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第十二章

お久しぶりです。

次で完結です。

楽しんでいただければ幸いです。

「ほんとに、いいんですかね?」

 スタスタとだいぶ速い速度で船内を歩きながら、ニーナは後ろを歩くナラを振り返り言った。

 一拍遅れて、メイジーもそれに同調する。

「うん、だよねぇ。少なくともゼロの中には、反対意見はないと思うけど……第一、ナラはいいのぉ?」

 リーナもうんうんと頷きながら言う。

「確かに、ですよねぇ……自分に危害が及ぶかもしれないのに、ナラさんはいいんですか?」

 三人分の視線を一身に受けてなお、ナラはいつも通りの朗らかさで返答した。

「うん、いいんだよ。むしろ、これが私が考えうる、最良、最善だと思う___」

 四人は角を曲がり、その先の周囲のものよりも重厚な扉がついている部屋の前に立った。

 『管理科』と刻まれた金属製のプレートが、扉の上に掛かっている。

 何を隠そう、スーやその他管理科の幹部を務めるピロットたちが働く、その場所である。

 アヴァロン全体への放送や対応等を行うこの部屋は、管理科であるナラも数回入ったのみだ。

 ナラは目を閉じ、フゥッと深く深呼吸した。

 隣のメイジーたちは、何処か不安げだ。

 顔を上げ、ドアノブに手をかけたナラは、三人を見渡し口を開いた。

「___さ、行こう」 


◇ 


 時は遡ること数十分。

 全員助かる作戦がある、といったナラに、いち早く反応したのはメイジーだった。

「……そんな、あるわけないでしょぉ?じきにみんな、本能を抑えられなくなる。そうなったら、死ぬのはナラたちなんだよ〜?わかってる?これが一番最善だよ」

 メイジーは、珍しく感情的になっていた。

 二人を犠牲にするなんて、本当は心の底から嫌だった。

 だけど、このまま艦内にいれば、ゼロとピロットの間で殺し合いが起こりかねない。

 知っている人を殺すことも、逆に知っている人に殺されることもありうる。

 それなら、皆で死ぬほうがずっといい。

 葛藤して、心の中でせめぎ合って、前々から考えていた作戦を決行すると、ようやく決めたというのに。

 そんなに無邪気に。

 希望を持たせるようなことを言う。

 やめてくれ。

 少しでも、可能性があるなら。

 その希望に懸けてみたいと、思ってしまう。

 固めたはずの決意が、簡単に崩れ落ちてしまうから。

 そんな。

 ナラはそんなメイジーを正面から見据えて言った。

「……私だって、なにも考えないでここに来たわけじゃない。そんなの、それこそ死に損だよ。ちゃんと考えて、想定して、できるって思ったから話した。内容だって固まってる。言ったでしょ?私は___」


___ゼロを含めた誰にも、死んでほしくない。


 強い、真っ直ぐな意志が、三人の体を貫いた。

 死んでほしくない、と。

 先ほど言った言葉を、少しの揺らぎも疑いもなく繰り返すナラは、三人の目にとても眩しく映った。

 あーあ。

 今からこの人ごと壊すつもりだったのに。

 馬鹿馬鹿しくなってきてしまう。

 ぼんやりと、ニーナはそう思った。

 そんな二人を見ていたリーナは、意を決して口を開いた。

「……聞いてみても、いいんじゃないですか?もしかしたら……皆、助かるかもしれない」

 現実にそうなったとしたら、どれほど嬉しいことか。

 それに託してみるのも、いいんではないか。

 リーナはもともと、人に意見をするタイプではない。

 明るいが、その実自分の意見を自分から言うことがあまりないのだ。

 そんなリーナが、自分から、現状を左右するような意見を言った。

 メイジーとニーナは目配せし合い、頷く。

「……リーがそういうなら」

 ニーナがそう言い、メイジーはナラに向けていたキツイ視線をふっと緩めた。


 ナラは軽く息をつき、話し出す。

「……そう思ってもらえて何より。それじゃ、話すね。単刀直入に言うと、この騒動はあの星が原因だ」

「あの星……あぁ、あの白い、眩しいやつですか〜?」

 リーナがのほほんと本来の調子を取り戻して言う。

 ナラはそれに応えて頷いた。

「うん、それ。断定はできないけど、私は十中八九それだと思ってる。ここ最近、野生のゼロたちがアヴァロンに接近するのが多くなったのは、たぶん縄張り本能が星のせいでさらに活発になったんだと思う。もちろんそれ以外に理由はあるだろうけど……とにかく、あの星が恐らくゼロたちの本能を呼び覚ますトリガーになってる。で、私考えたんだよね。それだったら___」

