プロローグ(2)
俺の生まれは極普通の貧乏家庭。
万年平社員の父と、パートで家計を助ける母の間に生まれた。現在二四歳の長男である。
仕事は自営の喫茶店を経営している。
こんな若い年齡で自分の城を持つことができたのは姉のお陰だ。
当初は自分のやりたいことだから自分で貯金してやり始める予定でいた。その為、お金を貯めている間に経営に関する勉強をしていたのだが。
誰にも話していない『喫茶店をやる』と言う夢を、何処からともなく嗅ぎ付けて押し掛けてきたのだ。
俺のところに文字通り飛んできた姉は、
「あといくら!?!?」
突然やって来て大声を出すもんだから体が「ビクッ」っと反応してしまう。
そして、聞いている事の話が全く見えず、
「何が!?!?」
と返す。当然だろう。
「喫茶店やるんでしょ!?お金はあといくら必要なのか聞いてるの!!!」
話は分かったのだが、如何せん鼻息が荒い!!!少し落ち着くよう諭して、落ち着いたところで何故知っているのか等の話を始める。
「だって働いているのにお金使わないし、何か節約?してるっぽいからお金貯めてるんだろうな~くらいはすぐにわかったよ?」
さも当然でしょ!ってな感じである。
「だから、後をつけたり、図書館でなに借りたか調べたり、パソコンの観覧履歴を見てみたの!あっ。見られたら大変な所はお姉ちゃんも見てないから安心してね?知らない方がその時いろいろ楽しめそうだからね。」
うん。全部おかしいが、特に最後が明らかにおかしい。後程このバカ姉の事は話すとして、今は華麗にスルーしよう。
「いろいろとやってはいけないことをしたのはよくわかったよ。ハァ~~。
取り合えず話を進めるよ。
なんで残りの金額が知りたいの?」
「お姉ちゃんが出したげる!!!
そして、お姉ちゃんを雇いなさい!!!」
「雇いなさいって・・・。その場合共同経営になるんじゃないの?その辺はまだ勉強不足でわからないけどさ。」
「取り合えず貸すって形だけど、返さなくて良い!!!むしろ返さないで!!!」
何を言ってるの???貸した金を返さないでって頼むなんて・・・。普通じゃない。まぁ、今さらだけど・・・。
このあと遠慮する俺と、お金を出すと言って聞かない姉との口論を一時間くらいやって最後には俺の方が折れてしまったのだ。
姉は二五歳。とある会社で事務をしていた。如何せん勉強不足でよくわからないが、そこそこ重要な仕事をこなしていたらしい。で、今働いているのは俺の店。働いていると言っても、資本金の半分は姉が出してくれているので、実際は共同経営者になるのかもしれない。
だが、姉はお金は絶対出すし、絶対店員としてしか働かない。っと言い切った。
そんな姉は貧乏な普通の家庭に生まれる筈の無い人だった。
先ずはその顔立ち。鼻はこれ以上のバランスは無い位置と高さで存在してあり、唇は淡いピンク色をしていて、とてつもない艶を放っている。目は若干つり目気味で、少し気の強い印象を与える。だが、その瞳で見られると気の強さなど感じる事はなく、まるで聖母に見られているような暖かさを感じてしまう。眉は細めでキリッとしていて、髪は腰まで届くストレートの黒髪。真っ黒な髪は光を僅かに反射している。
その光景は重い印象を与えるはずの黒髪を不思議と優しい印象を与えられる。
肌は自然な肌色。普通に思うかもしれないが、きめ細かい肌はその自然でしかない肌色をこれ以上無いほどの完璧な美しさを表す。
胸は大きすぎず、尚且つ小さい事もない絶妙な膨らみを見せていて、ウエストは細く、滑らかに曲線を描いていてその曲線を描きながら小さめのお尻へと延びている。まさしく美のコラボ。いや、コンボかな?
こんな感じで、容姿は完璧。そのくせに性格も清く正しくを体現していて、まわりの人たちから絶賛される人物だ。
そして、付いた通り名が『女神』である。
皆に平等に接し、悪を赦さず、だが慈愛に満ちている。正に『女神』だ。っと言うことらしい。
因みに、俺は完璧な姉の血が幾分か流れているためなのか男の癖に線が細く顔も中性的な感じになっている。
髪も姉と同じ黒。目に届くくらいの長さで揃えている。
成績普通。運動はちょっと良い感じにできる程度。
正直あの姉のわりには余りパッとしない。
そんな俺だか顔が中性的と言うのと、線が細いと言うことで見る人が見ると女の子に間違えられることが極まれにある。
だが、あくまでそれは極まれ、それより多いのはそっちの気がある男に迫られること。
ま~そんな輩に迫られていると、何処からともなく姉がやって来て問答無用の制裁タイムを繰り広げてくれる。それはもうドン引きするくらいの制裁タイムである。
なにしろ空手の黒帯をもち、古流剣術と古武術(柔術みたいな感じの武術)の免許皆伝なのだ。
さて、そんな姉だが欠点がある。
先ほどの制裁タイムの話で勘のいい人はお気付きだろう。それは俺に対しての異常なまでの愛情である。ブラコンなどとは比べられないほどの執着を見せるのだ。
先ほどのように何かしら俺に危機が迫ると必ずと言って良いほど助けにやって来るし、家に居るときは用もないのに俺の所にやって来る。そして、なかなか離れようとはしない。出掛けるときもどうにか付いて来ようとするし、ダメだと言えば駄々をこね始める。結局いつも俺の方が折れて付いてくるのを許可してしまうのだが・・・。
さらにさらに、他の女性と会話は禁止!!!っと大声で主張する。
因みに「何故?」と尋ねてみた時の姉の話を紹介すると、
「お姉ちゃんが居るのに他の女性が良いの???」
っと言った後に号泣した。
だが全く女の人と話さずに生きていくのは不可能だろう。何せコンビニの店員が女性でもアウトなのだから・・・。
まぁ、引きこもりになれば可能かもしれないが・・・。
そんな感じの説得をして(引きこもりについて話したら、マジで引きこもるように言いそうなのでその事は言わずに)どうにか最低限の会話は仕方ないってことに納得してもらった。
かなり、渋々だったが・・・。
さて、そんな残念な姉と俺は今日も元気に喫茶店を営業する為に店へとやって来た。
が・・・・・・。