第12話 龍様の愚痴タイムが本格的に始まった
たこ焼きとお好み焼きの余韻が残る夕暮れ時。
辺境の家はキツネビの明るい笑い声で満ちていた。
狐耳をピクピクさせ、黄金色の尻尾をゆったり振るキツネビが、ヴォル爺の巨大な体に寄り添うように座っている。
彼女は龍の鱗を優しく撫でながら「龍様、今日もかっこいいです~!」と元気に話しかけていた。
俺は庭の端で洗い物を片付けながら、脳内リリと今日の振り返りをしていた。
「ユウマくん! キツネビちゃんの尻尾の動き最高やったで~! あたしもう毎日この光景見たいわ! でもほら、龍様がそろそろ愚痴タイムを求めてくる頃やで。今日から毎日ルーティンになるはずや! あたしが翻訳サポートしたるから、ユウマくんは相槌打つだけでOKや! 若いドラゴンたちの礼儀知らず話とか、雲の味が落ちた話とか……1000年分の愚痴を全部聞くんやで~!」
リリが興奮気味にまくしたてる。
俺は心の中で小さくため息をついた。
「毎日かよ……翻訳家が本領発揮すぎるだろ」
「ええやん! これがユウマくんのチート能力の正しい使い方や! 龍様の心が軽くなったら、もっとご飯リクエスト増えるし、聖獣娘もさらに集まってくるで! あたしもう楽しみで寝れへんわ~♡」
その時、ヴォル爺の低く重厚な声が響いた。
「……悠真よ。
愚痴を……愚痴を聞いてくれぬか?」
巨大な金色の瞳がゆっくりと開き、俺をじっと見つめてくる。
キツネビが狐耳をピクピクさせてすぐに反応した。
「龍様! 愚痴タイムですか? 私も聞きます~! 翻訳家さん、一緒に聞きましょう!」
花音がちょうど仕事終わりに駆けつけてきて、庭に入るなり目を輝かせた。
「ユウマ! 龍様の愚痴タイム始まるの!? 私も聞きたい! 絶対面白いよね! キツネビちゃんも一緒に座ろう! 私、メモ取るよ! ねえねえ、龍様、どんな愚痴ですか?」
花音はポニーテールを元気よく揺らして、キツネビの隣にぴょんと座った。
彼女の活発な声が辺境の夕暮れに響き渡る。
ヴォル爺がゆっくりと語り始めた。
「……若いドラゴンどもがのう……礼儀を知らぬ。
わしが昔、雲の上で瞑想しておると、急に突っ込んでくるんじゃ。『爺さん、邪魔!』と……1000年前はそんなことなかったというのに……」
俺は翻訳家能力で完璧に理解し、丁寧に相槌を打った。
「若いドラゴンたちが礼儀知らずで困っている……ということですね。
昔はもっと静かだったのに、最近は変わってしまった……と」
龍の金色の瞳がわずかに細められた。
「……ふむ。
おぬし、よくわかっておるのう。」
キツネビが狐耳をピクピクさせ、尻尾を興奮で左右に振った。
「若いドラゴンさんたち、ひどいですね……! 龍様にそんなこと言うなんて! 私だったら絶対失礼しませんよ~!」
花音が拳を握って大きく頷いた。
「そうだよ! 龍様、かわいそう! ユウマの翻訳、ほんとにすごいね! 私、全然わからないのにユウマが完璧に通訳してる……かっこいい! 龍様、もっと話してください! 私も一緒に怒ってあげます!」
リリが脳内で大笑いしながら長々と解説を始めた。
「ユウマくん、ええ感じや! この愚痴は龍様の定番やで! 若いドラゴン礼儀知らず話は毎回出てくるから、ちゃんと相槌打ってあげて! あたしが昔のエピソードも少し補足したるわ。1000年前は龍族の礼儀が厳しかったんやけど、今は若い子たちが自由すぎて……ほら、次は雲の味が落ちた話に移るはずや! ユウマくん、疲れてへん? あたしがずっとサポートしたるから安心して! これで毎日ルーティンになったら、聖獣娘ももっと集まってくるで~!」
ヴォル爺がさらに語り始めた。
「……それと最近の雲の味じゃ。
昔はふわふわで甘かったのに、今は味が薄うて……」
俺は即座に翻訳し、相槌を打つ。
キツネビの狐耳が興味津々でピクピク動き、花音が「雲の味って!?」と活発に突っ込みを入れる。
龍の声はどんどん軽くなっていく。
さらにヴォル爺の話は過去へと遡った。
「……昔、わしは若い頃……人間の里に近づいては、ただ見守っておっただけじゃった。
あの頃の人間たちは、わしを恐れず、時折果物を置いてくれたものじゃ……」
金色の瞳に懐かしさが浮かぶ。
キツネビが尻尾を優しく振って聞き入り、花音が「人間と龍様、昔は仲良かったんだ……!」と目を潤ませる。
リリが脳内で補足を入れる。
「ユウマくん、フラッシュバック来てるで! 龍様の過去は寂しがり屋の部分が多いんや。昔は人間と交流あったのに、鎖国以降は孤立して……だから今、ユウマくんが愚痴聞いてるだけで心軽くなってるわ! もっと相槌打ってあげて!」
ヴォル爺が最後に低く息を吐いた。
「……わしは寂しかったのじゃ。
誰もまともに聞いてくれんかった……」
俺は静かに頷き、言葉を返した。
「今は……ここにみんながいます。
愚痴、いつでも聞きますよ」
龍の瞳がわずかに柔らかくなった。
「……ふむ。
心が軽くなったわ。
明日も……聞かせてくれぬか?」
キツネビが狐耳をぴょこぴょこ動かして大喜び。
「はい! 私も毎日聞きます~! 龍様の愚痴、全部受け止めます!」
花音が俺の肩をポンと叩いた。
「ユウマ! 龍様、完全に懐いたよ! 私も毎日来て聞くから! これで毎日ルーティンだね!」
夕陽が沈む中、古代龍の1000年分の愚痴タイムは、穏やかに、でも賑やかに終わった。
辺境の空に、龍の低い満足げな息遣いと、狐耳少女の明るい笑い声と、花音の元気な反応が混じり合っていた。
リリが最後に嬉しそうに囁いた。
「これで毎日ルーティン確定や!
ユウマくん、これからもっと面白くなるで~!」




