第三話「俺には能力がある?!」
頬を撫でる爽やかな風。
風に揺れる木の葉の隙間からは時折太陽のものと思われる光が降り注ぐ。
背中には少しチクチクとした、しかしふわりと体を受け止めてくれている草の感触。
地球と何も変わらない。
「本当に異世界なのか?」
自然に口から漏れる疑問。
表面上は、あんなでっかい虎が地球にいるわけないだろ! 馬鹿? ねぇ、俺馬鹿なの?! って感じなのだが、心の奥底ではいまいち信じられないでいる。
いや、だって今までいた世界とは全く違う世界なんだよ? マク○ナルドとかモ○バーガーとかもう食べれないんだよ?
はいそうですかってそう簡単に信じられることじゃないね。
ま、それはおいおい考えていこう。とりあえず今は生き残らないとな。またあんな馬鹿みたいにでかい動物が現れるかもしれん。こんな楽しそうな世界、簡単に死んでたまるかっての。
俺はあの爆発の原因を考えることにした。
俺には武器がない。だから武器になりそうなものを考えるのは必然といえよう。
まず、俺は石を殺意を持って投げつけた。そんで、死にさらせ! と叫ぶことによって爆発。
…………なんか俺の意思で石が爆発しているように見える気がするんだが。
うん、これってまさか…………いや高二にもなって中二みたいなこと言えるか。…………でもなぁ、それ以外に……
俺はふんわりと浮かんだ可能性を否定していたが、とりあえず候補としてあげることにした。
もしかして俺は、物を爆発させる能力があるんでは?
「ぐふっ」
自分に能力があるかもしれないとか…………中二過ぎて意外に精神ダメージ大きかった。
ま、まあ、これはあくまで可能性だから! 俺ってばそんなイタイ子じゃないから!
深呼吸。
ふぅ、落ち着いた。
さて、他の可能性としては…………あの石は爆発する特別な石だったりして?
でもそれだと俺の声に反応して爆発す原理が…………俺の声にだけ反応して爆発する…………やはり俺には秘められた力が宿っていて…………
「ぐへっ!」
ふふふ、こんなところにトラップがあるとはな……しかし俺は負けん!
よし! 分かった! これは俺の能力的なやつなんだ! そうと分かれば早速試してみよう!
そう思って、考え事をしている間に少しは回復した体を上半身だけ起こす。
そして周りをキョロキョロと見渡し、手ごろな石を手に持つ。
このとき頭で考えてばかりじゃなくてさっさと実験していけばよかったのでは? と思ったが、言葉に出すのは止めておこう。
俺は手に持った石をとりあえず強く握ってみる。あの時も強く握ってたしな。
「うお!」
石を見つめてギュッと力を込めてしばらくしたときそれは起こった。
俺の腹より上、胸より下のいわゆる鳩尾辺りからギュオン! って感じで俺の何かが石に吸われた。
そして訪れる疲労感。これは……あの時も起こったな。てっきり緊張とかの疲労感だと思ってたが。
まるで全力疾走した後、息を整えた後のような疲労感が体を襲う。簡単に言えば体が重くなってだるい。
俺はしきりに頭を捻らせたが答えなんて出るはずもなく、とりあえず投げてみることにした。
爆発する可能性もあるからできるだけ遠くに投げる。そして投げたら伏せる。脳内シュミレーションは完璧だぜ。
俺は座ったまんま振りかぶる。そして全身を使って思いっきり投げる。
「オラァ!」
その勢いで地面に伏せることも忘れない。
そして鍵言葉なのか知らないが、あの言葉を叫ぶ。
「死にさらせ!」
石が赤く発光。包丁とか作るときに鉄を火に入れた時と同じような色をしている。
と思っている間に光はより強くなり…………爆発した。
前の世界で見た手榴弾とか地雷ほどの威力はなさそうだけど、結構強い。普通の人の頭付近で爆発したら致命傷を負わせれそうだ。
爆風が俺の短い髪を揺らす。そこまで強くないから心地よいくらいの風だけど。
「ははっ! こりゃあ、いいな!」
これを見た俺はかなり気分が高揚した。
ここが異世界だとして、いや俺の世界だとしてもこの力はすごい。なんの変哲もない石を爆発させることが出来るのだから。
しかもそれは起爆装置など全くない。俺の声一つで起爆する。
いやはや、神は面白い力をくれたもんだな。ん? そういやあれって神なのか? まあ、こんなの神くらいしか出来ないだろうからそうだろうな。
これが俺の力である可能性がグンッと上がった。
というわけで検証をしようか。
まず石以外のものでも爆発させれるかだな。
俺は体の痛みなど忘れて(痛いけど無視して)立ち上がる。
手始めに、適当な木を対象にやってみるか? ……いや、石であの爆発だからこんなでかいやつでやったら俺まで被害が出そうだ。
俺は辺りを見渡す。
そしてちょうどよさそうな木の枝を見つけた。
俺は小走りでそこへと向かい、拾い上げる。
長さ三十cmほどの細い枝だ。
それを思いっきり握ろうとして……折れそうなことに気がつき力を緩めた。
「あ~…………どうしよ」
少し悩み、とりあえず決めた結論が、気持ち力を入れる、だ。うん、気持ちだけ。実際にはそこまで力を入れない。イメージはパントマイム。
と、余計なことを考えながら気持ちだけ全力で枝を持つ。
そしてまた鳩尾辺りから何かが吸い出される。ついで訪れる妙な脱力感。
今までの経験からしてこれでこの枝は爆発する準備が整った。あとは投げて叫ぶだけ。
俺は痛みを無視して枝を思いっきり投げる。
「オラァ!」
枝はきれいな放物線を描いて飛んで行く。
投げた勢いで伏せの体勢に入った俺はすぐさま叫ぶ。
「死にさらせ!」
直後枝が赤く、紅く光り…………爆発した。
威力は枝とそこまで変わらないかもしれない。若干心持ち上がったかな? ってくらい。
いや、それは置いといて、検証は成功だ。俺の力は石以外にも適用出来る。
「ははっ! 本当におもしれぇな!」
思わず声に出る。
俺は次の検証に移行する。どんどん試したくてうずうずしている。
次は起爆の合図のようなものが何かを確認する。
今までは、死にさらせ! と叫ぶことにより爆発してきた。
ということで本当にそれで爆発するのか? 他の言葉でも爆発するのか? ということを検証していこうと思う。
まずはいい具合にたくさん転がっている石を手に持つ。
ギュッと握り、変化を待つ。
……約五秒か。その時間ギュッと握り続けていたら何かが吸い出された。そして訪れる虚脱感。あ、次やったらやばい気がする。
まあ、それはいいとして、これを起爆させる言葉だな。
とりあえず、死にさらせ、に近い、死ね、辺りでどうだろうか。うん、いけそう。
そうと決めたら即実行。石を振りかぶって……投げたー!
「オラァ!」
その勢いをそのままに伏せの体勢に入る!
そして叫んだ!
「死ね!」
……結論、石は爆発した。
なるほど、他の言葉でも代用出来るっぽいな。よし、なら次は小さな声でも反応するかの検証だ。
俺は早速もう一度石を手に取り、ギュッと握る。なんだか俺の心の警笛が鳴り響いてる気がするが、気のせいだ。
そして約五秒後。
俺は激しい虚脱感を味わうとともに意識を失った。




