格語り
お待たせしました。
部屋が寒くてなかなか進まない。居間があったかすぎるんや……。
なにやら後ろから凡そ人体が出す打撃音と思えない(実際そうだが)音が聞こえたが無視して館に入る。
うるさくすれば彼女が起きるから尚更問題はないだろう。
とりあえず現状それは置いておこう。
下駄箱の類を入口に確認できなかったので紫から聞いたとおり外履きで入っても問題はなさそうだ。
それと中の作りに驚いた。
外見だけかと思った赤い作りの館は中まで赤かった。(でも外とは少し違う配色だろうか?)
吸血鬼と書くのだ、これで大きな印象を与えることは容易に想像できるだろう。
「誰か! 誰かいるか!」
「皇雅あぁぁぁぁ!? あ、あれ? ぶ……じ?」
声を上げるとほぼ同時にレミリアの声が聞こえそちらに顔を向ける。
私のもとまでやってくると呼吸を整えていた。
彼女のことだろうから違うと思うが……一応聞いてみよう。
「門前払いを受けたから招かねざる客……になるのかな?」
「あ、あれは不慮の事故というか……些細な伝達ミスというか……ごめん」
後半になるにつれ言葉が萎み聞こえ難かったが多分謝罪をしたのだろう。
そんな彼女に私は「構わないよ」とだけ伝えた。
「少し連れ……というかナユタが門番と争っているが特に問題はないね」
「ぇ? や、大丈夫なの?」
「かすり傷くらいは出来るだろうけど問題はないよ。太陽を傷付ける事が出来るなら危ういだろうけど」
「……? それなら問題はなさそうね」
「一応、ナユタがここに来たら案内してくれると嬉しいね」
「メイドに告げておくわ」
比喩と捉えたか小首を傾げながらも彼女はそう言った。
日像鏡の防護を突破する妖怪など、それこそ太陽を傷付ける事が出来なければ無理なのだ。なにせ天照の持ち物だからね。
そんなこととは別に私の中で渦巻いているこの感情からそういっているわけではない。きっとそうだ……ぐすん。
なにやら私の顔にも影が差していたのか、私の顔を覗き込む(身長的に必然的だが)がとりあえずその場から移動した。
流石に玄関前で話し込むのはまずいだろう?
それにしても「冥土」に告げるとは……? いやきっと私の知らない言葉なのだろう。ここでわからなくても紫にきけばいいか。
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆
いつまでも玄関口で客人を立たせているわけにはいかないのでとりあえず客間に移動させることにした。
本来なら私がする仕事ではないけど、こちらの伝達不足とはいえ失態を犯したのだ。それも私から出した招待状なのに――だ。
流石にお茶などはメイド長にやらせるつもりだ。……もしも彼が私の作った紅茶を飲みたいとか言わなければ……だけどね。
それにしても……。
「そう言えば顔の布は取ったのね」
「……特に拘りはなかったからね」
「何か変だなぁ」と思ったが顔の布が無くなっているのだ。
前に見たときはミイラのような、それこそ火傷を隠すために布で顔を覆っているような……そのくらいだったはずだ。
伝えてなかったけど門番に容姿を伝えてたら危なかったわね……伝えてなかったけど。(大事なことなので二度言った。今度は絶対にそうはならないようにしないと……)
というよりもナユタって子は大丈夫なのかしら? 美鈴(門番)は私には到底及ばなくてもそれなりに強い妖怪だと自負しているのだけども……。
まぁ、彼が問題はないって言うからにはそうなのでしょうね。
「レミリア、その……聞きたいことがあるんだ」
「うん? 何かしら、私より貴方が秀でていることなど眇々たることだと思うけど?」
事実そう思うのだけど……。ただでさえ彼は私よりも長齢で聡明、彼のところには妖怪の賢者たる八雲 紫がいるようだし。
頭を掻いてとても困ったように尋ねる彼は私の知らない彼で、そんな彼がこのあと何を言うのか、力になれるならば是非ともそうしたいが……。
「『めいど』とはなんだい?」
「は?」
