【第3話:一日目、残り31人】
六時間目の授業も終わり、みんなはやっと帰れるという喜びの中にいた。
「今日、帰りに一緒にメシでも行かへんか?」
「ああ、いいよ。」
正義と勝がそんな他愛もない会話をしていたところに、力本先生が教室に入ってきた。
これから帰りのホームルームが始まる。力本先生が教壇に立ち、話をしようとしたその時だった。
ガガッ……ブー……。
突然、教室にあるスピーカーから音がした。
スピーカーから物音がしたということで、誰もが校内放送が流れるのではと考えた。みんなが放送に耳を傾ける。すると、機械か何かで声を変えているような、肉声とは少し違った声が聞こえてきた。
『こんばんは。2年B組の皆さん。帰りのホームルームにはまだ早い。
面白いのは、これからなんだからね。』
「……一体なんですの?」
力本先生をはじめ、クラスのみんなはこの放送が何を意味しているのか全く分からなかった。そこに、続けて説明が加えられる。
『今から私とちょっとしたゲームをしよう。』
「ゲーム……?何のことや?というか、この放送をしとるやつはどこの誰や……?」
クラスが少しざわつき始めた。だが、そのざわつきを、次の一言が一瞬で静寂に変えた。
『これから、君達には消えてもらう。』
「……?!」
クラス中の人が目を見合わせた。今、この放送は確かに自分達に向かって言ったのだ。
消えてもらう、と。
『私は、君たちを簡単に消すことができる。
君たちは、私に消されないように逃げる。ルールはただそれだけ。簡単だろう?』
ルールは、ゲームというにはあまりに単純で、単なる鬼ごっこと何ら変わりは無い。
だが、自分たちが消えるということに誰もがあまりピンと来ていなかった。
「消えるって、どういうこと?」
「死ぬってことか……?」
「どういうこと?この放送をしている人は誰なの?」
様々な疑問がみんなの頭の中を飛び交う。数々の疑問をよそに、放送は淡々と続けられる。
『私は悪魔になる契約を交わした。私は悪魔だ。』
「おい、正義……。なんか、おかしないか?」
「あぁ。何やら様子が変だ。この事態に教室の外が、やけに静かすぎる……。」
正義と勝はその異変に勘付いていた。
しかし、力本先生は誰かのイタズラだと思っていた。放送室に行って犯人を捉えようとした。だが教室を出た瞬間、力本先生もすぐに異変に気がついた。
「他のクラスに人が……誰もいない……?」
教室の外には、さっきまでの騒がしかった学校が嘘のような静けさが広がっていた。隣の教室には、人が誰もいない。だが、荷物などは全て残っている。その荷物や机、椅子の無造作な並びが、さっきまでそこに居た人達が、突然消え去ったということを表しているようであった。
2年生のB組以外のクラスはもちろん、1年生も3年生も全クラスの生徒と教師が1人残らず居なくなっていた。いつの間にかこの学校には、もう2年B組しか居なくなっていたのだ。
「い、一体どういうことだ?!」
「誰なんだテメーは!!」
驚きを隠せない力本先生の後ろで、鰐淵が声を荒げる。しかし、その問いに答えは返って来なかった。
「い、一体誰のイタズラだ!!もし犯人がどこかで私たちを見ているのなら、早いこと出て来なさい!」
力本先生は怒っていた。まだ誰かの手の込んだイタズラだろうと考えていたのだ。いや、イタズラであってほしいと考えていたのかもしれない。それは先生だけではなく、生徒も同じように考えていた。
あまりに非現実的過ぎる出来事で、イマイチ現実味がなく、そう簡単には信じられなかった。信じたくなかった。平凡な日常に慣れ切っていた人たちにとって、今目の前で起こっている出来事は、容易に受け入れられるものではなかった。
しかし、そんなクラスに対して、まだ分からないのかと言わんばかりに、悪魔は容赦なく現実をつきつけてきた。
『じゃあ手始めに、まずは一人消してみせようか。』
パチン……。
「え……?」
パチンという音が鳴ったと同時に、クラスの全員が見ている前で、一人の人間が確かに消えた。
消えるまでは本当に一瞬で、まるで最初から居なかったのではないかという錯覚に陥るほどであった。
その最初の犠牲者は……。
「せ、先生……?」
『力本 勉、消滅完了。残り31人。
――――さあ、ゲームスタートだ!』