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偽りの惑星―fake planet―  作者: 過去(10年前)のくろひこうき
最終章
31/32

暴風戦線 その2

 

 「チッ。」


 石川雅治は完全にイライラしていた。それは何も相手に対してではない。むしろ自分に対してだった。

 先ほどから防戦一方。目の前の敵、緋山烈火は思っていたより難敵だった。


 「おいおいおい!子鬼ちゃんよぉ!無様に逃げ回るだけで打つ手なしか?まったく、燃えねえなぁ。」


 緋山は奇妙な武器を使ってくる。小さなボールのような物をどこからともなく取りだしたかと思うとそれを投げつけてくる。それが壁や地面に当たると突如として発火するのだ。


 (この武器のせいで近づけない。)


 発火する面積はかなり広く、避けるのがとても難しい。先ほどから少し食らってしまい、多少のやけどを負ってしまった。


 「バンバンバン!」


 銃の発砲。当然近づけないのならこちらも遠距離で攻撃しようとするのだが、


 「フン。」


 緋山の左腕に装着された大きなデバイスから半透明な盾が瞬時に形成され、弾丸は防がれてしまった。


 「オラオラァ!どうした子鬼ちゃん?」


 緋山は盾をデバイスにひっこめると、次はそのデバイスから先ほどの発火するボールを連続で打ち出した。


 「!!」


 射出されたボールは反射的に避けた石川の背後の壁に当たり、爆炎を巻き上げる。


 「!」


 石川はその炎の圧に押されて吹き飛ばされた。ごろごろと転がり、ついには膝をつく。


 「おいおい。がっかりさせんなよ。まったくもって期待外れだぜ。お前となら熱い勝負ができると期待したのによぉ。」


 緋山は退屈そうに鼻をほじると、膝をついた石川にじりじりと近づいていく。部屋は先ほどからばらまかれているボールの発火で熱を帯びている。


 「チッ。確かにな。認めよう、お前は強い。だがそれはお前の力ではない。その奇妙な腕のデバイスとこの下品なボールのおかげだろう?」

 「なんだと?」


 石川は体中に付着した真っ黒な煤を手で払うしぐさを見せる。


 「お前は道具の力を使わなければただの素人。所詮低俗なテロリストという訳だ。」


 石川は嘲笑して緋山を見据える。


 「ハッ!負け惜しみかよ。現にお前は追い詰められてるじゃねえか!この状況でよくそんな世迷言を吐けるもんだねぇ。」


 緋山はまだ余裕の表情だったが、少しずつ顔色が悪くなっていく。


 「ほう、まだわからんか。」

 「なに!」


 石川は大きく息を吸って静かに言い放つ。


 「俺が何のためにお前の様子を伺いながら逃げ回っていたのか。教えてやるよ!」


 石川が懐から取り出したのは手榴弾だった。


 「攻撃はさせねえ!」


 緋山はその様子を見て即座にデバイスの先を石川に向け、ボールを射出した。


 「これを探していた。」


 石川はニヤリと笑い、手榴弾の栓を抜くとぽいっと自分の後ろに投げつけた。


 「なにっ!!」


 手榴弾は壁に当たると、爆発する。そこから現れたのは、


 大量の水だった。


 「ぐわ!!!」


 その大量の水ははじけた水道管から緋山の方向に向かい、緋山の全身をつつむ。そのまま部屋に流れ込んだ水は辺り一面に広がり、床を水たまりにする。


 「フフフ、これであのボールは湿って使えまい。


 石川は勝ち誇ったようにビショビショになった緋山を見つめる。


 「く、くそ!」


 緋山は突然の水の襲来に驚きの色を隠せなかった。目の前で全身水浸しになりながらニヤニヤ嘲笑している石川にプライドをズタズタにされたという訳だ。


 「今までただ逃げ回っていた訳ではないと理解したか?」

 「・・・まだ負けたわけじゃねえ!」