至極まともな顔でそう言う彼を数秒間呆けた私は悪くないと思う。
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆
「ふふっ、それにしても貴方って面白いわね」
「私としては何をそんなに笑っているのか、よくわからないのだけどもね」
メイドのことを彼女からきいてずっとこの調子だった。(簡単に言えば侍女らしい)
「私の周囲で使う者がいないのだから仕方がないだろう?」と告げても「そうね」といって終始笑われている。
門番の件で彼女は鬱屈した様子だったから、私としては嬉しいような悲しいような……まぁいいのだけども。
「ニュアンスとかそういう用語は知ってるのに、本当変な話よ」
「まだ引っ張るのかい? それで楽しめるなら吝かではないけども」
「はいはい、すねないの」
話の花は咲いてそれからは楽しいものだった。
途中不思議な衣装に身を包んだ女性が来てナユタのことは彼女に任せた。(それがメイドらしい)
メイドが淹れてくれた紅茶と私の菓子で優雅に話し込んだ。
吸血鬼というもの、武勇伝、次の会合など話の種など尽きる事はなかった。
妹の話もしたがその話をするたび彼女は顔を暗くした。
何かあったのだろうか? だが彼女は「今は答えられない」そういった。なら私は待つだけだ。
度々訪ねて来るメイドにナユタのことを聞いた。
一応一区切り入れて書庫に移動したらしい。そこにレミリアの友人が居て今一緒に居るそうだ。
ならば問題はないだろう。もしもナユタが粗相を犯したら叱ってくれと頼んだ。
日像鏡の説明もしてあるので天照に私の名前でそう頼まれたと言えば二人共反省してくれるだろう。私たちはお邪魔しているのだ、ここの事には従うのが普通だろう? 郷に入っては郷に従えと言うじゃないか。
「メイド……というのはいいものだね」
「でしょう? ……あげないわよ?」
「いや、そんなことをすれば怠惰が身に付いてしまいそうだ」
「そうなのよね。でも流石に一人でやるわけにもいかないし……」
「流石にこの大きさの住処となるとメイドが必要だろうね」
「でしょ?」
「君の個性にはぴったり合うと思うよ」
「それ、褒めてる?」
「勿論」
褒めてる以外にどう取れるのだろう?
「にしても、このお菓子美味しいわね」
「菓子や花は私の趣味だからね。これからも美味しくなるつもりさ」
「楽しみにしておくわ」
「いつになるかわからないけど、店を出すんだ。その時は――」
「流石に陽の差す時間には無理だろうけど懇意にさせてもらうわ」
「タダには出来ないが格安で提供するよ」
「タダにしてもらおうだなんて思わないわよ」
軽く頬を膨らませながら彼女は軽く怒る。私だってそんなこと微塵も思ってないさ(からかいたかっただけとも言う)
幾らか談笑し茶請けも無くなった頃合いで書庫に移動することになった。
流石に離れたまま放置というわけにはいかない。
さて……ナユタは今頃何をしているのだろうか?
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆
「さて、もう大丈夫ですか?」
「ら、いじょう、ぶ……れす」
「わ、私も……です」
さて、場面転換で何があったかわからないと思うので状況を少し戻します。
鏡越しに聞こえる痛々しい打撃音で目が覚めてみれば皇雅様のところの子と見知らぬ妖怪が一悶着起こしていた。
うっすらと赤い館が見えたから、あれが皇雅様の言っていた紅魔館だと予測もできた。だとすれば見知らぬ妖怪は紅魔館と何かしら関係のある妖怪なのだろう。
見た感じでその妖怪は実戦経験が豊富なようだった。なんでこの子が戦っているのか理解できないけど……勝ち目はないだろう。まぁ、妖怪も本気を出さずに戦っているようだし……そもそも子供(仮)をいたぶる趣味はなさそうなので何よりだ。
何よりその妖怪は優しい顔をしていた。何かを楽しむように。
現状が把握できたあとは……っと。
多分、この鏡をこの子に預けたって事は仲裁しても文句はないってことですよね?
