かれていた。

 一番奥は壁一面が木の格子とガラスで裏庭が見え、天井にはシャンデリアの様な物が吊るされている。


 一言で言って『豪華』だ。恐らく『客間』の様な部屋なのだろう。


 執事に案内されてソファに座るシオンとシェイラルカ。

 俺も座るよう言われたのだが、一応遠慮しておく。これでも護衛として雇われているので座るのは憚られると思ったのだ。


 部屋に入って左側のソファに座る二人。その後ろに立ち、控える俺。


 メイドが用意していた飲み物が、二人の前のテーブルに置かれる。

 コーヒーの様に見えるのでコーヒーだろうと思いつつ《鑑定》をしてみる。


珈琲コーヒー』【ラーブ】

ランク:B


[Aランクに認定された豆を使用したコーヒー。]



 (何故にAランクがBに?後何故名前が2つ?)

 名前が2つなのはわからないので放置として、コーヒーの方は高級豆を使用しているようだが、恐らくドリップ工程か、豆の加工工程(煎ったり、挽いたり)で余りよくない事をしていると予想された。

実にもったいない。


 コーヒーがあるとは少し予想外だったが、有るとわかったら是非手に入れたい。

 異世界のコーヒーはどんな味だろう?と夢想していると、二人がカップを空にしていた。


 そのタイミングで扉がノックされ、「失礼します」と声をかけつつ扉が開かれる。

 開かれた扉からは執事が入室してきた。その後に執事が支える扉から、身長180cm程の一人の男が姿を現した。

 歳は40代程だろうその男は、頭には毛一本も映えておらず、髭をキッチリと整えて生やしていた。

 眼光は鋭く体も鍛えられていて、『将軍』という言葉が似合いそうな男だ。

 服装は白のローブの様な物を着ていて、襟や袖などが緑と金で装飾されていた。


 「待たせてしまって申し訳ない。」

 そう言って独特な一礼をした。

 左手は肘から曲げて後ろに回し、右手は握り拳を作って少し曲げた状態で腹に付けて礼をしていた。


 後に聞いた話では、これが男の貴族がする一礼なのだそうだ。

 それを聞いたときとの感想は、『変』である。「女の人はあんなに綺麗な礼なのに・・・」とつい口から出てしまったのも仕方ないだろう。


 そんな礼をした者に対してシオンとシェイラルカは立ち上がり、一礼をしていた。それを見た俺も慌てて『ただの』礼をする。


 「お忙しいところを申し訳ありません。フィットマス様。」


 頭をあげて発したシオンの返事を聞き、「お気になさらず」と言いながら対面のソファへと移動した。


 「お久しぶりです。フィットマス様。」

 「左様ですな。シオン様もお変わり無いようで・・・。どうぞお座りください。」

 お互いに再び軽く頭を下げる。フィットマスが座るのを薦め、それぞれがソファへと腰を下ろした。俺は勿論立ったままである。

 フィットマスは後ろに控えていたメイドに二人のコーヒーのお代わりと自分の分を用意するように声をかけてから、再びシオンに向き直り話を振る。


 先ずは軽く紹介で、シェイラルカと俺がそれぞれ紹介される。

 紹介が終わると、フィットマスが口を開く。


 「して、今日はどの様なご用件で?ヴィンス殿のお姿も見えませんし・・・」

 「先ず報告しますと、夫は・・・ヴィンスは死にました。」

 ハッキリと、顔をうつ向かせることなく言い放った。その表情までは俺の位置からは伺う事は出来ないが、背中から感じる雰囲気は恐らく動じた表情は見せていないだろう。


 「それは・・・本当ですか?」

 一瞬でも表情を変える事なくフィットマスは直ぐに問いかける。

 「はい。この手で埋めました。」

 「・・・・」

 押し黙るフィットマス。

 その沈黙に静かに声を出す。

 「お話し中申し訳ありません。」

 「どうしましたか?」

 振り返るシオンの耳横へと口を近づけて片手でフィットマスから見えないように自分の口を隠す。


 「(どうやら間違いないようです。)」

 小声でシオンへと要件を伝えて再び離れ、後ろに控える。


 「そうですか・・・わかりました。」

 「・・・・。どうしたのですか?」

 思わず疑問の声をあげて、眉をひそめるフィットマス。それはそうだろう。軽く護衛です。と紹介された者がいきなり話しに割り込み、内輪だけの話をし始める。

 フィットマスとしてはかなり面白くない事だろう。


 「失礼しました。ここに来る前に少し問題がありまして・・・その事に付いて少し・・・」

と濁す様な言い方をするシオン。

 「本日はフィットマス様にヴィンスについての報告をしておきたかったので、寄らせていただきました。

 これから私たちは王に報告に向かい指示を仰ごうと思っています。」

とこれからの予定を話す。

 「でしたら、私から早馬を出しましょう。それとも、護衛の兵と馬車を用意した方がよろしいかな?」