 次第に水が引いていく。辺り一面水たまりだったが、緋山は腕のデバイスをなにやらいじり始める。


 「フン。いいか、何をしてもお前はもう敗北している。」

 「うるせえ!」


 緋山は激高し、腕のデバイスの先から勢いよく青い火柱を出現させる。


 「くらえ!バーナーソードの威力を!」


 緋山は大きく腕を振り上げると、石川に青い火柱を突き立てる。


 「・・・もう一度言う。」


 石川はスッと一呼吸おいて構えたかと思うと、


 「お前はすでに敗北している。」


 その刹那、緋山はようやく気が付いた。目の前の鬼の不敵な笑みに。


 「!!!」


 それは一瞬の出来事。バーナーを突き立てようと伸びきったその腕をさらりとかわし、緋山の顔面にひじ打ちをかましたのだ。緋山は鼻から出血し、後ろによろける。そしてそのチャンスを逃すはずもなく、


 「すまんな。ナイフは全て投げてしまったから残るは己の身一つ。」


 大きく助走をつけて右飛び膝蹴り。緋山の顔面を一撃で破壊した。


 「ごぉ・・・」


 緋山はほとんど声も出ず、後方の壁に体を打ち付け、戦闘不能になった。


 「・・・まるであのバカのような戦い方になってしまったな。クソ忌々しい。」


 石川は悪態を吐きながら目の前のテロリストの元に近づいて行く。顔面は無残なものだった。歯が何本も折れて、鼻は変形してしまっている。石川はその様子を見て。鼻で笑った。


 「じゃあな。今のその姿、お前に似合っているぞ。」


 返事はない。完全に失神しているようだ。石川はポケットに手を突っ込んで携帯電話のホームボタンを押した。しかし反応はない。完全に水でやられていた。


 「まあいい。俺はのんびりとやるべきことをやらせてもらうさ。」


 石川は濡れた体のままその場から立ち去るのであった。



 衝撃の事実を目の当たりにして2人はさらに口をつぐんでしまった。先ほどの研究室にあったのは全校生徒の健康データと投薬結果という謎のデータ。そのデータは継続的にとられていたようでとりあえずその場にあったデータだけでも4月から続けられていたようだった。考えれば考えるほど謎は深まるばかりである。


 (俺たちに気が付かれずに投与できる仕組み・・・まさか給食か!?)


 資料をすべて回収した将人は歩きながらずっとそのようなことを考えていた。考えられる可能性はそれしかない。しかし物理的に可能なのか。どのような方法で、そしてどのような薬だったのか。


 「ドン。」


 つい将人は前を見ていなかった。昂大の背中に当たってしまう。


 「ああ。ごめん。」

 「将人。」


 昂大は急に真剣な様子になる。


 「ん?どうしたんや?」


 昂大は何も言わずに指をさした。よく将人が見てみると、そこは大きな空間だった。何に使うのかはわからなかったが、おそらく倉庫のようなものだろうと将人は思った。


 「・・・いた。」

 「え?」


 昂大は何かを見つけたのか突然走り出した。


 「え?おい!」


 将人も昂大の後を必死に追う。


 「待て!!!ベルフェゴール!!!」


 昂大の声は憎悪に満ちている。将人はこの時初めて気づいたのだが、倉庫のような空間の奥に黒いローブを見にまとい、歩く男の姿があった。


 「・・・おやぁ。あなたは寵愛を受けし少年。どうやらその様子だと夢を見たのですねぇ。ああ!素晴らしいぃ!!とても素晴らしいですよぉ!!!!!」


 男は狂喜し大きく腕を広げた。


 「てめえ・・・よくも雪を!みんなを!許さねえ!!」


 昂大はベルフェゴールの傍に近づくと、少し立ち止まった。


 「ゆきぃ?何のことかよくわからないですがあなたは生まれ変わったのですよぉ!罪を自覚し、受け入れた!さあ、もっと自分をさらけ出しなさいぃ!あなたの本性、それは人を殺したくて殺したくてたまらない快楽主義なのですぅ!!!!!」

