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偽りの惑星―fake planet―  作者: 過去(10年前)のくろひこうき
一章
3/32

事件と刑事と変な教師


新田川警察署内部の休憩所で藤堂はブラックコーヒーを飲んでいる。結局のところ特に相談内容は深刻視されず。調べるまでもなかった。


「結局なんで相談したんすかねー。」


大谷はこっそり経費で買った暗殺戦隊コロスンジャーのフィギュアにポージングを取らせている。


「まあ母親たちが子供を心配しないはずはないが、ていうか何なんだその悪趣味なフィギュアは。」

「えーーー。先輩知らないんすか?暗殺戦隊コロスンジャー。黒いマントを身にまとい、黒い仮面をかぶって夜の街に現れる神出鬼没な5人組ですよ。夜の街にはびこる悪を片っ端から退治していくんです。いやーやっぱりなんといっても必殺技っすよねー、とてつもないスピードで相手を切り刻んでいくダークスラッシュなんてもう、あーーーー。」


バキッという音とともに暗殺戦隊コロスンジャーの5人全員は四股を割られゴミ箱にすてられていく。


「なにやら騒がしいな。」


休憩室の外ではなにやら捜査員たちが慌しく走り去っていく。


「いくぞ。」


とだけ言い、藤堂は捜査員たちの後を追う。


「待ってくださいよー。」


その後を壊れたフィギュアをゴミ箱から拾い、泣きながら大谷は藤堂の後を追う。



早朝に、市立新田川高校教員一同を震撼させる出来事が起こった。化学教室と呼ばれる部屋で科学担当教師の前川清志が首を吊っているのが見つかったのである。発見したのは六時半に鍵を開けに来た管理用務員の神戸タカエであった。神戸はすぐに警察に連絡した。その後に校長に連絡をした。校長の橋本米はそのことを聞いて青ざめた。


「そそそ、それじゃあうちの学校に警察をよんだのかい?」

「もちろんですよ。」

「まま、まずいまずい。」

「何がまずいんですか。」

「そりゃそんなことが起きたらこの学校の評判悪くなるし。いろいろ面倒じゃないか。」


このことを聞いて神戸は激怒した。


「そんなことより前川先生ですよ。校長や教頭にこき使われてたって書いてあるんですよ。自殺なんですよ?。」


どうやら遺書があるらしい。


「なななななななんだって?それならもっとだめじゃないか。」

「すぐに来てくださいね。警察の方が待っていらっしゃいますから。」


そう言い電話は切れる。橋本は冷や汗をべっとりとかいていた。


7時に、警察が到着した。その中には暇な藤堂と大谷がいた。2人はこっそりついてきたのである。現場は争った形跡もなく遺書も残っていることからおそらく自殺だろうという判断だった。