 「いえ。それには及びません。お気持ちだけ戴きます。」

 フィットマスの提案に間髪いれず断りをいれるシオン。余りの即断に笑いそうになる俺だが、フィットマスは再び眉をひそめていた。

 再び声を上げようとしたフィットマスより先にシオンが口を開いた。


 「それでは本日はこの辺で失礼します。このあと明日からの準備もありますので・・・」

と軽く頭を下げて立ち上がるシオン。それに習い、挨拶以外沈黙を守っていたシェイラルカも「失礼します」と声を出して立ち上がる。


 そのまま扉へと向かい、それぞれが一礼をして退出していった。

 行動の早さに呆けていたフィットマスが退出する瞬間に何か言っていたが、内容はわからなくとも、声だけは聞こえているはずのシオンとシェイラルカは無視。

 そのままツカツカと無言で歩き、屋敷を後にしたのだった。勿論俺も後に付いてさっさと出ていった。


 後に残ったコーヒーからは、まだ湯気が立ち上っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 当初は、フィットマスに救援、保護を求めるためにやって来たマスクルだったのだが、対談が終わった今となっては完全に話が変わっている。

それは何故か?


 理由は簡単で、フィットマスが『敵』であるからだ。

 深夜に押し掛けた『客人』は、フィットマスの手の者だった。正確に言えばフィットマスの『裏の私兵』だった。

 男たち5人への質問の結果がそうなったのだが、流石にそれだけでは信用できない。と言うのがシオンの弁だった。

 勿論シオンとしてもあの5人があの様な状況で嘘をいう可能性は低いと思っていただろう。俺もそう思ったし、シェイラルカもそうだろう。


 だが、シオンは1つの『可能性』を話した。

「フィットマスとは違う人物、黒幕が私兵であるはずの5人を騙して使ったのでは?」と言うものだった。

 可能性としてはかなり低いと言わざる終えないが、可能性がゼロとも言えなかった。


 それから屋敷へと向かう予定を少しずらし、フィットマスが本当に黒ならば、どんな手段を用いてくるかを3人で話し合った。

 それらの手段を確認する役目は俺になり、確認したら黒なのかわからないのかを判断し、その結果をシオンに耳打ちする。

 何故『黒か白か』ではなく、『黒かわからない』なのかは、先の襲撃でフィットマスの名前が出ているからだ。一度でも名前が出てしまっている以上、その時点では『白』とは言えないからだ。


 結果次第でその後のこちらの対応が変わってくるのは当然だ。なので、勿論その辺の事も話し合った。

 わからない(何も手を出してこなかった)場合は、協力してもらえるような方向で話をする。

 黒だった場合は協力は請わない。と言う感じに話がまとまり、フィットマスに会いに行ったのだ。

が、そこで待っていたのはやはりと言うべきか『罠』であった。


 外見より狭く感じた客間(?)には、ガラスの面以外の壁の裏に人の反応が4つ程あった。恐らく俺たちの背後と向かいの壁には、隠し部屋(廊下?)があり、そこに兵を配置していたのだ。勿論裏の者たちだろう事は想像に固くない。


 だが、これでも黒と決め付けるにはまだ弱いと事前の話し合いで決められていた。

ただの(と言うのは少し無理があるかもしれないが)護衛の可能性がある。・・・・らしい。

 結局最終的には、2杯目のコーヒーが決めてとなった。

 1杯目は普通のコーヒーだったが、2杯目のコーヒーには『束縛薬』なるものが混入していた。

何故わかったのかは《鑑定》である。


《珈琲》【ラーブ】

ランク:A+


[Aランクに認定された豆を使用したコーヒー。

束縛薬入り。]




 鑑定結果は以上である。

 何故毒が入った結果ランクが上がるのかは疑問だが、そこは、まあ、気にしないとする。

 問題は毒が入っていたことだ。

効果としては名前から察するに、麻痺薬的なものだろう。

 これで、黒と判断しシオンに耳打ちをしたのだ。


 これで俺の役目は終了。勿論護衛としての仕事はあるが、後はシオンの役目だ。

こうして、事前に決めていた通りシオンはフィットマスの提案を完全に拒否した。




 そんなこんなで、フィットマスの屋敷を後にした俺たちは、サクサクと必要なものを買い込み、宿へと戻ったのだった。







これにて『第2章』終了です。

一応次も第2章に含まれますが、本編としては終わりです。


読んでくれてありがとーです。


続いて『第3章』ですが、どうなっていくのかは作者にもわかりません!


なので、どうぞ温かくお見守りくださいm(__)m

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