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第十一話「立場」

 意識が戻る。

 しかし、目を開けることが出来ない。体を動かすことも出来ない。

 んん? これは、もしや……金縛りというやつか?

 と、思ったら目を開けれた。さっきのはただ単に脳が先に起きてただけのようだ。すぐに体も起きたから開けれるようになったと言うわけだ。

 ともあれ、俺は仰向けになり空を見上げる。ほとんど木の葉に遮られて見えないが、太陽が高い位置にあるのは見えた。

 ふむ、ざっと計算して俺の寝た時間は八時間くらいか。

 …………寝すぎだわ! どんだけぐっすり寝ちゃってんだよ!

 俺はその考えに至るとすぐさま飛び起きた。


 何か! 何か変化はあるか!?

 飛び起きた俺はすぐさま走れるように下半身に力を込め、周りを見渡す。

 そして目に入ってきたのは……


「OH…………」


 山積みになっているどでかい動物の山だ。

 え? あの猪ほどの大きさの動物が、ひーふーみー……五匹?!

 俺がその山に驚愕していると、香ばしい匂いが漂っていることに気がついた。

 

 グギュルルルルルル~~~~!!!!


 それに気づくや否や俺の腹はとんでもなく自己主張しだした。

 俺は本能に従ってその匂いのする動物の向こう側へと歩いていった。

 

 動物の山を越えて向こう側を覗くとそこには、


「起きたんだ。兄貴」

「俺の分」


 骨付き肉にかぶりつくイルとその妹の姿があった。

 俺はその骨付き肉を視認するや否や、掌を出し俺の分を催促した。ちなみに骨付き肉と言っても漫画肉ではなく、一本の骨の片方に肉がついているようなものだった。

 イルは俺の言葉に、待ってて、と言うと傍に置いてあった肉の山の中からイルたちと同じような肉を取り出し、その肉を立てて手をかざした。


「『我が願うは炎。今ここに彼の者を焼き尽くさんとす、紅い灼熱の炎を生み出せ』

 【焼炎(ペェツポーミエン)】」

 

 イルがそう言うとそのかざした手から広がるように()が出てきた。

 え? マジで? いや、魔法を仕えるって聞いたけど、実際に目の当たりにすると、こうくるもんがある。

 でも…………


「なんかしょぼくね?」


 炎はイルの掌の一点を中心に広がるように出ている。

 そしてその炎は肉を焼き、肉に遮られなかったものは掌から大体六十cmほどで掻き消える。炎の太さは多分四十cmくらい。


 ……なんか、こう、詠唱の長さのわりにしょぼくね?

 俺はそう思ったのだが、イルは自分が弱いと思われたのか反論してきた。


「ち、ちげーし! これは威力を調節できる便利な魔法で、今は弱くしてるだけだし! 本当ならもっと強くできるし!」

「ならちょっと何もないところに……やっぱ止めて! 火災が発生する」


 俺が言うと意気揚々と掌を何もないところに向けたが、なんか嫌な予感がしたのですぐさま止めさせた。山火事とかシャレにならん。ここ山じゃないと思うけど。

 ってかそれはどうでもいい。はよ、肉!

 俺の腹の減り具合を知ってか、もう一度焼き始めたときの火加減が若干強くなった気がする。若干。

 そして、俺が今か今かと待ち構えているとイルが掌から火を出すのを止めた。

 

「はい、兄貴」

「よくやった」


 出された肉を半ばひったくるように受け取ると、さっそくかぶりつく。

 

「っつ! あっつ! これあっつ!」


 さっきまで火で炙られてたのだ。熱いに決まってる。

 しかし、俺の空腹も限界。食欲が俺を動かした。


「ふー、ふー、ふー」


 早く冷めろ、と念じながら必死に空気を吐く。

 そしてある程度したところでまたかぶりつく。しかし、今度は小さく、冷めたであろう表面をかじる。

 恍惚。

 空腹は最高のスパイスとはよく言ったものだ。ただ焼いただけの肉。なんの調味料も使っていない肉に俺は、ズンッ! と旨みが脳に響くような感覚を味合わされた。味がどうとかじゃない。それを心から欲するからこそそれは人を満足たらしめる。

