第五話「冒険者」
ワルンを待つこと一時間ほど。
ワルンは忘れてたのを思い出したかのようなタイミングで俺の飯を持ってきた。正直ワルンの飯なんぞ食いたくない。あんな話を聞いた後だし、本音をぶっちゃければジジイの作った飯なんぞ食いたかねぇ。
ま、今この状況だとそんな贅沢言ってられねぇしな。普通に食うか。
俺は目の前に出された食料を前に手を合わせる。
「いただきます」
静かに目を閉じ、それを言うと俺は飯を食べ始める。
飯の種類は至って簡素だ。何かの肉を焼いたものにパンっぽいもの。しかし、パンはやけに固くて食いづらかった。俺の世界のパンはすっごかったんだな。そんな好きじゃなかったけど。
ちなみに肉は何の肉なのか聞いたところ、テグレスの肉、と答えられた。そんくらいはちゃんと齟齬がないようにしてるんだな。逆にそれすらしなかったらどうやって気付かないフリしようか困ってたな。
「ふぅ…………」
「それで、お話とはなんでしょうか?」
俺が飯を食い終わり、ほんの少しの脱力感を味わいながら一息ついた頃にワルンは問いかけてきた。
ワルンが飯を運んできたときに俺が、飯が終わったら話すことがある、と言っていたからだ。
飯の置かれていた机を脇にどかし、俺はベッドに腰掛けたまま扉の近くで椅子に腰掛けているワルンを見やる。ワルンは俺が何を言い出すのか戦々恐々と言った風にオドオドしている。ちょっと表情に出すぎだな。そんなんでよく俺を騙そうと思ったものだな。
言葉を待っているワルンに応じて俺は口を開いた。
「ワルンさんがいなくなってからいろいろ考えたのですが、俺ってば昔の記憶がほとんどないんですよ」
「……! そ、そうですか。それはさぞ大変だったでしょう」
俺の言葉にワルンは一瞬笑みを浮かべそうになった。そうか、記憶喪失の方が扱いやすいからか。でもそれを外に出すとはやはりダメダメだな。
俺は上辺だけの言葉を無視して続きを言う。
「だからワルンさんに聞けることは聞いておきたいんですよ」
「なるほど、分かりました。私で答えられる範囲でなら答えましょう」
「ありがとうございます」
ふぅ、それにしても丁寧語? は疲れるな。最初の荒々しい口調から警戒してますよ~、と態度で言い、しばらくして丁寧語に直すことで警戒心を解いた、と思わせるためにやっているのだが。すぐにでも素が出てきそうで怖いな。
ともあれ、この世界のことを聞く言い訳が出来た。これで常識と言われるものを聞いてもあまり警戒されずに済むだろう。
俺は早速考えていた質問を一つずつ言っていく。
「まず一つは、地図のようなものはないですか? できればかなりの広さを書かれたものが」
「ふむ…………すいません、ないですな。私の口からでいいのなら説明いたしますが」
「ではお願いします」
「はい。まずこの村は『コパルニア帝国』の領土にあります。『コパルニア帝国』はこの大陸の最東端に位置する国です。昔は武力で栄え、大陸の三分の一ほどの領土を持っていたのですが、食料問題などで領土を維持することが出来なくなり、現在は全盛期の五分の一ほどになっている、と私たちは聞いています」
「うん、ちょっと整理させて」
急に大量の情報が流れてきた。
いや、処理はできるよ? もちろん。だけど、それを処理して理解したところでちゃんと覚えてないとダメじゃん? って言い訳はもういいか。
とりま、ここは『コパルニア帝国』の領土の中にある村で、その『コパルニア帝国』は結構力を失っている、と。ついでに『コパルニア帝国』の位置は最東端、と。
「よし、続きをお願いします」
「はい。そしてこの村はその『コパルニア帝国』の領土の中の南西側にあります。帝都からもっとも遠い村です。先ほどあなたが倒れていた森を抜ければ隣国にたどり着けます。もっとも、現在は休戦中なのでお互い不干渉でしたから。ちなみに爆発音を聞いてすぐに駆けつけたのも変な誤解を生む前にどうにかしようと思ったからです」
「そういえば東とかってどうなってるの?」
「ああ、そうですね。ある魔法具がありまして、それが指す方角が北。北を向いて左が西、右が東。北の反対側が南となっています」
