初の『指名依頼』は故郷の味(2)
直接依頼を受けた後に昼食を作ってから情報収集に勤めた。領主やシェイラルカ、メイドさんと執事たちにこの近辺で取れる食材の話や、日本の調味料たちの話をして(もちろんこんな感じの調味料~。的なあやふやな話し方で)知っているか聞いてみた。
すると、執事さんから有力情報をもらった。
なんでも、『リューイ帝国』で作られている物ではないかと言うことだった。残念ながら、海を越えた先の大陸でここから取りに行くのは直ぐには無理。
しかも、そのリューイ帝国はもう無いらしい。あのギルドに撤退されて、滅びた国がこのリューイ帝国なのだそうだ。
じゃあ、もう手に入らないのでは?と思ったら、それは可能らしい。
国は潰れたが、まだその島には住人がわずかに残っていて、そこで作られているらしい。ただ、わすがな人しかいないので、生産数もわずか。つまり、なかなか他の国々には出回らないそうだ。
手に入れるには直接出向いて、個人で買う。それも、それほど多くは買えないらしい。
(ん~。今回は和風は諦めるしかないかな~。
幸い、イタリア料理かフランス料理だったら可能な食材の情報は得られたから・・・それで、今回は手を打つかな~。
でもな~。折角あの情報を手に入れたんだがら・・・)
情報収集を終えて、考えながら屋敷を後にする。
その日は、また宿に泊まった。しかし、これで、もう所持金0である。明日は、食材採取で森に行くから、ついでに簡単な依頼がないかギルドで聞いてみよう。
明日の予定を考えたり、メニューを考えたりとしていて夕飯のことなど全く考え付かずその日はそのまま眠ってしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
朝、目が覚めて顔を洗う。歯磨きをしたいところだが今はそんな日用品を買うお金もない。仕方なく口をゆすいで、嗽をするだけに止まる。
そうしてから、準備をする。準備といっても、剣を左手に持ち、領主から借りた麻袋を腰に小さいのを1つ、少し大きいの肩から斜めに紐で括って背中に装着するだけなんだが・・・。
朝食は、昨日屋敷からお土産でもらったイロー焼。色がきつね色の上等なやつだ。領主が、気を効かせて帰りに包んでくれた。
大変ありがたく、領主に感謝しつつ完食してからギルドへと向かう。
「おはようございます。」
カウンターへと向かい、ジーナへと朝の挨拶をする。
「おや、坊主。領主に依頼をされたんだろう?ここに来る暇はないんじゃないのかい?」
どうやら直接依頼の話しは既にギルドに連絡されたらしい。
「いや、特に期間は決まってないので、そんなに日数をかけられても困るとは言われましたが、一巡り(ひとめぐり)くらいで終わらせるつもりです。
それで、今日は森に食材を取りに行こうと思いまして、同時になにか依頼がないかと思って来ました。」
一巡りとは一週間のことである。
他には決まりはない。一応一年間は364日と決まっているが、月で分けたりはない。
特定日を指したいならば150日に~。なんて言い方になる。なんともめんどくさいが、一般市民は基本日付なんて気にしない。気にするのは一定の権力者だけで、一般市民は「あぁ、そう言えばもうすぐ新年だ。」なんて感じらしい。
祭りなんかもあるだろうに・・・。
「なるほどね。わかったよ。
んじゃまぁ~。これぐらいが丁度良いかね。ゴブリンの間引きだ。一応新人だから本来はダメだが、シェイラの話しではゴブリン程度なら問題ないようだし、ただ、無理はするんじゃないよ。
依頼内容だが討伐数は何匹でも良いが、討伐した数で報酬が決まる依頼だ。1体のソウルと交換で銅貨1枚だよ。」
割りと良い報酬である。早速その依頼を受けて、村の外へと足を向けた。
森の目前までやって来た。
が、森に入る前にソウルを確認してみる。シェイラルカと一緒に行った依頼の時にゴブリン4体を討伐しているときにアナウンスが聞こえていたはずだ。
今さらながら思い出し、慌てて確認する。まだ、この能力がわかると言うのにどうにも慣れずにいたため忘れていたのだった。
見てみると、随分と変わっていた。
名前:蒼 年齢:18 性別:男
レベル:3 SP:20
称号:狭間を越えし者 職業:なし
腕力:B 脚力:B
俊敏:B 知能:S(C)
魔力:A 体力:S
精神:S(D)
習得技能
料理:4 格闘術:1 異界刀術:2
剣術:1<new> 異界の体術:1
鑑定:5
習得性質
技能獲得システム 性質獲得システム
SP還元 SP獲得値上昇
戦技
格闘術:砕脚
魔術
なし
となっていた。
(SPが20。確かあったポイントは全部使っちゃったから、新たに20手に入れてると言うこと。ってことは、レベルが1上がる事で10手に入るのかな?)
