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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
94/115

2-1

 






「ひぇぇ…」


 懐から情けない声が聞こえる。

 声の主はカレン。

 現在俺達は、地上から遠く離れた上空を飛んでいる。


 いや、語弊があるな。

 飛んでいる龍の背に乗って移動しているが正しい表現だろう。


 龍形態へと戻った師匠は大きく、その背にはゴツゴツとした鱗と中央部に並ぶ背鰭が特徴的だ。


 その背鰭と背鰭の間に腰を下ろし、飛ばされない様に前方の背鰭を掴んで乗っている。


 俺はそれで問題ないが、問題のある者が二名。


 先ずはカレン。

 カレンの対処法は簡単だ。

 俺が着ている龍製外套の中にカレンを入れ、俺に抱きつく形で乗せている。

 その視界は外套と俺の身体に阻まれて見えないはずだが、風切り音や外套に当たる風の音から外の様子を想像して怯えている様だ。


 もう一人…というか、一匹。

 ガルは俺が抱えられるほど小さくもなく、かと言って龍の胴体とガルを縛れるほどの長さがあるロープなどもなく。


 仕方ないので鱗と鱗の間に爪を立てて何とか張り付かせている状態だ。


 ゆったりとした飛行であれば、ガルも問題なくその背で安定出来るが、今は俺達が振り落とされないであろう限界の速度で飛んでもらっている。


 故に限界の姿勢となっていた。


「早いっ!海だ!」


 そんな風にガルの心配をすること暫し。

 予想よりも早く、大陸西海岸を拝むことが出来た。


「師匠!ここから北上してくれ!」

『グギャオオ』


『わかったよ』と言ってくれたに違いなかろう。


 龍形態の師匠は言葉を持たない。

 いや、これは人に限った話で、龍同士だと会話できるのだろうが。


「きゃあっ!」


 西に向かってひたすら真っ直ぐ飛んでいた師匠は、俺の言葉を聞き、直角にその進路を変更した。

 あまりの急旋回に俺の心臓も高鳴り、しがみついているカレンは恐怖に悲鳴が漏れた。

 違うものだけは漏らさないでくれと、俺は内心で願う。


 ガルルッ……


 そんな俺の気持ちがわかったのか分かっていないのか。

 ガルから『揺らすな』と、苦情が聞こえてきた。


「師匠には神獣語が伝わらんのにな」


 ガルもそれだけ必死なのだろう。

 余裕がないとも言える。


 そんな二人と二匹の集団の、北へ進路を変えた空の旅は続いていく。

















「しまった!師匠!多分行き過ぎている!」


 ここへ来て、俺は勘違いに気付く。


「あの時の街からは海が見えなかった。つまり、海沿いに大きな街を探しても見つかるはずもなく、あったとしてもそれはあの街ではないんだ」


 そもそも、俺が行ったことのある帝国の街は副都。

 帝都は小さな町だと、確かスバルから聞いた記憶がある。

 しかし、基本的に皇族が滞在し政を行うのがあの街なのも事実。


 だから向かうのはそこか、もしくは王都。

 そしてそのどちらも海に面していない。


『ガァォア…』

「すまん。思い違いをしていた。とりあえず、少し東に向かってくれないか?」

『グギャオオ』


 言葉はわからないが、呆れられた気がした。


「きゃあっ!?」

 ガルルッ……


 またも同じくだりを繰り返し、今度は東へ向かうことになった。











「アレは!?師匠!止まってくれ!」


 目に飛び込んだのは、眼下に広がる山々。

 物凄く見覚えがある。


「間違いない…故郷だ」

「えっ!?どれですっ!?見えない…」


 カレン、今はそれどころじゃないから少し大人しくしていて欲しい。


「つまり、ここから南下したところにギャリック伯爵領があり、更に南下やや東方面には…王都がある」


 正確な位置のわからない帝国を目指すより、王都へ立ち寄って状況を確認した方が早いか?

