来訪者
翌日。
俺たち三人は疲れはてて、夕食も食べないままそれぞれ眠りについた。
見張りがいるだろうとシェイラルカが言い出し、俺との交代でやろうといってきたのだが、防御魔術を張るから問題ないといい、実際に魔術を造って、屋敷を囲うようにして防御魔術を掛けた。
造った魔術はこれだ。
《結界》
[オリジナル魔術。強力な透明の膜を使用者の任意の広さで張ることが出来る魔術。
使用者が解除するか半日経たなければ消えない。]
補足すると、強力な攻撃を受ければ消えてしまう。
という魔術を三重に張っておいた。
使用魔力は『纏龍』と同じだけ使うのだが、レベルが上がり、魔力量が増えていて、『纏龍』を使っても2割弱程しか魔力を使わなかった。
そんな感じで安全な夜を過ごしたのだった。
そんな翌日はシェイラルカの大声で目覚めることになる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ソウ!!!起きろ!!!魔術を解け!!!」
寝ぼけ眼で、ボーッとシェイラルカを見詰める。
「何故?」
「外に出られないからだ!!!」
スパンッと良い音がなり、同時に頭に痛みが走り完全に目が覚める。
「イタタタタ。何も叩くことないじゃないですか・・・。」
文句を言いつつベッドから出る。
そのままシェイラルカに手を引かれ、引きずられるように外へと向かった。
「さぁ!この馬鹿げた防御魔術をさっさと解け!」
(・・・馬鹿げた?)
と心で呟き、首をかしげる。
「まさか・・・解けないなんて言うんじゃないだろうな?」
俺に問い詰めてくるシェイラルカの顔は笑顔だ。が・・・
(目が笑ってねーーー!コエェーーーよ!)
「い、いやいや。解けますよ。勿論。
ただ、馬鹿げたって言う言葉に疑問が湧いただけですよ。」
両手で「まぁまぁ。」とシェイラルカを落ち着かせながら返答する。
「わかってなくてやったな?良いか?
私も実物を見たわけでもないし、魔術師でもないが、これははっきり言えるぞ。
防御魔術って言うのは一回だけ攻撃を防ぐものが普通だ。これは断じて普通の防御魔術ではない!『馬鹿げた』防御魔術だ!」
「だけ」の部分を強調して話すシェイラルカ。
対して俺は、
(その普通の防御魔術って防御『魔術』と言えるのか?)
なんて思ってしまったのだが・・・
そんな事を考えていると、痺れを切らしたシェイラルカが「早く解け!!」と叫びながら『結界』を剣で攻撃していた。
そんなシェイラルカを目の端に捉えながら、意識を結界に向け『解除』と語りかけると、スーッと溶けるように消えていった。
シェイラルカは『結界』が消えると同時に、脱兎の如く飛び出して行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どうやらシェイラルカは『結界』の中からワルフが徘徊しているのを見かけたらしい。
ワルフはゴブリンだろうがなんだろうが生物ならば何でも食べるので、村に纏められたゴブリンの死体を狙ってきたのだろう。
シェイラルカとしては、ヴィンスが遺したといっても良い物たちなので、横から掠め取られるような事は許せないのだろう。
と、母であるシオンから説明を頂いてから納得できた。
端から見ていると、頭のおかしくなった人が犬を追い回して、殺しているようにしか見えないが・・・・
あれは必死だからそう見えるのかもしれない。
と、考えながらボーッと眺めていると、シェイラルカが物凄い勢いで戻ってきた。
「何を暢気に眺めている?
