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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
95/149

2-2

 







 あの後、姉のアイラと一緒に帰宅する為にギルドの入り口で待っていたレイラの強い勧めにより、その日俺達はアイラ宅で世話になった。


『カイコさん…どうか、ご無事で…』


 事情を知るアイラからの、涙ながらに無事を祈る言葉。

 俺を心配してくれる数少ない相手へと感謝し、そんな人へ向けて睨みをきかせていたカレンには再びゲンコツをお見舞いした。

 全てが終わったらまた顔を見せにくると約束し、俺達は街を出た。




 そして現在。




「さらに逞しくなられましたね」

「ば、バケモノがここにもいたわ…」

「カイコ……王女様が…」


 早朝、開門とほぼ同時にガルに乗り、全速力で王都を目指した。

 閉門には無事間に合い、城へ着いたところでニーナ達三人と出会った。

 約一名失礼な奴もいるが。


 尚、城は入り口も何もかも大きい為、ガルグムントも一緒だ。すれ違う全員をビビらせているが、緊急事態なのだから許してもらおう。


「概要は聞いている。詳しく話が聞きたい。案内してくれ」

「はい。こちらへ」


 案内とは勿論国王の元まで。

 そこへ行けば最先端の情報が仕入れられるからな。

 その前に。


「ユミフィ。俺が来たんだ。安心しろ」

「うん…そうだね。八大列強が二人もいたら、勝てない相手なんていないよね!」

「二人…か」


 どうやら、本当に俺達より先にここまで辿り着いたみたいだな。

 しかし…どうやって?

 こちらは空からだぞ?

