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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
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1-11

 






「首尾はどうなっている?」


 帝国帝城にて、皇太子の寝室に置いてあるベッドから大男が身体を起こして問う。


「全て陰から力で捩じ伏せています。問題はありません。王国から軍が出立したとの報せ、そのご報告です」


 大男の問いかけに答えたのはチェンバリン皇子…の姿をした悪魔。

 その右腕にはあのブレスレットが嵌っており、寝室の角には縛られて転がされているチェンバリン皇子の姿が。


 その右腕には、悪魔がしている物と同じブレスレットが窺えた。




 ことは数週間前に遡る。





「其方らか?私に献上したい品があると申すのは」


 部屋の中程で、片膝をつき(こうべ)を垂れた姿の人物が二名。

 どちらともなく、チェンバリン皇子が声をかけた。


「直答をお許しください。とある王家筋より、チェンバリン第一皇子へ必ず渡す様にと預かった品がございます。

 我々は別に主がいる身。ですので大変心苦しいのですが、主との約束事の一つがありまして、貴方様が帝国第一皇子殿下ご本人様であると確約して頂きたいのです」

「如何にも。私が帝国第一皇子であるチェンバリンだ。ここにいる騎士団長とこの街の代官が証人では不服か?」

「滅相もございません!こちらがその品になります」


 頭を下げているのは小柄と大柄の二人。

 先程から小柄な者が話しており、その者の合図により、大柄な男が桐箱に入ったままの献上品を恭しくも差し出した。


「ほう。確かに見事な作りだ。少し古そうに見えるな」

「王家伝来の品にございますので」

「して。その王家とやらは、どこの国であるか?」


 部屋の入り口に立つのは二名の騎士。

 騎士団長は皇子の直ぐ傍に控えている。

 男達が賄賂を渡した代官は皇子の後ろ。


 得体の知れない二人がいる為か、騎士に油断は見られない。


「悪魔王国だ」

「あく?」

「貴様っ!無礼であるぞ!」


 それまで頭を下げたままだったナギッシュ悪魔子爵は、もうこれ以上の確認は必要ないと判断したのか取り繕う姿勢をやめ立ち上がる。


「口より先に手を動かせ。薄鈍め」

「が…」

「「ひぃっ!?」」


 この街最強の一人である騎士団長は瞬きする間もなく頭を潰されて絶命した。


 ヒュッ


 移動時に風を切る音だけを残し、部屋の入り口を固めて呆然と突っ立っている残りの騎士にナギッシュは肉薄する。


 グシャ…


 騎士二人が反応する前にその大きな左右の手で二人の顔面を掴み、鎧兜ごと潰した。


「だ、だれっ……あひ……」


 その惨状から目が離せなくなってしまった皇子の隙をつき、文官が薬品を含ませた布で皇子の口を塞ぐと、皇子は直ぐに力無く床へと倒れ込んだ。


「ば、ばかな…お前達…正気かっ!?相手は皇族であるぞ!?わ、わ、たしも…打首になるではないかっ!?」

「じゃあ、今死ね」

「は?」


 代官の頭はナギッシュの手刀によって、胴体と泣き別れる結果となった。


 血溜まりに佇むナギッシュへ、文官の悪魔が声をかける。


「閣下。今直ぐに魔導具を使いますと私も昏倒してしまいます。先ずは気付で皇子を起こしてから、影武者の魔導具を起動します」

「任せた。私は部屋に誰も入ってこない様に見張る」

「お願いします」


 そう告げると、悪魔は懐から小瓶を取り出し、栓を抜くとそれを皇子の鼻先へ持っていく。


「うっ…」


 直ぐに皇子から反応が返ってきたが、起きる気配はない。


「半覚醒確認。手筈通り、魔導具の起動に入る」


 全覚醒させると皇子が騒ぐ可能性が高い。

 よって半覚醒に止め、自分のことはナギッシュ悪魔子爵が起こしてくれると信じ、悪魔は自身の腕と皇子の腕に対となるブレスレットを嵌めた。