 「黙れ。」


 昂大はベルフェゴールに殴りかかった。

 その拳のスピードは尋常ではない。まさに拳がベルフェゴールの顔に突き刺さる手前、


 「パーン。」


 乾いた音とともにその拳は軽々と受け止められてしまった。


 「へ~。なかなかいい威力だねえ。でも。」


 昂大は拳に全体重を乗せていたため、軽々と懐に潜り込まれ、その威力ごと昂大は投げられてしまった。


 「な!?」

 「はい、一本。」


 その時昂大は地面に倒れ伏しながら自分を投げた者の顔を見た。立った茶髪にピアス。ニヤッといたづらっけに笑うその口元には少し尖った八重歯。どこか幼さを感じさせる。だがどこかで会ったことがあるような気がする。


 「・・・なんだお前。」


 昂大は完全にあっけにとられていた。もちろん自分が突然現れたよくわからない男に投げられたことに対してもだが、それよりもまったく昂大の目の前に現れるまで気配を感じることができなかったことに対しての驚きがあった。


 「おやおやぁ。私を助けてくれたのですかぁ“死神”。よけいな真似をしないでくださいよぉ。」

 「はあ?何言ってんだお前。助けたつもりなんてないし、オレの気まぐれなんだけどよお。」


 死神と呼ばれた男はベルフェゴールなど一瞥もせずただ昂大を見つめるだけだった。


「オレはこいつと遊んでからいくわ。狂人さんはさっさとキモい部下連れて逃げろよ。」

「まあ、そうしましょう。お楽しみは取っておきますよぉ。」


 ベルフェゴールは昂大を見て不敵に笑うと倉庫のような部屋からそそくさと消え去った。


 「さてさてさーて。オレは少し退屈なんだよ。遊んでくれるか、沖田昂大。」


 その瞬間昂大は息もできなくなるほどの殺気を男から感じた。只者ではない、と本能が告げる。昂大はサッと立ち上がり。男から距離を取って身構えた。


 「おいおい、誰やねんお前。そこ動くなよ。少しでも動いたら・・・」

 「撃つってか?将人。」


 将人はとっさに名前を呼ばれ、思わず耳を疑った。


 「なんで俺の名前知ってんねん!?」


 男は将人に銃を向けられながらも、余裕の表情を崩さない。長く、少しだぼついたズボンのポケットに手を突っ込むと、馬鹿にしたようにケラケラ笑い出した。


 「やめとけ、お前じゃオレに1発も当てることはできねえよ。」

 「なんやて?」


 将人はじりじりと銃を構えながら男に近づいていく。そして確実に狙いを定め、引き金を引いた。


 「バーン!」


 乾いた音とともに銃弾は銃口から放たれ、確実に男の額に向かって吸い込まれていく、はずだった。距離にして約6~7m。普通の人間ならば当然避けることはできないだろうしかしこの男は違った。ゆっくり、そして力など全く入れずただ首をくいっと左に傾けただけ。その動作は誰がどう見てもゆっくりとしたものだった。


 「!!!」


 弾は男の背後の壁に吸い込まれる。


 「だ~か~ら!お前じゃ無理だって。なんならマシンガンでもオレには1発も当てられねえ。」


 男は首と肩を回し、ごきっと音を立てた。


 (なんや今の動き。こいつ、只者じゃないな。)


 将人はかなり動揺していた。将人自身銃の腕には自信がある。当然訓練もしていたし、その命中精度のレベルもかなり高かった。しかしこの男には通用しないと本能が悟ってしまったのだ。


