第十二話「城」
腹も満たされ、体力も回復した俺は爆弾にした石三個を持って出発した。
時刻はおよそ十三時。午後の一時だと思われる。
満腹までは食わず、更に少し休憩したので走ってる途中で腹が痛くなることはないだろう。
あの動物の山は少し迷った後、持てる毛皮だけ剥いで持っていくことにした。
よって現在は両脇に少し大きめの毛皮を丸めたものを持って走っている。奴隷のイルとその妹は小さいので一つずつだ。一応妹の方は小さめにしている。
さあ、後は無心で走り続けるのみ!
俺は今までのことを思い出して失敗した点はないか確認した後、無心になりは知り続けた。
どれほど走っただろうか。
森でも浅いところを真っ直ぐ走っていた俺らはようやく森を出た。意外にこの森って真っ直ぐ出来てたんだな。もしくは俺の方向音痴か。
てかさっきどれほど走っただろうか、とかいっときながら太陽の位置で大体どれだけ時間がかかったか分かるっていうね。……だってあの台詞言ってみたかったんだもん。…………いい年こいて、だもん、はないわ~。
一人でアホな討論を繰り広げながら歩いていると城が見えてきた。
……………………うん、村でも町でもなくて、城。
「はぁ?!」
俺は森から出てしばらく進んだ草原で叫んだ。
いや、だって城だよ?! 手前にはそこそこでかそうな壁――城壁もあるし、その上からなお見える城!
ウェイト、ウェイト。まずは落ち着こうじゃないか。
俺は森を真っ直ぐ走っていた。そして 森を出て歩いてたら城があった。
…………ウェイト、ウェイト。一つずつ整理していこう。
俺はゆっくりと考えるため座り込んだ。
「イルと妹は周りの警戒。ちょっと考えることが出来た」
「分かった」
イルの返事を聞いたところで俺は思考の海に潜り込む。
まずこの国は最東端にあると言っていた。あのワルンの言うことだが、多分これはあっているだろう。別に嘘をついてメリットがあると思えないし。
となると、国としては最東端の最東端に城を作るのでは? もちろん海岸線とは言わないが、そこそこ東に建てるだろう。船とかの技術がなかったらなおさら。まあ、さすがに船は出来てると思うが。
で、今俺が見ているあれは確実に城だ。教科書とか、旅行パンフレットとかで見たことがある。ヨーロッパ風の城だ。
ということは、だ。俺の今いるここは最東端というわけか?
…………どこで道を間違えた。
少なくとも俺は真っ直ぐ進んでたつもりだ。いや、まさしくつもりだったわけだな。
まあ、しょうがない。これは俺の方向音痴ということで片付けよう。それに当初の予定の人里にこれたわけだ。規模が違うだけで予定にさしあたりはない。
思考の海から浮かび上がってきた俺は立ち上がって歩き出す。
「よし、行くぞ~」
気の抜けるような掛け声と共に。
「ふぇ~、でけぇなぁ」
目標があるっていいことだ。
俺は城壁を目標にして歩き、太陽が沈みかける頃についた。真っ赤な夕日がいい感じにまぶしいぜ。
そして今は近くで見た城壁に感嘆としているところだ。
イルとその妹は特段驚いているようには見えない。
俺は視線を前へと戻し、呟く。
「さて、どこから入ればいいのかな?」
俺のいるところは薄汚れた黒色っていうか石の色をした城壁の前。
そのどこにも入り口らしきところは見当たらない。
……ま、当然だけどな。入り口がポンポンあったら城壁の意味がない。
ということで、俺は城壁にはセットであるはずの門を探すことにした。
城壁の周りをグルグル~グルグル~グルグル~………………
探し歩くこと数十分(体感)。ようやく見つけた。
しかし…………
「これまたでけぇな」
城壁は高さ五mほど。門はそのうちの三mほども使っての大きなものだった。
幅もなかなかあり、人が十人並んで通っても大丈夫そうだ。
「そこにいるやつ! 誰だ?!」
ほえ~、と見上げていると更にその上から声が聞こえた。
視線を更に上げ、その声を発した人物を見る。あ……首がいてぇ。
ちなみに横の二人は我関せずを貫いている。ただ単に興味がないとかそんなんだろうけど。
「おーい、入れてくれませんかー?」
質問の答えになっていないが、まあとりあえず返事をしとかないと怪しまれるからな。
しかし、やっぱりというべきか、色良い返事はもらえなかった。
「まずお前は誰かと聞いているであろう! 話はそれからだ!」
「僕は旅人です。国内のあちこちを旅して回っています」
そういう対応になることは予想していたのですぐに返事を返せた。
