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【第17話:ラストスパート】






『弓部 明美、消滅完了。残り11人。』



「え……?!」


 それは、七日目の夜のことだった。ゲーム最終日の七日目。その日は朝から何もない一日であった。悪魔はゲームを諦めたのでは……と思うほど、穏やかな一日であった。

夜に、その放送が流れるまでは。

 悪魔の校内放送から、まさかの事実が告げられた。正義たちが悪魔だと考えていた弓部が消されたという報告であった。


「弓部が悪魔じゃない?じゃあ一体誰が……。まさか……。」

「おい正義……。もしかしたら、おれらはとんでもない思い違いをしとったんとちゃうか……。」


そんな中、香がバタバタと慌ただしそうにしている。


「ねえ、雅美のこと……誰か見なかった?さっきまでは居たんだけど……いつの間にか居なくなっちゃってて……昨日の夜から何もないから油断したのかも……!!」


香たちが困惑していると、あの声が聞こえてきた。しかし、いつもと違うのは、それがスピーカーを通していないということである。


『見たよ。』


「…!!お前が…悪魔か!!」


ステージの上に突然黒い服を着た人が現れた。このゲームの諸悪の根源。悪魔である。


『もう、今日で七日目だもんねえ。このゲームを、終わらせにきたよ。』


みんなが悪魔の方を見つめる。動揺した頭をフル回転させ、今どうするべきか考える。

焦っている姿を見て、悪魔がフフンと笑って話を続ける。


『指山 健太、村主 武彦、薬師川 大二郎……和泉 雅美。消滅完了。残り7人。』


「クソッ……!!ついに雅美まで……!!」


『さあ、残り10人を切ったよ。逃げ切ってごらん。』


 遂に、悪魔の大量消滅が始まった。

残り7人。その7人とは、正義、勝、真里菜、千尋、鰐淵、妻鳥、香である。

つまり、この体育館に残っている者で全員である。


「このままやとあかん!!みんな一気にお陀仏や!!」


「どこかに逃げないと…でも狭いところだと捕まる……!!どこか広いところは……!!そうだ!!」


正義はひらめいた。


「みんな急げ!!屋上だ!!」


 学校から出られない以上、室内では体育館が一番広い。しかし、そこに悪魔が現れてしまった。夜が明ける時間まで、ここで逃げ切ろうという考えは通用しなかった。

かと言って、他の教室などでは狭すぎてすぐに捕まってしまう。そう考えた結果思いついたのが、屋上であった。

 この学校の構造だと、体育館よりも屋上の方が広い。ただ、屋上へ続くドアの鍵が開いているかどうかは賭けだった。しかし、このまま体育館で黙ってやられるよりは逃げ回って夜が明けるまでの時間を稼ぎ、そちらに賭けてみようということになった。


次々にみんなが体育館から逃げて行く。


『逃がさないよ。』


悪魔がそれを追って体育館を出ようとする。

しかし、それを妨げる人が居た。


「待て!!このクソ悪魔!!!」


鰐淵が、体育館の入り口に立ちはだかり、悪魔の行く手を阻む。


「ヤロォ……。来い!おれが相手だ!!」


『時間稼ぎぐらいになるといいね、鰐淵くん。』


悪魔と鰐淵が対峙する。


「鰐淵くん……か。信じたくなかったけど、お前はやっぱりB組のやつなのかよ……。」


『最初からそうだって言ってるじゃないか。』


鰐淵が、拳を握りしめる。


「何が……原因なんだよ……。」


『分からないのかい?

 そのことこそが大きな原因なんだよ。』


鰐淵を除いた六人は、屋上へ走って向かう。途中、妻鳥が鰐淵が居ないことに気がつく。


「あれ?!鰐淵は……?」

「まさかあいつ、一人で足止めを……!!」

「えっ!!そんな!!わ、私戻るよ!!」

「ダメだ妻鳥!!戻るんじゃない!あいつの覚悟を踏みにじるな……。おれらは逃げ切らなきゃなんねえんだ!!」

「んなこと……わかってっけど……でも……

 ……鰐淵ー!!!」


妻鳥の声が学校に響き渡る。悪魔は確実に近づいてきている。


『フフフ……。残り、6人だね。』



――



「来た!悪魔だ!!」


学校を走って逃げるみんなのもとに、悪魔が追いついてきた。


「悪魔がここにいるということは……。」


妻鳥が一人立ち止まる。


「おい!!お前!!」

『……?』

「……鰐淵は?」


悪魔はそれを聞いてニンマリと笑った。


『消滅、カンリョー。』

「悪魔め……!!」


妻鳥は今すぐ殴りかかりたい気持ちを抑えて悪魔に尋ねる。


「あんた……どうしてこんなことするの?」

『聞いてなかったのかい。私は辛かったのだ。でも誰も助けてくれなかった。だから復讐しようと思ったのさ。』


あっけらかんと話す悪魔に、妻鳥の怒りは限界に達していた。


「フザケんじゃないわよ……。人間ね、みんな辛いことあるのよ!それでも、みんな頑張って生きてるの!辛いのはあんただけじゃないのよ!!あんた、それがわかんないの?!」


『私の辛さが、お前にわかるのか?』



――



「……。」

「ハァハァ……どうした?香……。」


後ろを気にする香を正義が気にかける。


「そろそろなようね……。」


香がその場に立ち止まり、持っていた本を床にそっと置いた。


「お、おい、香……どうした?!」

「なんや、どうした正義!!急ぐで!!」

「待ってくれ!!香が……!!」


正義は香が急に止まったことに戸惑った。

しかし、香はこの状況で驚くほど冷静だった。


「いいから、あなたは先に行きなさい。人生は小説と同じ。人間誰しもそれぞれ登場人物としての役割がある。私の役目はここにあって、あなたの役目はまだ先にある。ただそれだけのことよ。」

「香……。」

「来るわよ!早く!」


正義は、苦渋の決断で屋上へ向かう。

そして正義が行ってすぐに、悪魔が香の目の前に現れる。


『どいつもこいつも一人ずつ……。時間稼ぎのつもりか?』

「悪魔さん、初めまして。いや、あなたがB組の誰かなのなら初めてではないのよね。」

『ああ、そうだね。米窪さん。君は小説を読むのが好きだったね。私の正体が気になるかい?』

「いいえ、ちっとも。だってこの物語は、ちっとも面白くないんだもの。」

『なんだと……?』

それを聞いて悪魔の声色が変わる。


「あーあ、全く、なんて面白くない物語を見せてくれるのかしら。」

『私のこのゲームが……面白くないだと……?』

「ええ、そうよ。あなたは何も分かっていない。」

『……お前に私の何がわかる!!!』


悪魔が勢いよく手を香の方へ向ける。その動きに悪魔の怒りが凝縮されていた。


「この面白くもなんともない物語も、もう終盤……。大切なことに気付くのは、いつだって失ってからなのよ。そろそろ大切なことに気付くには、ちょうどいい頃じゃない?」


――


「おい、正義。」

「……。」

「お前ももう気付いたんやろ?おれたちがしていた思い違いに。」

「ああ。おれたちはずっと、2年B組の生き残りの中に悪魔がいる、と思っていた。でも、違う。」


2人の意見は同じだった。


「悪魔は、今まで消えた人の中にいる!」



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