レベルが上がる事で獲得できるSPを計算する。そして、これから森に入るのだからと、新たに技能を獲得することにした。
森の浅い部分はそうでもないのだが、奥にいけば行くほど危険になる。何故か強力な魔物は森の奥に棲息しているそうだ。
かなり、ゲーム風である。もっとも、ゲームみたいにゲームオーバーしても、村に戻ったりはしない。ゲームオーバーは本当のゲームオーバー。死を意味する。
なので、今さらだが、森に入る前に出来ることはやろうと思う。
前に見た『戦技創造』と『魔術創造』があれば色々と活用できそうだが、まだポイントが足りない。
だからと言って、ここでポイントを貯める事にしてそれが原因で死ぬかもしれない。ここは、本当に余裕が出来るまで我慢するのが良いのではないだろうか?と考えた。
技能や性質を獲得する前にもう2つ確認する。
称号と職業だ。ここに来てシェイラルカに説明された事を思い出したのだった。
称号には効果があり、職業は可能な職業があればソウルから操作することで職業になれるのだ。職業には、称号と同じように効果があるので、もし可能ならば何かの職業になっておくべきなのだ。それから、職業は何時でも自由に変えることが出来る。
称号と職業を確認したところ。
称号:狭間を越えし者
世界と世界の境を越えた者。
特殊技能『言語自動翻訳』
話す言葉、文字が自動で翻訳される。所有者が話した言葉や、書いた文字も相手が理解できるように翻訳される。
特殊性質『超化』
能力値が強化される。
****『****』
使用すると**が**に**。****すると***に******が、*****を*****。
転職可能職
剣士
剣の道を行く者。
剣術に補正が付く。
料理人
料理の道を行く者。
作った料理に補正が付く。
拳闘士
体術の道を行く者。
体を武器とする技能全てに補正が付く。
サムライ
異界の剣術使い。
刀術と、体を武器とする技能全てに補正が付く。
**
**の****を*****者。
********。
**
**の****を*******者。
********。
***
**の**に****。
*****や*を*****が*********。
となっていた。
言葉が日本語だと思っていたのは、勘違いだったらしい。それに、やはり、能力はチートが付いていた。何となく予想は出来てたのでそれほどの驚きはなかったが、他の部分で?マークが頭を埋め尽くす。
(なにこの訳わからんマークの大群は・・・。何が起こるか怖くてどれも選べないっての・・・。)
ここは無難に中々ハイスペックそうな『サムライ』だろう。
称号を確認して、職業はサムライに決めた。
次に、技能と性質の獲得だ。
なんだか、不安になるような物を目にしたが、ここからはワクワクの時間だ。
今から森に入る事を考えると、索敵出来るようなのが欲しいところである。あとは、ちゃんと帰れるかが心配なのでその辺も何か無いか探してみる。
今の場所が場所なので、手短に思案してポイントを残すように必要だろうと思う技能を1つと性質を2つ獲得した。
技能は『気配察知』、SPを5消費して習得した。効果は文字どおり周りの気配を探ることが出来る。
欲しかった物だが、問題がある。
常に発動しているわけではないようなのだ。感覚的なものなので、確信はないが、自分で使うと意識したときと、しないときでは何か違う気がしたのだ。
次に性質。これは、『マッピング』と『危機察知』を習得した。
マッピングは習得に5Pで、効果は脳内に地図がある感じなのだが、自分自身で確認できた範囲しか反映されない。まあ、遭難することはないだろうが。
これは常時発動していて、地図を見ていると言うよりも、今どこに居て、確認できた物だけだが周りに何があるかを知っている。という感じにしてくれる。
さらにマッピングの上位技能だろう。『マップ』と言うのがあったのだが、習得するのに20Pも必要だった。
危機察知は習得に10P消費した。、これも文字通りで危険を察知することが出来る。用は勘が鋭くなった感じだと思う。まだ、危険を察知していないので、なんとも言えない。