 「いいぜガキども。2人がかりでかかってきな。」


 男はくいっと手のひらを返し、手招きする。


 「・・・どけよ。」

 「は?」

 「そこをどけって言ってんだよ!!」


 昂大の頭にはただベルフェゴールの行方の事しかなかった。それ以外の事などどうでもいい。ただ目の前の男が邪魔だという事実が昂大の脳裏を埋め尽くす。


 「だったら力ずくで、とめてみろよ・・・!」


 男は昂大の放つ殺気を感じ取って、少し表情を変える。

 互いに迸る闘牙。戦いの火ぶたが切って落とされた。

先に仕掛けたのは昂大だった。以外にも冷静に敵との間合いを素早く詰め、体の至るところへ拳を振るう。

 しかしそれらはすべて男の芸術的とも言える手さばきによって軽くさばかれ、いなされていく。


 「ま、パワーはあるようだな。合格点。」


 男はニヤニヤ笑いながら昂大の攻撃パターンを確実に見極めているようだ。

 昂大は攻撃を次第に顔面に集中させていく。拳を連続で様々な形に変換して攻撃する。ストレート、フック、アッパー。しかしそんな四方八方から飛んでくる拳を男はもろともせず受け流す。だが昂大はこの展開を読んでいた。なぜ顔面に攻撃を集中させたかと言うと、


 「足元への攻撃、足払いだろ?」

 「!!!」


 昂大は自分の右足を相手の右足に突き立てようとする。それは大相撲のけたぐりの要領だった。しかしそのけたぐりの瞬間、昂大は悟った。「しまった。」と。


 「痛ッ!」


 素早く低い位置を狙い定めて放った一撃は上から釘を打たれたように止まった。


 「残念~!」


 男の足が昂大の足の甲を垂直に押さえている。

 男はその一瞬の動揺を逃さない。昂大の腹に強烈なボディブローをお見舞いした。


 「ぐはっ!」


 昂大は後方に2,3歩よろける。


 「たくさん攻撃したよなあ。じゃあ今度はこっちの番だ。」


 男は昂大との間合いを一気に詰め、再び昂大の足をわざと踏みつけると、後方によろめいた昂大の身体を一気に引っ張って、


 「オラオラオラオラオラ~ってな。」


 まさに神速の如し。その刹那、言葉を発する間に昂大のボディに6発、顔面に7発撃ちこんで吹っ飛ばしたのだ。

 昂大は勢いよく吹っ飛んで地面に倒れ伏した。その様子見て一番驚いたのは将人だった。


 (なんなんや、あのしなやかな拳は。まるで鞭の様にしなって昂大の身体に吸い込まれていった・・・)


 将人はその一連の出来事をただ眺めることしかできなかった。当然何度か銃弾を撃ち込めるチャンスはあった。しかし尋常ではない圧力に屈して開いた口が塞がらなかったのだ。


 「さてと、将人。なんでお前撃てなかったのか、自分で理解したかあ?自分の愚かさに気づいたよなあ。もしオレだったら3回は確実に命中させたぜ。」

 「なんやて!」


 将人は挑発を受けて再び銃を構え、1発、2発、3発、4発と連続で撃った。しかしすべての弾は男に当たることなどなく透けて行くように躱されてしまう。将人は弾を完全に打ち尽くす。


 「お、弾切れか?いいぜ、さっさと弾込めろよ。それまで待ってやるから。」

 (くっそー!こいつ。)


 将人は悔しさのあまり唇を噛む。


 (冷静になれよ俺。今すべきことはなんや。昂大にベルフェゴールを追わせることやろ!そのためにこいつに真正面から挑んでもしょうがないやろ。)