・・・・・さっさと手伝え!!!」
再び手を引かれ、引きずられるようにして強制連行された。
それからはワルフ狩りを真面目にやった。
リザードの経験値を手に入れ、レベルの上がった俺にとっては雑魚以外の何者でもなかった。
勿論先輩であるシェイラルカにとっても雑魚だった。
さほど時間もかからずワルフを狩り終え、次の襲来の前にとゴブリンたちのソウルと、魔材をハントする。
普段森から出ない魔物だが、餌があるなら話は別だ。血の臭いに釣られて森から出てきてしまう。
そうならないように、死体と可能な限り血の付いた物を集めて1ヶ所に寄せる。
そんでもってここでまた登場。
『魔術創造』である。
『葬送業火』
[オリジナル魔術。圧倒的な熱量で指定範囲を焼き払う青い炎を生み出す。
範囲は広げれば広げるほど火力が落ちる。]
それらが、終わったのが丁度太陽が真上に上がったときだった。
勿論。『葬送業火』を使用したら全部一瞬で灰になった。
そして、シェイラルカに全力ツッコミを頭にもらったのだった。
威力が強すぎたらしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼は手早く出来るものを用意した。・・・・俺が。
二人はやはり貴族と言うべきか、全く料理が出来ないそうだ。シェイラルカはハンターをしているだけあって簡単なスープ程度は作れるそうだが、美味しくはないそうだ。それで仕方なく俺が用意することになった。
昼を終えた俺たちはヴィンスの執務室のソファーで向かい合って座っている。
片側に俺、もう一方にシェイラルカとシオンだ。
「ソウ殿。先ずはお礼を。」
その言葉と同時に頭を下げるシオンとシェイラルカ。
昨日の村人たちの埋葬と、今日のゴブリンたちの後片付けに対しての礼だと解釈する。
「いえ。とんでもないです。」
礼を言われるとは本当にとんでもない。
昨日俺が意気揚々とリザードと戦いにいかなければ、村の人たちを救えたかもしれないのだから。
いや、救えたのだ。
そんな俺に頭を下げる必要性が何処にある?
逆に何故居なかったのだ?と責められるべきではないのだろうか?
俺は救える力がありながら、自分の都合と興味で放置した。
確かに『知らなかった』。
だが、しかしだ。
納得できない。俺自身が納得できない。
そこまで考えて気付く。
俺自身が納得できてないのに、目の前の二人が納得できるわけないだろう。
「今回は本当にすいませんでした。」
深々と頭を下げる。気持ちは床に額を擦り付ける様だった。
「二人の気持ち・・・感情を思うと、俺とこうして話しているのも辛いと思います。
ただ・・・ヴィンス様に二人の事を頼まれた。この事だけはなんとかしたい・・・と思います。」
「そう・・・ですね。
私も正直に言いますと、『ソウ殿が居てくれていたら』と思います。
特に昨日と今日見せられた魔術の腕前があればここまで酷い状況にはならなかったでしょう。
ですが、過ぎたこと。完全に納得できないのは貴方も私たちも同じでしょう。ですが、納得するしかない。
理不尽なことが簡単に起きるのが世の中と言うものですしね。」
そう言ってうっすらと微笑むシオン。
その笑顔は哀しみを隠すような笑顔だった。
「ですが、貴方を恨んだりはしませんよ。
私も、勿論シェイラも。
ソウ殿が居てくれていたらと思う気持ちは後悔。
決して恨んだりはしませんよ。
恨むのはお門違い。安心してください。」
今度は打って変わっての穏やかな笑顔で語りかけてきた。一方シェイラルカは口を固く閉じ、膝の上の両の手は固く握られていた。
やはり、完全には納得できないのだろう。
それはそうだ。
シオンは母としての人生経験がある。
その経験を糧に今の思考と言葉が出てくる。
だが、シェイラルカは18歳。
理不尽な世の中を納得しろと言うのは酷なことだろう。シェイラルカよりは年上の俺が納得できない(当事者だからとも言えるが)のだから、彼女が納得できないのはなんら不思議なことではなかった。
シェイラルカを見ていると自分を責めて責めて仕方なくなる。
だけど、今は『話し合い』なのだ。
思考を止めてしまうのはダメだろうと思う。なので、無理やり視線をシオンに戻し、会話を再開する。
「この話は恐らく決着はつかないと思います。
なので、これからの話をしましょう。」
シオンは、俺の顔から説得は無駄と思われたのだろう。無理やりにでも話を変えてきた。
「私とシェイラは幾つかの村を経由して、隣の領地を治めるフィットマス殿の所へと向かいます。
そこからはどうなるかまだわかりませんが・・・取り敢えずは隣の領地へと向かえばどうにかなると思っています。
ソウ殿はどうしますか?」
(どう話すべきか・・・・・・・・やれるかわからないが試してみるか・・・・)
『魔術創造』を発動して一つの魔術を造る。
《契約》
[オリジナル魔術。二人以上の複数人が対象とすることで発動が出来る。
対象全てに対して約束をさせること。対象者がこの魔術の使用を同意すること。この二つが満たされたとき契約が成立する。]
つまり、行動を縛る魔術。
今回俺は、魔術を使って移動しようと思っている。それから、村で使った魔術もどうやらこの世界では強力な物の様なので、俺に関する情報を他人に話されるのは色々と不味い気がする。
なので、話すと言う行動を縛る。
話そうとしたからといって痛みがあるとか、命が危ないなんて言う『罰』は発生しない。あくまで縛るだけ。『話そうとしても話せない』って感じ。声が出ないとかそんな程度の事だ。
だが・・・いくら命は大丈夫。とか痛みはない。などであったとしても、二人が嫌がれば使用できない。
(まぁ、この辺りは話の流れで話して『契約』を使うか、話さず『契約』はタンスの肥やしになるかは決めよう。)
と決めて話しを進める。
「先ずはお二人の安全が確保できるまでは側で護衛をさせてもらえないでしょうか?