「なーんだ、殺人じゃなくて自殺みたいっすね。」

「めったなこと言うんじゃねえよ。」


藤堂は大谷を蹴とばした。


「痛って!。」


脛を蹴られ、大谷は悶える。


「だが、少し気になるところがある。」


そう言って見ているのは例の遺書である。


「今から死ぬってのにこんなにきれいに書くか、普通。」


たしかにあからさまに達筆で書かれた文字から取れる心理は不自然であった。


「それにどうして白衣がこんなにきれいなんだ?」


たしかにまるでクリーニングしたての様に白衣はきれいだった。


「別にきれいに死にたかったんじゃないすか?。」


そんなことを言いながら大谷は教室内を物色し始めた。


「おっ、試験管。なつかしいなー。おれ昔割りまくって先生に怒られたことあるんすよー。」


どうも実験道具に夢中のようだ。


「どうして害者はここを自殺の場に選んだんでしょうね。」


遺書を見ながら藤堂は思った。


「たしかにな。」


その時だった。


「どうして地域課がここにいるんだ!」


振り返ると2人にとって見覚えのある顔がいた。内村竜二警部である。


「いや、少し暇でしてね。」

「暇で済むか!さっさと出て行け!」


内村警部は京都府警捜査一課所属である。


「わかりました。いくぞ大谷。」


そう言い、そそくさと出て行く藤堂。


「ちょ。待ってくださいよー。」


化学教室から出て行く2人を内村は軽蔑のまなざしで見つめる。


「ふん、まったく。」



「感じ悪い奴っすね。ああいう奴、大嫌いっすよまったく。」


あからさまに不機嫌な態度を示す大谷を藤堂はなだめるように言う。


「まあ、待て。今から事情聴取に行くんだろ。」

「あっそうか。もし殺人だとしたら犯人がいますもんね。」


藤堂にはどうもただの自殺ではないような気がしてならなかった。


2人がまず向かった先は管理用務員室であった。ここには第一発見者の神戸タカエがいる。


「すみません警察の者なんですが。」


そう言うと、神戸が少し疲れたような顔で出てきた。


「あのう。ついさっきお話しした所なんですけど。」

「すいませんね。あの屁理屈な本部とは部署が違うんすよ。」


とやたらと屁理屈な、という言葉を強調して大谷が言った。


「はあ。これから校長先生に会いに行くんです。」

「どうしてですか?」

「なんか聞きたいことがあるか何かで。」


神戸は疲弊した面持ちで校長室に行こうとする。


「では我々も一緒に行くことはできませんか?」

「それなら助かります。」


そう言って一行は二階の校長室に向かおうとする。


校長室は北校舎の三階にある。この高校には南校舎と北校舎があり、南校舎に主に生徒たちの教室があり、北校舎に様々な特別教室がある。事件が起きた化学教室は北校舎の一階にあった。


「校長先生。私です。」


神戸がそういうと扉が重々しく開く。


「この扉防犯扉ですよね?」


藤堂がそう言うと、


「そうですよ。昔校長室を乗っ取った生徒がいたらしくてね。」


そう言ったのは校長の橋本米である。


「で、あなたたちは警察の方ですよね。まだ何か?さっきも言ったとおり私はもう忙しくて忙しくて。」


橋本は黒いハンカチで滴れ落ちる汗を拭っている。


「今日は学校はどうするんすか?」


大谷は笑いそうになるのをこらえながら言う。


「そんなの臨時休校に決まってるでしょ!先生が自殺して学校やるわけないじゃない。」

「そうっすよね。」


やはり大谷は笑いをこらえるのに必死である。


「ところで校長先生は昨晩どこで何を。」


藤堂がそう言いだすと橋本の顔は歪んだ。


「私が先生を殺したとでも言うんですか!」

「いえいえ、形式的な質問ですよ。皆さんにお聞きしています。」


そう藤堂が言うと橋本は渋々答える。


「昨日は教頭先生と遅くまでここで仕事をしてました。教頭先生に聞いてください。」


投げ捨てるようにそう言い放つと橋本はまた汗を拭う。


「そろそろいいですか。今から先生の方々を呼んで説明し、保護者の皆さんにも。ああ何でこんなことになったのかしら。」


橋本の様子は自殺した人を憐れんでいるというよりむしろイライラしているように見えた。


「では最後に前川先生の職場態度には何かありましたか?。」

「いえ私は何もないと思いますよ。」

「そうですか。管理用務員さんは何か?」

「私は前川先生とはあまり面識がありませんでした。ですから特には、なにも。」

「わかりました。貴重なお時間をどうも。」


藤堂はそう言うと大谷とともに校長室を後にする。その姿を見て橋本はまた汗を拭った。



「えっ昨日ですか?昨日でしたら橋本校長と遅くまで仕事をしていましたが。」


そう答えたのは教頭の吉田愚糲戸(ぐれこ)である。


「遅くまでって具体的には何時くらいなんすか?」


大谷は少々苛立って言った。


「うーん具体的にって言われてもちょっとわからないですね。校長先生は覚えていらっしゃいませんか?」

「教頭先生ならわかるとおっしゃったものですから。」

「すみません。でも一二時くらいには帰ったと思います。」


吉田はかなりおどおどしている。


「では前川先生に最近変わった様子はありませんでしたか。」

「前川先生はそりゃもうまじめで勤務態度に問題はありませんでした。」

「そうですか。貴重なお時間をどうも。」


そう言って出て行く2人を見送った吉田は大きなため息をついた。


「先輩、なんか怪しいですよねあの二人。妙におどおどしてたというかなんというか。」

「たしかに態度は変だったが。」


渡り廊下に差し掛かった時、外が妙に騒がしいのに気付いた。


「マスコミだ。」


校門の前には様々なメディアが詰めかけ殺伐とした雰囲気を醸し出している。


「次は教師たちだな。」

「はい!」


そんなこととは対照的にこの暇な二人は職員室に向かっていく。



八時。出勤してきたばかりの教師たちはとても驚いていた。教師がこんなにショックを受けるなら生徒はさらにショックを受けるだろう。藤堂と大谷は前川の同僚の化学教員たちに話を聞いていた。


