異界を知る・裏(2)
剣を渡されたソウは、剣を抜き、眺めた。
正直あまり気分が良くない。明らかに剣の品質に落胆している。
(それは私の思い出の剣なんだがな・・・)
ソウからすればそんなことは当然知らない。
もし、今日会ったばかりの私の事を知っていたらそれは異常だろう。
一通り眺めると、少し振ってみたいとのことだった。もちろん、何も問題もないので了承する。
そして、ソウが剣を上から振り下ろす。その振りは素人のそれではなかった。構え、剣速、体捌きどれもが明らかに剣を知っている。それでも、まだまだ甘い剣だが。
それから体を色々と動かしながら剣を振っていた。その動きは拙いながら理解できた。どうやれば正しいのかまでは、わからなかったが朧気に異図が読み取れた。
実に合理的だと思う。今動いてる通りには敵は動いてはくれないだろう。だが実に合理的で美しかった。
(出来れば完成度の高いものが見たいと思ったのは私の我が儘だな。)
暫く素振りを続けた後に、ゴブリンが目撃された付近目指して歩き出した。
それにしても、少し素振りしただけで技能を獲得出来るのだろうか?他に記憶のない者を知らないので何とも言えないが、さっき考えた技能を思い出したと言うことが、やはり一番しっくりくる。
だけど、あの素振は異常だ。記憶がないのにあのような事が出来るのか?もしかしたら、体が覚えていたのか?にしては技術が荒い気がする。
ソウに関して色々と整理したり予測したりを繰り返していると、あっという間に目的地にたどり着いた。
ただ、黙々と歩いた事になってしまいソウに対して悪かったと思い、謝ろうとソウを見ると、ソウもまた考え事をしているようだった。多少罪悪感が薄れたのは内緒だ。
それから、ソウに声をかけて辺りを探索する。ゴブリンたちは直ぐに見つかった。ソウに確認の目線を送りながら、静かに剣を抜き、構える。
そんな私を見たソウは、頷き同じように音を出さないよう剣を抜いた。多少音が出ていたが、許容範囲だ。
そこからのソウは、予想よりも素晴らしい動きだった。
素振を見る限り苦労はしないだろうと思っていたが、まさか、初の任務で単独行動を冷静に判断し、4体のゴブリンを討伐。
その戦闘の仕方も初めてにしては上々の出来だった。
勿論、私もゴブリン6体程度に遅れはとらない。当然のごとく討伐して、素材の回収方法、ハントをソウに教えて帰路についた。
ギルドに報告を済ませて報酬を受け取る。
真偽の石板を不思議に思っていたなと、思う。そう言えば、魔導具を説明していなかった。また、明日にでも説明しようと考えながら、宿に向かった。
宿では報酬を分けたのだが、半分と思っていたのに、受け取らなかった。仕方なく、討伐数に見合うぐらいを渡したらこれは、素直に受け取った。
ハンターになるには少し純粋過ぎるかもしれない。ここのギルドなら問題ないが、他の、少しでも大きいギルドに行ってしまうと、コロッと騙されそうである。
さて、報酬の分配が終わると昨日約束していた料理を作って貰う事にする。
買い物をしている時のソウは生き生きとしていて、本当に楽しそうにしていた。何か料理は特別な記憶があるのかも知れない。何かを思い出してくれると良いのだが・・・。
買い物が済んだところで、ソウを空き家の近くに待たせて、一人で屋敷に戻る。
空き家の使用許可を貰うためと、肉を取りに行くためだ。
先ずは父の元へと行く。
「コンコン。」
「父上。シェイラルカです。
今、よろしいですか。」
「入りなさい。」
父の入室の許可を貰い、部屋へと入り、貴婦人の礼をする。
「父上。空き家を一軒お借りしたいのですが。
よろしいですか?」
突然の私の申し出に、一瞬だけ固まる父。
なぜ必要なのかを聞いてきたので、正直に話す。
