早語り
最近早苗の調子がおかしい。
毎日みてる私が言うんだ、多分間違ってない。
諏訪子も私と同時期に気付いていたようで二人してなんとかもとの早苗に戻そうと試みるけど進展はなかった。その諏訪子に至っては数回早苗と話しただけでうんうんと頷いて「なるほど」と言ったきり調べることもしなくなった。
風祝の仕事も現人神としての信仰もそつなくこなしているが所々で上の空なのだ。
時々ボソリと口を動かして顔を赤くして、またぼうっと呆けて……その繰り返しだ。まるで初こ……いやそれはないだろう。もしそうだったとして相手は誰だというのだ。
そう思ったことを諏訪子に言えばあいつは「今頃気付いたの?」と言うだけだった。なんて薄情な奴だろう……気付いたのならすぐに言ってくれればいいのに。子持ち故の余裕か。嫌味なのか。くそう……。
しかも諏訪子はその相手がわかっているようなのだ。面倒な相手を好きになったなぁとかぼやいていた。誰のことを言っているのか教えてくれてもいいと思う。
人の恋路(神だけど)に首を突っ込むのは野暮だとわかっているけど気になるもんはしょうがないよなぁ……。
諏訪子が言うには私も見たことあるらしいけどいったい誰なんだろう?
私が知ってる男だと皇雅くらいなもんだが、神が妖を好きになるなんてそんな馬鹿な話があるかいってなもんよ……。
おっといけない、天照様から酒の席に呼ばれてるんだった。あの天照様から呼ばれちゃあ嫌がるわけにはいけないよね、うん。考えるのは戻ってからにしよう。
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神奈子は天照様に酒の席に呼ばれ上機嫌で向かっていった。
薄情者とか罵られた気がするけど私はあんたらと飲んだら痛い目にしか合わないんだ、しょうがないじゃん。
というより、なぜ神奈子が気付かないのだろう、流石に鈍感すぎるだろう。答えを教えても良かったけど何か癪だったから教えなかった、我ながら子供っぽい。
私だって手掛りがなければ気付かなかった。というよりあの子が隠すのが下手ともいう。
神奈子は視野が狭すぎる。今戦ったら勝つね、絶対に。
あいつが天照様に持ってきた砂糖菓子、あれをあの子は未だに持っているのだ。
数を減らせと頼まれて幾分か取り置きしたのだが未だにそれを大切そうに持ち歩き、ひと粒ずつ食べている。……でもあの砂糖菓子は美味しかったので私や神奈子もそうしていたりする。ちなみに天照様は神力で永久保管しているとかなんとか。
何度か調査(仮)であの子と会話したがあいつの話となると声が上擦るのだ。あの子自身気付いていないようで何度話を振っても同じ反応だった。
神奈子は先入観にとらわれすぎだと思う。
何より前例があるじゃないのさ。天照様という前例がさぁ。
あの子もあの子であいつは婚姻してるわけじゃないから当たって砕け……ちゃダメというか性格上そんなこと無理か。もっと素直に貪欲にな……っても無理そうだなぁ。あいつ自身色恋好きそうに見えないし。友愛程度、いっても家族愛くらいか。
だとしても、それくらいであの子は満足するだろうなぁ……機会があれば此方に来るように言伝を頼もうかな。あいつ一人で来させたら鈍感な神奈子に答えを献上している気がするから仲間連れで来させようか? 神奈子のことだから気付かないだろうけどさ。やっぱ一人で来させよう、妖怪をあまり連れてくるのは良くないだろう……若輩者がするには出過ぎている。
あいつを呼ぶのは天照様越しで伝えればきっと来るだろう。ついでに砂糖菓子も持ってこさせようか。
酒盛りの一件以降天照様との仲が狭まったのできっとこの提案は通るだろう、そう確信し上の空になる事態だけはなんとか解消してもらう事にしよう。
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月の畑の世話をするのは風見ほどでないにしろ私にとっても充実出来るものだった。風見が普段世話してくれているそこはとても心地よく居心地の良い場所なのだ。
ちなみに私がこうしてここにいる間、紫は決まって近場で茶を飲んでいる。以前その理由を聞けば「作業しているところを見るのが好きだ」とそう言ってからずっとそうしている。私としては話し相手にもなるので嬉しい限りだ。
そろそろ一息入れようとした頃、日像鏡越しで天照が会えないかと唐突に言い出した。勿論嫌などとも思うわけもなく快く了承した。
この唐突な願いの訳を聞いてみれば金平糖が食べたいと素直に答えてくれた。四包分と数も指定されていることには若干戸惑ったが。
よくよく考えてみればあの菓子を食べたのは天照含め四人(柱)だったのでその分なのだろう、そう思うことにした。
その連絡の際に諏訪子からの言伝もあった。
内容としては早苗のこと。何か悩みがあるようで解消して欲しいとのこと、当の本人はあまり大っぴらに勘ぐって欲しくないらしい内容のようなので穏便にとまで言われた。
あの一件以降早苗に会っていない私が役に立てるのだろうか? そう思い諏訪子に幾度か返答したがその答えは「話し相手になってくれればそれだけでいい」とそう言った。
私に頼むという事は何かしら私が関与しているだからだろうか、不安を覚えつつ私はその頼みを受け入れた。
そうと決まれば出立は早いほうが良いだろう。天照たちと話が終わり紫のいる方に振り返る。
「……向かうのですか?」
「あぁ、待たせるのも悪いだろうし」
「残念。もう少し眺めていたかったのですけども天照様関係では呼び止めるのも悪いですね。幽香さんたちには私から伝えておきますわ」
「ありがとう。私も作り置きの菓子を回収したら直ぐに出るよ」
紫にそう伝えれば彼女はスキマに覆われて移動する。直ぐに伝えに行ってくれたのだろう、有り難い限りだ。
私はそれを見届けると菓子を回収し出立するのであった。
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日常? さてなんのことかな……。
次話を考えていたら冬なのに夏の話書いてた。寒いから暑い話書いたら暑くなるんじゃないかなと思って。(結果としては効果無かった)
投稿するかは未定です。




