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1. 王太子妃になりました

【ご挨拶】

『ゲームの世界に転生した私、脇役(以下)令嬢としてヒロインの盲点を突いたかもしれません』(8話完結済)をお読みいただいた皆様、ありがとうございました。続きのお話ですが、前作より話数が多くなる予定です。

お時間がありましたら、お付き合いください。

よろしくお願い致します。


 この物語は——前世でやり込んだわけでもない、タイトルも忘れてしまったような乙女ゲームの世界に転生した、いわゆる転生令嬢——転生当時8歳で現在19歳(本当は30−41歳)が、異世界で『脇役(以下)』の生を必死に全うし、夢叶って自分だけの王子様と出会って3年、無事に王太子妃になってからの物語。相変わらずの力技で真面目な異世界ラブストーリーである。


 ◇◇◇


「エミリア様、クライス様を止めなくてもよろしいの?」


 またか?としか感じなくなった夫の行動。

 それを繰り返し報告される日々に、辟易としている。


 あ!——学生時代にもこれと同じ場面を経験したわよね?


 そんな既視感に襲われる台詞だけれど、その当時とはだいぶ状況が変わっていて。あれから3年、止めなければならない相手もまた変わったのである。

 

 大変ご無沙汰いたしました、私は元オマール子爵家の長女エミリア。

 マジリエス王国の貴族学校『ブリリアンス学院』でこの国の王太子クライス殿下と出会い、3年の月日を経て、2ヶ月ほど前に結婚式を挙げたところである。


 容姿は変わらず、金髪碧眼の典型的な愛され顔で童顔。

 だけどほんの少し大人びて、今ではもう幼女顔は卒業した。


 背丈も変わらず普通で、華奢な体型も変わらない。

 残念ながら、グラマラスボディに成長する奇跡は起こらなかった。



 ——そして転生者である事実、それもここで改めてお伝えしておきましょうか。


 この世界は、私が前世で生きていた日本という国で流行ったゲームの世界。私が学ぶ学院に途中入学してきたヒロインの『聖女見習い』ココロ・マックーロ男爵令嬢が、王太子から『真の愛』と呼ばれる謎の寵愛を受けるに至り、その王太子は素晴らしき婚約者である公爵令嬢に冤罪を被せ婚約破棄まで突き付ける——という、極めてありがちな物語のはずだった。


 それがあろうことか、脇役(以下)令嬢の私がちょこまか自己開発に励んでしまった結果、その弊害がヒロインの未来までも侵食していって、果てには彼女を修道院送りにまでしてしまったことは、とある一定の皆様もご存じの事実であろう。


 画面に映らないどころか存在の匂わせすらなかった私の存在は、ココロの邪魔になるどころか盲点になって、完全なるリーサルウェポンと化してしまったのであった。


 ちなみに順当にいけば王太子妃になるはずだったトート公爵家のご令嬢ルナリエ様は、王太子の婚約者にすらなることなく、今では我が兄の交際相手におさまっている。


 

 ——そうして今日この日、私はお茶会を開くことになった。


 ここマジリエス王国の王妃・王太子妃には、式を挙げた後めぼしい令嬢や夫人を招いて、鉄を熱いうちに深く打ち付ける慣わしがあるのだ。


 『王族が自分を特別視している。ならば忠誠を貫いて更なる特別を狙おう』


 彼女達にそう思わせてガチガチに縛り付け、傀儡とするために。

 そう、目指すはその先にいる夫君。


 けれど金儲け特化型の子爵家出身の私は、ほっそい鎖しか授かっていないわけで。そもそもそんな慣しを慣行すれば、返り討ちにあう恐れすらある。


 ——『それで、殿下は早速……美女を買いにお出かけのようですが。妃殿下のお立場が明後日には危うくなっている……のではないかと、憂慮しております』


 開口一番、私に洗礼を授けたのは、オコガマーシュ侯爵夫人シチェリア様。

 いったい何故このお方が、クライスの色町通いを知っているのか?

 それは後になって分かることだろうから、今はまだ気にしない気にしない。


 それよりここで肝心なのは、冒頭の台詞——『エミリア様、クライス様を止めなくてもよろしいの?』だろう。


 これはお茶会参加メンバーでもある私の友人、オードリー伯爵家のテレシア様が発した言葉である。テレシア様はゲームの世界で、私の次に『攻略対象』との婚約を解消したご令嬢で、私と殿下を良く知る友人だ。


 だから朝イチで色町へ出かけると噂になっている王太子、私の夫クライス殿下の動向を心配してくれての発言なのである。


 ◇

 

 遡ること2週間前——。

 先日の公務は、市井の視察だったのだけれど。

 私は我儘を言って、少し足を伸ばした。

 色町を見学するために。


 ここ最近のマジリエス王国では、主に色町界隈で良くない噂が流れている。

 

 ——隣国から攫ってきた美女を働かせているとかいないとか。


 その事実を確かめるために見学したかったのだ。


 恥ずかしながら私は、クライスと婚約するまで、自分の人生にしか興味がなかった。だから当然、娼館についても全く興味がなかったわけで。


 婚約して初めて、領地の歴史として学ぶことになったのだ。

 これは子爵家の教育では大いに不足していた知識であって、その歴史について触りの部分すら知らなかったのだから申し訳ない。


 マジリエスの色町がある場所は、もとは罪人を収容しておくための場所だったという。だからそこは『掘』になっていて、さながら要塞といった雰囲気の佇まいは圧巻としか言いようがなかった。何者も簡単には入れないし、簡単には出してくれない——そんなところである。


 だからだろうか、視察の後ちょっと探りたいことがあって身勝手に忍んで行った途端、あっさりと危険な目に遭って——『あぁ、やっぱり子爵家程度の娘は迷惑かけるんだな』的な護衛騎士たちの怒りの目に晒された事実は、私の黒歴史として残されることになるだろう。騎士団で代々に渡り語り継がれるというかたちで。


 ということで、クライスは私に代わって調査団を結成したのである。

 側近とたった二人の調査団を——。


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