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完全″全″欠  作者: ル・ヴァン
旅立ち
22/49

到着

『マスクル』が視界に入ったのは、日が沈み始めた頃だった。

 このまま空を飛んでの到着は、俺の情報漏洩に繋がる。今まで立ち寄った村でも通行人がいないのを確認して、村から幾分か離れた街道に降り立ち、そこからは徒歩での移動としていた。


『マスクル』でもそのようにしようと話はもう決まっていて、降りる場所の確認のため3人ともが移動をやめて下をキョロキョロと見渡していた。


 一通り確認すると大丈夫だろうと頷き合って下へと降り立った。


 そこから徒歩になり、『マスクル』に到着した時には闇が訪れていた。


 この町はそこそこの都市である様だった。不法な侵入や魔物に対しての備えとして、町をぐるりと囲むように壁が築かれていた。

 遠くの空から確認したときは1枚の『壁』だったのだが、徐々に近くなると同時に所々に光る篝火によってその壁の表面を見ることが叶う。

1枚の『壁』ではなく、ブロック状の石を積み上げて出来た物だった。


 昔の地球にも同じ作成方法で作られたものがある。有名どころで言えば『万里の長城』だろうか?


 俺はこの様な昔の建築物を見ると思わず尊敬の思いを抱いてしまう。

 昔は現代のように重機が有るわけがない。そんな時代に『人力』で作るのは大変を通り越して、諦めの心境になって良い物だろう。

 それでも人は完成させてきたのだ。

 本当に昔の人は偉大である。俺なんかは途中で心が折れる自信がある。


 さて、そんな壁に囲まれた町には当然入り口として門が設けられていて、そこを監視、または管理する門番が居る。

 門番はネズミ色の(多分)鉄の鎧を着用し、槍を手にしている。槍は穂先が上を向くように地面から垂直になるようにして持っていた。


 二人によるとこの門番に身分を明かさなければ町に入ることは出来ないそうだ。

 町に誰が居るのかを管理し、犯罪者を町に入れないようにする。それと同時に町での犯罪などが起きた場合に色々と利用するために人の出入りを管理をしている。


 ふと今までの村ではその様なことはしていなかったなと思い、シオンに尋ねた。

 シオンの回答は「小さい村ではそのような管理はしていない」と言う当然でしょ?てな感じの返答だった。

 それを聞いたとき思わず「管理した方が便利だし・・・何かと得があるはず」と溢したのだった。


 それを聞いたシェイラルカは「ふ~ん」と言う感じだったのだが、シオンの方は立場上多少はその様なことに関わったことがあるようで、興味を抱いたようだった。


 特別頭が良いわけでもないし、知識が有るわけでもない俺は詳しい説明など出来る筈がない。

 なんとなくこんな感じかな~って感じでしか話せないので、シオンの興味深々の視線をスルーするのだった。


 そんなやり取りをしながら門に辿り着くと、門番がこちらに声をかけてくる。

 その声は幾分かの警戒の色を滲ませていた。


「こんな時間に町に用か?」


 と、俺からすれば思わず「ムッ」っとする対応だった。

 そもそも日本では警戒する必要がほぼない。とは反対に警戒しなければ命に関わるこの世界では警戒するのは当たり前なのだが、何故か少しムッとしてしまう。

 客商売を生業としていた俺だけの性なのか、日本人としての性なのかはわからないが・・・。


 それはさておき。

 門番の問いかけには代表してシェイラルカが答える。何故シェイラルカが代表かと言えば、単純に『マスクル』に一番訪れたことが多かったのがシェイラルカだったからだ。

 ハンターの依頼で『マスクル』へと訪れることがままあったそうだ。


 シオンはほとんど『マラウ』(屋敷のあった村)から出ることはなく、出たとしても護衛の騎士やら兵士が居るので、門番などでの手続きなど自身の手でしなくてよかったそうだ。


 そして当然俺は初めての経験であるので、自然にシェイラルカが代表として最初に話すことになっていたのだ。

「我々は『マラウ』からやって来た者だ。

 この地域の領主、『フィットマス』様にお会いするためやって来た。」


 そう言ってソウルを出して、ソウルの裏面に有るハンターギルドの紋章を見せる。


 前もってタイミングを言われていたので、このタイミングで俺もソウルを取りだし、シェイラルカと同じようにソウルを差し出すような形で裏面の紋章を見せる。


「領主様に?一介のハンターがおいそれと会えるわけがないだろう?」

 と当たり前のことを言う言葉には、警戒の色が濃くなっているのが伺えた。


「失礼。

 わたくしは、ヴィンス・T・フールの妻。

 シオンと申します。

 領主にお会いになりたいのはわたくしです。

 夫の事と、夫の領地に関してのお話があり、この町に訪れました。」


 シオンの自己紹介や訪問理由を聞いた門番は、疑いの視線をシオンに向けていたのだが、王から賜ったと言う貴族の証明品(短刀)を見せた途端に背筋をビシッと伸ばしていた。端から見ていると中々滑稽なやり取りであった。


 そこからは実に速やかに手続きを済ませた門番によって、歓迎の言葉を受けながら町へと無事に入ったのだった。






 今日のところは宿にて一夜を明かして明日の朝に領主に会いに行くことになった。

 俺としては早い方がいいのでは?と思い、シオンに進言したのだが、


「ソウ殿のお陰で異常な早さで到着しましたから明日の朝に向かえば問題ありません。」


 との事だった。

 シオンがそれで良いのならば俺に異はないので、それ以上は何も言わずに宿へと向かう二人の後に付いて歩き出した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 宿についた俺たちは2つの部屋を借りた。

 勿論男女別れての俺一人と、シオンとシェイラルカ、二人で1部屋の割り当てだ。


 それぞれの部屋へと別れる前に宿の食堂のスペースで夕食を食べる。

 味はそれほどでもない物だった。


 幾分か白いパンとステーキ、豆と野菜のスープだった。

 そこそこの町のそこそこの宿なので、今まで立ち寄ってきた村の宿に比べると随分と豪華な食事だが、移動している間の昼食(俺作)の方が『味』は美味しいと思えた。自画自賛になってしまうのが、天狗になってしまったようで余り良い気がしないのだが、事実であろう。


 現に見た目の豪華さに騙され(?)いの一番に物凄い勢いでかぶりついたが、その後直ぐに随分とゆっくりと口へと運ぶシェイラルカと、一口食べて周りにわからないように静かに溜め息を吐いた後からは無表情で食べ進めるシオン。

 この二人の反応は俺の感想と同じだと思えた。

 ・・・・正確に言うならば、『思いたい』なのだが。


 俺と同じと思えた理由は、俺の料理の時のシェイラルカは最初の勢いのまま最後まで食べ続けるし、シオンも微笑みを浮かべながら食べていて、溜め息なんて吐いていなかったはずだからだ。


 そんな訳で何時もより少し静かな食事を終え、それぞれ明日に備えて眠りに付くため部屋へと向かったのだった。


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