「なんだ。そんなことか・・・。私はテッキリ・・・そう言う事かと・・・。」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。
「テッキリ・・・何ですか?」と聞いてみるが、
「イヤイヤ。何でもない。
空き家については、別に使ってくれて構わん。
それだけか?」
「後は肉を持っていきたいと思っています。」
元々私が森で狩ってきた『ワルフ』と言う魔物の肉の事を聞いてみるが、当然私が狩って来たものなのだから、好きにすると良い。だった。
ソウをあまり待たせるのは悪いと思い、少し急ぎめで空き家へ向かう。
料理場を案内して、後は任せる事にして奥の部屋へと向かう。
多少ホコリがあったので、ポーチから布を取り出して敷く。私のポーチからは出てくるはずのない大きさの布だが、それは当然だ。なにしろこのポーチは『マジックポーチ』と言う、魔導具だ。このポーチは見掛け以上の容量がある。大体平均的な大人が入るくらいの大きさがある。
なので、大きい布など楽々入る。私の自慢の装備品である。
布を敷いて、横になっているとついウトウトとしてしまい、いつの間にか寝てしまった。
ソウのご飯をご馳走になり、私は今宿の部屋でベッドに横になっている。・・・が、まったく寝られない。
今、私の頭を支配しているのは、ソウの作った料理たちだ。
材料類と味付けはハッキリ言って質素である。たがしかし、そんな状態であの圧倒的な味を出した。
材料はあれだが、味事態は王都の貴族が開いた食事会に出てきた物と差がなかった。
それに、あれでまだ完璧ではないらしい。
上手く出来なかったと言っていた。
故に、私の頭は先程の料理と完全なソウの料理を『食べてみたい』だった。
眠れず、悶々としている時間がどのくらい過ぎたか?未だに眠れずにいたら。
「コンコン」と空気窓の木を叩く音がした。
少し不審に思いつつ警戒しながら窓を開くと、
「お嬢様。お休みのところを申し訳有りません。
ヴィンス様がお呼びしていますので、出来ましたらご一緒にいらしてもらえませんか?」
「父上が?何用か聞いているか?」
「いえ。存じません。私はお嬢様にヴィンス様がお呼びしているのを伝えるようにと伺っただけですので。」
「そうか、・・・わかった。少し待ってもらえるか?
荷物を纏める。」
そう言って窓に背を向けて準備を始めた。
「コンコン」
「父上。シェイラルカです。
お呼びと伺ったのですが、よろしいですか?」
「あぁ。待っていた。入りなさい。」
貴婦人の礼をして顔をあげると、父は嬉しそうな顔をしていた。
「ど、どうしたのですか?そのように嬉しそうに・・・」
「いやな、シェイラが夢中になる食べ物をあの青年が作ったと聞いてな、私も食べたいと思ってな!」
「そ、そのような事ですか・・・?」
私は唖然とした顔をしたが、反対に父はキラキラとした顔をしていた。
(はぁ~~~~。なんだか久しぶりの発作だな~。)
父は旨いものに目がない。特に私が旨いと思ったものには更に目がない。母と二人で発作と命名したこの行動は、周りの都合などお構い無しになり、まるで子供みたいなるのだ。
では、なぜ特に私が旨いと思ったものなのかと言うのは、何故か私は余り旨いと思えるものがない。だが、たまにある旨いと思えるものは父にとっては極上品らしい。
「父上。食べたいのならば、彼をここにつれてくる必要がありますが・・・。それはギルドに対して不味いかと・・・。」
と伝えると流石の少年領主も動きを止める。
「そ、それは流石に不味いな。だが~、だがな~。」
それからも父は「ん~。ん~。」と唸り何か手がないかと考える。そして・・・
ソウが寝てる間に屋敷へと運び込んだ。
父が唸り倒して出した作戦の結果だった・・・。
その作戦とは・・・
シェイラルカ視点終了です。
ストーリーの続きを頑張って書いてますので、また読んでもらえたら嬉しいです!
続けて読んでもらえるよう頑張りま~す!