その隣の領地へ行けばどうにかなるんですよね?でしたら、短くてもそこまではやらせてもらいたいです。
お二人の安全が確保できたら、旅に出ようと思っています。」
一刻も早く姉を探したい。でも、二人を放って探したりした場合はヴィンスからの最後の頼みを、想いを踏みにじっている気がして嫌だった。
姉もそこのところは俺と同じで納得してくれるだろう。例え、そのせいで最悪なことになったとしても・・・。
勿論そうならないように努力しようと思い、『契約』を創って二人の口を封じて、魔術をフルに使えるように準備したのだ。
瞬間的に思い付いた不出来な考えだろうが・・・
「ソウ殿。・・・・ありがとうございます。
此方としても護衛は頼みたかったので有難い話です。
では、取り敢えず隣の領地、『マスクル』の町までお願いします。」
隣の領地の領主が居る『マスクル』と言う町らしい。
ここから徒歩で10日程の道のりで、10日目の夕方の少し前には着くだろうとのことだった。
そこからは今後の日程について話し合った。
出発は明日。
到着したあとは話の方向が決まるまでは護衛を続行。
決まった内容次第で、そのあとの護衛をどうするかを再び話し合う。
と言うことになった。
あとは準備に何が必要なのか。道のりで気を付けなければいけない所などの話しを終えたときに、それまで一言も喋らなかったシェイラルカが口を開いた。
シオンとの会話中に色々と考えて居たようで、次第に表情に落ち着きが見えてきていたので、敢えて触れずにそっとしておいたのだ。
そうして、一つの踏ん切りが付いたらしく口を開いたのだった。
「ソウ。すまなかった。」
いきなりの謝罪で訳がわかるはずもなく、頭にクエッションマークを思い浮かべた。
「正直。私は母のようには割りきれない。
今もソウが居てくれていれば、父は死なずに済んだはずだと言う思いが頭から離れない。
・・・だが、私はあのときなにもしていない。
父に言われて母を守りつつ地下に逃れただけだ。最悪なことに母を完全に守ったとも言えない。
そんな私が君を恨むのは間違っている。
・・・・と頭では理解している。」
つまりは感情は俺を恨んでいると言うことなのだろう。
気持ちの良いことではないが、仕方ないことだと思う。
「ソウは、出来うることをやってくれた。
それ以上を望むのは間違いだろう。
だから・・・」
だから?
そのあとを中々言葉にできずに口をモゴモゴとさせていた。このタイミングで、この話の流れで言いにくいことがあるのだろうかと考えていると、意を決したように真っ直ぐに俺を見てきた。
「私を君の旅に同行させてくれないだろうか?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・ダメか。」
肩を落とすシェイラルカを見て呆けていた。
意味がわからないのだ。
何故、旅に付いてくると言ったのか。何が『だから』なのか・・・・。恨んでいるのだろうから隙を見て俺の命を・・・なんてアホなことを考えていると、
「シェイラ。その話し方では話が通じませんよ。
ソウ殿。シェイラは恩返しのために旅の同行を求めているようです。・・・・どうでしょう?」
(いや、どうでしょうと言われても・・・・
どうなんでしょう?)
「えーーーーと。
と言うか、シェイラルカが旅に出るのは不味い・・・ような・・・」
と頭がショート寸前で、口調も砕けているし、シェイラルカを呼び捨てだしとグダグダな返答をしてしまった。
「その点は大丈夫です。
何せ現領主が不在。と言うことはこの領地は恐らく王に返還されます。
勿論シェイラが跡を継ぐ可能性も無くはないですが、もしそうなったとしてもあと2年は大丈夫ですね。
領主は20歳以上でなければならないと法で定められているので。
シェイラルカが20歳になるまでの2年間は、私か王から派遣された者が代理を勤めることになるでしょう。」
そんな決まりがあるんだー。なんて暢気に考えていた俺に更に追い討ちをかけてきた。
「それに、継がない場合はソウ殿に面倒を見てもらわないと。
ヴィンスの遺言なのでしょう?」
・・・・そう言う意味だったのだろうか?