 ナラはとても朗らかに、それでいて大真面目に言葉を放った。


「___星から離れちゃえば良いんじゃないかな、って」


「星から……離れる?」

 メイジーは困惑してつぶやいた。

 本能が呼び起こされている原因が分かったのなら、それはいいことだろう。

 ただ、その星から離れる、とは。

 アヴァロンの操縦は全自動だ。 

 ゆっくりと、一方向に移動するようになっている。

 この遅さであったら、離れるどころか、アヴァロンがあの星に最接近するまでも時間がかかる。

 だから、星が突如として消えるだとか、アヴァロンがUターンするしか道はない。

 星が消えるのはあり得ないとして、アヴァロンの操縦は(先ほども言ったように)全自動。

 手動で動かすことは不可能なので、結局進路は変えられない。

 可能性があるとするならば……。

「……まさか、とは思うけどぉ……脱出艇、とか?」

 ありえない、という程の調子のメイジーの問いに、ナラは平然と頷いた。

「……うん。そうだよ。脱出艇なら、ある程度は操作ができる。メイジーたちゼロ側が脱出艇を使うことを考えていたのなら、私が思っている以上にゼロは脱出艇の仕組みを理解していて、操縦できるだろうから、なおさらだ」

「ええと……つまりは」

 困惑しきりのニーナに、ナラは力強い瞳で言う。

「うん。ゼロが脱出艇に乗って、星から離れる。地球の自転公転と星の公転と計算して、合わせたらいいんじゃないかな___」

 ナラは一度言葉をきり、無邪気な笑みを浮かべて挑戦的に言った。

「___三人なら、できるでしょ?医療科だし、相当理系だよね。薬作りをやっていたのなら計算だって得意なはず。惑星間の距離も地球についても、昔のヒト達が沢山資料を残してる」

