異界を知る・裏(1)
シェイラルカ視点の話です。
『異界を知る』をシェイラルカの視点から書いただけなので、ストーリーは進みません。
全2話構成です。
私の名はシェイラルカ=T=フール。
『ロラース王国』の辺境、王都『ギーヌ』から遥か東にある『マラウ』地方を領地とする貴族。中級階級を意味する『T』の文字を与えられている、父、ヴィンス=T=フールとシオン=T=フールの間に生まれた一人娘だ。
ある日の朝。何時もと変わらず侍女に起こされた。
屋敷の食堂で父と母に朝の挨拶をするのも何時もの事で、席にすわり朝食を食べるのもいつも通りの日常。
そして、これまた何時ものように自室でハンターの装備を着込み、ギルドに赴いた。
領主の娘としてはハンターをやっていくのは正直面倒くさい。何しろ、中立を守らなくてはならないが、立場的になかなか難しい。
お陰で父と母とはハンターになって5年経つが、最近ではまともに喋っていない。父たちと話すと肩入れをしているのでは?と、これは違うのか?と、ついつい考えてしまって会話自体がままならない感じになってしまう。
最初こそそう思いつつも世間話をしていたが、次第に数が減っていった。
父や母もそう言ったしがらみをわかっているからこそ、私に合わせて会話を減らしたのだろう。私としては複雑な思いのなかでの出来事なのだが・・・。
森に入った。
今日の依頼は、森の調査だ。
最近森の中からゴブリンがちょくちょく出てくることが増えているから、父(領主)から調査の依頼を受けたらしい。
調査目標はゴブリンの上位種、『ハイゴブリン』の発見。もしくは、大きな群れの有無。そして、ついでにゴブリンの間引きも含まれている。
ゴブリンに関わらず魔物は自然発生する。原因は未だにわかっていない。推測では魔素が空気中にあるのでは?と、言われているが、もしそうだとするならば私たち人や動物は常に毒を吸い込んでいることになる。
それは、いくらなんでも無いだろうと言うのが一般論である。私もそう思う。
森を歩きながらゴブリンの足跡が無いかとたまに立ち止まって確認してを繰り返しながら暫く、片腕から血を流した男?が木に寄りかかって目を閉じていた。
私は素早く周りを確認して、驚異が居ないか警戒しながら男の元に近づいた。
生きているかは直ぐにわかった。呼吸がかなり荒かったからだ。おそらく腕の傷のせいだろうと判断して、回復薬を腕に半分くらいかける。もう半分はゆっくりと飲ませた。
特に抵抗もなく飲んでくれてホッとし、彼の呼吸が落ち着くのを待った。
それにしても、
(恐らく男なんだろうが・・・なんて綺麗な・・・。服は王都の貴族ですら手に入らないだろう品質。そして今では数少ない黒の髪。
なにより・・・顔付きだ。)
男だとしたら、男にしておくのは勿体無いと思うほど綺麗な顔だった。
暫く経って、彼の呼吸も落ち着いてきた。起こしてみようと試みるが、なかなか起きてくれない。
仕方なく、彼を肩に担いで村に戻ることにした。
体重も軽い。今更ながら男かどうか疑問に思う私だった。
結果。
男だとわかった。それはもうハッキリと。
何しろ上半身が私の背中。下半身が胸に来るように担いでいたのだが、途中休憩しようと彼を下ろすときに思わず触れてしまったのだ。大事な部分に・・・。
(こんな綺麗な顔してるのに・・・あっ、あ、あんなに・・・かた「うぅ。」)
「ビクッ」
何かにうなされた彼の声で我に帰る。
バクバクと激しく音のなる胸をなんとか落ち着かせて彼の様子を見る。
どうやらまだ起きないようだ。
何故かホッとした私は、少し休憩してから、村へと帰り着いたのだった。
村に着いて半鐘(30分)ほど起きるのを待ったが、なかなか起きないので頭に井戸水をかけて、叩き起こした。
彼が起きてわかったのは記憶がないと言うことだった。とてもじゃないが私には荷が重いと判断して、彼には私が借りた部屋だと言って宿で待ってもらうことにした。
(その隙に父に報告しよう。)
彼を宿に案内したあと先ずはギルドに顔を出す。
「ジーナ!」
「なんだい?騒々しい。」
恨めしそうな目で私を見てくるジーナ。彼女に説明し、父に、領主に関与させることが出来るかどうかを聞く。
