『魔術創造』大活躍!
「お待たせしました。」
「悪いな。」
空を飛ぶ為の魔術を創り終えたところに、丁度屋敷から二人が出てきた。
シオンは暗い紫色のゆったりとしたローブを着ていて、赤い髪が映えている。
ローブの腰の部分だけを紐で結んでいるようで、腰の細さが際立っていた。とても一人の子を持つ女性には見えない若々しさがありながらも、年上の女性特有の妖艶とも言える艶を感じさせられた。
只でさえおっとり美人なのに、ゆったりとした服装で更に美人度が上がっている気がしてならない。
思わず見惚れてしまいそうになるが、なんとか堪えた俺を誉めてあげたい。
シェイラルカは最初に出会ったときと同じ服装で、何時ものハンターとしての装備をしていた。
勿論シェイラルカも美人なのだが・・・・服装が・・・・
それはさておき。
時間的にそれほど待ったわけでもなく、魔術を創造していたので感覚的にも待った感は無かったので、笑顔で軽く返事しておいた。
「さて、お二人には昨日『契約』をしてもらいましたので、遠慮なく魔術を使っていこうと思います。」
「助かります。」
とシオンが頭を下げる。
「あれで遠慮していたとは思えないが・・・まぁ、道中はこれで安全だな!頼んだぞ!」
と苦笑いをしながら話したシェイラルカだが、最後には綺麗な笑顔を見せていた。
昨日話した旅路の予定では、一番近くの村に急ぎで向かって今日の夜に到着。
そして、その村で一泊し、移動手段として馬を4頭借りる。3頭は勿論俺らの移動手段として、残り1頭は荷物を乗せるためだ。
そうして、そこからは馬を使って移動。各村に立ち寄りながら食料を補給しつつ『マスクル』に向かう。
と言う予定だった。のだが、さっきも言ったように遠慮する必要はないので、この予定は全部キャンセルだ。
「これから魔術を使って移動します。」
何言ってんの?と言う感じの二人の顔を見つつ魔術を発動した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《纒風》
[オリジナル魔術。対象者に風を纏わせて、自在に空を飛ぶ事が出来るようにする。]
「空を飛んでいきましょう。」
と一言だけ言って俺を含む3人を対象に《纒風》を発動。
俺は直立不動のまま地面から少し浮く。
シェイラルカは突然体に風が纏まり、体が浮く事に驚き腕と足をわたわたと動かしていた。
そこで、シオンを見てみると・・・・俺は貴婦人の凄さを痛感したのだった。全く焦ることなく、口元を片手で隠しながら驚いていたが、俺と同じように体はほぼ揺れることなく少し浮かせていたのだった。
「シオン様は凄いですね。お見事です。」
「何故だ!?」
「フフフ。」
それから少しだけシェイラルカに指南をすると、元々の身体能力もあって直ぐに飛ぶ事ができた。
勿論俺は自分の創った魔術で醜態を晒すはずがない。元々頭でイメージすれば体が進むのだから対して難しいことでもないのだから尚更だ。
唯一シオンが難なく飛んでいるのに悔しさを覚えた。しかも驚くことにあのゆったりとしたローブが全くなびくことなく飛んでいるのだ。
お陰でチラリズムを楽しむ何て事も出来なかった。
何て、かなりふざけた考えや行動を3人ともが自然に同期してやってしまっていた。
理由は簡単だろう。
そうしなければ、普通にしていられないからだ。
「ハッハッハッ。どうだ!ソウ!私もやれば出来る子なのだ!」
元気に空を飛び回り自慢するシェイラルカを見上げる。
自覚しているのはシオンと俺だけかもしれない。
「シオン様。取り合えずこの方法で移動して、予定の村をひとつ飛ばしで目的にしていこうと思うのですが・・・・」
「そう・・・・ですね。・・・先ずは2つ先の村に行きましょう。到着時間次第ですか、その村で一泊する事を予定とします。」
今日の予定を決めてから俺たち三人は大空を駆け出した。明日以降の事は今日泊まる村で話すことになったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
正午。
「なぁ。ソウ。
スッカリ忘れていたのだが・・・食事はどうするのだ?
食料はソウに任せていたはずだが・・・・」
シェイラルカがそう思うのも不思議なことではないだろう。何せ俺は手ぶらなのだ。剣すら腰に下げていないのだ。
答えは簡単。『異次元収納術』である。
「そうですね・・・・。時間も丁度良いですし、食事にしましょう。」
不思議そうな顔をしつつも頷く二人を確認して地面へと降り立った。
さて、二人には隠し事をしてもあまり意味がないので『異次元収納術』をサクッと説明する。
二人の反応は恒例になりつつある「何言ってんの?」と言う感じである。
そこでいざ実践!
収納していた調理器具を取り出す。勿論必要な物だけだ。今回使うのは・・・・この世界での名前は忘れたので、日本での言葉でもう良いや。ってことで、フライパンと鍋である。
パン(イロー焼)は屋敷に残っていた物を貰ってきたし、食材も屋敷の食料庫から必要な分を貰ってきた。水も井戸から瓶に入れて収納してあるので、完璧なはずである。
テキパキと周りに落ちていた石で簡単な竈を作る。
少し離れたところにある森とは呼べない位の木が生えているところから、枝を集めて『魔術創造』で『乾燥』の魔術を創り、枝を乾燥させる。
枝を交差するように積み上げて『種火』の創造魔術を創って着火。
此方には鍋を設置してスープ用の竈とする。
同じ物をもうひとつ用意してこちらにはフライパンを設置する。
メニューは干し肉と野菜のスープとベーコンと目玉焼きである。
これにパンを添えれば完成である。
フライパンを片手にふと思う。
(・・・・・・・・・皿は・・・・?)
問題発生である。
完璧な筈の準備だったのに食器類を忘れてきてしまったのだった。
仕方なく二人の元へ行き、事情を説明した。
「フライパンはそのままで良いんだろうが・・・スープは・・・」
どうしようかと頭を捻る二人。
一方俺は・・・・
(あれ?今シェイラルカ様フライパンって言ったな・・・。名前違うはずなんだが・・・)
と違うことを考えていた。
「ソウ殿。魔術を使って木を加工できませんか?」
とナイスなシオンがナイスなアイディアを出してきた。
「あぁ・・・。そうですね。
出来ますね・・・・多分簡単に・・・」
さんざん悩んでいた二人は深々と溜め息を吐いて頭を垂れたのだった。
それからもう一度木が生えている所へ行き、一本の木を伐採。
木を乾燥させてから皿と器に加工。
全部創造魔術でやりました。
ピンチを乗り切り、二人のところへと戻って食事を開始したのだった。
『魔術創造』大活躍でした。
あってよかった『魔術創造』。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それからは順調に空の旅を楽しみ、目的の村に到着。
その村で一泊して、次の日の朝にはまた空の旅。
そんなこんなで全日程3日の旅で最終目的地、『マスクル』へと到着したのだった。