 どうするべきか……


『グギャオオォォ』

「え?」


 師匠が何事か告げると、急に高度を下げ始めた。


「ま、待ってくれ!まだ距離があるんだ!」


 俺の言葉は虚しくも風に掻き消され、何故か故郷の山の近くへ着陸してしまった。








「師匠!頼む!後少しなんだ!」


 師匠の背中から飛び降りるとカレンを降ろし、叫びながらもすぐに頭のある位置へ向かって駆け出した。


 すると師匠は眩い光に包まれ、やがて人型へ。


「わかってるよ。でも、今はムリ」

「どういうことだ?魔力切れか?とてもそんな風には…」


 大陸を横断するほどの距離を飛んだのに、師匠の莫大な魔力量に変化は見られない。


「違う。カイコは人だからわかんないと思うけど、僕とは違う龍の領域(テリトリー)に入っちゃったんだ」

「なに?」

「だから向こうが来る前に、カレンを安全な所まで連れて行って。龍は僕が対処するから」


 何だと?

 別の龍?

 待て待て……俺は…いや。俺とジジイは龍の棲家のすぐ近くで暮らしていたのか!?


「どれくらい離れているんだ?」

「あの山の先に別の山があるよね?その先にある山だと思うよ。多分龍脈だね。

 この辺りもその影響下にあるから魔力が多くて魔物も多いし」

「…そうか」


 だから、洞窟(じっか)の周りの魔物達は数も多く強かったんだな。


 いや、そんなことよりも……


「師匠なら負けないと思うが、気をつけてくれ」

「そうだね。匂いからも弱い気配がプンプンするよ。それでも龍との戦いは周りに及ぼす影響も被害も大きいから、カレンを頼んだよ」


 龍レベルの弱いはアテにならんな。


「わかった。俺達はこのまま南下して、この国の王都を目指す。期待薄だが、出陣に間に合うかもしれないし、間に合わなくとも情報は仕入れられるからな」

「わかったよ。多分見つけられると思うけど、もし無理でもカイコが限界突破を使ったらある程度の距離があっても見つけられるはず。

 兎に角、カレンの命を第一に行動して」

「わ、わかった」


 最後の一文には殺気が込められていた。

 戦闘モードの師匠からは、未だに殺されるイメージしか湧かない。


 今度はガルの背に跨り、再びカレンを抱えて、俺達の旅は続いていく。














「カイコさん!?」


 夕暮れ時、辿り着いたのはギャリック伯爵領領都だった。

 流石に速いが、空の移動を体験した後だと少し焦りが出てしまう。


「アイラ、久しぶりだな。急で悪いが、ギルドマスターに会いたい」


 懐かしむ間も無く、街に入った後はその足で冒険者ギルドへと向かった。

 受付にも懐かしい顔があるが、旧交を温める暇もない。


「わ、わかりました。あの…そちらの方は?私、何か悪いことをしたでしょうか…?」

「ん?」


 恐る恐る聞いてきたアイラ。

 その視線の先を辿ると、カレンが鬼の形相でアイラを睨んでいた。

 いや、怖くはない。

 だが本人からすれば精一杯の威嚇なのだろう。


 そんなカレンへと……


 ゴチンッ


「いっっっ!?」

「あらぁ…」


 ゲンコツを落とした。


「済まん、アイラ。無視してくれ」

「は、はい。こちらへ」

「ありがとう」


 どうやら許可なく案内してくれるようだ。

 俺はその懐かしい後ろ姿へついて行き、カレンは頭頂部を摩りながら涙目でそんな俺の後を追った。




「ギルドマスター。カイコさんをお連れしました」


 扉越しに要件を伝えるアイラ。


『何!?入れ』


 中からはすぐに返事があり、またも懐かしの部屋へと通された。


「久しぶりだな。要件はわかるな?」

「少し大きくなったか?うむ。座ってくれ」


 気安い挨拶を交わすと、ハミルトンもそれに応じ、俺はソファへと腰を降ろした。


「帝国の凶行についてであろう?」

「そうだ」


 話が早くて助かる。

 俺は近況を簡単に伝え、現在の状況を詳しく説明してもらうことになった。






「なるほどな…馬鹿な奴らめ…あれだけ忠告したのに」


 どうやら、あの()()()()では俺の真意が帝国へ伝わらなかったようだ。

 大国が一枚岩じゃないことなど俺でもわかるが、それでも危機は共有しろと強く思う。


「それで?スバルは…王太子はまだ王都にいるんだろう?」


 願いを込めた問いかけ。

 俺はハミルトンの答えを静かに待つのであった。

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