【第16話:決戦前夜】
『そろそろ私が誰か、わかった人もいるんじゃないですか?』
悪魔の言う通りであった。このゲームでは、進むにつれて人数が減っていく。
悪魔が徐々にしぼられてくるのだ。人数が減れば減るほど、お互いを疑う目は強くなる。
体育館にいる八人で、話し合いが始まった。
「残っとるのは12人。この中に悪魔がいるはずや。」
「まず、おれの考えを話していいか。」
正義が手を挙げる。みんなが静かにうなずいた。
「おれは、まず悪魔がおれたちを消す方法が知りたかった。
いつどこに居ても消せるのか、それとも消すには何か条件が必要なのか。
そこで、おれと勝、そして真里菜と千尋はこの体育館からなるべく出ないようにしたんだ。」
「へー!!なんでー!!?」
雅美がいつものテンションで質問を投げかける。
「おれたち四人が体育館にいて見張り合っていれば、この四人の誰かが消されたときに条件の有無がわかると思ったからだ。」
「なるほどー!!で、何かわかったの?!」
「いや、何も分からなかった。
体育館に居た人は、誰も消されなかったからな。
だが、雅美と香が体育館に来てくれたおかげで、あることが分かったよ。」
「あること…?」
香が、本を読む目線を正義の方に向ける。
「ああ。君達は、悪魔が現れたと言った。
つまり、悪魔の姿を見たんだな?」
「ええ、そうよ。それが何か?」
香がまた本に目線を戻してしまう。
しかし次の正義が言ったセリフで、香は本を閉じることとなる。
「ということは、悪魔は姿を現わさなければ、人を消せない可能性が高い。」
「……どういうこと。」
香がパタンと本を閉じて正義の方を見る。
その質問に答えたのは真里菜だった。
「もし、悪魔がいつでもどこからでも人を消せるとすれば、わざわざ正体がバレたり捕まえられたりするリスクを背負ってまで姿を現すことなんてないってことですわ。」
「そういう能力がありながらも、面白半分で姿を見せたという可能性は?」
香も真剣に話し合う気になったようであった。
「もちろんその可能性も、あるにはある。
ただ、雅美と香が一度会ったにもかかわらず逃げ切れたということを考えると、直接会って何かをしなければ消せないという可能性が高いとおれは思う。」
「と、言うことはや!!
その仮説が合うてるもんと仮定すると……この体育館に居ったやつは、悪魔ではない。
おれらは、お互いを見張りあってた。体育館から出ることはほぼ無かった。
せやのに、次々とみんなは消されていった。
つまり、体育館にいたおれらは、みんなを消すタイミングが圧倒的に足りないっちゅうことや。」
「そ、そんな……私達は納得いかないわよ!」
香は大きな声を出す。
「うん、そうだよね。
私がもし香ちゃんの立場だったら、そう言うと思う。
でもね、私達は、香ちゃんと雅美ちゃんも含めたみんなで悪魔に勝ちたいの。」
千尋が香の目を見て話す。その千尋の目は真剣そのものだった。
「体育館にずっといた者、おれと勝、真里菜と千尋、そして鰐淵と妻鳥も悪魔じゃない。
それに、雅美と香も悪魔ではないと信じている。
でなければ、そもそもおれらの仮定が成り立たないからな。」
「なーるほどー!!
じゃあ、だーいぶ悪魔の可能性がある人が絞られるねー!!!
指山に薬師川に、村主……。
あれー?今ここに居るのは8人だよねー!!
今居ない男3人を合わせて11人ー!!
でもさっき残っているのは12人って……。」
雅美がそういうと、すぐさま勝が返事をする。
「ふざけてる場合ちゃうぞ。忘れとるわけやないやろ?
クラスで一番、ようわからんやつ……。」
「 弓部 明美。 」
正義がその名前をあげる。
ここに来て、弓部の名前があがってきた。
彼女は体育館でクラスがバラバラになって以来、誰も姿を見てはいない。
「弓部が確実に悪魔だという話ではない。
だが、可能性が高いことも確かだ。
あと今日と明日で、悪魔は確実におれたちを全滅させようと仕掛けてくる。
逃げ切るために、用心するに越したことは無いだろう。」
「じゃあ、今日も体育館からなるべく出ないということを続けましょう。
そして、こんなおバカなゲームにみんなで勝つのですわ。」
体育館組の中で、悪魔の可能性が高いのは弓部明美。
そういった推理のもと、体育館で残りの日が過ぎるのを待った。
ゲームが終わるまで、今日を含めてあと二日。
残っているのは12人。
しかし、ここに来てクラスメイトの消滅がパタリと途絶えた。
妙な静けさが学校を漂っていた。
その日は、夜まで何も起こることはなかった。
「なんだか逆に不気味ですわ……。」
「ああ。でも、確実に何かが始まるぞ。嵐の前の静けさだな。」
夜、寝る前に体育館組が集まる。
「明日で、最後だな。」
「ああ。明日が勝負や。」
正義がみんなの顔を見回す。
「勝、真里菜、千尋、鰐淵、妻鳥、雅美、香。
必ず、みんなで逃げ切るぞ。」
そしてこのゲームは、いよいよ最後の一日を迎えることとなる。




