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東方神語  作者: 朱莉
神語
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悩語り






まさか呼んですぐに来ると思わなかった。あいつはここに着いて早々天照様のもとを訪れその足でここまで来てくれた。丁度今なら神奈子は居ないし都合がいい。


今頃神奈子は天照様と呑んでいる頃だろう。

私はあの二人と呑める気がしない。一人はワクだしもう一人は絡み酒、酒好きでもなければ行きたくもない。



あいつは私に砂糖菓子を渡すとあの子の場所だけを聞いてその場に向かっていった。

頼んだ通り話しに行ったのだろう。これであの子が少しでも楽になってくれればいいんだけど……。


あいつが見えなくなって暫くしてドタドタドタと忙しない足音が聞こえる。大方、驚いたあの子が必死になって接客しようとしているんだろう。


先ほどもらった菓子を指で弾き口に放り噛み砕く。カリッと小気味よい音が響いた。

確か金平糖って言うんだっけ? あの子は星の様だって言って喜んでた。

飴細工だから光が反射して綺麗だと思う。あいつって存外器用な奴だよなぁ、とどうでもいいことばかりが頭に残る。

いや残していいんだ、今はどうでもいいことばっかり考えよう。なんか考えとかないと気になってしょうがない。

明日は何をしよう。

神奈子はいつ戻るんだろう。

天照様今日は酔いつぶれませんように。

そう言えば茶請けが切れそうだった。


……あいつには迷惑かけっぱなしだなぁ。きっと迷惑とも思ってないんだろうけどさぁ。


狸寝入りってバレるのも億劫だから本気で寝てしまおう。なぁに特に予定なんてないから問題はない。

仮にあったとしてもどうにでもなる。

邪魔者も今日に限っては一切ないだろうし、いつも仕事に仕事なあの子にとってはいい薬(いい迷惑?)だろう。

あいつが何か問題を起こすわけもないだろうし……。とか妖怪相手に思う日が来るとは思わなかった。

というかあいつが来てから思うのも酷い話だが、そもそもあの子の悩みが恋路なのかって今更なのか思ってしまった。


さて寝るか。



■  ◆  ■  ◆  ■  ◆



「お茶を出しますので少々お待ちください」



いきなり来た私にそう告げ早苗は去っていく。

唐突な訪問なのだからそこまで気を使わないでもいいと、そう答えようと口を開く頃には視界から外れていた。

「あ」と薄く声を漏らし手は虚空をきるが相手はいない。軽くため息を漏らすが突然の来客に対応してくれているのだ、文句など一つもない。

縁側に移動し足を垂らす。思い悩む彼女と向かい合って話すより受け流す程度に話せればいい。私はそう思う。


暫くして息を多少乱れさせつつも早苗はお茶を持ってきてくれた。

急いで持ってきてくれたのだから美味しく頂くとしよう。



「今日はどうしてこちらに?」

「天照にお菓子をせがまれてね。待たせては悪いと思って来た次第だよ」

「な、なるほど」



目に見えて肩に力が入っている早苗に苦笑しつつ話をする。

視界はずっと正面を向けたまま話す私に早苗は合わせてくれているのか同じように正面を見ていた。


諏訪子から話された内容については何も考えないことにした。

詳しく聞かされてないうえに話を聞くだけでいいとも言われた物だ。濁された部分だけで理解しようと思ったが土台無理な話なのだ。私の場合、考えれば考えるほど視野が狭くなる。

だから相談されたことなんて一切考えず適当に話そうか。そう所謂世間話というやつだ。



「そして来てみれば天照は加奈子と酒飲をしていてね。すぐに帰るのも味気なくて話し相手になってもらったって訳さ」

「それは……ご愁傷様です」

「今度からは相手の予定も聞いてから来ることにするよ。それが普通なのだけどね」



心のどこかで気にしなかったといえば嘘になる。天照の件に関しては菓子を肴に飲むつもりだったようで丁度良かったらしいが。

私自身あまり酒を好まないのだが金平糖は肴になるのだろうか……? いや天照がそう言うなら問題はないのだが。



「風祝の仕事はどうだい?」

「神奈子様たちから聞いてないんですか?」

「その手の話は本人から聞いたほうがいいのさ。でも敢えて言うとすれば最近調子が悪そうだと諏訪子から聞いたよ」

「諏訪子様から……流石ですね」

「今は慣れずとも次第に慣れる。時間はあるんだ、ゆっくり馴染むといいさ。まぁ、この仕事が嫌いなら仕方がないけどね」



そうして出してくれた茶に手を伸ばす。うん、美味しい。紅茶も美味いけれどやはり緑茶も美味しい。

紅魔館の門番である美鈴が中国茶というのを勧めてくれたがあれも美味かったなぁ。私の知る茶のどれにも似たような味がなく新鮮味溢れた味だった。


私が言ったことに対して思い当たる節があるのか、彼女は照れたように笑っていた。

話を聞いてみれば、神がニ柱も居るお陰で参拝客が多くて戸惑っていたらしい。流石にこればっかりはなれてもらうしかないだろう。少ないよりも多いことに喜びあれどそれに対して文句の付けようなどないのだから。




■  ◆  ■  ◆  ■  ◆




「もし、このあたりに男性の妖様は居られませんか?」



そんなことを尋ねてきたのは巻き髪が印象的な女の妖? だった。

妖と神が混じったような変な雰囲気だったから詳しくはわからない。だってあたいは妖精だし。幽香もどう反応していいのかわからないのか首を傾げている。

とりあえずわかることと言えば月の畑で男性の妖の時点で十中八九、皇雅のことで間違いないだろう。

でも名前を出さずに『男性の妖』って言っている時点で名前を知らないのだろうか?

