表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
山籠りの老師に拾われた子、人里に現る
9/115

1-4

本日五話投稿4/5

 






 昨晩の出来事を俺は生涯忘れることなど出来ないだろう。

 俺はこの世の全てを手に入れたのだから……


「はあ…朝から楽しみだ…」


 この楽しみがあるのなら、俺はどんな理不尽にも耐えられる。

 勿論、金がなくては何も得られないのだから、それ以外という話だが。





「美味い!おかわりをくれ」

「はいよ。兄さん、昨日からよく食べるね。これはサービスだよ」

「悪いな。遠慮なく頂こう」


 この世の全てとは、食事のことだ。

 人の世の飯がここまで美味いとは…ジジイ…何故黙っていた……


「はいよ。お待ち」

「くっ…この食欲を唆る香ばしい匂い…抗えん…」

「ははっ。大袈裟だねぇ」


 おかわりのステーキには、見たことのないソースとやらがかかっている。


 山では岩塩以外の調味料などなかったのだ。

 宿の女将に笑われるも、今の俺に恥ずかしい気持ちなど一切なかった。


 笑えばいい。この田舎者が、と。

 そう。田舎者なのだ。

 この味を知らずして、都会人などとは言えまい。


 俺は手に入れたのだ。

 朝晩の楽しみ。

 所謂、生き甲斐というやつを。







「ふう…食った食った」


 夕食もおかわりしたが、朝食もやはり美味かった。

 有料となってしまうおかわりだが、俺にその欲望を止める術などない。

 ないが、このままではすぐに金欠となるのも明白。

 そうなれば自ずと止まる。


「…それは何としてでも阻止せねばならない」


 美味い飯を腹一杯食べるという、生き甲斐は出来た。

 と同時に、それを叶える為には金が必要になる。つまりは、金策という目標も出来てしまったということだ。


「…仕事だ。それしかあるまい」


 現在の仕事は、冒険者。

 しかし、現状は試用期間といったところで、無給での仕事しか出来ていない。


「…転職するか?」


 力仕事であれば雇ってくれるところもあるかもしれない。


「流石に急ぎすぎか?」


 俺がここへきた目的は『最強』になるため。

 今思うと、なんとアホな目標か。

 冒険者としての仕事ですらまともに金を貰えないのに、考えるだけでも少し恥ずかしくなる。


 それでも、目的は目的。

 いきなりそれを全く別のものに変えてしまってもいいものなのか?


「…時期尚早、か」


 流石に昨日今日だ。

 もう少し頑張ってみて、それでダメならその時考えようではないか。

 先ずは倹約。

 先立つものがないからな。


「おかわりは当分お預け……」

「どうした?兄さん。食べ過ぎて具合でも悪くなったかい?」

「い、いや。問題ない。美味かったよ。行ってくる」


 まさに、この世の終わり。

 その様な表情(かお)をしていると、食後の片付けへやってきた女将に心配される。


 すぐに表情を取り繕い、逃げる様に宿を後にしたのであった。

 向かうは金策……もとい、職場である。














「あ。カイコさん!こちらへっ!」


 冒険者ギルドへと着いた俺は、受付の女から早速声をかけられた。

 また金にならない仕事を回されるのでは?と、俺は身を固くする。


「し、仕事…」


 口答えはクビに繋がるかもしれない。

 しかし、金がなくては結局同じ。

 故に俺は、自身の思いを口に出した。


「待ってください。兎に角。兎に角、こちらへお願いします」


 早朝のギルド内は、人で溢れかえっている。

 受付も相応に混雑しており、その中で順番を無視して俺へと声を掛けてくる。


 それだけならまだしも、受付の女は頭まで下げて懇願してきた。


「おいおい…アイツ、何者だ?」

「アイラちゃん!そんなデカいだけの奴に頭下げることはねーよっ!?」

「お前!アイラに何したんだよ!?」


 五十人はいるであろう、冒険者の視線を独り占めしてしまう。


 デカい奴とは俺のことだろう。

 俺の身長は182cm。他の冒険者達より頭一つ分程大きいからな。


 ところで、アイラとは?