因みに、危機察知は気配察知と違って意識しなくても常時発動している。恐らく、技能は意識して使うもので、性質は意識しなくても使えるものだと思われる。
これで、Pはまた0になった。
こうしてから、森へと突入した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今回、森に来た目的は大きく分けて2つ。
1つは野草だ。食べれるし、美味しいらしいのだが、生えているのは主に森の奥。恐らく、山菜的なものだと思う。
大きな町などではハンターたちが小遣い稼ぎでそれなりに取ってきていて、それなりに流れているらしいのだが、田舎のここでは珍しい物になるらしい。
そして、もう1つが、なんと!米である。多分・・・米である。名前はカトロと言うらしいが、恐らく米である。
話を聞く限りでは米なのだが、味を聞いたところ、「くそ不味い」である。
調理の仕方が違うのだろうと思うのだが、もしかしたら、米では無い可能性もあるので、あまり期待しないようにしていた。
もちろん、しないようにしているだけで心の中は小躍りしている。何せ、米だ。異世界で、米を食べるのは大変難しいのだ。小説の話では、と頭に付くが・・・。
これらが、今回の目的である。
後はついでに受けた依頼のゴブリンの間引きがあるが、これは遭遇したら討伐すれば良い。不思議と恐怖はない。初めて見たときはあんなにガクブルだったのにだ。多分戦闘に関することと認識されて精神Sが適用されているのだろう。
だが、恐怖は無くとも命の危険はある。何が起こるかわからない。それでも、生活を考えると遭遇したい・・・が、微妙な話しって事だ。
そんな事を考えながら、しっかりと周辺の草を鑑定しつつ2時間程(ここでは2鐘と言う)。目的の1つ、色んな種類の山菜の生えている場所にたどり着いた。適当に歩いていて、たまたま見付けた群生地だった。
そこで腰に下げた麻袋いっぱいに詰め込む。
米の分の袋は背中にもう1つあるので腰の袋に、詰めるだけ詰めて大丈夫だ。
山菜を袋に詰めてから再び森の奥に向かう。運良く?まだ、魔物には遭遇していない。
このままだと今日の宿がとれない。すでに頭のなかはお金がない状態で今日の夜をどうしようかと考えていたのだが・・・
再び歩き始めて30分程(半鐘)俺は足を止め、草むらでジッと様子を伺っている。
(これは・・・不味くない?)
気配察知で気配を感じて、草むらに身を隠しながら気配のした方へ進んだその先にはゴブリンの群れが居た。その数20体程。
下手に動けば、音で存在を知られてしまう。焦って体が動きそうになるのをなんとか堪えながら、ゆっくり離れていく。
「危なかった~。ゴブリン4体は倒せたけど、流石にあの数は・・・無理!」
気付かれずに群れから離れることが出来た安堵からつい独り言が出た。
それから、群れを気配で感じながら迂回するようにして森の中を進んでいく。気配察知様々であった。
群れから進むこと1時間(1鐘)。ようやく目的の場所周辺についた。
そこは、沼。
情報によると、森の奥に沼があり、その周辺に米があるそうだ。
そしてもう1つ。特筆することがある。この沼には特殊な魔物が棲息する。
その名も『リザード』。そう。竜種である。
竜種と言っても最底辺の個体だが。それでも竜だ。この辺りの最強の一角である。勿論そんなのに出会えば命は無いので、十分に注意しなければならない。
そんな目的の沼だが、地図等は無いので、兎に角森の奥としかわからなかった。仕方なく森の奥に適当に歩いた結果。今沼の目前に立つことが出来た。この沼が情報の沼なのかはわからないが・・・。
取りあえず探索。と米が見つかる嬉しさを押さえつつ、リザードから襲われないようにと、より一層気配に注意しながら足を進めた。
探索を始めて直ぐに目的の物は見つかった。
大体10m四方に黄金色の稲が頭を垂れていた。
喜び勇んで取りに行こうとする・・・が・・・
(なんでここに来て・・・リザードよ・・・。なにKYしてくれちゃってんかな~?)