皇雅様が自分からこの鏡を手放すという事は私が色々してもいいって事だと思って行動しましょう。
でも鏡越しではやることも限られているのでちょっと高天原からちょっかい出しちゃいます。
太陽光百万分の一の光力を二人にどーんってね。光が苦手な妖怪じゃなければ大丈夫でしょう。……多分。
それで何かを仕掛けようとしていたあの子が顔面から地面に着陸して、妖怪は混乱せずとも後方に退いたのはいいんだけど……木の根に足を引っ掛けて転んじゃった。
起きたことはそれぐらいかな?
「妖怪さん、どうにかしてこの館の主に連絡できないかな?」
「というよりも……入ってもよろしいですよ。先にこの子の主の男が館に入ってから出てきてない様ですし、またお嬢様の連絡ミスでしょうし」
「気付いていたのですか?」
「止めようにも止まりませんでしたし、子供と遊ぶのも久しかったので……つい、続けてしまいました」
そういう妖怪は照れ臭そうに笑っていた。
だから楽しそうに戦っていたのですか。
それを聞いたあの子はぱっと見ただけでも放心するように口をパクパクさせて呆けていた。
「 」
「あ、あれ?」
しばらく経ってからこの子は復帰し一言、「リベンジマッチです!」と言って館に走っていった。
なんとも……子供らしい心だこと。この子が呆けている間に妖怪が「困ったらメイド長にお聞きください」と言っていたからメイド長とやらを訪ねてみよう。
東風谷から聞いた話じゃ、メイドというのは侍女らしいですのでそれらしい方に聞いてみましょう。
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆
意思表明
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆
「強くなります」
「誰に言ってるんですか?」
「誰かに。誰にも聞こえなかったらそれは独り言です」
「そうですね。ですが、どうやって強くなるおつもりで?」
「幽香さん……は優しすぎますし、紫さんはお忙しい身、姉さんには違うことを話してもらいたい。ならば私が認める講師に頼みます」
「なるほど。悔しいと思わせた張本人ですね」
「ぅぐっ!?」
「なるほどなるほど。頑張って下さい」
「頑張りますよ。泥水のように混じって水より固く、強固になるんです」
「そういう表現は面白いですね。皇雅様には内緒にしておきますよ」
「………………」
「あとチルノさんにもね」
「…………」
「さて、ではメイド長とやらを……おや?」
「……はっ! ど、どどど、どうしましたか?」
「あちらから……御出でですね」
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆
「つまりはそちらの伝達ミスですか」
「えぇ、何分初めての事でしたようなので。お嬢様も浮き足がたっておられました」
館に入ってすぐにメイド長と合流できました。
合流……と言うより僕が入ってくるのを待っていたようです。皇雅さんが手出し無用と申されましたので、とメイド長に言われて肝が冷えましたけども。(冷える肝ないけど)
「今は内心楽しめてないお茶会を戸惑いつつも楽しんでおられますよ」
「そ、そうですか。……それで今はどちらに?」
「図書館に案内します。その約束とのことで、ご利用の諸注意はパチュリー様からご伺い下さいませ。紫色の御方です、こちらはお話を通してあります」
「紫色ですね、わかりました」
「もしも、パチュリー様が変なことを仰りましたら皇雅様、もしくはお嬢様に洗い浚い報告してくださって結構ですよ。図書室に案内しましたら皇雅様もそちらに行かれることになっておりますので」
「な、なるほど」
顔がってわけではないのですが、このメイド長というお方は怖いです。
藪蛇が怖いので考えないことにしよう。幽香さんで学んだ。
滞りなく歩いていてふと思った。
歩幅が僕とだいぶ違うはずなのに一切気にならなかった。相手によって歩幅を変えてるのだろうか?
その答えは聞いたらすぐに返ってきた
「歩幅はお嬢様に合わせて歩いているうちにこの速度になったのです。私がいる間はお嬢様が合わせて下さっているのでこのくらいは私からしたいなって……思っております」
言葉の意味はわかりませんでしたが、面映そうに笑うメイド長は何故かとても素敵でした。
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆
天照さんは大神なんです。妖怪なんぞが作った壁なんて余裕でこえれます。
メイド長の言ってる「お嬢様が合わせて」って件は寿命とかその辺のお話。
もう一回やったら家庭訪問終われるかな……。