というか妖様? 『あやかしさま』だって? 皇雅、今度は一体何をしたんだよ……。

しかし紫が今日の朝方に皇雅が出かけたと言ってたし……なんとも折の悪い事だ。幽香に目配せしてみれば我関せずといった反応が返ってきた。あんたその反応、あたしじゃなきゃ喧嘩の原因になるからあんまりするなよ? 言っても無駄だろうから言わないけどさ。


とりあえず声をかけてくれているのに一切反応しないのは悪いので声を返す。



「格好が不審者な妖のことなら今は居ないよ」

「そうですか……」



あたしの言葉に初見でも見ただけでもわかるほど消沈した様子で悲しそうに反応した。

なんか罪悪感感じる反応だねぇ……あたしが悪いわけでもないのに。ため息を軽く吐いて話を続ける。



「その妖になんか用だったの? 急いでないなら此処で待ってるといいよ。知り合いが言うには長く空けるわけではないらしいし」

「用という程でもありません。一方的とはいえお世話になったのでお礼を言いに来ただけなのです」

「……お世話に?」

「はい?」



言葉の一節に幽香が反応した。笑顔で振り向くさまは幽香を見慣れたあたしでも見惚れるほどだが背後に見えるオーラがそんなあたしを咄嗟に正気に戻す。

皇雅関連の事だとあんた妙に凄むよね、見てて面白いけど威圧的だから彼女驚いてるよ?



「……待ってる間暇でしょう? そのお話詳しく話してくれないかしら。勿論嫌ならいいのよ? 嫌なら……ね?」

「……っ」



そうは言うが嫌と言える雰囲気くらい醸し出してやろうよ。その子怖がって声も出せずに首を縦に振るだけになってるよ? 幽香自身気付いてないんだろうけどさぁ。


客を立たせたまんまでは悪いのでそれなりにもてなすよ。それと流石に幽香が対面に立つと怖いだろうからあたしが隣に座る。ナユタもそうだが皇雅関連になると高圧的過ぎないか? いやよくよく考えれば紫もだろうけどさ。悪気はないけど物理的な寒さは我慢してもらおう。精神的な寒気だけは緩和できるようにするから。


ぶるぶると震える彼女に脳内で謝りながら事の成り行きを見守るあたしだった。


ナユタ? ナユタなら紅魔館に行ってるよ。

今頃、格闘術でも嗜んでるんじゃない?




■  ◆  ■  ◆  ■  ◆



あの御方が私の厄を祓ってくれた。その事柄から幾月か時期が巡る。

あれから幾度かあの御方は私のもとへ来てくれた。

やることはあの時と変わらず御参りと称したお祓いであった。

返る言葉などないのにあの御方は私にいつもお声をかけて下さっていた。

あの御方と会える喜びとあの御方への申し訳ない気持ちが折り重なり、私の胸はいつもそれに満たされていた。



そして溜まりきった厄が祓われた私は何故か現界していた。

現界した理由はわからないけれど、これでお礼ができる。そう思えば体は勝手に動き、すぐさま歩き出した。場所はわからないけれど歩きだしたのだった。


わからないけれど知らないわけではなかった。

あの御方が幾度か話した内容に『月の畑』というのがあったのだ。

そこを目指せば会える。そう思えば私の歩みが止まることなんてなかった。


あの御方の残り香……というと聞こえが悪いか、微力な妖力と言えば良いのか、それを追って私は件の花畑に到着した。


見たところなんの変哲もない花畑だと思うが実際は違う。そこにある花々は四季折々の花や香草、薬草だった。

でもあたりを見回そうと探ろうとあの御方は見当たらなかった。


でも二人ほど妖と妖精を見つけた。妖は花のお世話をし、妖精は暇そうに欠伸をしていた。

きっとあの御方のお話にいつも出てきていた二人だろう。ではきっと行方も知っているはず。

ならば、と私は声を上げる。



あの御方の知り合いなのだから恐れることはないと思っていたのだがどうやら間違いだったようだ。

妖は人に畏れられる存在だったと今更ながらに私は心に深く思い染めるのだった。



■  ◆  ■  ◆  ■  ◆



話を終えてみれば早苗はすっかり元の調子を取り戻したかのようだった。

最初は悩みを聞いていただけなのだが後になればニ柱に対する愚痴っぽいことを言っていた。早苗自身そこがニ柱のいいところだと思っているだけに注意するに注意できなくていろいろ溜まっていたらしい。


私から事を述べるとすれば目上だからと怯れず素直な気持ちで言えばいい。そんな些細なことだった。

流石にそれがすぐにできたなら、悩むことなんてありはしないのだろうけどね。



「さて、私はこの辺りで戻る事にするよ」

「もう行っちゃうんですか?」

「すこし用事を残していてね。切りのいいところで帰らねば帰りどきを失いそうだ」



名残惜しいけどね。と苦笑しつつ告げれば彼女は笑って「そうですね」と答えてくれた。


諏訪子からの頼みごともこれなら大丈夫だろう。

終わったあとそれに気付いたのだけれどもね。



「もし、何か困ったことがあったのなら気軽に呼びかけておくれ。こちらから天照にも頼んでおくから」

「わかりました。もしあればお世話になります」

「では、また」



帰り際に天照に会おうと思ったが酒飲している彼女に近寄るのはやめておこう。

そうして私はそそくさと立ち去るのだった。



よそ見していて気付けばだいぶ月日が過ぎていた。

よく知りもしないお話の二次創作(想像している時が一番楽しい)を書いていたらこんなに時間が……っ!!(言い訳)



実は悩みの種はニ柱自身でした。ガス抜きしないと疲れちゃいますよね。

そんなお話。

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