 口全体に広がる満足という味を満喫する間もなく俺は口に入っているものを飲み込む。

 そしてまたかぶりつく。熱さで口が火傷を負うかと思ったが、関係ない。俺の体がそれを欲する。欲求には逆らえない。

 今度は一口目のような甘美な感覚は来なかった。しかし、普通の味を味わえた。

 表面は焦げてガリッとしていたが、その向こう側は程よく焼けており、キュッと身が引き締まっている。なのに、噛むと肉は大した抵抗も見せずに屈服する。

 プルン、とは違う。ブリン、というような食感を味わいながら俺は咀嚼していく。

 一口、また一口。

 食べ進めていくと、これまた変化が訪れた。

 最初は引き締まってブリンと噛み千切っていた肉が、柔らかくなり、プルンと噛み千切れるようになる。そしてそれを舌で押し潰すと肉汁が溢れるように口に広がる。

 そう、この肉は肉汁を内へ内へと追いやり、中で閉じ込めていたのだ。

 濃厚なスープに溶け込むがごとく同居する肉のコラボレーション。

 

 俺は満たされた。









 なんかスゲー食レポみたいなこと言いながら食べてたな。

 

「うぅ、いてぇ」


 肉を一本食べ終わったとき、溢れて止まらなかった食欲はなんとか制御できるまでには治まったが、代わりに口の中の超ヒリヒリした感覚が残った。

 そりゃぁ、あんなに熱いものを気にせず口に含んで食べてたら火傷するわな。

 俺はその痛みを堪えながらイルがもう一本作るのを待っている。

 ちなみに二人はもうお腹一杯らしい。主人の俺より先に食ってるとは……別にいいけどな。効率的に考えて。でもなんか、腑に落ちん。

 と、思いながら痛がっていると妹の方が俺を見ていることに気がついた。

 そういえば妹の方の実力は知らないな。この中に妹が殺ったやつはいるのか? …………あの兄だ。全部兄が殺っただろう。

 ま、それはいい。問題はさっきから妹の方が俺を見ているってことだ。

 …………もしや、回復魔法なんてものを使えるのでは?

 うん、聞いたほうが早い。ということで俺は妹の方に聞いてみた。


「なあ、お前回復魔法とか使えるのか?」

「……?」


 俺がそう聞くと何のことを言ってるのか分からない、と言いたげに首を傾けた。無表情でやるからあんま可愛くねぇな。軽くホラー。

 しょうがないから次の肉をじっくりと焼いているイルの方に聞いてみる。

 

「イル、妹は回復魔法とか使えないのか?」

「回復魔法? …………ああ、『治癒魔法』のこと? 使えるぞ」


 イエス! これで口の痛みが治る!

 てか回復魔法じゃなくて『治癒魔法』なんだな。どっちでもいいと思うが。

 って今はそんなことどうでもいい。どうでもいいこと考えすぎだ、俺。

 俺は妹の方に治癒魔法を使ってくれと言う。


「俺の口に治癒魔法かけてくれ」

「…………」


 少しの間があり、その後コクリと頷いた。

 妹は緩慢とした動作で座っている俺の前に移動すると、俺の両頬に手を添える。

 そして何かを呟いた。


「『我が願うは治癒。今ここに彼の者を治さんとす、優艶(ゆうえん)なる女神の祝福を与えよ』

 【治療(レクゼニア)】」


 妹の方がそう言うと俺の頬に当てている手が淡く光りだした。その光は俺の方へと流れてくる。

 なんだか、ホッとするような感じだ。口の中がむずむずすると同時に痛みが引いていく。すげぇな。治癒魔法。

 俺はしばらくその安心感に浸っていた。


 一分もすれば俺の口の中は完全に治っていた。

 マジかよ、本当にすげぇな、治癒魔法。

 俺が驚いていると、自分の仕事は終わったとばかりに妹はその場に座る。ペタンと女の子座りで。

 うん、目の前で。つまり、俺と向かい合う形で、しかも至近距離に座ったということだ。

 なんだ、こいつ? と思いながら見ると、妹の方はまたもポーっと虚空を見つめていた。こりゃあ、手遅れだな。自分に酔ってるタイプの中二病だ。

 俺は嘆息しながらそろそろ出来たであろうイルの方に手を差し出す。

 しかし、いつまで経っても俺の掌に骨が乗らない。

 何だと思ってそちらへ視線を向けると、


「…………」


 無言で俺を睨むイルがいた。しかも肉を両手で持った状態で。おい、そのポーズはなんだか乙女チックでおかしいぞ。……でもなんか妙に似合う……わけないか。

 まあ、それはいいや。それより肉。

 そう思って更に手をグイッと出す。

 

