第14話 人魚姫ミズナが温泉に迷い込んでくる
キツネビが定着して数日が経ったある夕方。
辺境の小さな温泉は、今日も湯気が立ち上っていた。
俺はキツネビと花音に誘われて、龍様の「体を休めるのに良い」との言葉でここに来ていた。
キツネビは湯船に浸かりながら狐耳をぴくぴくさせ、尻尾を湯に浮かべて嬉しそうに揺らしている。
「わあ~! 温泉気持ちいいです~! 龍様もたまに来てほしいですね! 翻訳家さん、花音さん、一緒に入れて嬉しいです~!」
花音はポニーテールをほどいて湯に浸かり、目を細めて笑った。
「ユウマ! ここ最高だよ! 毎日来たい! キツネビちゃんの尻尾、湯の中でふわふわしてかわいい~! 私、もっとリラックスしちゃう!」
俺は湯の端でぼんやりしながら、脳内リリと会話をしていた。
「ユウマくん! 温泉タイムええ感じやね~! でもほら、あたしの触れ込みが効いてるで! 次は人魚姫が来るはずや! 温泉に迷い込んでくるパターンやで~! ミズナちゃん、絶対可愛いわ! 鱗キラキラで尾びれふりふり! あたしもう楽しみで湯船に浸かりたい気分や~♡」
リリが興奮でまくしたてる。
「リリ、温泉に浸かるって……お前実体ないだろ」
「細かいこと言うな! 推し活はどこでもできるんや! ほら、来るで来るで!」
その瞬間、水面が大きく揺れた。
「きゃあっ!?」
突然、湯船の中央から水柱が上がり、長い青い髪とキラキラした鱗の尾びれを持つ少女が飛び出してきた。
人魚姫ミズナだ。
上半身は美しい青いドレス風の鱗で覆われ、尾びれが湯の中で優雅に揺れている。
彼女は目を丸くして周りを見回し、大パニックになった。
「え、えええ!? ここ……龍様の海!? 女神様が『龍様がいる温泉に行けば、美味しいご飯が食べられる』って言ってたのに……陸!? 陸の上!? 私、人魚なのに陸に!? きゃあああ!」
ミズナは尾びれをバタバタさせて湯船を飛び跳ね、湯が飛び散る。
キツネビが狐耳を立てて驚き、花音が慌てて立ち上がった。
「ええ!? 人魚さん!? ミズナちゃん!? かわいい~! 尾びれキラキラ! ユウマ、翻訳してあげて!」
俺は湯船の中で立ち上がり、ミズナに向かって声をかけた。
「落ち着いて! ここは龍様が住む辺境の温泉だよ。
女神の触れ込みで来たんだよね? 陸だけど……大丈夫だよ。」
ミズナが俺を見て、尾びれをピタリと止めた。
青い瞳がキラキラ輝き、鱗が光を反射する。
「……龍様がいる……? 翻訳家さん……? 女神様の言ってた通り……美味しいご飯が……?」
リリが脳内で大絶叫。
「来たぁぁぁ! 第二号ゲットや! ミズナちゃんの尾びれふりふりかわいいすぎるわ~! ユウマくん、すぐラーメン振る舞ってあげて! 海鮮ラーメンで即落ち確定や! あたしもう触れ込み第二弾成功で興奮止まらん!」
花音がミズナの尾びれを興味津々で見つめながら言った。
「ミズナちゃん! 私、花音! ユウマの幼馴染! 一緒にご飯作ろうよ! ラーメン作るって! 龍様も喜ぶよ! ここに住んでもいいんだよ!」
キツネビが狐耳をぴょこぴょこさせて手を差し伸べた。
「ミズナさん! 私キツネビです~! 一緒に温泉入ってご飯食べましょう! 龍様も優しいですよ~!」
ミズナの瞳が少しずつ落ち着き、尾びれが優しく揺れ始めた。
「……ここが……私の海……? 龍様がいるなら……陸でもいいかも……」
俺は湯船から上がり、キッチンへ向かう準備を始めた。
「じゃあ、ラーメン作ろう。海鮮たっぷりで、ミズナにぴったりだよ。」
ミズナが尾びれをパタパタさせて大喜び。
「ラーメン……? 地球のご飯……? 私、楽しみです~! ここに住んでも……いいですか?」
花音がミズナの鱗を触りながら興奮した。
「もちろん! ユウマの家、みんなの家だよ! 私も毎日来てるし! 一緒にご飯作ろうね!」
リリが脳内で勝利宣言。
「やったぁ! 人魚姫ミズナちゃん勘違い定住確定や! ハーレム2人目ゲット~! ユウマくん、次は海鮮丼で完全落としやで! あたしもう次のドラゴン娘の触れ込みも流したくなってきたわ~♡」
ミズナが湯船で尾びれを優雅に揺らし、青い瞳を輝かせて俺を見た。
「翻訳家さん……ありがとうございます。
ここが私の海……いえ、龍様の家……幸せです~!」
温泉の湯気が立ち上る中、辺境に新しい聖獣の声が加わった。
キツネビの狐耳ピクピク、花音の元気な笑い声、ミズナの尾びれパタパタ。
不遇職の翻訳家生活は、ますます賑やかで温かいものになっていく。