余りの落胆に普段使わないような言葉を心に並べてしまう。
問題のリザードは、体長5m程もある。四足歩行で、ワニをデカくした形。ワニと違うのは肌だ。ワニは皮だが、リザードは竜種であるから当然鱗である。
そのリザードは只今絶賛警戒中である。
流石強力な魔物に分類されるだけはあって、俺が近くに居るのを察知したようだ。
どこに居るかハッキリとはわかっていないようで、前足で上体を起こして周りをキョロキョロ。と言うより、ギョロギョロと忙しげに見ている。
(さて、どうしようか。たまたま居るだけなのか・・・はたまた巣がこの直ぐ近くなのか・・・)
たまたまならば機会を変えれば良いだけだが、巣が近くならば遭遇確率が格段に上がるだろう。勿論、たまたまでも遭遇の可能性はあるが。
行動を決めきれず、仕方なく出来るだけ気配を消すように(と言っても呼吸を浅く静かにして、身動きをしないだけだが)して、しばらく様子を見る。
しばらくすると、リザードは時折警戒をやめて上体を戻して目を閉じたりしたのだが、少しするとまた上体を起こして警戒し始める。そんな行動を3回ほど見て採取は無理と判断。仕方なくゆっくりとその場を後にした。
30分程来た方向へと歩を進めてから、比較的太めの木を選んで登って枝の強度を確かめてから足で枝を挟むようにして腰を下ろした。
「さてと、『ソウル』。」
ソウルを出して内容を確認する。
すると、レベルが1上がっていて、SPが10増えていた。
(なぜ?・・・・あぁ。隠密行動かな?一応戦闘と言えば戦闘だろうし、相手は明らかな格上だし。経験はそれなりに出来たってことかな?)
予想をたてて取りあえず納得する。
(ふむ。だったら何か技能か性質を取ってどうにか米が採取出来ないか考えてみようかな?)
だが、どうしたものか。何をどうすれば上手く行くのかわからない。
わからないながらも技能を一つ一つ見ながらほうほうを考えていく。
(今回の場合は戦闘系は多分取るだけ無駄だろうし・・・多少可能性があるのは魔術だけど・・・使い方がわからない。もしかしたら取った時点でわかるようになるかもしれない。取ってみるか。ダメだったら還元すれば良いし。)
物は試しにポイントが一番低い『下級魔術』を取得する。一番低いと言っても10Pだ。レベル1分のSPを消費した。
因みに他の魔術は、『中級魔術』、『上級魔術』、『王級魔術』、『星級魔術』、『神級魔術』があった。消費SPはそれぞれ上に上がっていく毎に10Pずつ加算されていく。
今回習得した『下級魔術』はこうなっている。
下級魔術
下級の魔術、火、水、土、風を使うことが出来るようになる。
さらに、魔術の欄に、『火球』、『水球』、『土球』、『風球』が追加されていた。
使い方も自然とわかるようになった。
使い方は魔術名を唱えるだけで取りあえず使えるが、威力に関しては誰が使っても変わらないようだ。
だが、勿論威力を変えることも出来る。その方法は2つ。
まず1つ目はイメージ。イメージと言っても完全に威力だけをイメージで変えることが出来るだけで、他はなにも変えられない。
例えば火球。これは、イメージで温度を上げたり、飛んでいく速度を変えることは出来る。イメージの鮮度で、影響力が変わってくる。しかし、威力を上げれば当然消費する魔力も上がる。
そして、形は絶対に変えれないし、追尾効果なんてつけられない。火球は文字通りの火の球で、真っ直ぐ飛んでいくだけだ。
2つ目は詠唱。
詠唱は決まった形がないようで自分で決める。これを唱えることで消費魔力をそれほど上げずに威力をあげることが出来る。
そして、イメージと違うのが形を変えたり、追加効果を付けれる事だ。なかなか魅力的だが、詠唱するのは少しばかり恥ずかしさを覚える。
結論として、イメージを言葉にして詠唱、尚且つイメージもしっかりしながら詠唱をすると消費魔力を押さえつつイメージした威力を使うことが出来ると言う事だ。
(結構テンプレだな。・・・問題はこれがあのリザードに通じるかどうかと言う事だけど・・・まぁ、無理だろう。)
と言うことで一旦初級魔術を還元する。
そして、再び技能選びを始めた。
悩むことしばらく、太陽は見えないのでハッキリとはわからないが恐らく昼を少し過ぎた辺りだろう。そろそろ採取を開始しないと暗くなる前に帰れなくなる。
それでもまだ、解決策が出ずに「うーん。うーん。」と唸っていたが、今更ながら気づいた。
(あ~。ってか今必要じゃない技能を還元すれば良いんじゃね?んで、今必要な技能や性質を獲得して、目的達成したらまた還元してもとに戻せば良いんだし・・・。俺って馬鹿?)
自分自身を貶してから早速とばかりにソウルへと集中する。