第十三話「冒険者になろう」
いやぁ、売れた売れた。
現在俺はホクホク顔で服屋を出ていた。後ろから、またお越しください、との声が聞こえる。
服屋からでた俺の服装はこの世界での標準的な服装に着替えている。
少しザラザラした感触に加えて、少しゴワゴワしていて動きづらい……
見た目は半袖半ズボンで上下肌色というなんともみずぼらしい格好である。これ標準っていうかどっかの農村の格好じゃね? これでところどころ破れてたりしてたら完全に乞食じゃん。
ま、俺はあんまそういうこと気にしないけど。おい、そこの酔っ払い見てんじゃねぇぞ、ゴラァ!
さて、金も手に入ったところだし、宿に行きますか。
ちなみに一応金の単位とか確認してきた。
ワルンに聞いたとおり単位が『パル』で、十枚で上にあがっていくようだ。服の売却代が大銀銭四枚だったから一枚崩してもらって確認できた。このとき店の主人が銀銭九枚しか出さずにちょろまかそうとしやがった。中途半端で不思議がって俺が、え? っていった瞬間にごめんごめんとか言って十枚出した。俺が計算もろくに出来ないと思ったか、馬鹿やろうめ。義務教育舐めんな。
てかこの国にはあんなやつしかいないのか……悲しいなぁ。やっぱ人間って卑しくて醜い生き物だわ。大丈夫、自覚してる(キラッ
なんかすっごい脱線してるけど、本当によく売れたなぁ。大銀銭四枚だよ! 一番下の鉄銭一枚の四万倍だ!
やべぇ、いきなりウハウハか? これは! ニヤニヤがと ま ら な い!
こんな感じですっかり暗くなった表通りを歩いている。たま~に、明かりが漏れている家もあるが、ほとんどは真っ暗。
てか俺夜目利かないしそろそろ足元やばいんだが。てかもう既にやばい。
「イル、宿屋ってここらへんにある?」
「…………あったよ」
俺が足元が不安になり、立ち止まって聞くとイルはしばらく宿を探しているような雰囲気を出して、見つける。多分指を指しているのではないだろうか。
…………
「いや、指差されてもみえねぇから。連れてってくれよ」
「は? ……………………分かった」
俺が文句を言うと、奴隷にはあるまじき暴言を吐き(は? のこと)、たっぷりと考えてから了承した。
ここでこめかみがピクッと反応したが、なんとか抑えた。俺は寛大な心を持っているからな。……反応する時点でダメだと思うが。
イルは俺の前に来て、俺の手を取ると早足に歩いていく。
そして、イルは明かりが漏れている家のうちの一つの前で足を止めた。
「ここか?」
「ああ、合ってるはず」
俺が確認のため聞くとイルは肯定の言葉を口にした。
それを聞いた俺はすぐに宿の扉を開け放ち、中へ入る。
「おお」
中はなかなか明るく、細かい作業も出来そうだった。
光源は? と見渡すと上になんか石っぽいのが埋め込まれていて、それが光っているようだ。
っと、その前にさっさと受付済ませるか。
俺は気を取り直し、入り口から真っ直ぐ進んだところにある受付へと向かっていった。
「ここは一泊二食付きで大銅銭一枚だよ」
受付の前に立つなり、おばちゃんが言ってきた。
文にすると態度の悪いように見えるが、声色はいたって優しく、人の良さを感じた。
俺はすぐに答える。