 将人は冷静に考えた。どうすればこの圧倒的実力差を埋められるのかを。しかし考えれば考える程勝てるビジョンがわかない。


 「・・・フ、フフ。あっはっは!」

 「あ?何が面白いんだよ。」


 将人は急に大きな声で笑い始めた。


 「いやー、おもしろいなー。そんなすべてを見透かしたような態度よう取れるわ。俺がなんで撃たへんかったかって。そんなんもん決まってるやろ。」


 将人は大きなリュックを下ろすとファスナーを開ける。


 「お前に勝つためや。」


 カバンの中から取り出したのは2丁のサブマシンガンだった。それをおもむろに発砲し始める。


 「バババババババババババババ・・・」


 放たれる無数の弾丸。それを目の当たりにしても男は笑みを崩さない。


 「なんだそりゃ。だっせえ!」


 男はわざとオーバーにくねくねと体を動かし、避けるそぶりを見せる。無論そんなことはせずとも簡単に避けることができるのだろう。


 「そんな撃ち方じゃあ掠ることもないぜ。」

 「くそ。」


 将人は撃ちながら走って男に接近していく。


 「はーい、近づけば当たると考える。」


 近づいても男は逃げもしない。サブマシンガンでは弾数に限りがあることを男は当然知っている。


 (さあ、ここからや!)


 とうとう弾が切れる。その瞬間将人はサブマシンガンを投げ捨て、ズボンの両ポケットから素早くハンドガンを引き抜いた。そして連続で発砲する。


 「ふん。」


 しかしそれは男にとって簡単に想定できたこと。銃口が自分に向いた時にはすでに将人の足を蹴り上げていた。

 まずは右腕の銃が蹴り飛ばされる。


 「バン!」


 1発左腕の拳銃から至近距離で弾が放たれるが、きちんと相手に銃口が向いていないため、避けずとも当たらない。その流れで男は将人の顔面を殴った。


 「バン!」


 苦し紛れにもう1度銃は火を噴くが、それもむなしく空に消えていく。


 「ドカッ!バキ。」


 続けざまに膝蹴りを体にぶち当てられ、よろ着いたところを後ろ回し蹴り。それだけで将人をダウンさせるには十分だった。


 「ぐは。」


 左腕の銃も手からこぼれ落ち、無防備に倒れる将人。その様子を見て男は少し不満げな様子を見せる。


 「・・・あーあ。もう少しやると思ったのによお。つまんねえな。」


 男はつまらなさそうに急に真顔になって、首をくるりと回した。しかしそんな男の様子を見てか将人は血を吐きながらも、笑っていた。


 「お前さー。自分の置かれてる状況分かってる?オレは今すぐにでもお前を殺せるんだぜ?」


 男は少し不機嫌な様子で膝をついている将人に近づいていく。


 「・・・いや。わかってるでそんなこと。でもなあ、お前の方こそわかってへんから面白くてなあ。」

 「ほざけ!」


 男は倒れる将人を再び蹴り飛ばした。


 「口だけは達者になったな。将人。」

 「・・・へへへ。そら、どうも・・・あんたなんか知らんけど。」


 将人はまだ笑っている。息も絶え絶えではあったが、笑っていた。そして、突然こう叫んだ。


 「昂大!お前はベルフェゴールを追え!ここは俺が何とかする。」

 「なに?」


 男はこの時初めて気が付いた。将人を自らが蹴り飛ばしたせいで昂大との距離が離れすぎていたことに。男は振り返る。男が見たのはその時すでに昂大が立ち上がり、ベルフェゴールの向かった方向に走っていたことだった。


