第九話「検証」
検証は上手くいかなかった。
いや、検証とは事実を確かめることだから上手くいったのか? 二つ目の理由が違うってことが証明されたんだから。
まあ、それはどうでもいい。とにかく原因を考えねば。
検証に使った石は全部で十個。その全てが痛みを俺に与えただけで終わった。…………石のくせに……
なんだか無性にイライラしてきた俺はこの検証を後回しにすることにした。大丈夫あとでちゃんと検証はする。でも今は後回しだ。
ということで、イライラ解消のため兄の方を殴って…………いや、止めとこう。大事なときに使えなかったら困る。
じゃあ、あとは…………爆発させるか。
どうやって爆弾を増やすか分からない現状でそれは危険だと思うが、どうしても確認したいことが一つだけある。
それは、複数の爆弾を持っているときに爆発させると全部爆発してしまうのか、ということだ。
俺は石ころを投げて爆発させることが出来る。しかし、手元に何個もあって、一つを起爆したら全部爆発するとかシャレにならん。
もしそうだとしたらいちいち作らないといけなくなる。一つ作るのに五秒だ。その五秒は戦闘中にとってとても長い時間だ。
ということでやってみようと思います!
「……しかし、どうやって爆発させようか」
俺はいきなり躓いた。
前爆発させたときは結構な音が出た。またそれをやったら動物とかに気付かれちゃうだろ。
う~ん、どうしようか…………あ!
少し考えて俺は名案を思いついた。都合のいいこった。
その案とは…………
「土の中に埋めて爆破させればよくね?」
というものである。それに至るまでの思考回路はこうである。
なんかね、声出すときに枕とか当てれば声って殺されるじゃん? だから爆弾にもなにか被せれば音を殺せるんじゃね? ってね。でも体だと危ない。あ! そうだ! 大地という素晴らしいものがあるじゃないか!
みたいな。
とりあえずそうと決まったら即実行。
俺は土を掘ろうとして…………仲間がいることを思い出した。
「おーい、兄の方ー」
俺は聞こえるくらいの声で兄の方を呼んだ。
兄は訝しげな目をしながら俺のところまで来た。一応逆らう気はないらしい。こんなクソやろうの言う事なのにな。
ま、いいことはいいとして、俺は早速主人の権限を使う。
「ここに穴を掘れ。この石ころが入る程度の大きさである程度深くな」
「なんで……」
「いいから掘れ。命令だ」
訝しげな顔をしたまま頭に疑問符を浮かべる兄の方に俺は有無を言わさず命令する。
「あ、周りの警戒も怠るなよ」
「んな無茶を…………」
「やれるかじゃない。やるんだ」
思わず忘れそうになった警戒のことも言う。
兄の方は言葉通りの苦い表情を浮かべ、俺を見る。が、俺はなんかいい言葉っぽいのを口にして誤魔化す。
兄は嫌悪感剥き出しで俺の命令に従う。やはり仲間っていう立場が分かってるからちゃんということ聞くんだろうな。ということはあの契約は本当なのか? ま、それは次の町で明確にすればいいか。
手持ち無沙汰になった俺は警戒がゆるくなることを危惧して周りの警戒を行う。一応この森は木の生えている感覚が広い方なので広く視界が確保できる。逆に言えば見つかりやすいってことだが。
そんな感じでしばらく待つと兄が完成の一言を呟いた。
「出来たぞ」
「おう、ご苦労だったな」
俺はそう言って兄の頭を撫でる。
飴と鞭っていうだろ? 今まで散々なことやってきたからこれで大分印象はよくなるだろう。
ちなみにただ狐耳を触りたかっただけというのは秘密だ。
兄は怪訝な顔、しかし目だけは戸惑いを浮かべるという不思議な表情で俺を見る。狐耳ふさふさ気持ちええ~。
「…………おま、主人の人格変わってないか?」
「あ~、主人じゃなくて兄貴って呼べ。主人は嫌だしお前は絶対嫌だ。言ったら妹を犯す」
最後の一言で兄は殺気のこもった目で俺を睨んできた。過剰反応しすぎじゃね? 冗談だって。
まあ、とりあえず質問には答えてやろう。素直に命令に従った褒美だ。俺器大きいな~。
「俺の人格がかわってる? 当たり前だろ。俺は普通の人と違ってイカれてるからな」
「いや、そのかわるじゃなくて変化するってほうだよ」
こいつ十歳にしては頭いいな。この変わるの違いをすぐに分かるとは。地球では普通だけど大抵魔法がある異世界って学力水準低いじゃん?
