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第六章

第六話です。

大きな動きはないですが、楽しんでいただけますよう。

未熟な部分まだ多いかと思いますが、何卒よろしくお願いします。

 ネルが研究室を出る数十分前、廊下では不毛な罵り合いが行われていた。

「だから、さっきからなんなんだよ。緊急事態なんだからもっと早く歩けよ」

「そこまで言うなら、走ったほうが良いと思う……だいたい毎日死海に出て動いてる原始人といつでもデスクのまえで機械いじってる俺を比べないでほしい」

「二人とも、喧嘩しとる場合やないやろ!」

 ほんまなんなん、こんな時にまで、とリトがため息をつく。

 ただ、ヘルドもキイラも、その口と同様に足はよく回っているので緊急事態だという認識はあるのだろうが。

「あーあ、アンタら、ほんま本能レベルで気ぃ合わんな。なんなん?」

「「こいつと気が合うなんてことあったら最悪だ!」」

 変なところで言葉は重なり、二人は睨み合う。

 二人の間に見えない火花が散っていそうだ。

 リトは再度ため息をついた。

「ま、それはそれとして。ほんま、どうする?」

 スーの言うところには、信頼できる相手に今起こっていることを伝え、パニックが起きた場合鎮圧の手伝いをせよ、と。

 信頼できる相手、かつこの状況に冷静に対応できる人物なんて限られている。

 今の状況を聞いてパニックにならない方が珍しいのだ。

 その点、スーは変わっていたのだと思う。

「信頼できる相手、か……言っとくけど、情報科は制圧には不向きだから。第二区画に振り分けられてる人も少ない。知り合い自体そんな多くないし」

 何しろ、トップが第三区画の人だから。

 そう、キイラは言った。

 リトは少し首を傾げる。

「どうしたんだ?」

 そんなリトにヘルドがたずね、彼女はそれに応えた。

「やって、おかしいやん」

「何が?」

 キイラは怪訝そうだ。

 じっとりと座らせた目を更に細くして、リトの思考を読むかのように彼女の顔をまじまじと見つめている。

「働く場所は選択制で、基本希望が通るようになってるやん。そのせいで管理科はいつも人手不足やし、軍事科なんか人気すぎて訓練生なんて組み分けができとるやん。……話がそれたけど、要はそんなに第二区画割り振りの情報科が少ないんって話や。基本どの科も、様々な区画から均等に選ばれるはずやのに」

「……大した理由はなさそうだけどな。気の所為じゃないか?」

「心の底から不本意だけどそれは同感……」

「なんだと!?」

 ヘルドがキイラをきっと睨んだ。

 なんだか、キイラに出会ってからヘルドの印象がどんどん幼くなっている気がする、とリトは数日前のヘルドを思い浮かべた。

 あの時の厚生年金はどこへやら、今はすっかり気に入らないやつといがみ合う幼子のようである。

「聞こえなかった……?野蛮人と意見が合うことが不本意だって言ったんだよ……」

「ハァ!?」

 新たな戦いの火蓋が切って落とされかけた時、曲がり角の向こうから硬い金属音が響いてきた。かつ、かつ、かつ、かつ、一定の速度で鳴らされるそれは、徐々に三人へ近づいてきている。

「ゼロ……?」

 いらいらとキイラが靴底で床を叩いた。

 が、真実は予想とは少しばかり違っていた。

「隊長!」

 ヘルドが声を上げる。

 そうだ。

 曲がり角を曲がってやってきたのは、ヘルドが所属する討伐隊、そのトップにたつ隊長その人であった。

「おう、ヘルド。元気してるか?」

 彼は、ちょうどゼロの討伐をした後遠方から帰ってきたところであった。

 ヘルドもそのことは知っている。

 だが、そんなこと今は気にしていられない。

 今起きている事態は、アヴァロン中を揺るがす大事件だ。

 ヘルドは眉間をおさえている隊長の前に進み出た。

「隊長。少し、お時間よろしいですか?」

「いいが、手短に済ませろよ」

 ヘルドは、厳かに口を開いた。



「なんだと!?」

 先ほどのヘルドと全く同じ、けれどそこに込められた意味合いは全く違った台詞を隊長ははいた。

 彼の指先はわなわなと震え、唇は白くなっている。

 何時もの荘厳な態度はどこへやらだ。

 こんな人でも狼狽えるようなことが、今実際に艦内で起きている。

 今更ながら、リトは頭の髄が冷えるような思いでいた。


「……そうか。では、一番隊は協力しよう。他の隊は分からんぞ」

 数分の後、隊長は重々しく言い放った。

 廊下を慌ただしく駆け抜け、一つの扉を開け放つ。

「一番隊の諸君!これから艦内で起きる混乱を制圧することを命じる!詳細は今は伝えられないが、一番隊に属するものとして、何があっても動じず任務をやり遂げよ!」

 隊長が張り上げた声には、一種の威厳があった。

 部屋の中のものは、パソコンや書類を放り出してまでも彼の前に整列する。

 その様子を間近で見ていたキイラは、感嘆ともなんともとれぬため息をついた。

「諸君!廊下に一定間隔で整列!」


 ヘルドについて廊下に並んだリトとキイラは、突如響いたチャイムに身を固くした。

 ヘルドも、ゆっくりと息をのむ。

『皆さん、落ち着いて聞いてください。ただいま、艦内にてピロット形のゼロが確認されました。すぐに襲ってくるということはございませんが、急に凶暴化する場合があります。また、現時点では見分けの方法はありません。ただいま研究隊や医療科の一部の方々が検査薬を作ってくださっています。もしかすれば、この放送を聞いている中の誰かもゼロかもしれません。皆さん、落ち着いて行動してください。繰り返します___』

 スーの落ち着いた声で、放送が流れたすぐに、事態は起こった。

 みんなが混乱し、そのまま意味もなく廊下に出てきた。

「今の、どういうことだよ!?」

「この中にもゼロが?」

「ちょっとあなた、ゼロなんじゃないの?」

「俺じゃねえよ!」

「そういうアンタはどうなんだよ」

「ハァ!?言いがかりはやめてよね」

 大声でどなりあい、罵り合う人々。

 パニックだ。

「皆さん、落ち着いてください!」

「みんな、だいじょうぶやから!」

「みんな、部屋に戻って!」

 キイラもヘルドもリトも、声を張り上げた。

 だが、一回燃え上がった火は簡単に消えてはくれなかった。

 騒ぎは誰もをのみ込み、拡大していく。

 自分はなんてちっぽけなんだろう。

 三人がそう感じているその間も、パニックは大きくなっていく。

 ああ、どうしよう。

 自分すらものみこまれかけた時、一つの声が廊下に響いた。

「皆さん、落ち着いてください!検査薬があります!これを使って、順番に検査してください!!」

 ネルの声だった。

閲覧ありがとうございました。

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