「じゃあ、とりあえず一泊で。ちなみに一部屋で大銅貨一枚ですか? 一人で大銅貨一枚ですか?」
「一部屋で大銅銭一枚だよ。ただし、これは一人の場合だからね。飯は一食につき銅銭二枚だよ」
俺が一泊を頼み、質問をするとおばちゃんはすぐに答えてくれた。しかも俺が次に聞こうとしてたことも一緒に。いいおばちゃんだなぁ。
俺はすぐに計算して一部屋分の部屋代と三人分の食費を出す。
「一食で銅銭二枚ですから部屋代だけなら銅銭六枚ですよね? それに加えて三人分の朝食だけ欲しいので一食が三人分で銅銭六枚。合計の大銅銭一枚と銅銭二枚でいいですよね?」
「ああ、いいよ。…………はいお釣り」
俺がそう言って銀銭一枚を渡すと、おばちゃんはしばらく考えてから大銅銭八枚と銅銭八枚をお釣りとして渡してきた。
あれ? ここは計算が早くて驚かれるところじゃないの? 実際おばちゃん計算遅かったし……ちぇ、つまんね。
「部屋は右にある階段を上がって二階の廊下の突き当たりだよ。ごゆっくり」
俺は若干ふてくされながら言われたとおり階段を上がっていく。
別に驚かれて、え? 別にこれくらい普通ですよ、とか言いたいわけじゃないけどさ。もうちょい、なんか反応あっても……
あ、そういえば鍵とかもらってないな。いや、その前に宿とか適当に選んだな。まあ、大銀銭こんなにあるし、それは大丈夫か。一日二食だったら……大体三百日以上泊まれるし。
鍵は…………まあ、なんらかの処置がされてるでしょ。なかったら扉のところになにか棚とか置いといておけばいいし。
考え事をしていると時間が経つのは早いなぁ。もうついた。
俺は極普通の階段を上り、極普通の廊下を歩き、極普通の扉を今開けようとしている。
…………いや、別にファンタジーだから何かを期待してたってわけじゃ(ry
俺は扉を開け放つ。
「…………うん、普通」
部屋はいたって普通で、ベッドが一つ、その傍に丸い机と椅子が二つ、棚らしきものが一つ。
…………もういいや。普通で。シンプルイズベストっていうしね……
俺は中に入り、鍵的なものは、と探す。
それはすぐに見つかり、扉のすぐ隣にあった。
「って閂かよ……」
扉の内側と開閉するほうの壁に閂を入れるL字のあれがあった。
ある意味これは普通じゃないけど…………やめよう、俺はあきら……切り替えたんだから。
俺はサッと閂を手にし、扉を閉めようとして、
「何してんだよ。はよ入れ」
ボケッと突っ立っているイルとその妹に入るよう促した。
イルたちはすぐに中に入ってきてくれたので扉を閉め、閂をする。閂って閉めるって表現をするのかな? ハゲドー。
閂をした俺はすぐにベッドに横になる。
うわぁ、久々のベッドだわぁ。
硬いものの、地面よりよっぽどマシなベッドに俺は安堵する。ついでに急に襲われる心配がないってのも安堵の理由かな。
俺はそれらからすぐに眠りの世界へと……旅立つ前に。
「お前ら朝まで突っ立ってる気か? こっちゃこい」
「え?」
俺はベッドの横でボケーっと突っ立っている二人を呼んだ。
イルは俺の言っていることが分からないのか素っ頓狂な声を上げた。妹の方は素直に従って俺の隣で横になる。そしてすぐに寝息を立て始める。って、はやっ! まだ横になってから三秒経ってないぞ!
