第零章:『最後に立つ者』
僕を取り巻く世界は、もはや暗く冷たい空間でしかなかった。青白い月明かりの下、水面には僕自身の顔が映っていた。僕は木の板に必死にしがみつきながら、黒い水面から突き出た東京の巨大なビル群を見つめていた。
「どこにいるんだ?」
絶対に彼女を見つけ出さなければならなかった……僕の妹を。
僕が養父母を殺した理由は単純だ。戦車センシャの母親が、僕の愛しい妹に手を上げようとしたからだ。普段の僕は冷酷で、決して取り乱すことなどない。だが、あの母親……戦車の母親が妹の頬を叩くのを見た瞬間、どす黒い怒りが込み上げてきたのだ。
だから僕は、戦車の父親の引き出しから拳銃を取り出した。手元には8発の弾丸があった。
父親に1発。
母親に1発。
次女に1発。
次男に1発。
長女に1発。
三男に1発。
叔父に1発。
そして、叔母に1発。
戦車家には9人目の人間がいたが、修学旅行で不在だった。まあいい、そいつはまた別の日に殺せばいい。
こうして僕は、脳幹を撃ち抜いて即死させるという方法で、養家族8人全員を静かに処刑した。
もちろん、長女は即死しなかった。あのクソ女、あのゴミ屑が「助けて」と命乞いをするのを見た時……僕の顔に笑みが浮かんだ。自分の血で溺れ苦しむ姿を見るのが、たまらなく嬉しかったのだ。
純粋な憎悪からか、それとも狂気からか、僕はナイフを手に取り、アステカの儀式のように彼女の胸に突き立てて心臓をえぐり出した。
脈打つ臓器が胸から引きずり出されるのを見た時、僕は底知れぬ幸福感に包まれた。罪悪感など微塵もなかった。むしろ、僕の狂気を完結させ、彼女を永遠に黙らせるために、僕は彼女自身の心臓をその口にねじ込んだのだ。そして、その瞳から光が消え、完全に死んだと分かるまで彼女を見つめ続けた。
この家族を皆殺しにした後、僕は愛する妹、僕のアイを連れて「コカニュの国(理想郷)」へ行くことを決めた。戦争も、飢餓も、労働も、不幸も、人間のあらゆる負の感情が存在しない牧歌的な場所。生まれつき目が見えず、耳も聞こえない僕の妹のための、絶対的な聖域。
何としてでも、彼女をそこへ連れて行きたかった。それが『コカニュのファブリオー』という本に出てくる神話だと分かっていても、僕はその場所が存在しないということを否定したかった。僕にとって、そこは確かに存在していた。妹のためなら、僕はなんでもした。
僕たちが生まれた日、本当の両親は僕たちをゴミ袋に入れて捨てた。しばらくして、老夫婦が僕たちを見つけ、4歳になるまで育ててくれた。
そこで僕は初めて人を殺した。理由は単純だ。彼らがアイの誕生日を祝うことを拒んだからだ。だから死が彼らを待っていた。
次に、林檎リンゴという別の家族が来た。僕たちに「リュウ」と「アイ」という名を与えたのは、この家族だ。だがここでも、僕は家族全員、計10人を排除しなければならなかった。理由は単純だ。アイがオムレツを欲しがったのに、母親がそれを作るのを拒んだからだ。奴らは死んで当然だった。
そして、中学生になった。新しい養家族は、わりといい奴らだった。だが、障害を持つ妹にとって、中学校生活は地獄だった。彼女は、クラスの一部の女子たちから受けているいじめに気づいていなかった。
彼女の鞄にボイスレコーダーを忍ばせた日、僕は録音された内容を聞いて、言葉を失った。
だから僕は、そのクラスの生徒全員を皆殺しにする決意をした。
そして最後に、戦車家が来た。それは僕が16歳、アイが16歳になるまで続いた。だが、なぜ……
「なぜだ…なぜ…なぜ…なぜ…なぜ…」
僕は完全にパニックに陥っていた。戦車家にやったことのせいではない。巨大な波が東京を、いや、もしかすると地球全体を飲み込んでしまった。だが、僕が本当に恐れていたのはそんなことではなかった。
「アイ、どこにいるんだ!?」
アイはもう、僕のそばにいなかった。僕は泳いで水面まで上がり、一番高いところにしがみついた。しかし、彼女はいなかった。
「クソ…クソ…クソ…クソ…クソ…クソ…」
僕の人生で初めて、アイを見守ることを忘れてしまったのだろうか?いや、違う。
「絶対に…絶対に…絶対に…絶対に…」
彼女を見つけるために、もう一度この凍てつく水の中に潜らなければならない。
もし彼女が低体温症で気を失っていたら?
彼女がいつ僕の手を離したのかは分からない。だが、一秒一秒が過ぎるごとに、彼女の命の危険は増していく。
通常、人間の体温は37度だ。それが28度に下がる、つまり9度低下すると…心停止を引き起こす。そして、生まれつき目が見えず耳も聞こえないアイには、何が起きているのか理解できなかったはずだ。波に飲まれた時、彼女は確かに僕の服にしがみついていた。だが凍える水の中では、血液は肺や脳、心臓などの重要な臓器を守るために末端から引き上げられ、結果として指先が完全に麻痺してしまう。彼女にはもう、物理的にしがみつく力は残されていなかったのだ。
「アイ、どこにいるんだ!?頼む、返事をしてくれ!アイ…アイ…アイ…生きるために、お前が必要なんだ…」
たとえ自分が死ぬことになろうとも、彼女を救うためにこの深淵に飛び込まなければならない。彼女は何よりも優先されるべきだ。僕自身よりもずっと。
僕は水面に映る自分の顔を見た。今まで、自分の顔をまじまじと見たことなどなかった。醜かった。黒く、ほとんど虚ろな瞳。目の下には深いくぼみとクマができ、髪は長く脂ぎっていた。それが僕自身の顔であり、それを見つめていると、自分に対する深い嫌悪感に襲われた。
「さあリュウ、お前の愛する妹が危険だぞ……」自らを奮い立たせるように、僕はそう呟いた。
突然、僕の後ろに光が現れた。水面に映る反射でそれに気づいたのだ。そのまばゆい光は、水面の上に一つの扉の輪郭を描き出していた。そして……扉が開いた。
振り返ると、そこには尖った耳を持つ子供がいた。その肌は、まるで電球のように発光して輝いていた。彼女の服装は、中世ヨーロッパの農民の子供のようで、シンプルな布のドレスを着ていた。
「お前がここの最後の人間か」