もちろん、この場合は領地で起きている問題なのでなんの問題もないのだが、一応依頼中の出来事なのでギルドにも話を通しておく必要があったのだ。で、なければ後で要らん争いのもとになる事だってある。ギルドには肩入れの疑いすらかけられてはならない。これが、ハンターの中での暗黙のルールになっている。
当然ギルドからは許可が出た。ただし、当たり前だがギルドは何も協力しない。
屋敷に戻った私は足早に父の執務室に向かう。
「コンコン。」
「父上。シェイラルカです。少しよろしいですか?」
「ああ。入りなさい。」
声が反ってくるのを待ってドアを開ける。
部屋に入り、なるべく力は入れないように両脇を閉めて左手は遊ばないように真っ直ぐ伸ばした状態で掌を体に軽く当てる。右手は胸の中央を掌で
軽く押さえて、ゆっくり腰を折る。全体的に力を入れないように注意しなければならない。貴婦人の例の仕方だ。
「どうした。珍しいな。」
執務室は入ると同時にテーブルとそれを挟むように二人ほど座れるソファーが2つある。
それを越えて真っ直ぐに視線を向けると父の机がある。
目を通していた書類から目線を私に向けてくる父。それを真っ直ぐに受けて私は話し出す。
「少し相談したいことがあります。
今日、父上が出していた依頼を受けて森に行ったのですが・・・。」
「まさか、上位種か!?!?」
私が歯切れ悪く話してしまうと、早とちりした父が机に両手を着いて勢い良く立ち上がる。慌てて否定して続きを話す。
「ち、違います。ゴブリンの方は今日のところ問題は見つかりませんでした。
ただ、森の中で男を保護したのです。その者についてどうしたものかと・・・。」
そこから発見したときの状況や、記憶がない可能性があるということを話した。可能性があると言う風にしたのは、訳有りの人物を考えてのことだった。他国の密偵と言う可能性もあるからだ。
上位種ではないとわかると、イスに再び座った父は、私の話を聞いて少し考えるそぶりを見せた。
「フム。ではこうしよう。
恐らく密偵の可能性は低いだろう。だとすると他国からの逃亡者か、盗賊の可能性がある。どちらにしても今のところは様子を見るしかない。だから、あえて今はその男の意思を聞いてそれを助けてやりなさい。
企みがあるならば何か動きがあるだろうから、私の方から監視をつけておく。表に立つのはシェイラに任せる。」
了承の意を示すように頷き、時間を取らせた事への謝罪と感謝を言葉にして、また貴婦人の礼をしてその場をあとにした。
再びギルドへと赴き、ジーナに父の考えやこれからの行動を伝える。
特に、監視が付くところはキッチリ伝えた。でなければ、もし彼がハンターになると言った場合、監視が勧誘のための動きと取られないことはないからだ。
一通り説明を終えてギルドを後にした。
そこまでで私は気疲れした。普段ハンターと言う礼節など無いような事をしている私は、その礼節と言うものが大の苦手だった。ハッキリ言って肩がこる。
なので、先程の父との会話も疲れるのだ。何より久しぶりの父との会話と言うのもあって余計に疲れた。
私は疲れていることを全く隠しもせずに、ソウが待つ宿へと足を向けたのだった。
宿に着き、ソウに色々と説明と今後の話しをしたところ、彼もハンターになることになった。
彼の力量を確認したかった私は、登録を今日済ませておくことにした。
一応、明日の朝に手頃な依頼がないか確認はするが、もしなかった場合は今日私が受けた依頼をやろうと思っている。となると早朝から森に入りたい。
森に入った場合は、初心者のソウにもしものことがあるかもしれない。その場合帰路に着くのを早めるため、早朝にしたかったのだ。
などと考えていたが、翌朝ギルドに確認に行くと見事に手頃な依頼があった。多少危険の伴う森に入るよりは安全だと思い、ホッと胸を撫で下ろした。
ソウに武器の要望を聞き、屋敷に取りに戻る。
剣を望んできたので丁度私が少し前まで使っていた物があった。それなりに使ってきた剣だったが、使っていた間も小まめに手入れをしていたし、今の剣と交換したときに、感謝を込めて念入りに手入れをしたので直ぐにでも使える状態だった。
剣を持ち、ソウの待つ村の門に付くと、なにやら顔を赤くして呆けていた。更に、物憂げに溜め息を吐いていた。
首をかしげて、正直な気持ちを言うために声をかけた。