「……チアから離れろ」


 イルは俺の手に肉をのせることをせずに俺にまたも命令(・・)してきた。

 俺は人に命令されるのが大嫌いだ。地球では大した力もなく、上からの命令に嫌々従っていたが、今は違う。こいつらは奴隷だ。俺が上、こいつらは下というはっきりとした上下関係がある。

 殴ろうかと思ったが、そればっかりでもダメかと思い、考え直す。

 しばらく考えた後俺は声を発した。


「お前誰に命令してんのかわかってんのか?」

「ああ、兄貴、お前だよ」

「お前自分の立場忘れてねぇか? お前は奴隷、俺はその主人。ここにははっきりとした上下関係があるんだよ」

「そんなのしらねぇ。今はとにかくお前がチアから離れろ」

「はっ! 時には自分の立場と自分の置かれている状況を考えてものを言わないと酷い目にあうぜ」


 俺はそう言ってイルを見ながら妹へ手を伸ばす。

 イルはカッと目を見開いて憤慨しそうになったが、俺の言葉を思い出したのか体をプルプル振るわせるだけにとどまっている。


「…………ればいい」


 俺の手が妹へと触れる直前、イルが声を出した。

 俺は単純に聞こえなかったのでもう一度聞く。


「は? ちゃんとはっきりとした声で喋れ。叫ぶなよ」


 前の失敗があるから今度はちゃんと釘を刺しておく。

 イルは今にも泣きそうな顔で言った。


「どう、すればいい」

「人にものを頼むときはそういう態度ってもんがあるだろ?」


 鼻声で言われた疑問を俺は曖昧な答えで返した。曖昧と言っても普通は分かるけどな。

 イルは意味が分かったらしく、座ったまま頭を下げる。土下座ではない。普通に頭を下げた。


「どうすれば、いいですか……?」

「そう言う態度で俺にどうしてもらいたいか言えばいいんだよ。まあ、それを俺が聞くかどうかは別だがな」


 我ながらクソみたいな発言だと思う。

 だが、こんなことを言うやつがクソならば、俺はクソでいい。てか自覚してるし。

 俺の言葉を聞いて、イルは覚悟を決めたように声を出した。頭は下げたままだ。


「妹に、手を出すのは、止めてください……」

「うん、分かった」


 俺はやや被せ気味で即答した。

 それに妹に手を伸ばしたはいいものの、どうしようかとかは考えていなかったしね。

 俺の答えに何か不満があるのか知らないが、イルはバッと顔を上げて俺を珍妙なものでも見るような目で見てきた。


「そんな……簡単に?」

「何が? てか俺の答えに不満でもあんの? 妹に手、出して欲しいの?」


 なんか変なことを言ってくるので思ったとおりのことを言葉にして返してやる。

 イルはその言葉にぶんぶんと首を横に振る。どうでもいいが無駄に動きがキレてるな。

 とりあえず言うこと言ったし、こいつも立場を改めて認識しただろ。

 そう結論付けた俺は手を差し出す。

 

「……?」

「肉」


 イルが何のことか分からないような顔をしていたので簡潔に述べてやる。

 イルはそれが分かったのかすぐさま俺に骨付き肉の骨の部分を握らせてくる。

 俺は無言でそれを口へと運び、咀嚼する。うん、いい感じに冷めてるな。

 イルはしばらくボーっと俺の食うところを見ていて、ふと思い出したかのように呟いた。


「……妹の、近くに寄らないでくれますか?」

「断る。てか俺が動きたくない。近寄らせたくないならお前が注意しろ」


 そう言うとイルは妹の手を取り、俺から離れてたところで座るように促した。

 てかあいつ、意外に丁寧な言葉遣いできるのな。こんな小さいのに奴隷になるんだから無作法かと思ってた。あ、あのフードが売れるようにしつけたのか。いや、あの時は虚ろな目だったし、それを聞いたとは思えないんだが……

 ってどうでもいか、そんなこと。礼儀があるなら俺の機嫌も損ねなくていいってことで。

 俺はイルが自分の立場を改めて認識したことに満足しながら肉にかぶりついた。










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