【第13話:悪魔がゲームを始めたワケ】
『ここまで逃げ延びている皆さんには、特別に教えてあげましょう。
私がこのゲームを、始めた理由をね。』
四日目が終わりに近づいた頃、悪魔は校内放送で突然そう言い出した。
悪魔がこのゲームを始めた理由。
「なんやこいつ……!自分語りかいな……!!」
「いや、待て勝。これはチャンスかもしれん。おれらは悪魔と同じクラスで今まで学校生活を過ごして来たんだ。このゲームを始めた理由を聞いて、そういうことを考えそうな人は誰かを考えれば……。」
「そうか!悪魔を特定するヒントになるかもしれないっちゅうことやな!」
二人は誰よりもクラスの人をよく見ている自信があった。特に誰とでも仲良くできる正義は、悪魔がゲームを始めた理由を聞けば、誰が悪魔か大体の予想はできるだろうと考えていた。
そして、悪魔は語り始めた。
『私は消えてしまいたい、と思ったのだ。毎日が辛くて、辛くて、仕方がなかった。誰も私を助けてはくれなかった。みんな、自分が良ければそれでいいのだ。私は、孤独だった。
それならいっそ、私は消えてしまおうと考えていた。』
『でも、私は気付いた。』
『苦しんでいるのは私の方なのに、なんで私がわざわざ消えなくてはいけない?
私を苦しめた人たちはのうのうと生き、一番苦しんだはずの私が消える。』
『そんなの、おかしいじゃないか。』
『だから、私がみんなを消すことにしたんだ。』
「なんやそれ……。つまり、このゲームは……。」
『そう、このゲームは、私を助けてくれなかった君達への……。』
『 復讐だ。 』
ブツッ……。
力強くそう言うと、悪魔の校内放送は切れてしまった。悪魔がこのゲームを始めた理由。
難しいことはなかった。苦しんでいた自分を助けてくれなかったことに対する怒り。それが悪魔を動かす要因であった。
「おれたちへの復讐……。」
「何が復讐や!ただの逆恨みやないかい!!」
勝は怒りをあらわにしていた。その一方で、正義は何かを考えている様子であった。
「とんでもないおバカさんでありますわ。」
真里菜もひどく怒っていた。しかし、千尋は違う様子であった。
「でもさ……。そんな人、私達のクラスにいたかな?」
その質問により、沈黙が流れる。誰も、そんな人に心当たりはなかった。
「ということは、その人が苦しんでいることに、気がついてあげられなかったということだよね。誰からも助けられずに、そのことも誰にも言えずに、ずっと一人で苦しんでいたんだよね。もちろん、だからってこういうことをしていいわけではないと思うの。でも、なんだか少し、可哀想……。」
四人の間に重たい空気が流れる。悪魔は、誰からも気づかれなかった存在。
何か悪魔を特定するヒントになればと意気込んでいたが、それがヒントにならなかったことが四人にとってはひどくショックなことであった。ヒントが得られなかったということだけではなく、自分たちが楽しく過ごしていたクラスに、そういった深い闇を抱えた人がいたということ。そして、何よりそれに全く気がつかなかったということが、どうにも残念で仕方がなかったのである。
「あんまり、ヒントにならんかったな。」
「あぁ。何か有益な情報を口走らないかと思っていたが、悪魔を特定するヒントもなければ、おれたちを消している手段に関するヒントも特に無かった。」
「消している手段?」
勝が聞き返すと、正義がそれに答える。
「ああ。実は一つ、気になっていることがあるんだ。だから、悪魔がおれたちをどうやって消しているのかが気になって。何か魔法のようなもので消しているのか、それともおれたちにも出来るような方法で消しているのか……。」
「まぁ確かに、悪魔の消し方がわかれば、消えることを防げるかもしれへんしな。おれはこんな世界に巻き込まれた時点で、魔法のような何かで消されてて、防がれへんもんかとずっと考えとったけど、もしかしたら手品みたいな種や仕掛けのあるもんかもしれへんな。」
「そうだな。おれもこの世界に巻き込まれた時点で、もう何が起きても不思議じゃないと思ってるよ。でも、もしそうだとすると――……。」
――場所は変わり、ある教室ではさっきの悪魔の校内放送を聞いて、一人の女の子が怒っていた。
「何よ、この悪魔!!自分が苦しかったなら、助けてって言えば良かったじゃない。」
怒っているのは直子だった。それを聞いて、沙綾が直子をなだめる。
「まあまあ、落ち着いて。直子の言うことはその通りだと思うよ。でも、誰もがそうやって言えるわけじゃないと思うの。どうしようもなく苦しくて、誰かに気付いてほしくても、話せないことってあるのよ。私だって、あいつに……。」
沙綾が途中まで話したところで、話すのをやめた。
「え……?あいつって、柏木くんのこと……?」
柏木くんとは、沙綾の今付き合っている彼氏である。柏木くんは隣の中学校に通っている。小学校の頃から仲良しであったが、中学校は別々になってしまった。別々になったことでお互い自分の想いに気付き、めでたく1年生のときに付き合ったのだ。
沙綾は、しまったという顔をして直子と反対の方を向く。その反応を見て、直子はあることに気がつく。
「沙綾、もしかして……
柏木君に、まだあのこと話してないの?」




