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【第5話:トモダチ】


 悪魔によって告げられた新たな真実。

それは、悪魔はこの2年B組の中の誰かであるということだった。


その言葉を聞いた瞬間、教室では犯人探しが始まった。


「さっき悪魔は、自分はこのクラスの誰かだって言っていたよな。」

「ということは、今この中にもずっと悪魔がいるということよね……。」

「一体誰が悪魔なの……?もう、こんな馬鹿なことはやめようよ……。」


「おれさ、武者小路(むしゃのこうじ)が怪しいと思うんだ。」

「えー、私は渡瀬(わたせ)くんだと思う……。」

「いや、ああ見えて照屋が一番怪しいよ。あいつ、男子と話さないし。今まで消えたのは、みんな男子ばっかりだぜ。」


犯人探しは、だんだんエスカレートしていき、もはや決めつけになっていった。あいつが犯人に違いない。全てあいつのせいだ、と。


「おい、アドルファス。お前が悪魔なんだろ?早くおれらのこと逃がせよ。」


薬師川(やくしがわ)大二郎(だいじろう)武者小路(むしゃのこうじ)アドルファスに声をかける。


「Oh……ソンナ、どうしてそんなコト言うのサ……。」


武者小路アドルファスは日本人とアメリカ人のハーフである。小学校まではアメリカで生活していたということで、日本語は最近やっと話せるようになったところであった。まだまだ発音などは上手くない。


「お前、誰からも受け入れられなくて、このクラスに恨みもってんだろ?だから、クラスのみんなを消そうっていう考えになった。誰がどう考えても、お前が一番怪しいんだよ!」


薬師川が強い口調でアドルファスに言い寄る。


「ボク、デビルと違うヨ。ボク、そんなコトしナイね。」

「はぁ?うるせーな、ちゃんと日本語喋れよバーカ!」


「ちゃんと日本語喋れよ、か……。」


その言葉を受け、アドルファスは昔の母の言葉を思い出す。


「アドルファス、今年のクリスマスプレゼントは何が欲しい?アメリカでは手に入らないものも、日本にはたくさんあるのよ。」

「そんなものは要らないよ。アメリカでは当たり前だと思っていたものが、今はすごく欲しいんだ。」

「え?一体何が欲しいというの?」


 アドルファスは、中学1年生から日本での生活をスタートした。その時、まだ日本語は話せなかったが、日本は温かい国だと聞いていたので大丈夫だろうと思っていた。


「Hi! My name is Adolphus. Nice to meet ya!」

(やあ!私の名前はアドルファス。よろしくね!)

「え?なに?英語?英語わかんないんだけど…。」

「ここは日本なんだから、ちゃんと日本語喋れよ。」

「What…?」

(え、何……?)


 日本の中学生は、英語が分からない子が多かった。英会話などをやっている子も中には居たが、ネイティブの英語を聞き取れるような子は稀であった。アドルファスは、日本は温かい国だと聞いていたので、英語で話しても大丈夫だろうと考え、ガンガン英語で話しかけた。しかし、それが裏目に出てしまい、友達をなかなか作ることは出来なかった。


「あいつ、日本語も勉強しないで日本に引っ越してきたんだぜ。」

「どうせ英語が一番だと思ってるんだろ。」

「英語が一番なんだから、お前らが英語を話せよってことか。やだやだ。」


 アドルファスは悩んだ。友達が出来ない。だが、それを相談する友達すらも、この国には居ない。アドルファスは独りぼっちだった。


悩んだアドルファスは、日本語教室に通い日本語を習い始めた。


「はい、アドルファス。Repeat after me. “私は”」

「ワタシハ……。」

「“あなたと”」

「アナタ、トゥ……。」

「“友達に”」

「トゥモダチニ……。」

「“なりたいです。”」

「ナリタ…イデス……。」


「じゃあ続けて、“私はあたなと友達になりたいです。” はい。」

「ワタシィハ、アナタトゥモダチニ、ナリタイデス。」


「うーん。まだまだ練習が必要ね、アドルファス。」


 他国の言語を習うのは、簡単ではなかった。来る日も来る日も練習をした。

家では、両親は英語で会話をするので、その英語が日本語の練習の邪魔にならないよう、公園で一人、練習することも多かった。日本語教室がない日も、放課後は公園に行き、毎日ブランコに座りながら日が暮れるまで日本語の練習をする。本来であれば、クラスのみんなが友達と遊んでいるような時間である。


「ワタシハ……アナタトゥ……トモダチニ、ナリタイ。」


 日頃の懸命な練習の成果か、中学2年生にあがるときには、アドルファスはある程度日本語を話し、理解することが出来るようになっていた。しかし、時は既に遅かった。周りはみんな仲の良い友達同士で、グループが出来あがってしまっていた。アドルファスは結局ずっと一人だった。


そんなことを思い出し、アドルファスは教室を勢いよく飛び出した。


「な、なんや?えらい勢いで飛び出て行ったな……?」


前神がアドルファスの飛び出して行く姿を、少し微笑みながら眺めていた。

正義はそれに気がついた。


「前神。お前どうしてアドルファスが急に教室から出て行ったか知っているな?」

「…………。聞いてなかったのかい。薬師川だよ。フフフ……。」

「薬師川?」

「独りが……そんなに嫌なのかね。フフ……。楽でいいと思わないか。」

「何を言ってる?おい、薬師川。お前、なんか言ったのか?」


「別に……。ただ、お前が悪魔なんじゃないか、って言っただけさ。」

「なんやと?お前、何言うてるか自分でわかっ……?!」


勝が薬師川に近づいていくのを、正義が止める。


「よせ。相手にするな。それより、アドルファスを探そう。悪魔はこのクラスに居るっていうことだから、それを信じるのであれば一人で教室から出たところでそこまで危険はないだろう。だが、純粋にアドルファスが心配だ。」

「……そうやな。行こう。」

「待って。私たちも連れて行って。」

「みんなで探したほうが早いですわ。」

「千尋、真里菜。ありがとう。じゃあ、行こう。」


 こうして、四人でアドルファスを探しに教室から出て行った。


「みんな、酷いデス……。ボクはただ、みんなとトモダチに……。」


玄関で一人泣くアドルファスの前に、誰かがスッと廊下から現れた。


「ダレ…デスカ?」


その人は、全身を黒い服でまとい、頭にも黒い布を被っていた。布のせいで顔は見えず、男か女かは分からない。その人はゆっくりと手を出し、手招きを始めた。

危ないとは思ったが、アドルファスはその手招きにひかれていった。


「ボクを……呼んでいるの?こんなボクを……?ああ、初めてボクを呼んでクレタ……。


 ボクにも、やっとトモダチが……。」


――それは、去年の冬のこと。しんしんと雪が降り積もる中、母に英語でこう質問された。


「アドルファス、今年のクリスマスプレゼントは何が欲しい?アメリカでは手に入らないものも、日本にはたくさんあるのよ。」

「そんなものは要らないよ。アメリカでは当たり前だと思っていたものが、今はすごく欲しいんだ。」

「え?一体何が欲しいというの?」

「……トモダチ。」


――――


「おーい!アドルファスー!どこにいるんだー!」

「ん?なんか紙が落ちているぞ?」


正義たち四人が学校中を探し回り、最終的に玄関に着いた頃、そこにアドルファスの姿は無かった。その代わりに、紙が一枚残されていた。


そしてその紙には、赤い文字でこう書かれていた。


『武者小路 アドルファス、消滅完了。残り26人。』



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