で、質問の答えが違うってか。しょうがない。
「それは、まあ、あれだ。大人の事情だ」
「なんだよそれ…………」
困ったときの大人の事情! これを言えば大抵の子どもは説き伏せられる。その場合子供に首をかしげてしばらく見つめられるが。
案の定兄の方もそうしてきた。こいつの場合見つめるじゃなくて睨むだけどな。
それをさらっと無視して俺は穴を見る。
おお、ちょうどいい感じだな。
穴は少し広めで石が入るのに余裕がある。
俺は早速そこに爆弾にした石を入れて上から土を被せる。ちなみに深さは三十cmくらいだった。
土を被せて足で踏み固めたら準備は万端だ。俺はそこから離れてまず残りの二つの石を置く。そしてその置いた石と埋めた石の両方から離れる。
よし、これで俺に被害はないな。てかもう一つ穴掘ってあの二つも入れた方がよかったかな?
…………うん、そのほうがいいな。万が一両方爆発したら音で寄ってきちゃう。しかもそのときは武器がない。ジ・エンドってなるわけだ。
「ということで、もう一つ穴掘って」
「どういうことかしらねぇけど、分かった」
あれ? 本当に素直だな。どういうこっちゃ。
あまり素直さにあっけなく感じた俺は、穴を掘り始めた兄の方に聞いてみる。
「どうしてそんなに素直なんだ? 俺はてっきりもっと子供らしく反抗するかと思ったぞ」
「そんなんしねぇよ。おま、兄貴に逆らったら契約で俺が苦しむし、妹が危ない。だから俺はお前の言うことはちゃんと聞く」
兄は穴を掘りながら喋る。
へ~、意外に理知的なんだな。てか本当にこいつ十歳か? 成長が止まっちゃった二十歳とかじゃない?
ま、それはどうでもいいや。それにしてもまた手持ち無沙汰になったな。
暇になった俺は周りを見渡し、警戒しながら話しかける。
「そういえば兄の方はなんで……」
「イルージア」
「そういえばイルはなんで……」
「え? そんなにあっさり……しかもなんか違う……」
俺の言葉を遮って兄は自分の名前を言った。
自分の名前を言ったってことはそう呼んで欲しいってことだな、と思った俺は早速名前で呼んだ。
しかし、兄、もといイルは驚いた顔をしてこちらを見た。おい、手を休めるな。
俺が掘りかけの穴を見て目を細めると慌てて穴掘りを再開した。
「…………その呼び方は父さんと母さんの呼び方だ」
「しらねぇな。俺はそう呼ぶ」
「てめぇ……いや、自分の名前を言った俺が悪いのか」
よく分からんが納得したらしい。黙々と作業を再開した。
イルージア、か。やっぱり異世界ってカタカナっぽい名前なんだな。
そんなことを思いながらしばらく待つと穴が完成した旨を伝えられる。
「よし、ご苦労」
と言って今度は尻尾を撫でる。
このときはちょうど、立ったままで待つのもなんだから、と座ってたのでちょうどよかった。イルが立つとちょうど目の前に尻尾が来るからな。
「ひゃあ!」
「え……?」
俺が尻尾を撫でたとき、女の子の驚いたような声が聞こえてきた。
俺は自分の耳を疑った。いや、嘘だろ? え? これって、あれ? 男、あれ?
俺は恐る恐る視線をあげた。その先には相変わらず俺を睨むイルの姿が。若干その睨みが強くなってる気がするが気のせいだろう。
にしても、あの声はイルのものかぁ。そういやこいつって意外に美男子だからな。中性的と言うか、女装をしたら絶対似合う。うん、またどうでもいいこと考え出したな。
「よ、よいしょっと」
俺は睨むイルを無視して立ち上がる。声がドモったのは、あれだ、立ち上がるときにふんってなったからだ。
立ち上がると傍においてあった爆弾にした石二つをその穴に入れて上から土を被せる。
被せたら踏み固めてようやく本当に準備が完了した。
俺は先に埋めた場所と今埋めた場所、両方を見れて尚且つ離れている場所に陣取る。ちなみにイルは妹の方へと戻った。そこから俺の場所は見えない。木が邪魔だからな。
とりあえず準備は完了だ。早速検証を開始するか。
俺は息を吸い込み、声を出――
「あ、もう一つの方もやるか」
――そうとして止めた。言ったとおり並行して行えそうな検証があったからだ。
それは、小さな声でも反応するかというものだ。いや、もう声に出さずに心の中で言ったらどうだろうか? うん、そうだそうしよう。出来なかったら声に出せばいいだけだし。
と相変わらずの即決でやることを決めると意識を切り替える。検証のときはさすがの俺でも真面目になる。
そして、
(爆破!)
