【第4話:悪魔のスパイス】
悪魔の言うことは本当だった。
目の前で、確かに人が一人一瞬にして消え去った。それは、疑いようのない真実。
自分の目で見て確認してしまったことを、人はなかなか疑うことはできない。
悪魔は最後にこう付け加えた。
『神は七日で世界を作ったそうじゃないか。ならば、悪魔は七日で世界を消してみせよう。
制限時間は七日間。一人でも逃げ切れたら君たちの勝ち。全滅したら私の勝ちだ。
面白い結末を期待しているよ。
では、健闘を祈る。』
ブツッ……。
その言葉を最後に、放送が切れる音がした。放送が切れてからのクラスは大変だった。
「ほ、本当に……おれたち消されるんだ……!!」
「消されたら……死んじゃうの?私達……!」
「そんなの嫌……絶対嫌!!」
クラス中が大混乱に陥り、泣きだす子もたくさん居た。
「怖い……怖い……。」
照屋昭子が頭を抱えてふさぎこんでしまった。体は小刻みに震えている。そこに、正義が近寄って来た。
「昭子。大丈夫。犯人はこれをゲームだと言った。ゲームには必ず勝つ方法がある。心配要らないよ。」
「ま、正義くん…………。」
昭子は千尋と同じく、正義と小学校からの付き合いであった。名前の通りかなりの照れ屋で、人前で話そうとすると顔が真っ赤になって話せなくなってしまう。女の子とはやっとの思いで話せるが、男の子が相手となると、上手に喋ることはできなかった。それが彼女にとっては深刻な悩みで、どうにかしたいという思いが空回りし、逆に彼女が人と接することを邪魔していた。そのため、千尋ほど正義と仲良くはなかった。だが、正義の世の中にはそういう人間もいるという態度には、昭子も何度か助けられてきていた。おかげで、正義とだけは女の子を相手に話すときと同様には、話すことが出来るのだった。
「ふざけんな!!悪魔だか何だか知らねーけど、こんなゲームおれはやんねーよ!!」
「お、おい!待て鰐淵!今一人でどこかへ行くのは危険だ!!」
正義の声を無視し、鰐淵が教室から出て行ってしまった。
「追いかけるで、正義!おい、他のやつは教室から一歩も出たらあかんで!」
正義と勝は鰐淵のことを追いかけた。一人で行くよりは二人で行く方が安全だと考えたのだ。
鰐淵は、学校の玄関へ向かっていた。学校から出るつもりらしい。
ガチャン!ガチャガチャ……!!
「くそ!!なんでだ……開かねえ!!」
鍵がかかっているわけでもないのに、ドアが開かない。押しても、引いても、ビクともしなかった。そこに、正義と勝が到着した。
「鰐淵、ムキになったってあかん。みんなで協力して、脱出せな。」
「まずは、どうにかして外部と連絡を取ろう。もう教室から出てしまったことだし、一緒に職員室に行って電話が繋がるかどうか試してみないか。三人居れば、少しは心強い。」
鰐淵は、しぶしぶ正義と勝の三人で職員室に行ってみることにした。
「そっちはどうだ?」
「ダメだ、繋がらねえ。」
「こっちもあかんわ。この悪魔とかいうやつは、ゲームが終わるまでの七日間、おれらを一歩も外に出さんつもりやな。」
職員室で手当たり次第に電話を使おうとしてみたが、どの電話も繋がらなかった。
「でも、七日間もこの学校のやつが誰も帰らなかったら、外に居る親とかが心配して、すぐに事件になるんじゃねえか?」
「どうだろうな。外の様子もおかしいぜ。見てみろよ、あの空……。」
そういうと正義は窓の外を指さした。空は、今まで見たことのない濃い紫色の空をしていた。
「な、なんだありゃ……?!ここは本当に現実の世界かよ……?!」
「学校が現実の世界じゃないところに飛ばされたのか、あるいは学校の外が現実の世界じゃなくなっているのか……どうなっているのかは分からないが、悪魔はいとも簡単に人間を消すことができるやつだ。今更、何が起こっても不思議じゃないね。とりあえず、教室に戻ろう。みんなで集まっていた方が安全だ。」
三人は教室に戻り、学校の外へ出られないこと、電話が繋がらず外部との連絡も取れないこと、外の様子もおかしくて、助けが来るかどうか分からないことをみんなに話した。
「つまり、おれたちはこの悪魔が用意したゲームをクリアするしかない。悪魔から七日間逃げ切るというゲームを……。」
時間が経ち、クラスは徐々に状況を把握できるようになっていた。混乱も少し落ち着いてきた。
だが、不安な気持ちが消えたわけではない。教室に、嫌な空気が漂う。
「バカバカしい!!」
その嫌な空気を断ち切るように、正宗が喋り始めた。
「黙ってたって仕方ねえ。このまま消されるなんて、おれは御免だね。どうにか脱出できる場所を見つけて逃げ切ってやる。行くぞ、守、尚也、相馬。」
「お、おい!待て!どこに行くんだ!」
正義の声を無視して、赤芝、星田、森ヶ崎、雪竹の四人は教室から出て行ってしまった。
「どうする?また追うか?」
「いや、もう放っておこうや。一人で出て行ったんならあれやけど、四人一緒ならまだ安全。校内から出られないということがわかって頭が冷えたら、またここに戻ってくるやろ。それより、今後どうするかや……。」
その後、教室では今後七日間をどう逃げ切るかの話し合いがなされた。
しかし、解決策は見つからず、どうしようという言葉が繰り返し出てくるだけであった。
すると、突然聞き覚えのある嫌な音が聞こえる。
ガガッ……ブー……。
さっきの放送が流れたときにした音である。また悪魔が何かを話すのかと、クラス中が息をのんだ。
『皆さんにお知らせがあります。』
クラス中が一気に静まり返る。さっきの悪魔と同じ声である。
唾を飲む音が聞こえてきそうだ。少しの沈黙がすごく長く感じた。
その長く感じる少しの沈黙を破り、悪魔は言った。
『赤芝 正宗、星田 守、森ヶ崎 尚也、雪竹 相馬。
消滅完了。残り、27人。』
「え……!!」
「畜生……やられた!!」
せっかく落ち着きを取り戻していたクラスが、またパニック状態に戻っていく。
今度は、一気に四人が消えた。男子の驚きの声と、女子の悲鳴が入り乱れる。
『ゲームを面白くするために、ひとつ良いことを教えてあげよう。
逃げ切るヒントにするがいい。』
この悪魔のゲームを面白くするためのヒントが、クラスをよりパニック状態へと誘い込む。
『悪魔は、この2年B組の誰かだよ。』