妹の方の寝つきのよさに軽く驚愕しつつ、もう一度イルに言う。
「だからこっちにこいって言ってんの。ベッド少しは広いし、お前ら小さいから入るだろ」
「え……? でも、俺って奴隷……」
「命令だ。来い」
なんか、俺は奴隷だから、みたいなこと言おうとしたので命令する。
んなもん知るか。俺が来いっつってんだから来い。
イルはなんか渋っていたが、既に妹が寝ているということもあり、ベッドに入る。
「っておい、そっちちゃう。こっち」
俺は妹と反対側のスペースをボスボスと叩く。
イルはまだ困惑しているのか軽くオロオロしながら言うとおりにする。
そして俺は両側にいる二人の腰辺りに手を回し、ギュッと抱き寄せた。
「ふぁ?!」
「うるさい、静かにしろ。てか寝ろ」
イルがやたらと高い声で驚いたのでさっさと寝ろと言う。
ふぅ、これでようやく寝れる。
俺は両側から感じる温もりを感じながらそんなことを思っていた。
やっぱ動物は体温たけぇな。半袖半ズボンでちょうど寒かったから本当にちょうどよかったわ。
俺はだんだんと薄れゆく意識の中、体をより温めようと両腕に更に力を込めて引き寄せるのだった。
翌日。気持ちのよい朝を迎えた俺らは、朝食をとり宿を後にした。
ちなみに朝食はワルンの村で食ったパンよりやや柔らかいパンと、何かのスープだった。スープはコンソメ味だった。何故……美味いけど。
宿を後にした俺らが向かっているのは冒険者組合だ。
おばちゃんに、冒険者になるにはどこに行けばいい? と聞いたら、もう少し言ったところに他より少しでかい建物があるからそこだよ、と言われたので言われたとおりに行動中だ。このとき冒険者ギルドではなく、冒険者組合だということを知った。
さぁて、他よりでかい建物は~っと。
「あった」
「また俺より先に……で、どこだ?」
俺は今度こそ先に見つけたる! と思って探していたのだが、またしてもイルに先を越された。
でもでかい建物だろ? 全部同じような高さに見えるんだけど……
そう思いながらイルの指差した先を見てみると、
「横かよ!」
横に大きな建物があった。クソッ、すっかり騙された。
朝方のやや人通りが多くなった道で叫んだため注目されるが、気にしない。どうせすぐに興味を失う。
思ったとおり、行きかう人々はこちらを注目はするものの、足を止めることはしないのですぐに視線を俺から外していった。
さて、俺の意識も周りから戻ってきたところで行きますか。
俺は騙されたことに少し不満があったが、それを呑み込み冒険者組合へと歩き始める。そもそも俺が勝手に勘違いしてただけだしね。
俺は奴隷二人を引き連れて冒険者組合の扉を開ける。扉は予想通りというか、大きな武器などを背負う者のためにやや大きめとなっていた。
「わぁお…………」
開けた瞬間むわっ、とした熱気が来る……と思っていたのだが、普通だった。いや、普通っていわれてもって感じだが。こう、普通の現代社会の店的な?
雰囲気もなんだが、粛然としていて役所みたいな感じがする。
だけど、店……じゃなかった、冒険者組合の内装は俺の思ってたようなものだった。
真正面にはカウンターのようなものが。そして、出入り口とカウンターの間にはたくさんの丸テーブルと椅子。さらに左右の壁には貼り紙がたくさんしてある。隅っこの方には観葉植物らしきものも見えるが、どうでもいいだろう。
室内に受付以外の人はいないっぽい。
俺は一通り見渡した後真っ直ぐ受付へと向かった。二人はちょこちょこと俺の後ろをついてくる。
「登録ですか? それとも依頼ですか?」
「ん? あ、あぁ、登録にきました」
受付の若い女性の前に立った瞬間にいきなり言われた。本当に急だったから思わずどもっちゃったよ。
「はい。登録には銀銭一枚が必要になりますがいいですか?」
「あ~、はい、了解です。あといろいろ説明よろしくお願いします」
俺の礼儀正しさなのか受付は軽く驚いた。ちなみに受付の人数は一人だ。
驚いていたのはほんの一瞬で、すぐに営業顔? になった。決してスマイルではない。残念。
「冒険者とはいわゆる何でも屋です。落し物探しから、魔物の討伐、盗賊団の殲滅なんてものもありますね。それで、一応冒険者には『位』があります。初心者、というよりは登録したばかりの人は『十位』。初心者脱出、って感じの人は『九位』と『八位』。一人前と言われるのが『七位』から『三位』。一流が『二位』と『一位』。まあ、あくまでも目安ですから当てはまらない人もいます」
「了解。続けて」
「はい。『位』が上がると受けれる依頼の数が増えます。一応私たち組合の人が調査などをして適正な『位』を指定しているので。ついでに私たちが調査をするということで、冒険者の報酬の二割を組合がもらうことになっています」
「ふむふむ。続けて」
「…………」
ここまでの話を聞いてうんうん頷いて続きを促しているといつの間にか受付にジト目で見られていた。
俺がキョトンとして首をかしげていると受付は軽く息を吐く。ちょ、今のため息だよね? あんたそれでいいの? 幸せ逃げちゃうよ? 婚期が……すいません。
ギロッと睨まれて俺がしょんぼりすると受付は話し始めた。
「あなたさっきから頷いていたりしますけど、理解できてますか?」
「わ~お、辛辣ですなぁ。理解できてますよ~。とりあえず俺は登録が終わったら『十位』からってことで、依頼をこなしていけばどんどん上がっていく。依頼には適正の『位』があって自分の『位』より上の依頼は受けれない。依頼の報酬は二割を組合に出せ。理由は調査などして適正の『位』を見極めているから。これでいいよね?」
なんか俺の顔が馬鹿に見えるからかしらんけど、馬鹿にされたので早口で今までのまとめをして話してやった。
案の定受付はポカンとした顔で固まっている。ざまぁ! ひゃはははは!