先に埋めた方の石へ意識を向けて心の中で叫ぶ。
その瞬間、昔映像で見たことがある地雷のように地面から土が舞い上がった。さながらそれは土の噴水のようだ。いや、そこまでたいそうなもんじゃねぇな。言うならもっとしょぼく、土の水鉄砲……土鉄砲!
心の中でいろいろ馬鹿なことも考えているが、とりあえずいい方向に検証は成功したな。音もあまりしなかったし。振動がすごかったが。
心の中で言えるのはいい利点だな。口で言うより早い。そういえば死ねとかじゃなくてもいいんだな。とにかく爆発させようと思えばいい、みたいなのかな?
あと、他の二つは爆発しなかった。これは自分で爆発させる物体を選べるってことでいいのか? また爆弾が作れたら二つ同時とか全部爆破みたいなことが出来ないかやってみるか。
と、気付けば自分が頬を吊り上げて笑っていた。
自分の力が明らかになっていくこの感じがたまらないのだろう。って自分のことなのに、だろう、ってなんだよ。
俺は一人で問答しながら近くにあった爆弾に出来なかった石を手に取る。
なんか今なら出来る気がする。
直感というか、感覚論なのだが、俺はそう思った。こういうときの俺の勘ってよく当たるんだよな。
自画自賛しながら石をギュッと握る。
「………………」
一秒一秒が長く感じる。爆発させて検証もいい方向に成功して結構イライラも解消されたはずだが、この時間でだんだんとイライラが募っていく。
そして五秒が経つ。
「ぅお!」
痛みがくるのを予想して体を強張らせていたが、突然体から何かが抜き出されるような感覚を味わった。
これは…………爆弾を作ったときと同じ感覚だ。
「成功……か?」
なんとなく思ったからやったら成功した。
なんか腑に落ちないものがあるが、とりあえず俺は、よしっ、とガッツポーズをした。
よし、これはこのまま次のやつもやってみるか。
そう思って俺は次の石も手に取り、力を込める。
一秒……二秒、と時間が過ぎていき、五秒後。
「っ!?」
掌に痛みが走り、思わず石を手放した。成功したからと油断していた。
俺はその場に座り込み、考えた。もちろんポーズは考える親父だ。胡坐をかき、片手は膝に、もう片方の手は顎に添えて、顎に添えてる腕の肘は膝に。
さっきのやつが出来て次のやつができなかった理由……あ。
すぐに俺は閃いた。俺はよくFPSゲームとかをやっていた。爆弾関連でそれを思い出したのだ。
そして爆弾が作れたり作れなかったりするのはそれが関係していると考えた。
FPSは大体持てる武器とか決まっている。当たり前だ、そんなガンガン持てるだけ武器を持っていっていいなんて馬鹿すぎる。課金ゲー、とはならないが、操作とかすごいことになるだろう。
つまり俺が言いたいのは、爆弾が作れたり作れなかったりするのは、『数に制約があるから』じゃないのか? ということだ。
今俺は爆弾にした石を三つ持っている。そして四つ目を作ろうとしたら弾かれた。
これは爆破の検証の前のときにも当てはまる。
爆破前は爆弾にした石を三つ持っていた。そのときは四つ目を作ろうとして弾かれてしまった。
しかし、一つ爆破で失ってからもう一度作ってみると成功した。
つまるところ、俺が持てる爆弾は『最高で三つ』ということではなかろうか?
そういう考えに至った俺はめっちゃ上機嫌になっていた。
いやぁ、こうね、検証してどうしてか考えて、それが解けたっていう瞬間の快感といったらもう……!
よし! 少し俺の能力についておさらいしよう!
一つ、俺は物体を爆弾に変えることができる。前に木の枝でも出来たから他のでも出来る筈。あ、生物でもできるかまた検証しないとな。ちなみに爆弾に変えるには五秒はかかる。
二つ、爆弾にした物は、俺がそれを、爆発させる! と強く考えると起爆する。つまり任意のタイミングで爆破出来る。ついでにどれを爆破するのかも選べる。
三つ、爆弾を作るときに魔力(仮)が抜き取られる。魔力がなくなると気絶する。作り方は爆弾にする物体に力を込めるイメージを持てばいい。
四つ、威力はそこそこ。多分人が口に含んでいる状態で爆破すれば頭が吹き飛ぶことはないが、口周りは吹き飛びそうだ。威力云々に関しても要検証だな。
五つ、一度に持てる爆弾の数は三つまで。それ以上作ろうとすると弾かれる。
大体この五つかな。
うんうん、だんだん俺の能力が解剖されてくなぁ。大抵の異世界ものって最初に神様がどんな能力かを教えてくれたり、その世界にはスキルがあったり、であんまこういうのなかったからなぁ。
俺は自分の今の状況に満足し、これからを楽しみに思いながらイルたちのもとへと向かった。




