第八章
第八話です。
結構な伏線回かもしれません。
楽しんでいただければ幸いです。
6/27 追記……小説家になろう四半期ランキングの、SF[パニック]連載中部門にて68位にお邪魔させていただきました!
ランクインするというのは、小説を書いていくうえで一つの目標だったので、とてもとても嬉しいです。
改めて、これまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
「なあ、なんやった?検査結果」
震える声でリトから告げられた言葉に、ナラとヘルドは思わず身を固くした。
ネルが作った検査薬によって、急遽実施されたピロットとゼロを振り分けるこの検査。
この検査でゼロと診断されたものの処遇はまだ分からない。
が、生かされないであろうことはほぼ確実だ。
自分がピロットだったとしても、友人がゼロと判定されたら。
自分は相手がゼロだと気づかずに、内心ほくそ笑んだ相手と付き合っていたということになる。
そんなこと、ショックでしかないだろう。
「じゃ、せーので言わん?」
「そうだな」
「いくよ……!せーの」
ナラが音頭をとる。
心臓は壊れんばかりに動いていた。
「「「ピロット!」」」
人通りの少ない朝の廊下に、三人の声が響いた。
金属製の壁に跳ね返ったそれは、数秒の後反響しながら消えていく。
ナラもリトもヘルドも、しばらく他の二人の言葉をかみしめていた。
何度も頭の中で反芻して、ゆっくりと飲み込んでいく。
数秒遅れて、三人はじわじわと頬を紅潮させた。
「……ってことは……」
「三人とも、セーフ?」
「ほんま?」
ヘルドが喜びを隠しきれない様子で拳を突き上げた。
リトも目を潤ませている。
「よかった……ほんま、よかったぁ……っ!」
ナラも感極まってつぶやいた。
「うん、ほんと……よかった!」
三人とも、しばらく今の状況を忘れて喜びを分かち合った。
先ほど激しく音をたてていた心臓は、今は違う意味でドキドキしている。
すっかり口角の上がった頬に目を当てながら、リトは言った。
「ああぁー、安心したら気ぃ抜けたわ」
「だな。なんか一生分心配した気がする」
「私も、ちょっとしばらく動けないかも。力抜けちゃって」
「うちもやわー」
しばらく三人はそのまま廊下に座り込んでいた。
が、数分としないうちに朝六時を知らせる放送が流れて、三人はのろのろと立ち上がった。
余談だが、ここアヴァロンでは朝六時と昼の十二時、そして夜十時に鐘が鳴るようになっている。
ピロットたちの生育機能や繁殖機能を正確に管理するためと言われているが、ナラたちが物心つくよりもずっと前からあった習慣なので、真偽は明らかにされていない。
「そろそろ、食堂行くか?」
「そうだね。なんかお腹すいちゃった」
「せやな。それに、ネルやキイラ、メイジーにニーナにリーナの確認もしたいし」
もっとも、そいつらがゼロやったらすっごいショックやけども、とリトは続けた(キイラの名が出た瞬間ヘルドはものすごい勢いで舌打ちしたのだが、そこは割愛しておく)。
「……だよね。ま、ゼロだとしても自分から打ち明けないだろうしなー」
「そこは検査した本人のネルに聞くんよ。それに、あんな薬作ったくらいやし、ネルは多分ゼロやない」 「……だな。それは同感」
「うん、そこは安心できるよね」
かたい金属音をリズミカルに響かせながら、リトが言った。
「それはそれとして、ゼロの人はどうなるん?」
「あー、ね。うぅん………死海に落とす、とか?」
想像の域を出ないけどね、とナラは苦笑した。
ヘルドは腕を組んでつぶやく。
「確かに、な。艦内に置いておくなんてことはまさかないだろうし……なんなら、閉じ込めておくところも、各部屋ぐらいしかないだろ?」
「ま、後でネルに聞いてみようや」
「そだね。まずは食事」
リトが下腹をさする。
「なんかめっちゃお腹すいたわ」
ヘルドも頬を緩ませ、ナラは勢いよく頷いた。
「私もだよ」
食堂は、 四区画の中心にある。
ナラたちが住み働いている第二区画の他、三区画どこからでも行けるようになっているのだ。
他の区画に行く道は、食堂と九本ある共通廊下しかない。
こんな時だからか、早朝だからか、はたまたその両方か、食堂は閑散としていた。
メイジーもニーナもリーナも、見当たらない。
食堂には顔見知りが多かったから、ナラは少し安堵した。
ここに来られているということは、少なくともピロットであったことがわかるからだ。
それでも、確認をできた相手はすくない。
早くメイジーたちにも会いたい、とナラは思った。
が、食堂の奥に探していた人を見つけ、三人はその人に駆け寄っていった。
「おはよ」
「おはようございます、皆さん」
ネルだ。
サラダを乗せた銀のトレイを手に持っている。
彼女はいつも通り淡々としているが、声からは昨日の切迫感が消えていて、なんとなくナラは安堵した。
「昨日は大変だったね……」
「そうですね」
椅子に腰掛けながら言った。
ナラは、箸を持って手を合わせる彼女の正面に座る。
「アヴァロンってさ、数百人くらいのピロットが暮らしているじゃない」
「えぇ。そうだったはずですが」
「その全員検査するなんてネル、大変じゃなかった?一人でやったの?そうなら、私たちに言ってくれれば、手伝ったんだけど……」
ネルはナラにちらりと目をやって、サラダを口に運ぶ手を止めた。
箸をカタン、と置き軽く息をついたネルは、一息にいい切った。
「私は、全員分の検査はしていません。私が確かめたのは、第二区画の方々だけです」
閲覧ありがとうございました。
最後のネルの言葉の意味、わかりましたか?
よければ考えてみてくださいね。