 皇子になりすました悪魔とナギッシュは、帝国を牛耳る為の行動をすぐに始めていた。


「帝都にはすぐ入れたが、帝城…それも後宮となると皇子の身分では簡単には入れんか」

「はい。皇太子が別に即位する流れで、後宮にはどの皇子も入れません」

「皇帝を殺して終わり……とは、いかないようだな」


 現皇帝を殺害しても、次期皇帝の座はチェンバリンのモノではなく皇太子予定の皇子のモノ。


 悪魔側からすれば面倒な話だが、皇族を必要以上に殺すと内乱が起き、国力が低下してしまう。


 これはあくまでも悪魔皇帝の拠点作りの一環。


 使えない拠点は必要ないのだ。

 出来れば国力を維持したまま、この国を乗っ取りたい。


「はい。ですので、策が必要になります」

「任せる。私の苦手分野だからな。必要なら使え」

「閣下を使えるのであれば容易いかと。いえ、仰せの通り」


 悪魔界から持参した魔力計によると、天使界に住まう者達の力は大したことはない。

 これはここへ来る前にわかっていたことだが、確認もまた重要。


 子爵級よりは劣る男爵級とはいえ、何故この様なレベルの低い世界で死んだのか?

 悪魔の思考が脱線しかかるも、それを考えるのは自分の役目ではないと頭を振り、新たな策へ取り掛かるのであった。









「ほう。弱小貴族を罠にはめ死に追いやった罪により、その首謀者であるフレームベルク皇子を捕えると。

 面倒なことを考えたな」


 自分は何もしないが、説明と報告を聞く義務はある。

 ナギッシュはめんどくさそうにしながらも話をちゃんと聞き、悪魔界へ報告するレポートを纏める。


 報告は多くても半年に一回まで。

 間隔が短いと、魔導具の消耗が激しいのだ。


 次元を渡れる貴重な魔導具。

 故に、報告時には簡潔に伝えるよう定められており、武官で知られるナギッシュには苦手な執務仕事とはいえ真面目に取り掛かっていた。


「はい。その時にもし邪魔が入れば……」

「俺の出番か。わかった。その時は迅速に対処する」


 この場合、邪魔をするならばそれはフレームベルク皇子側の人間。

 生かしておいたところで余計な火種にしかならず、ただ殺してしまおうと簡単に決めてしまう。

 この判断が後に後悔へ繋がることを、ナギッシュ以下悪魔達が知る由もなかった。











 フレームベルク皇子は晴れの日を迎えていた。

 この日をどれだけ待ち侘びたことか。

 これで漸く、王国含む近隣諸国と共に未来へと向かって歩んでいける。


 そう思っていたのだが……


「何のつもりだ?」


 主賓であるフレームベルク皇子の控室。

 そこで家族と団欒していると、多数の近衛騎士が突入してきた。


 最初は何かトラブルがあり、護衛の為に踏み込んできたものと思ったがどうも違う。

 騎士達の敵意が自身へ向かっていることに気付いた。


「殿下に国家反逆罪の嫌疑が掛けられました。残念ですが、ご同行願います」

「国家反逆罪…だと?」

「私共は皇室から殿下を捉えるよう命じられたに過ぎません。

 釈明は別の方と別の機会でお願いします」


 身に覚えのない罪。

 いや、清廉潔白じゃないことなど、自身が一番知っている。


 そうしなくては掴めなかった。

 第六皇子というポジションから、皇太子という椅子は。


 それでも、国に不利益なことなどしたことがない。

 それはそうだろう。

 手柄を求めて陰日向で争うことはあれど、逆をするなんて意味がない。


「貴方…」「皇子殿下…」


 二人の妻が不安そうに、そして心配そうに自分の名を呼ぶ。


「問題ない。していないものはしていないのだ。直ぐに解放されるだろう。今暫く窮屈を強いるが、許せ」

「私共のことは……」

「兄に報せを送ります」


 急遽騎士達の手によって引っ立てられることとなったフレームベルク皇子。


 まさか有無を言わさず地下牢に入れられるなどとは、この時思いもしていなかった。

 仮にも、皇太子筆頭であり、第六皇子の自分が、と。


 そして地下牢ですぐに再会することになる。

 最愛の家族と。

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