「前川先生はとても熱心な方で、生徒にも人気がありました。」


そう言ったのは化学教師の小林泰子だ。


「柔道部でも厳しくやさしい評判のせんせいでしたよ。ねえ永井先生。」

「そうですね。」


そう答えたのは森本博通と永井剛である。2人は共に化学教師だ。


「みなさん昨晩はどちらに?」

「私たちは三人で九時ごろ帰りました。」

「車ですか?」

「はい。」

「仲いいっすね。」


大谷がそう言うと森本が、


「僕たち化学教師はこの学校で研究をすることを許されているんです。僕たち五年前まで京大にいましたから。」

「えー、まじっすか。」

「かなり理系には力を入れているようですね。化学関係の実験室がたしか。」


藤堂がいうとすかさず小林が、


「5つです。」

「そうそう5つもありましたね。」


新田川高校はほとんどが理系の生徒で埋め尽くされている。毎年成績上級者は東大や京大の理工学部に合格している。


「それに部活動も強い。」

「まさに文武両道っすね。」


藤堂と大谷が感心していると小林が、


「刑事さん。前川先生が自殺するなんて考えられません。今も私たちは合同で研究を進めていましたし、昨日最後に会った時だって笑顔で話しました。」

「それはいつ頃のことですか?。」


藤堂がそう言うと、小林は、


「たしか、8時頃だったかと。私の部屋に来て、少し雑談をしました。」

「そうですか。」


藤堂は少し考え込んだ。


「私もきっと誰かに殺されたんだと思います。ねっ永井先生。」

「そう思います。」


永井は下を向き、俯いている。


「まだ確証はありませんが可能性は十分あると思います。」

「何か私たちにできることがあれば何でも協力します。」


森本はあくまで協力的らしい。


「貴重なお時間をどうも。」


藤堂はそう言って研究室を出て行く。扉の閉まる音が響き渡る。


「まずいことになったわね。」

「誰かに殺されたんだとしたら。」

「まあ私たちだけでも大丈夫よ。ねっ永井先生。」

「はい。大丈夫ですよ。」


だが森本は一人納得できない様子である。


「もし、万が一あのことがばれたら。」

「心配しないで、森本先生。」


そう言って小林は森本の震える肩を叩く。


「我々にはあの方がついているから大丈夫ですよ。」


小林は永井と不安そうな森本の顔を見た。



八時。本来生徒たちが登校してくる時間なのだが来ているのは大勢のメディアの取材だけであった。だがあくまで校長の橋本と新田川市教育委員会は取材拒否の体をとっており、誰も取材に応じてはいない。無論警察も生徒たちのことを考えてメディアに対してあまり情報を渡さないようにしている。

