第二章
SF物語、第二話です。
楽しんでいただけますよう。
作者自身まだ学生ですので、至らぬ点も多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。
リクエストや質問等、感想で受け付けております。
「まーた、貴方がたはなにをしていらっしゃるんですか」
目の前には腕を組んで仁王立ちのネル。
整った涼し気な顔立ちを精一杯に歪めて、きつい目つきでナラ達を睨んでいる。
「全く、処理するのは私達なんですよ、いい加減自覚を持っていただきませんと」
ネルは情報科きっての技術者だ。
それ故に研究隊にも所属している。
優れた頭脳と手先の器用さは、ほかにはない随一の才能だ。
常に冷静な部分も好感を持てるし、一時のトラブルに対処しなければならない情報科としてはセンスの塊ともいえよう。
そんな彼女が声を荒げて怒るのだ、相当のことをナラ達はやらかしたに違いない。
ネルは額に手を当てて息をついた。
「ナラさん、リトさん、ヘルドさん、貴方がた、停電を起こすなんて何を考えていらっしゃるんですか。何もなかったからいいものの……」
理由にしてもくだらないことだが、端的に言うとナラ達は廊下を破壊したのだ。
アヴァロンの壁や天井には、その膨大なプログラムを維持するための基盤が敷き詰められている。
もちろん剥き出しなわけはなく、薄い金属版で覆われているが。
壁が傷つけば、その下の基板も傷つく。
管理科として軍事機器の管理を任されているナラとリトは、小型爆弾を木箱で運んでいたのだ。
そこで、二人はヘルドに出くわした。
爆弾を引き取る役だった彼は木箱を受け取ろうと手を伸ばしたのだ。
ナラも渡そうとして木箱を差し出した。
ところが、タイミングが合わず箱は床に落下。
衝撃に弱いタイプだった爆弾は、廊下で爆発を起こした。
規模は小さなものであったし、威力も少なく設定されていたため大きな被害はなかったが、金属版が歪み、その下の基盤が傷ついてしまった。
それが電気系統に関するものだったため、アヴァロン内は一時停電に陥ったのだ。
幸い、すぐに駆けつけたネル達情報科の修理によって、大事には至らなかったが。
「もういいです。あ、ナラさんは残ってくださいね、研究隊の方でお話がございますので。キイラ、リトさんとヘルドさんを送ってきてください」
「へいへーい」
奥のデスクから気怠げに立ち上がった男が、二人を出口に促した。
「ネルが送っていけばいいじゃん……」
「私忙しいんで。キイラこそ、貴方暇そうじゃないですか。面倒くさいからって私に押しつけないでください。では、よろしくお願いしますね」
ぼやくキイラを追い出した後、ネルはナラに向き直った。
「では。説教は一旦後にしますが」
後、ということはまだ終わっていないのか、とナラは戦慄した。
が、ネルの真剣な面持ちを見てすぐに居住まいを正す。
「話、というのはですね、最近の研究結果とゼロの動向についてなのですけれども」
お茶いかがですか、とネルは椅子を勧めて戸棚を開けた。
研究室以外でゼロについて話すことなどないに等しい。
つまり、よほど重要なことなのだ。
椅子に足をそろえて座ったナラは、急いで頭の中の記憶を掘り返し始めた。
「最近の動向、というと……多少活発になっていることくらいだよね?」
「主にはそうですね。アヴァロンに向かってくる確率が格段に跳ね上がっている。警戒しないと行けないのはそこです」
「ゼロには、同種族の方に向かう癖があるけど、関係あるのかな」
「さぁ。艦内に生きたゼロがいる訳ありませんし……考えられるとすれば、研究サンプルでしょうが、あくまであれは一部ですし、生命を維持できない形になっていますので可能性は低いかと」
ネルがトン、とティーカップを机に置いた。
「どうぞ」
「どうも……」
熱いお茶をすすったナラは、モニターに目を向けた。
ゼロたちとの遭遇率のグラフが表示されている。
暗い部屋の中、ぼんやりと薄青い光が不気味に思えた。
「それでですね___」
バン、ドタン!
ネルが口を開いた途端、廊下で大きな音がした。
続けてこちらに走ってくるような足音が響く。
「今度は何ですか……」
眉根を寄せたネルが扉を開けた途端、血相を変えた一人の男が飛び込んできた。
「大変だ!」
ただならぬ様子にナラも身を固くする。
「軍事科のやつが、死海に落ちて……」
ナラ達ピロットは酸性の海に落ちてもこれと言ったことはない。
なんだ、大したことも無いじゃないか、と息をついたのも束の間。
男の次の言葉に、ナラもネルも目を見開いた。
「溶けたんだ!跡形もなく!!」
不穏な影が、アヴァロンに忍び寄っていた。
閲覧ありがとうございました。