ただ、もっと上手い設定を練れなかったのが悔しい。嘘とか苦手なんですぅ。純粋な子って昔から言われてて……
そんなことはどうでもいい。これ言うの多いなぁ……
俺はこの設定でいけるか上にいる兵士の顔色をうかがう。あ……首いてぇ。
と、兵士が俺らの持つ毛皮を見た気がした。
「そうだなぁ……そのゴホ、毛皮ゴホ、渡せばゴホ、通してもゴホ、いいぞゴホ」
「………………あ、はい! ちょうどよかった、僕から兵士さんたちに渡すものがあったんですよ」
さっきのは気のせいではなく、本当だった。
しかも兵士の言った言葉は、通りたきゃ賄賂を渡せ、っていうことで、半端なく分かりづらかった。俺じゃなかったらその意図を察してやることも出来なかったぞ。てかそんな大声で賄賂のこと話してていいのかよ。あ、あんな下手くそな賄賂の催促だと簡単には分からないか。なるほど考えてらっしゃるなぁ。
内心でかなり兵士を馬鹿にしながら俺は賄賂を渡すことを了承した。癪だけどしょうがないよね。それにここ消すって決めたし。
なんて思っていると、城門が大きな音を立てて開き始めた。おお! これは迫力あるな。こんだけでかいとラスボスとか出てきそう。
しかし、当然というべきか、城門は人一人通れるほどの幅で開くのをやめてしまった。
俺はそこをそさくさと通る。後ろを見ればちゃんと二人ともついてきてた。そういや奴隷ってこの国ではいいのか? あの村は俺を奴隷として売るとか言ってたから大丈夫っぽいけどな。てか奴隷ってどうやったら分かるんだ?後で本人たちに聞いてみるか。
「こんばんわ。いやぁ、危なかったね。日が沈めばもう門を開けることは叶わなかったよ」
「そうでしたか。いやはや運が良かったといいましょうか。して、これは…………」
入ってそうそうさっき上にいた兵士が話しかけてきたので柔らかに受け答える。
そして、俺が毛皮をどうやって渡せばいいのか聞こうとすると、
「ああ、荷物検査があるからさ、そこに荷物置いてってよ。あ、別にいらなかったらそのまま行っちゃっていいからね」
「はい、分かりました」
道の脇にある机らしきものを指差して言ってきた。いや、確実にそんな検査ないだろ。こういうときしか使わないやつだろ、あれは。
とまあ内心ではそう思っているが、言葉には表さない。こいつの決定一つで俺はここで捕まるのだから。
俺は気持ちのいい返事をしてその机へと向かう。
つまるところあそこに俺たちの毛皮を置いてどっかいけ、ということだろう。腐ってんな。
まあ、その腐ってるやろうどもおかげでこうして入れるからいいか。
机の前へと移動した俺は両脇に抱えている毛皮をその机の上に置く。
「お前らも置け」
俺は振り返って二人にも毛皮を置くように指示を出す。
そして俺は先ほどの場所で見ている兵士に会釈をして歩き出す。
毛皮を置いたと思わしき二人も後ろをちゃんとついてくる。
さぁて、これからどうしようか…………
やや人がまばらになってきている表通り(多分)。日もほぼ沈み、辺りはすっかり薄暗くなってきた。
表通りはなかなか広く、幅は目測だが十mはあると思う。余裕であのフードが乗っていた馬車がすれ違える。それを計算しての幅だと思うが。
そしてその表通りに沿うように家は建てられている。その家も様々だ。
木で出来ているものもあれば、石でできているもの、レンガっぽいものでできているものなどある。大体は二階建てである。でも、なんかこう、調和? していないというか、適当だなぁ。
もちろんこれら全てがただの住宅というわけでなく、おそらく一階は何かしらの店をやっているものも多いだろう。剣の彫られた看板とか分かりやすすぎ。
それらに目を通して奥へと視線を移すと、城壁が見えた。
その向こうには城があることからおそらく、てか絶対城下町との区別だろう。
ちなみにここはなだらかな斜面になっており、城に行くほど高くなっているようだ。
さて、ザッと見渡したところで宿でもさが……すかと思ったが金がないことを思い出した。せっかく金になりそうな毛皮を持ってきたのにそれは兵士に賄賂としてくれてやったからな……クソッ、俺の分だけで通してもらえばよかった……
金がない。すると宿には泊まれない。かといってすぐに仕事をもらって金をもらうことも出来ない。てかまず仕事をどこでもらえばいいんだ……
俺は結構真面目に考える。ちなみにまだ俺らは門から歩いて数分のところにいる。表通りは一直線なのでもしあの兵士がまだいれば俺らは丸分かりだ。
このままだと不審者扱いで外に出されるかもしれん。いや、その前に捕まるか。
ぐわぁ! どうすれば?!