違う気がする。が、早く話しに区切りをつけて一旦落ち着きたかった俺は
「わ、わかりました。」
納得したのだった。
それから一服しようと言うことで、お茶を準備するために部屋を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて・・・・・・・・どうしたものか・・・」
悩みどこだ。
お茶の準備をしながらなんとか落ち着き、思い返す。同行を認めてしまったので、目的を話さなくてはならないだろう。
話さなくても良いのだが、どうせ後々知られることになるのは目に見えている。
姉を探すのなら情報収集の為、色々と聞き込みをするだろう。そうしていれば必ず知られる。
ならば、最初から話しておいた方が楽だし、後々に知られたときに何故黙っていた?なんて言われたらそれこそ面倒だと思う。
だけれども、姉を探すと言う目的を話すのならば、記憶が戻ったことを話さないといけない。記憶の話しをするとなると異世界から来たことを話さなければならない。
問題は話す事自体や、周りに知られたときの俺の印象などではない。話したとしてもさっき創った魔術、『契約』を使い、口止めをすれば良いだけの話だ。
問題なのは異世界と話した場合、二人の俺への対応がどうなるか。である。
何故か恨んであるはずのシェイラルカも普通に接してくれている。
それなのに、俺への対応が悪くなるのは気が進まない。悪くならないかもしないが・・・
結局、異世界から来た俺がどのような立ち位置になるのかが全くわからない。と言うことだ。
知らぬ人からの印象や評価、俺への対応なんてどうでもいい。
大事なのは、二人がどうなるかである。
迫害をされるのか、歓迎されるのか、特になにも思はないのか・・・・
そう考えると中々話す事に躊躇してしまう。
悶々と考えながらでもお茶はすぐに準備できた。
湯を沸かし、そこに熱湯消毒した麻で編んだ手のひらサイズの袋に乾燥させた茶葉を入れる。そうして、その麻袋をお湯へと入れて茶葉の成分が出るのをゆっくり待つ。
ある程度お湯がきつね色へと変わったら麻袋を取りだし、もう少し沸かす。
これを専用のポットに移して完成。
この地域で一般的なお茶である『シーン』と言うお茶である。
どことなく紅茶に似た飲み物だが、紅茶よりも渋味がなく甘味が強い。
強いといってもほんのりと後味に甘味が残る程度で、スッキリとした味わいのある良いお茶だと思う。
最も二人に言わせると、ここまで美味しくシーンを入れられる人はいないそうだ。
俺は喫茶店でコーヒーを出していたので、コーヒーには少しうるさいかもしれないが、紅茶や他のお茶に関しては素人の知識しかない。
例え他のお茶に詳しくても、このシーンを煎れるのに役立つのかはわからないが。
恐らく『料理』の技能が仕事をしているのだろう。
脱線してしまった。
今は俺の事を話すかどうするかの大事な考え事中だったのに・・・・
ため息を吐きつつ、完成してしまったお茶やカップ等をお盆に乗せて二人の待つ部屋へと足取り重く戻っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お茶を皆が一杯目を飲み干し、二杯目をそれぞれのカップに注いだところで会話が再開された。
切り出したのは俺だった。
「正直に言います。
先ほどのシェイラルカ様からの問い掛けに頷いてしまいましたが、先に此方から条件を提示させてもらいます。
その条件を聞いたあとにもう一度考えてください。」
と前置きをする。
何やらシェイラルカからの視線に怒りが宿ったように見えて怖いのだが、理由がわからないのでスルーする。
「先ずは謝罪します。
実は記憶は少し前には戻っています。」
そう告げて頭を下げる。
「そうか。それは何よりだな。
黙っていたのは正直気分が悪いが、なにか理由あってのことなのだろう?