てかあんま可愛くねぇな。こういうののテンプレって可愛い受付嬢じゃないの? まあ、普通よりはレベル高いけど。
なんて受付の顔の採点をしていたら受付が戻ってきた。別にどこかに行ってたわけじゃないけどね。言うならば逝ってた。
「失礼しました。では続けます。その前に一つ、皆様個人での問題に組合は一切関与しませんのでご了承ください」
「りょうか~い」
「では登録について説明します。登録自体はあなたの魔力を組合でのみ使われている特殊なカードに入れて完了します。しかし、その前にしないといけないこと二つあります。一つが『契約』、もう一つは『魔力属性』の検査です」
「よし、二つとも説明頼む」
「分かりました。まず『契約』についてですが、これは簡単です。国の情報などを他国に喋らないこと。これは結構きわどいのですが、ダメっぽい情報は喋らないでください。喋ろうとすると痛みが発生するようになっており、最悪命がなくなります」
うぉい! そこ適当だな! しかも命って!
ダメっぽい情報は喋るな、か。地形とかは、いいっぽい、のか? ……ダメだ、分からん。
しょうがないので続きを聞く。
「まあ、そこまで考えすぎないで大丈夫ですよ。言おうとしたら痛みが発生しますので。それに命をなくすっていうのも痛みを堪えて無理に言おうとすると、っていう結果なので。痛みが発生したら喋らない、ってのをしていけば大丈夫です」
「ちなみにそれを言うってことは他国にもいけるんだよね?」
「はい、もちろんです。ただ、いろいろと検査などがありますが……まあ、国内なら自由に出入りできます」
「おけおけ。で、『魔力属性』の検査だっけ?」
「はい。組合では万が一に備え、その人の『魔力属性』を記録させてもらいます」
「ん? 万が一?」
「はい。もし冒険者が犯罪者になってしまった場合などにその情報を公表させてもらいます。その人の魔力属性が分かれば対処できますから。それに弱点の属性も分かりますし」
「弱点?」
「はい、その人に宿る魔力の性質で弱点は変わります。例えば火属性の魔力を持つ人ならそれ以外の風、水、土属性の魔力攻撃には弱いです。たまに二つや三つの属性持ちがいますが、増えれば増えるほど、持っていない属性の攻撃に弱くなります」
「ふ~ん。じゃ、話を戻そうか」
「はい、『魔力属性』の検査も実は簡単です。奥の部屋にある『魔法具』を使って調べます」
「分かりました。『契約』と『魔力属性』の検査ですね。では早速やりましょう」
ふぅ、一気にたくさんの情報が流れてきたな。ちゃんと覚えとこう。
俺が最後に、早速やりましょう、と言ったからか受付の女性は立ち上がって、こちらです、と手招きしてきた。
カウンターの端っこの壁との隙間からカウンター内へ入り、奥にある扉へと向かう。
「では、この中で『契約』と『魔力属性』の検査を行います」
「はい、お願いしま……」
と、ここで俺は後ろの二人を思い出した。
俺の懸念に気付いたのか受付の女性は気を利かせてくれた。
「奴隷は大丈夫ですよ。『奴隷契約』と『契約』は繋がりますから。でも『魔力属性』の検査はやりますのでついてきてください」
「分かりました。じゃ、行くぞ」
「分かった」
「…………」
返事をしたイルと無言のままついてくる妹を連れて、俺は受付の女性の後ろについてった。




