第一章
初のSF物語です。
今回は設定の説明会のようなものですが、楽しんでいただければ幸いです。
作者自身まだ学生なため、至らぬ点も多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。
リクエストや質問等、感想で受け付けております。
4/6 追記…誤字等修正いたしました。
はるか昔、ロボットが隆盛を誇った時代があった。
感情も痛覚も持たぬ彼らは、生みの親である人間をはるかに凌駕して繁栄を築いたのだ。
優れた科学者達も予想だにしなかったことだった。
やがてロボットたちは争いを起こした。
高度な知能を以て行われたその戦いは、人間のそれよりはるかに恐ろしいものであった。
いつしか諍う理由すら消えてしまったそれは、多くの人間たちをも巻き込んで続いていった。
人の頭脳を超えた彼らは、やがて一つの兵器を作り出した。
その名もゼロ。
睡眠本能、帰巣本能、殺戮本能。
あらゆる「本能」の中でもとりわけ生存本能が突出していた彼らは、周囲の生き物達を無差別に襲っていった。
全ては、生きるために。
生き物ではない、かといってロボットでもないゼロたちは増え続け、やがては地球全土を荒廃させた。
ロボットたちの誰も予想できなかった結末だった。
わずかな人とロボットたちだけは、船で宇宙へ逃げのびることができた。
彼らは学び、地球外で暮らしていくうちにやがて融合体を生み出した。
「ピロット」である。
宇宙船の中で段々と繁殖していった彼らは、やがて一つの悲劇を起こすことになる。
これは、はるか昔の話。そして、そう遠くない未来の話。
◇
見渡す限り、空は真っ青。
暑い今の季節に合う入道雲が、水平線の向こうに広がっている。
眼下に広がる海と、そこから突き出たビルの残骸などを見下ろして、ナラはため息をついた。
「これで海も綺麗やったらねえ、完璧なんやけどね」
ナラの隣で柵にもたれているリトも同じことを思ったようで、なにやら不思議な言葉づかいで愚痴をこぼす。
「そんなこと言ったらきりないよ……まぁ、私もそう思うけど」
もう聞き慣れた愚痴を聞き流したナラは、ふと甲板を歩き回る足を止めた。
討伐隊が帰ってきたのだ。
「どうだったー!?」
死海にはマンボウの姿をした生き物が浮かんでいる。
あれこそが、ゼロだ。
時には兎、時には鷲や鷹と様々姿を変えて襲ってくる彼らであるが、今回はマンボウであったらしい。
ここまで大きいのは久しぶりなようで、リトも物珍しそうにゼロを眺めている。
地球全土を壊滅させたゼロのおかげで、この星は陸も全てが浸水、おまけに水には有毒物質が大量に含まれているといった始末だ。
ただ、はるか昔に人ではなくピロットとなったナラ達にはあまり害のないものであったが。
せいぜい軽く火傷を負うくらいである。
もし人であれば、死は免れないだろう。体が溶けて、骨も残らないと思う。
もう、この船に人間やロボットは一人として残っていない。
皆、環境の変化に耐えきれず死滅してしまったのだ。
生き残ったのはピロットだけ。
大きな円盤状の宇宙船、アヴァロンに集まった彼らは、日々ゼロの討伐をしながら細々と暮らしている。「見りゃあ分かるだろー!異常はないから管理科呼んでくれ、こんなデカいのは久々だー!!」
マンボウ、改めゼロの上に立っていた男が返す。
背負った電子機器から空気を噴射して甲板に降り立った男は、腕を組むナラにひらりと手を振った。
「ただいまー」
「おかえり、ヘルド。怪我は?」
「ない!」
光を内包したかのような笑みに、ナラは思わずタジタジとなる。
ナラは、ヘルドのように笑う男に出会ったことがなかった。
いや、同性でも、あるいはピロット全体でもないかもしれない。
死海ではもうゼロが溶け出している。
ゼロは空を飛ぶのだが、飛行機能を失って死海に落ちるとひとたまりもない。
まるで人のようにダメージを受けて、ついには跡形もなく消え去ってしまうのだ。
件のマンボウも例外ではないらしく、すでにヒレはなくなっている。
「ヘルド、サンプルは?」
ナラが手を差し出すと、ヘルドは物々しく袋を差し出した。
中にはゼロの一部が入っている。
「はい、ありがと。助かる」
この船に住む人々は、全員が何らかの職についている。
軍事科、医療科、管理科、情報科の4つだ。
軍事科の中でもさらにグループ分けがあり、練習生、指揮官、討伐隊になっている。
主にゼロを倒すのは討伐隊だ。
また、管理科や医療科の中から希望者が集まった研究隊というのもあり、これはゼロの生態を把握する為のものである。
ゼロは放置するとそのまま溶けてしまうため、討伐隊がサンプルを取ってくるのが基本だ。
「じゃあ私たちも戻らんとね」
リトが甲板の扉を開けて中に入っていく。
うーん、と一つ伸びをしたナラは、リトに続いて廊下を歩き出した。
閲覧ありがとうございました。