ならば、祝福だけをするのが良いだろうな。」
とシェイラルカ。
「それはおめでとうございます。
気持ちとしてはシェイラと同じですが、恐らく隠していた理由がこの先の話しに関わること・・・と言うことですかね?」
と鋭いシオンの指摘が出てきた。
「シオン様の言う通りです。
この話は恐らく私の印象を大きく変える事だと思います。
私自身が理解できていない部分も多く、ここの人達が私をどう扱うのかがわからず隠していました。」
そこで、一旦間を置きシーンを一口飲む。
「この先の話しをするに当たってお二人には申し訳ないですが、魔術をかけさせて貰いたいのです。」
第一の懸念の二人への魔術の行使を告げる。
「わかった。」
「はい。」
と簡単にうなずく二人。続けてシェイラルカが話しを始めた。
「その魔術と言うのは勿論危険は無いだろう。
だが、効果というか、どんな魔術なのかは説明してもらえるか?」
返事は勿論「yes」。
頷いて魔術の説明を始める。
「これから使いたいといった魔術は『契約』と言う魔術です。
効果としては、約束を守らせる魔術とでも言いましょうか。」
それから『契約』について説明をする。
1、体に害はない。
2、今回の約束は外部に俺の情報を伝えない事。
3、2の事を破ろうするような行動や言動をさせなくする。
4、3は死ぬことや痛みの伴うものではない。体や口が動かないと言う様なことが起きる。
5、この魔術は俺が解除しない限り死ぬまで効果が続く。
以上の事を説明すると、最初と変わらず即頷く二人だった。
「にしても・・・・また馬鹿げた魔術だな。」
「そうですね・・・・。この魔術一つの情報が流れるだけでソウ殿の身は危険になるでしょうね。」
とシェイラルカが呆れた後にシオンが爆弾発言をする。
「ソウ殿。この魔術・・・・『契約』と言いましたか?
この魔術を使用する際も十分に気を付けてください。
色々と悪どいことを考えている人たちにとっては、かなり重宝できる魔術であるはずです。」
「そうだな。」
真剣な目をして俺に忠告をしてくるシオンとそれを同じ目をして同意するシェイラルカ。
その二人の目を見たときこの先の話しを思うとキリキリと痛んでいた胃が不思議と落ち着いたのだった。
「この人たちならきっと大丈夫だ。」と根拠のない思いが湧いたのだった。
「・・・・・・っ。そ、それでは魔術を使用します。内容は私のいかなる情報をも誰にも漏らさないこと。です。」
少し呆けてしまった。
慌てて続けた話の反応で頷いた二人を確認してから、『契約』を発動した。
座ったままの俺の真下の床に薄い青の光の線で描かれた魔方陣が現れる。(初めて使ったので正直ビックリした。効果は創造したが、光景は創造していなかったので・・・・)
魔方陣は回転しながら段々と大きくなり、二人も魔方陣の中に入ったところで、拡大と回転が止まる。
魔方陣の中から青の光の粒が何百と浮いてきた。
その光景に二人は息をのみ硬直していた。
それは恐怖の硬直ではなく、美しい光景に魅いって動けない。と言う感じだった。
二人を対象と頭に描くと、光の粒たちは二人の目の前へと集まり始めた。
ある程度集まるとそれぞれの目の前に魔方陣が縦の状態で浮いていた。
その魔方陣は回転しながら、小さくなっていき二人の額へと張り付いた。
「『契約』」
最後に頭の中に先ほど決めた約束を思いながら魔術の名前を口にする。
二人の額の魔方陣は染みていくように消えていき。
床の魔方陣は弾けて、青い光の粒を撒き散らしながら消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
あれから異世界から来たことを話した。
結果から言うと、信じてもらえなかった。当たり前かもしれないが・・・・
結局俺が危惧していたような事にはならなかった。
二人に言わせると「関係ない」だそうだ。
何処から来たとか、何処で生まれたとかよりも、その人の人間性の方が大事だ。と言われた俺は、「ごもっとも」と頷くしかできなかった。
呆気なく話が終わり、本日早朝。
いよいよ、出発の時を迎えたのだった。
意を決して話した異世界からの来訪を軽く流されて、肩透かしを食らった俺は、魔術での移動を話さずにそのまま解散して寝てしまった。
なので、出発前に説明しなければならない。
昨日の感じから言うと異常な魔術に分類されそうではあるが、『契約』をした今となっては正直どう言われようが、どう思われようが関係なし!である。
そんな訳で、身支度を整えた俺は二人よりも一足先に領主の屋敷前で二人を待ちながら、魔術を創造し始めたのだった。
(まぁ~。単純に早いのは転移系の魔術だろうけど、行き先が『ちゃんと』特定出来るかわからない。
だったら・・・やっぱり空だな!)