「はい。分かりました。ちょっと整理します」
たくさん聞いてまた整理の時間です。いや、もらった情報は全部覚えとかないと。
この村は休戦中の隣国との境界線上付近にある村なわけね。
てかまたここで齟齬が出た。この村が隣国ともっとも近い位置にあるなら砦のようなものと軍隊とかいてもおかしくないだろ。つまり飢えの心配はそこまでないということ。軍隊がいるんだから帝都から少なくとも食料は運ばれるはずだし。
そこで、村人の分などない! とか言うクソ王とか、俺らはお前らを守ってやってるんだ! 的な感じで食料を略奪するクソ軍隊だった場合は分からなくともないが……ないだろ。
ということでまたも矛盾をみーつけた! ついでに俺がここを消すなら軍隊を相手にしないといけないことが決定したわけだけど。
まあ、それは置いといて。地理に関しては終わりっぽいので次の質問。
「じゃあ、次の質問いきます。貨幣制度はどんな感じですか?」
「この国では『パル』という単位を使っています。一パルが『鉄銭』一枚。十パルが『銅銭』一枚。百パルが『大銅銭』一枚。千パルが『銀銭』一枚。とまあ、十毎に貨幣があがっていきます。続きは『大銀銭』『金銭』『大金銭』という感じです」
ふむ、十進法で貨幣の種類は七種類の最大は百万ってことか。
とりあえず十進法とか分かり易すぎてワロタ。どこの世界でもこういうのは同じなのかね? 十二進法とか俺の世界ではあったんだが。
ま、いいことには変わりない。あとは適当な質問でしめるか。
「それでは、最後に働くとしたら何がいいでしょうか? 記憶を取り戻したりしたいのでいろんなところを回りたいのですが」
「それならちょうどいい仕事があります。『冒険者』というものです」
冒険者キタコレ!
やっぱ異世界ファンタジーといったら冒険者に魔物に魔法でしょ!
心の中は大歓喜だが、表面上は分からないような顔をする。
ワルンは続ける。
「冒険者とは、『冒険者組合』に登録している人たちのことを示します。そこに入れば身元が証明され、いろいろ動きやすくなります。しかもその登録はあなたのような方でもできます。これは昔にある大魔導師が発明した『ある板』が関係してきます。それは悪意に反応するというのでしょうか。犯罪を犯した人が登録しようとすると弾かれてしまいます。そして登録してから犯罪を犯すとその板はただの板になってしまいます」
それって思いっきり『ギルドカード』じゃねぇか! 悪意に反応とかマジ異世界。
ま、聞くことはこれくらいでいいでしょ。冒険者は予想外だったけど。
そもそもワルンは俺をどうにかこうにかしようとしているやつだ。こいつからの情報は信用ならないしね。
「以上です。いろいろ教えてくださりありがとうございました」
「いえ、こちらもお役に立てて嬉しい限りです。と、この話の後で言うのはなんですが、明日お体の調子がよろしければ森へ狩りに行ってくださいませんか? 久々の食事であのテグレスといえどもすぐになくなってしまいました。あの話のあとで強要するような物言いになってしまい申しわけありませんがよろしくお願いします」
「明日ですね? 了解しました」
お礼を言うと、それにかこつけてお願いという名の命令を押し付けてきた。
まあ、断るつもりもないのでいいのだが。てかここでまた矛盾か。爆発音で誤解されないようにとか言ってるくせに、狩りに行くって事はまた爆発音を鳴り響かせることを意味するのが分からんのか。全く、頭が弱いな。…………俺が言えることじゃないな。
だけど、俺はとりあえず返事をしておく。多分明日には俺はどこかへ売られてるかもしれないがな。
「それでは、失礼します」
俺からの言葉がもうないと知るや否やワルンは部屋を出て行った。
俺はそれを見届け、ゴロンとベッドに倒れる。
たいした情報は得られなかったけど、まいっか。今は自分の情報がなによりも欲しい。
そのためにはまずはここから逃げ出さないとな。
そう決めた俺は外の情報を得るために窓から外を観察することにした。