「……敵わない、ですねぇ」

「全部お見通し、ってことですか」

「あーもう、無茶言うなぁ〜……」

 三人は三者三様に答えて不敵に笑い、声をそろえて言い放った。

「「「……もちろん!」」」 


◇ 


 ……と、そういうわけだ。

 何はともあれ、艦内のゼロ及びピロットに事情を説明しないことには始まらない。

 こうしている間にも、刻一刻とあの星は地球に近づいてきているのだ。

 そこでナラが思いついたのが、まずスーに洗いざらいすべて説明することだ。

 管理科の部屋なら、艦内放送ができる。

 管理科のトップたるスーの口から説明されたことなら、きっと皆受け入れるであろう。

 皆、死にたくはないのだから。 


 扉を開けたナラたちに、管理科のなかで奔走していたピロット達は怪訝な目を向けた。

 ざわざわとざわめきが広がるのを、スーがぴっと制した。

「……落ち着いて、仕事に戻って。四人はこちらへ」

 ナラたちはスーに手招きされ、彼女のデスクの前に集まった。

 スーは深く刻まれた眉間のシワを揉みつつ、ため息とともに問うた。

「……それで?何の用なの。何か進展があったの?」

「まぁ、この騒動の原因などは、恐らく」

 部屋が、にわかにどよめいた。

 今管理科を悩ませている問題のその原因、それを幹部でも何でもない(研究隊ではあるが)ナラが解いたというのだ、無理もない。

 大勢の好奇と期待の視線にさらされ、メイジーたちは居心地が悪そうだったが、ナラは臆せずただ静かにスーを見つめていた。

 少し沈黙が続いた後、スーはもう一度深々とため息をつき、踵を返した。

「……混乱を招くとよくないわ、場所を移しましょう。あ、仕事を続けて。四人は……私についてきて」

 四人はスーに手招きされ、部屋を出た。  


 スーが話の場所に選んだのは、甲板だった。

 普段は人でにぎわっているのだが、こんな状況下でのんびり空や死海を見つめる気にはならないだろう。

 ナラたち以外には、誰もいなかった。

 スーは四人に向き直り、口を開いた。

「……それで?原因が分かった、と言ったわね?聞かせてもらおうかしら」

「はい。実はですね___」 

 ナラは、深く息を吸って、話しだした。


◇ 


「___と、いうわけなんです」

 ナラは、現時点で分かっていることと、自分の推測を織り交ぜて、長い話を終えた。

 スーはふぅ、と長くため息をつく。

「……分かったわ。ただ、それなら、なんであなたたちがいるのかしら?」

 スーは、メイジーたちを指し示しながら言う。

「私が聞き違えていなければ、そこの三人は第三区画のはずだけど?仮説が正しいならゼロじゃない、どうする気なの?そもそも、それを報告するためだけに三人を引き連れてきたわけないわよね?」

 流石スーというべきか、状況把握が早い。

 ナラは内心で舌を巻いた。

 が、その分頭もよく回り、違和感を次々に指摘されるのは少し困る。

 話が早くて助かることこの上ないが、緊張するというものだ。

 まぁ、スーの気持ちも分かる。

 事態は一刻を争うのだ。

 ナラは鋭く息を吸い、考えてきた作戦を告げた。

「まず、ゼロの皆さんを集めて、脱出艇に乗ってもらいます。脱出艇の内、特に昨日の高いのは三台なので、そこに分けて乗っていけばいいかなと思います。……ゼロの数は多いですけど、脱出艇はアヴァロンに住む者全員が乗ってまだ余裕があるくらいに造られていますから、大丈夫でしょう。次に、順次アヴァロンから出て、星から離れるように飛行をしてもらいます。それだけです。一応、アヴァロンと脱出艇とでは連絡がとれますし」

 スーは額をもみ、長いため息をついた。

「……それで?私に状況説明をしろってわけね?もう、無茶言って_」

 スーは、一筋の乱れもなく整った髪を、無造作にガシガシとかき混ぜながら続けた。

「___任せなさいよ」

 あぁ、やはりスーが管理科長でよかった。

 ナラは、心からそう思った。

「……善は急げ、と言うしね。今から放送するわ。……ゼロの三人は、ゼロ側に説明でもしてきたら?全館放送だけれど、ピロットである私の言う事より、仲間に言われた事のほうが信用できるでしょう」

 スーはスタスタと管理科の部屋に戻りながら言った。

 メイジーたちは、どこか晴れやかな顔で、甲板から廊下えとパタパタ駆けていく。

 取り残されたナラに、スーが一度振り向き言った。

「あなたも、あの四人に説明してきなさい。直感に忠実なあなたのことだし、どうせすぐ飛び出してきたんでしょう?あなたの口からすべて話しなさい。私が言ったことの繰り返しでも、誰の口から出るかで、感じ方は全く変わるものだし。何より、友達でしょう」

 ナラは、驚きに少し目を開き、一拍置いて、力強く頷いた。

「……はい!」

 スーは、また歩き出した。

 きっと数分後には、アヴァロン全体に向けて放送がされるだろう。

 またその数時間後には、ゼロがこの艦から飛び立つ。

 メイジーたちと、また会えるといいけど。

 惑星の動きに関しては大して詳しくないが、いつか、地球があの星から離れるときは来るだろう。

 その時に会えたらいい。

 ナラがそんな事を考えながら走っていると、ついに食堂に着いた。

 真ん中あたりのテーブルに、四人が見える。

 心の底から大好きな、友人たちの姿が。

 いつも通りの静かさで目を伏せているネルや、火花を散らして睨み合うヘルドとキイラ、その近くで少し居心地の悪そうなリト。

 たったの数十分離れていただけだったのに、数ヶ月も会っていなかったように感じる。

 ナラがテーブルに近づいている途中で、四人もナラに気付き、振り向いた。

 淡々としつつもわずかに笑みを浮かべているネルや、少し表情の緩んだヘルド、気怠げな無表情のキイラに、今にもナラに飛びついてきそうなリト。

 自分の存在は、この四人にとっても大切なものになっているのだろうか。

 今の反応を見ると、少しくらいうぬぼれても、良いような気もする。

 ナラはふっとほほ笑み、テーブルに近づいていった。

閲覧ありがとうございました。

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