 ま、本人に聞けば早いか。


「カイコさんが到着しました」


 いつもの謁見の間ではない。

 初めて入る部屋だ。

 ニーナが部屋の前を固める騎士へ伝えると、中から扉が開いた。


「入りなさい」

「はい」


 中からは聞き覚えのある声が聞こえた。

 その声に従い、両開きの扉を潜って入室した。


「かい…こ…」


 部屋はかなり広く、壁が全て本棚となっている書斎だった。

 恐らくは国王執務室なのだろう。

 室内には執務机に座る国王と、その両サイドを固める護衛と執事の姿が窺える。


 そして、消え入りそうな小さな声で俺の名を呼んだのは、執務机の前方にある応接セットのソファへと腰を掛ける美女だった。


 その姿を見間違うはずもない。白髪の魔導師、アンジェリカ・シンドローム。


「ご、ごめんなさいっ!」


 そんなアンジェリカは俺の姿を見つけるとすぐに立ち上がり、床に両手両膝をついて謝罪してきた。


「何の真似だ?」


 皆目見当がつかない。


「貴方の大切な人を守れなかった……強くなった()()()だったけれど…結局はつもりでしかなかったの……」


 そうか。

 これは謝罪ではない。懺悔だ。

 そこに気付けば、俺のすべきことは自ずと見えてくる。


 俺はアンジェリカの前へ立つとそのまま同じように膝をつき、肩を優しく抱いて声を掛ける。


「謝ることなど何一つない。それよりも、強くなったな。

 魔力の大きさもそうだが、より洗練されている。

 そんなアンジェリカへ一つ頼みがある。聞いてくれるか?」

「な、なに…?」

「俺にその力を貸してくれ。アンジーと俺ならきっと、どんな敵にも負けないだろう?」


 いや、リーリャには二人掛かりでも勝てんが。

 ま、ここで大切なのはアンジェリカの気持ち。

 前向きな心持ちでなければ、本来の力を十全に発揮することは難しいからな。


「わ、私で…いいの?」


 尊敬してやまない祖父の足跡を辿り、同じように早乙女流の八大列強と旅することを夢見る少女、それがアンジェリカだった。

 その為に強くなり、俺と並べるまでになれたと思った矢先に今回の出来事。


 アンジェリカが悪いわけではない。

 弱いことが悪ではない。

 帝国が悪というのはこちら側の視点でしかない。

 真に悪いのは、信念を曲げ抗う心を失くすことだ。


 そんな強い(ひと)が、これしきの事で折れるはずもない。


「お前がいい。アンジェリカ、力を貸してくれ」


 共にリーリャへ師事した身。兄妹弟子とも言える。

 そうじゃなくとも、俺は初めからアンジェリカの才能に少し嫉妬していたくらいだ。


 師匠は気まぐれだが、カレンのことは必ず守ってくれる。

 しかし、他は頼れない。何せ気まぐれだから。

 俺が死にそうになったとして、師匠は笑って見ているだけだろう。たとえそのまま死んだとしても。


 カレンは論外だし、ガルグムントはどう動くか予想出来ない。

 一度窮地から身を挺して守ってもらったが、次があるとも言い切れない。


 その点アンジェリカは信頼出来る。

 ニーナ達も信頼に値する人物だが、やはり強さが一段足りない。


 現時点での相棒として、これ以上ない存在と言えるだろう。


「う、うん!任せてっ!」


 涙はない。俺の知っている勝ち気なアンジェリカがそこにはいた。


「そろそろ…話してもいいだろうか…?」


 気まずそう。

 とても気不味そうに、この国の最高権力者が聞こえるか聞こえないかの声量で呟いていた。











「状況は把握した。アンジー、具体的にどれ程の魔力を感じたんだ?」


 国王からは詳しい経緯、アンジェリカからは敵の戦力を聞いた。

 敵は間違いなく悪魔だとも。

 ま、消去法でもそれはわかるが、早めに知っていた方が話も早いし、対処方法も決まっている。

 悪魔は必ず殺す。

 それはこの世界を守る為。


「ええ。憶測も混ざるけれど、どれだけ高くても今の私とリーリャお姉ちゃんの間…よりも少し低いくらいかしら」

「そうか」


 その言葉の後、俺は最終段階(限界)になって見せた。


「す、凄い…」

「ひいっ!?バケモノが更にバケモノに…」

「何ですかアマンダ?先程から失礼ですよ?」


 魔力を感じ取れる二人は俺の変化に驚き、他は何が起こったのか気付いてすらいない。


「これと比較してみてどうだ?」


 別に強くなったことを自慢したいわけじゃない。

 いや、ほんの少しだけ、アンジェリカにはしたかったのかも。

『強くなったのはお前だけじゃないぞ?』と。


「私よりも少し高いかしら?多分そうね。でも、アイツには少し足りないと思うわ」

「そうか。なら問題ない」

「そう」


 魔力量で負けている。

 それがわかっても俺の自信に揺らぎはない。

 アンジェリカも同じなのだろう。


 大切なのは魔力量よりも技術。

 技術よりも気持ちだということ。


 それをリーリャとの修行で、嫌というほど理解させられてきた。

 だからアンジェリカも相手を過大評価することなく、やり方次第では倒せると認識している。


 最初に悪魔を見た時は、著しい魔力の欠乏により心が不安定になっていたのだろう。

 それを引き摺っていたが、俺との会話で払拭出来たようだ。


「カイコよ。勝てるのか?その…悪魔とやらに」


 俺とアンジェリカが当たり前のように話題にあげる悪魔。

 それはこの世界で馴染みのない存在だ。

 御伽話や、子供達を言い聞かす為の作り話くらいでしか聞くことのない単語。


 そんな突拍子のない話でも、誰がするかによって信憑性は変わるらしい。


 八大列強()八大列強(アンジェリカ)の話を聞き、国王(じぶん)ですら知らない脅威を初めて知り、その強さに絶望していた。

 魔力量だけでも、自身と関わりのある八大列強よりも上だと。

 それも序列三位の。


「悪魔に負けるイコール、この世界の終わりだ。

 勝てるかどうかなんて低レベルな話はよせ」

「す、すまん」


 国王が悪いわけじゃない。

 しかし、それでも人々の頂点に立つ人物。

 それだけに責任は大きく、国王が生まれてもいない過去であってもリーリャ達へ人々がしたことは断じて許容できないので、王という立場の人物へ俺の当たりは強くなってしまう。


「過去、人々は当時の八大列強を嘘つき呼ばわりした。

 それにより本来あったはずの対悪魔防衛網はなくなり、間違った形で八大列強の在り方が伝わってしまった。

 当時の八大列強達の怒り…いや、情け無さはどれ程のモノか計り知れないがそれも昔のこと。

 それでも今を生きる者達に何の責任もないとは言えない」


 リーリャ…と、後あのバカ龍族。

 数少ない生き証人の二人は当時のことを呆れながら語っていた。

 喉元過ぎればとはまさにこの事だと。

 平和な時代が長すぎたとも。


「国王。これからどう動けとも俺は言わない。だが、今回の事件をよく考えるんだ。

 今回俺達がその悪魔を倒せたとして、それで本当に終わりなのか、と。

 未来の子孫達の平和を願うなら、現在(いま)どうするべきかを」


 スバル達を救う為に俺は全力を尽くす。

 その結果悪魔を倒せたとして、それで終わりの話ではない。


 人類は…天使達は抗い続けねばならないのだ。

 悪魔の野望が潰えるその日までは。

纏めて投稿していますが、次回はGWということでその期間は毎日一話投稿へ切り替えます。

終わり次第、元に戻す予定です。

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