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【第9話:もしも生まれ変わったら】


ガガッ……ブー……。


『おはようございます、皆さん。いよいよゲーム二日目ですね。昨晩はよく眠れたでしょうか。』


朝から悪魔の放送が学校中に流れる。一瞬にしてみんなの意識が一つになる。


『さて、皆さんにお知らせがあります。二日目の朝にして、六戸 大吾、猫屋敷 青子、喜田 将也、消滅完了。残り21人。』


「また……消された……。」

「どうすりゃいいんだよ……。」


クラスの人が着々と消されていく恐怖。消されたくない、と誰もが考えていた。

 しかし、愛場加奈の一言がその場の空気を変える。


「私のことも、早く消してくれないかな。」


一瞬、誰もが聞き間違いではないかと考えた。

聞き間違いではないことを何度も頭の中で確認し、鰐淵が動き出す。


「お前……本気で言ってんのかよ……?消えたやつらの気持ち考えろよ!!」

「なによ、あんたいつもいつもそうやって大きな声で暴言や暴力ばっかり。ろくに勉強もしないで、さぞ毎日が楽しいんでしょうね。」

「愛場……?」


さすがの鰐淵も、普段と雰囲気の違う加奈に怖気(おじけ)づく。


「あんた、その横暴な態度でクラスで一番嫌われてるくせに。一番に消されそうなのにここまで残ってるだなんて、あんたが悪魔なんじゃないの?」

「加奈、言い過ぎだぞ。」


正義が見かねて止めに入る。


「……ごめん。」


いつもの元気な姿とは対照的に、今にも消えそうな声でポツリと謝ると、体育館から出て行ってしまった。


「私、行って来るね。」

「ああ、頼んだよ、千尋。」


千尋が加奈のことを追いかける。

その姿を、前神は体育館の隅でニヤニヤしながら眺めていた。


「前神……?なんやあいつ。そういえば昨日もニヤニヤしとったな……。」



二人は階段に座って話をしていた。

「ごめんね、千尋。心配かけちゃって。」

「ううん。大丈夫。でも、加奈がそんな風になるなんて、何かあったの?」


「私ね、お父さんがお医者さんで、お母さんが看護士なの。それで、二人とも私を医者か看護士にしたいらしくって。それ自体は嫌じゃないの。ただ、勉強して頭の良い高校に行きなさいって言うんだけど、全然成績が伸びなくって。」


そう言うと加奈は更に今より少しうつむいて話を続けた。


「そのことでいつもお母さんと喧嘩ばっかり。もう、嫌んなっちゃって。あー、もういっそのこと、消えちゃいたいな、って思ってたんだ。」


「そっか……。勉強、大変だよね。私もこの前のテスト悪かったんだー……。

 そうだ、このゲームに勝ったら、一緒に勉強しようよ!嫌なことでも、友達と一緒なら楽しいと思う!」

「千尋……。そうだね!そうしよう!!」


 そんな約束を交わし、二人の会話は盛り上がる。

それからしばらくは、他愛もない会話で盛り上がった。

そうして、会話にひと段落がついたときだった。


「千尋……。」

「うん?」

「ありがとうね。」

「ううん。さ、みんなのとこ戻ろ。」

「うん。」


そうして二人は体育館に戻ってきた。


「鰐淵、さっきはごめんね。私が悪かったよ。」

「フン。よくわかんねえけど、お前も大変なんだな。わかってやれなくて悪かったよ。」

「フフ……鰐淵って謝るんだ。」

「あぁ?!人が素直に謝ったらうるせえな……!!」

「アハハ、ごめんごめん!」


 その日の夜。

夜中に起きた加奈がトイレへ行く。


「あ、鰐淵。今見張りの時間?ちょっと、トイレに行って来るね。」

「おう、気をつけろ。なんかあったら叫べよ。」

「うん、ありがと。」



加奈が手を洗ってトイレから出ると、そこには黒い服を着た人が立っていた。

「まさか……悪魔……?」


黒い服の人は静かにコクリと頷く。


「ハハ……そっか、消されちゃうんだ、私。」


加奈の足が震えている。


「変だよね。いざ、本当に消えるとなると、怖いんだもん。軽々しく消えたいだなんて、言うもんじゃないなぁ。お父さん、お母さん。最後まで馬鹿な娘でごめんね。」


悪魔が、片手を加奈の顔に向ける。


「もしも生まれ変わったら、今度はもっと頭の良い子に生まれたいな。頭が良くて、可愛くて、スタイルも良くて。今とは、全然違う人生を送るんだ。」


加奈が少し下を向く。


「でも……。」


下を向いた加奈の目から、たくさんの涙がこぼれ落ちる。


「でもその時も、またお父さんとお母さんの子どもがいいな……。」


パチン……。



 しばらくして、見張りの鰐淵が加奈の帰りが遅いことを心配し始めた。

トイレにしては、どう考えても遅かった。鰐淵は、見張りを任せ、探しに行くことにした。


「おーい!愛場!おーい!」

「……どうしたんだい?」


誰かが突然、鰐淵の後ろから話しかける。


「うお!!……なんだ前神か。いきなり出てきたらビックリすんだろ。

 ところでお前……こんなところで一人で何してるんだ?」

「別に……。ただトイレに来ただけだよ。フフフ。」


「トイレ?あ、そうだ!お前、愛場見なかったか?トイレに行ったっきり帰ってこねえんだよ。」

「愛場さん?……見てないねえ。」

「おかしいなぁ……。じゃ、おれ愛場探しに行くから!早く体育館戻っておけよ!」

「……フフフ。ああ。」


 前神はいつものように不敵な笑みを浮かべながら、体育館へと戻っていった。

鰐淵は、その後も加奈を探し回る。一階のトイレ、二階のトイレにも行った。そして、三階に上がり、トイレに向かおうとした時のことであった。


「な……なんだよ……これ……。」


三階にあがって一番初めに目に入る窓ガラス。そこに大きな赤いスプレーのようなもので、落書きがされてあった。


『愛場加奈、消滅完了。残り20人。』


「う、う、うわあああ!!!」


鰐淵は、大きな叫び声をあげながら体育館へ戻って行った。


「ど、どうしたの?鰐淵くん、そんな大きな声を出して……。」


千尋をはじめ、眠っていたクラスの人達が起き出した。


「貝山……あ、愛場が……愛場が……!!」


鰐淵と共に、みんなで三階に向かった。

そして、その落書きをみんなで確認することとなる。


「そ、そんな……加奈……。

 一緒に勉強しよう、って言ったのに……。」

「クソ、これでもう残りは、ここにおる20人だけってことや。そして、この20人の中に、怯えるおれらを近くで見ながらクスクス笑ってやがる悪魔がおると言うことや!!」


20人が顔を見合わせる。

お互いがお互いを、悪魔だと疑っている。


「確かにそうだが、今日はもう体育館に戻って寝よう。疲れていては、頭が正しく回らない。感覚だけで誰かを悪魔と疑うのは、無意味な犠牲を増やすだけだ。」


こうして正義の一言により、その日はとりあえず眠りにつくことにした。


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