イジメられる側にも問題がある
タイトルはあれですが、内容は薄っぺらく、何を訴えるわけでもない、不真面目なものに仕上がっております。
大変好みの別れる題目、且つ、テイストかと思われますので、読み進める場合にはご用心のほどを…
その女生徒はイジメられていた。数人のグループに囲まれて。そんな場面を目撃してしまった。
なんてこった。
これほど面倒くさい立ち位置があるか?
知らなければよかった。
それなら知らないで済ませられる。
けれど知ってしまった。
見て見ぬフリなど最悪だ。
「お前ら、イジメなんかみっともないぞ!」
俺はその場に割り込んだ。
偽善だと思う。だけど、偽善も善だろ? やらないよりいいんだ。
「は? 何言ってんのお前」
割り込んで一旦引く連中じゃなかったか。
「その耳は飾りか。それとも言葉も理解できない低脳か?」
「言わせておけば!」
イジメっ子の一人が拳を上げる。
「おい、先公だ。逃げるぞ!」
「チッ!」
イジメ集団は去っていった。
正直、助かった。腕っぷしに自信は無い。
「大丈夫か?」
一人俯いていた女生徒に声をかけた。
「………………」
女生徒は黙ったまま唇を噛んでいた。悔しかったんだろう。きっと。
「………こ…………で…」
女生徒が何かを呟いた。
けれど、声が小さくてうまく聞き取れなかった。
「余計なことしないで!」
俺は思わずたじろいだ。
予想していたのとは全く違う反応だったからだ。
「うまく…、やってたのに…!」
イジメられているけれど、本人はそれをイジメとして受け取っていないのか。
「うまくやってたのよ!」
ああ、そうだ。本人はそれでうまくやっていたと思っているやつだ。それがその連中との付き合い方なのだと思って、いや、思い込んでいる。
「うまくって…、あれはどう見てもイジメだし、それを見て見ぬふりなんてできない!」
「私はあれでよかった! あれがよかった…!」
ほんとうにいいと思っているのか。そうだとしたら、なんて…。
「せっかくイジメられるようになったのに! 全部水の泡じゃない!!」
「……………………」
イジメられるようになった?
水の泡?
「分厚い眼鏡かけて、声も小さくして、前髪も伸ばして顔隠して、どんくさくして、ようやくイジメられるようになったのよ?!」
「いや、どういうこと? それ…」
両腕を使い、大袈裟な身振りで女生徒は言う。
「私はドMなの!」
えー…………と、…ええっ?
「えっと?」
きっと、今の俺は世界で一番間抜けな面をしているに違いない。
それぐらいその女生徒が何を言っているのかわからなかった。
「責任とって」
「へ?」
「責任をとって!」
「責任たって…」
まさかそんなことを言われるなんて、思いにもよらず。
「あなたが私をイジメればいいの。簡単でしょ!」
「こ、断る!」
どうして止めに入った行為を自分がしなくちゃならないんだ。
「そんなのやめとけよ。イジメられて何が楽しいんだ?」
「楽しくなんかないわ! 嬉しいのよ! 心を抉られるような言葉を、意味の無い、理不尽で不条理な暴力を、幼稚で拙くて残酷で、成長不良の、情けない不出来な心を、私に向けてほしいのよ!」
…いやまぁ、言っていることにはほぼ同意はできる。
余計な言葉が無ければ。
「だからといってお前がイジメられていい理由にはならないだろ?!」
「だからあなたが責任とって私をイジメなさいよ!」
「だから俺がそんなことをする理由がない!」
「理由なんて口上でいくらでも作れるわ! アイツ等が私をイジメようとした理由なんだと思う? 『お前暗いんだよ』って、たったそれだけの理由。それなら、『お前ピーマン嫌いなんだろ』ってのだって理由になるわ! あなたも『お前はド変態マゾヒストなんだよ』って理由でイジメたらいいのよ!」
極端すぎる理論だ。
「バカかお前、理由と言っても限度があるだろ」
「今のっ! 『バカかお前』っての! それでいいじゃない!」
墓穴を掘った。
勢い任せに口走った結果がこれだよ。
「他人を認めないその姿勢! あなたもこれでイジメっ子!」
「そんな標語みたいに言うな! あー、もういい。じゃあな!」
付き合ってられない。
「絶対責任とってもらうから!」
「はいはい、好きにしてください」
と、口走った結果が。
「飼い主様、どうかこの卑しい雌犬めをお叱りください」
「これだよ…」
集まる好奇と侮蔑の視線。
目の前で床にひれ伏している女生徒。
首輪に犬耳をつけて、裸足で汚れた衣服でそこにいる。
俺の記憶に誤りがなければ、間違いなく昨日の女生徒だ。
しかし、まったく雰囲気が違う。
昨日までの暗い彼女はそこにはなく、ただ己を下卑する雌犬の姿がそこにあった。
こいつはイジメられるために暗い女生徒を演じてきたのだ。このような転身など容易なことなのだろう。
俺はこんなことのためにあの場に割って入ったわけじゃない。
「どこかへ…、行ってくれ…」
「はあぁ…、そんな、飼い主様の冷たいお言葉、私、心を抉られるような思いです…」
このマゾヒストには何を言っても快楽になってしまうのか。
「じゃあ、いい子だから普通にしていてくれ…」
女生徒は口をキュッと結んだまま身悶えしている。
「………」
ああ、そうか。
イジメられたいのにイジメてもらえないという切なさを快楽に変換することができたのか。
最早、何を言っても彼女には快楽にしかならないのだろう。
打つ手が…、無い…。
イジメられる側にも…、問題がある…。
「飼い主様、飼い主として、責任持ってくださいね」
それからというもの、俺には『女生徒を飼いならす男』と呼ばれ、女子に怖がられるだけでなく、男子からも変な目で見られるようになったとさ。
追伸。
あのドM女生徒に対してのイジメは、『変態と関わり合いになりたくない』という理由で無くなった。
えー、相変わらずの突発的な思い付き。
これを読んで何か感じたら、むしろ敗けだと思う。