 「ちっ。」


 反射的に昂大を追おうとする。


「バン!」


しかしその軌道は将人の放った弾丸によって止められてしまった。弾丸は男の額を少しえぐった。ツーと血が静かに流れる。


 「・・・ほう。なるほどな。ようやく当てられたじゃねえか。」

 「・・・ほんまにようやく当たってくれたな。」


 将人は確かに見た。将人が叫んだ時昂大がこちらを見て、たしかにコクッと頷いたのを。


 「・・・へへへ。頼んだぞ昂大。」


 将人はゆっくり立ち上げると、男を見据える。その目には確かな闘志が宿っていた。


 「いいだろう。追うのはやめてやるわあ。そのかわり、楽しませてくれるんだろうな、将人?」


 男は将人に急接近する。

 その瞬間、将人は懐に忍ばせていた小さな煙玉を地面にたたきつける。


 「ほう。」


 男はさっと後ろに下がり、煙を躱す。

 その隙に将人はとっさに走りだし、自分が先ほど置いた大きなリュックの傍に寄り、背負い直した。

 男はその動きを察して、煙の中に突っ込むと、将人がリュックを背負い直した時にはすでに6,7mの距離まで詰めていた。


 「バンバンバン!」


 将人は3発発砲する。しかし当然男は将人に接近しながらすべて躱すと、


 「ぐはっ!」


 将人を真っ直ぐ蹴り飛ばす。

 しかし男がその時見たのは将人が持っていた大きな銃。よく見るとそれはショットガンであった。


 「かかったな!これが俺の最後の戦略や!」


 将人は蹴り飛ばされながらも大きな1発を放つ。当然散弾銃なので男が躱そうとしても広範囲に広がるように弾丸は放たれる。しかし男はまるでマトリックスの様に体を後ろに逸らして銃弾を躱した。さすがに少し反応が遅かったせいか男の左肩にわずかだが命中した。


 「ちっ。」


 しかし男はひるむどころか、まったく勢いは衰えず将人に連撃。顔面に右フック。よろけたところに蹴りを加え、ショットガンをはじき飛ばした。


 「なんだよお前。何丁銃持ってんだ?武器屋かよ。」


 男の左肩の出血を見ても将人は手ごたえを感じていなかった。いや、むしろ完全に打つ手を失ったといえる。


 「くそっ。今ので仕留められへんかったらいよいよやばいかもな。」


 将人は痛みで悶絶しながらピンチを悟り、くすっと笑ってしまう。


 「まあ、このオレに傷を負わせたんだ。少しは褒めてやるよ。」


 男はじりじりと将人に近寄って行く。


 「くそ!なんでや。」


 将人は来ていたコートを脱ぎ捨てると、わきの下の隠しホルスターから2丁拳銃を出す。

 しかし男がほぼノーモーションで突然投擲した小刀が突き刺さり、暴発した。


 「だ~か~ら。何丁持ってんの?まじで。」


 男の歩みは止まらない。


 「なんでやねん!」


 次は足の下から2丁出す。


 「バンバンバン!」


 しかし今度は引き金を引く前に男の持つ銃が、2丁を弾き飛ばした。


 「うっ・・・」


 3発目は無慈悲にも将人の右足太ももに命中した。血が大量に流れ出る。


 「ジェームズ・ボンドの愛銃、ワルサ―PPKね。いい銃使ってんじゃん。」


 よく見ると、先ほど将人が落とした銃を拾っていた。そしてそれを発砲したのだった。


 「・・・まじか。格闘だけでじゃなくて銃の腕前も正確無比・・・」


 将人は肩の力が抜けた。リュックを持って来ることのできる状態ではない。手持ちの武器はもうない。最後の戦略も左肩をかすっただけで終わった。というわけで将人は完全に自分の負けを悟ったのである。


 「わかったか~?これが格の違いって奴だ。お前らはまだまだ修行が足りねえ。」


 将人は再び悟った。ああ、もう自分は死ぬのだと。ドクドクと血が流れていく様子を見て力が抜けていく。


 男は勝利を確信したのか、将人の前に立った。


 「・・・あんた何者や?俺が死ぬ前にそれくらい聞かせてくれてもええんちゃう?」


 将人の視界が少しずつ霞み始めていた。


 「死ぬ?とうとう負けを認めて弱気になったかあ?」


 男は将人を見て少し腕を回し、一息に将人の腹に拳を突き立てる。


 「な・・・」


 将人の意識は痛みが来る前に途絶える。


 「まったく、そんな顔すんなよ。ま、成長したな将人。兄ちゃんちょっとうれしいわ。」


 男はいたづらに八重歯を見せて笑った。


過去のくろひよ。「」内にバンバンバンとかやめなさい。恥ずかしいわ。

あと、マトリックスのように躱したって……(笑)

わかるけども。伝わるけども。

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