遅刻魔の私
「いつも遅いんだよ、バカ。」
今日も友人を待たせてしまった。私の大切な友人である。親友というものがどういうものか私にはよく分からないが、誰か1人あげてくれと言われたら、こいつをあげるだろう。
私は本当に遅刻魔で、いつも遅刻ばかりしていた。悪いことだとは分かっているのだが、どうしても時間ギリギリになってしまい、結局遅刻してしまう。友人はもうそれに慣れた様子で、口では文句を垂れながらも、そんな私を許してくれていた。
友人とは、よくドライブに出かけた。運転はいつも友人がしてくれていた。いろんなところに2人で行き、本当に楽しい日々を過ごしていた。その日も、友人の運転でドライブに出かけていた。
山の中にある片側一車線の道で、ひどく狭い道だった。すれ違う車との距離がすごく近くて、いつぶつかるかヒヤヒヤものであった。でも、よくドライブに連れて行ってくれる友人は、そんな道も平気であった。
いつものように2人でドライブをして、いつものように2人で帰る。そんなドライブを想像していたのだが、その日は違った。私達の車の前に、猛スピードで逆走してきた車が突っ込んで来たのだ。
私達の車はその車と正面衝突した。何故逆走していたのか理由は分からない。何故なら、そのドライバーは亡くなってしまったからである。そして、私の友人も。即死だった。
私はと言うものの、直撃を避け、エアバックが作動したのもあり、大した怪我を負うことはなかった。だが、友人といつものように2人で帰ることはなかった。
これは、後から警察の方に聞いた話なのだが、ぶつかり方が少し不自然だったという。私達の車は左側の道路を走っていて、逆走してきた車に出くわした。人間は、とっさの時に普通は自分が助かるように、空いていた反対車線、つまり右側の道路に反射的に逃げようとするものだという。しかし、私達の車は、左側の路肩に逃げようとしていたのである。
「左側に逃げてしまったから、運転手がモロに逆走車の衝撃を受けてしまったんだね。
でもまっすぐ正面衝突していたら2人ともどうなっていたか分からないし、もし反射的に右側の道路に逃げようとしていたら、そのときは君が死んでいただろうね。」
その言葉で、私は気付いた。そうだ。友人はきっと、私を守ってくれたのだ。そういう友人であった。なんだかんだ言いながらも、いつも私のことを考えてくれている。こんな私に、本当に優しくしてくれた。こういう関係を、世間は親友と呼ぶのだろうか。
……親友よ。先に逝ってしまったことは本当に悲しい。
私がそっちに逝くのには、もう少し時間がかかりそうだ。
私がそちらの世界に行ったとき 「遅いんだよ、バカ。」と
またいつものように言ってくれますか。
どうしようもない遅刻魔の私を、再び叱ってくれますか。
それまで、しばしのお別れです。
お互い寂しいことと思う。でも、待っていてくれ。
早い遅いの違いはあれど、私も必ずそこに行くから。
その時には、また ドライブにでも行こうな。