と、頭を振り乱したときイルとその妹が目に入った。
…………奴隷って売ったら金になるよな? しかも聞いたところこいつらはかなりの希少種。結構な金になるんじゃ…………
そう思ってチラッと二人を見る。
二人は一応希少種なので目立たないようにフードを深く被っている。尻尾もダボッとしたローブのおかげでちゃんと隠れている。これが金の塊……
俺の邪な視線を感じたのかイルがブルッと身を震わせて俺を見てきた。
「いかんいかん。落ち着こう、俺」
俺は頭を振って先の考えを払拭する。あんな貴重な戦力を逃してたまるか。あいつらを売るのは最終手段だ。
となると、他に売るものは…………あ。
俺は閃いた。
「これ、よくあるよな」
よくあること。それは、地球の服はなんか触り心地がよかったりで高く売れちゃうテンプレ。よくあるよね~、金に困った主人公が服を犠牲にして金を手に入れる。うん、あるある、それでいこう。
俺は先ほどまでの悩んでいた姿が嘘のように晴々と歩き出した。
俺、切り替えとか早い方なんだ。これ、俺の長所。
急に歩き出したからか、一瞬後ろの二人は動き出すのが遅かった。
それは当然無視してツカツカと歩き進める。視線は両側にビッシリ並んでいる家々の中でも看板がついているもので、そこから服屋っぽいのを探している。
あ、ついでにこいつらにも探させるか。
「おい、服屋を探せ。見つかったらすぐに教えろ」
俺は首だけ回して後ろの二人に喋りかけた。
視界の端で二人が頷くのを目にして俺は前に向き直る。
さて、さっさと探しま――
「あったぞ」
――すか、っておい。早すぎるぞ。いや、いいんだけれども。
俺が、さあ、探すぞって気持ちをこめた瞬間に服屋発見の報告。
都合よく進むのはいいんだけどね? こう、タイミングってものが……
「はぁ……で、どこだ?」
「あの店」
俺は軽くため息をついて、諦めたように……じゃなくて持ち前の切り替えの早さで声の主であるイルに店の場所を聞いた。諦めるとかいうなよぉ! ってプロのテニスプレイヤーも言ってたしな。諦めるは禁語だ。
イルは俺と目を合わせることすらせずに斜め右方向を指差す。
俺がその指を追って指している方向を見ると……
「は? どこに看板なんてあるんだ?」
イルの指差す方向には看板なんて一つもなかった。細い路地とかあるから住宅街かな? なんにせよ看板なんて見つからない。
俺が、どういうことだ? と目で訴えるとイルはもう一度同じ方向を指差した。
「下」
言われたとおりさっき見てたところをもう一度見て、そこから視線を下げてみる。
「あ」
すると、扉の横に服の絵が掘られた看板らしきものがかかっていた。
そっちかよ! チクショウ!
はぁ、なんでこんなに疲れないといけないんだろうか……早くレベル、もとい階位をあげて魔力タンクで無双してぇ。てか俺って魔法使えないかな? 魔力あるしなんか出来そうなんだが……
そういえば魔力で思い出したけど仕事あったな。冒険者っていうまさに俺の求めている仕事が! 魔力とどういう関連性があるのか分からないが。
ま、とりあえずこれからの計画は、服屋でこの青ジャージを売る! そんでやっすい宿に泊まって次の日に冒険者ギルドとか探して冒険者になる! 予想では冒険者になれば自由に門を行き来できそう。そうなれば後は魔物とか狩りまくってウハウハよ!
俺はいろいろ考えながら服屋へと歩いていく。