2人の刑事が次に向かった先は一年担任室である。前川は一年生の化学を担当していたからである。


「うーん前川先生ねー。あんまり面識ないかな。」


そう応えたのは一年一組の担任の小林であった。そのほかの教師たちもあまり前川と面識のある者はいない。


「うちの学校ちょっと特殊で科学の先生だけ大学からの引きぬきだから、別の職員扱いなんですよ。」


そう言ったのは英語教師の堀田である。


「そうなんすか?。」


大谷は驚きの表情を見せる。


「なんか自殺する理由がない気がしてきたな。どうやら仲が良かったのは化学教師たちだけらしい。」


藤堂は少し考え出した。


「あと、何か化学教師の方々に変わった様子はありませんでしたか?。」

「変わった様子って、まああの人たちをほとんどの先生たちはよく思っていませんよ。」


そう奥から答えたのは三組の担任の清水である。


「と、いいますと?」


担任団の顔色が変わる。


「なんか、見下しているんですよ。普通の教師を。」

「見下している?」


それ以上は何も皆答えなかったが、どうやらほかの教師も同じことを思っているらしい。


「ああ後、ここだけの話ですけどね、何か怪しい研究をしているっていううわさもあります。ときどき異臭がしたりするって生徒たちが言ってました。」


清水が言う。2人は少し驚いた。


「たしかに何の研究をしてるか聞いたことありませんね。まあでも噂ですけど。」


そう言ったのは数学教師の石川であった。


「そうなんですか。いろいろとありがとうございました。」


明らかに2人の受けたであろう印象と化学教師たちの印象は違っていた。

職員室をあとにした藤堂と大谷は校門に向かっていた。


「これからどうします?」

「いったん帰るか。」

「そうしましょう。暗殺戦隊コロスンジャーの修理をしなくちゃいけませんし。」


大谷はさっき藤堂が壊したフィギュアを直したくてたまらないのだ。


「バカかお前は。」


それだけ言って2人は学校を後にする。そのあと警察署につくまで藤堂が沈黙を破ることはなかった。


警察署に帰ると捜査本部が置かれていた。

そこにはさきほどの内村警部他、本部の人間が多数来ていた。


「管理官。この件は自殺で間違いないと思います。」


内村警部は管理官と呼ばれた女性に詰め寄っている。


「そうね。この山は慎重に動けと上から言われているけどどうやら心配ないようね。」


どうやら捜査本部は自殺という方向で処理するつもりらしい。


「自殺と判断するにはまだ早いと思いますよ。」


そう後ろから声をかけたのは藤堂だった。


「藤堂君!久しぶりね。」

「お久しぶりです広島さん。」


藤堂と京都府警捜査一課管理官広島紅葉は旧知の間柄である。


「なんだとお前。この件は自殺だ。部外者は黙っていろ!」


内村警部は怒りを露にする。


「まあまあ。藤堂君、どうして自殺じゃないと思うの?」


広島は興味深々である。


「まず第一に害者に死ぬ動機がない。それに靴を履いていなかった。この学校は二足制なんですよ。」


新田川高校は二足制で生徒は学校指定の上靴を履いている。教師も皆、何かしらの靴を履いていた。


「そういえばたしかに履いてませんでしたね、靴。」


大谷がそう言う。だが、内村警部は納得していない。


「靴を履いてないだけでどうして自殺じゃないとわかるんだ?」


たしかにその場に居合わせた人間なら誰しもそう思っただろう。


「教職員の上靴は北校舎1階の専用靴箱に保管されているらしいですが、そこにもありませんでした。つまり犯人に何らかの事情があって脱がさなければならない事情があったんですよ。」

「靴、ね。」


広島は机に腕組みをする。


「おれそんなこと知らなかったっすよ。先輩ひどいじゃないですか。」

「お前がたらたらとトイレに行っているからだろうが。」


2人は職員室に向かう前にトイレに寄っていた。その時藤堂は靴箱を見に行っていたのである。


「たしかに靴は見つかってないわね。みんな!」


広島は捜査員たちに向かって大声を張り上げた。


「靴を。害者の靴を探して!」

「オウ!」


ただの一言であったが捜査員たちは気合が入ったかのように動き出した。ただ一人気合の入らない男を除いて。


「管理官。こんな部外者の意見を採用する気ですか?私は反対です。」

「落ち着きなさい内村君。石橋はたたいて渡ったほうがいいでしょ。それに藤堂君は元警視庁捜査一課にいたのよ。優秀なのは私が一番よく知っているわ。藤堂君。あなたの事だからまだあるんでしょ。だから大丈夫よ内村君。」

「わかりました。」


まだ納得いっていない様子であったが、内村警部は他の捜査員と同じように捜査本部を出た。


「さすがですね。広島さん。」

「藤堂君。何かわかったらすぐに教えてね。」

「わかりました。いくぞ大谷。」


そう言って2人が出たのを最後に捜査本部には広島のみとなった。


「藤堂君はこの事件を解決する、わ。」

「プルプルプル、プルプルプル」


静まり帰った捜査本部に一本の電話が鳴り響いた。



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