「皆さん!お静かにっ!」


 女が、体格に見合わない大きな声をあげた。

 それにより、騒がしかったギルド内を静寂が包み込む。


 現在ギルドにいる冒険者達は、ルーキーだけなのだろう。

 理由としては、魔力の質も、身のこなしも悪い為だ。


 だから、一番弱くとも上役であるこの女の一言には従うしかない。俺と同じく簡単にクビになってしまうのだから。


 やはり、俺も従うしかないのか……


「…わかった。行こう」


 不承不承ながら、女の後をついて行く。

 この時の俺の姿は、周りからは酷く滑稽に映ったことだろう。

 180を超える大男が、160程の明らかに弱い女の後ろに、項垂れながらも大人しく付き従っていたのだから。


 だから、視線が多く集まっているのだろう……中には殺気混じりのものもある。


 ありがとう。ギルドの理不尽に耐える見知らぬ俺の為に、わざわざこの女を睨みつけてくれて。











 コンコンッ


「カイコさんをお連れしました」


 またこの部屋か……


 通されたのは昨日と同じギルドマスター室。

 この女は、自分では断られるかもしれないと考え、絶対に断れない権力者を使うつもりなのだな。


 浅はかな……


 俺に断るつもりなど……いや、断る選択肢など初めからないというのに。


「…カイコ。よく来てくれた。座ってくれ。あ、君。お茶を二つ頼む」

「はい」

「…わかった」


 茶を二つ。

 つまりは、持て成さなくてはならないほどに、誰も受けたがらない依頼の話?

 それとも、無給二連続は流石に申し訳ないと、ささやかな気遣いのつもりなのか?


 どちらにせよ。

 こちらに選択肢はない。

 やはり、早く別の仕事を探さなければ。


「とりあえず、これを納めてくれ」


 終ぞ、昨日は机から動かなかったギルドマスターであるハミルトン。

 そのハミルトンが対面へ腰掛ける前に、テーブルの上へと袋を乗せる。


 ジャラジャラと聞き慣れない音を立てながら置かれた袋。

 今度は荷運びの依頼だろうか?


「これを何処かに持っていけばいいのか?」


 分からないことは聞くしかない。

 それに、タダ働きはさっさと終わらせなければ。


「い、いや。これは昨日カイコが受け取らなかった『報酬』だ」

「は?」


 聞き間違いだろう。

 金が欲し過ぎて、遂に幻聴まで聞こえ始めてしまった……

 ジジイが言っていたな。

『金は人を狂わす。お主は問題ないじゃろうが、この金貨一枚で人が人を殺すことを努努忘れるな』

 と。


 ジジイ…済まない。俺は…狂ってしまったようだ。


「だからっ!これはお前の金だ!」

「は?俺の?なんで?」

「だ・か・らっ!指名依頼の報酬だと言っておろう!」


 え?

 報酬?

 俺の?

 あれ?無給とは?


「お、俺の…もの?」

「だから何度も言っているだろう?これはカイコの金だ」

「俺の…かね…」


 はっ!?

 危ない。

 これが俺の金だとして、中身が全部『銭貨』であれば、恐らく全て合わせても銅貨一枚か二枚分。

 それくらいで払ったことになるのなら、ギルドとしても万々歳だろう。


 あそこまでの往復で、パン一つ程度の駄賃にしかならないのなら。


 ちなみにこの国では『神銀(ミスリル)貨』>『金貨』>『銀貨』>『銅貨』>『銭貨』の順に高価である。

 特に銭貨はゴミ扱いである為、お金として使えない店もあり、100枚で銅貨一枚分の価値しかない。


 宿代は一泊銀貨一枚と銅貨五枚である。

 銅貨五十枚で銀貨一枚と同等。


 つまり、これでは宿代どころか飯も食えん。

 ぬか喜びというわけだ。


「……」

「ど、どうした?」

「もう少し、何とかならないか?あ!出来たら!出来たらでいいんだ」


 無言を不服と捉えたらしい。その通りだ。

 だが、金が貰えたことは素直に嬉しい。

 よって、下手には出るも、要求はちゃんと伝えた。


「あ、当たり前だ。報酬は正当な権利だからな」


 マジか…言ってみるもんだな……


「これは伯爵からの成功報酬。こっちが…」


 ドンッ


 もう一つ、同じ様な袋がテーブルに増えた。


「ターナーが伝えていた、二割り増し分だ」

「どう見ても同じくらいはありそうだが?」


 しまったっ!貰えるものは黙って受け取れば良かった……

 馬鹿かよ……


「お前は期待以上だった。だから今後の活躍に期待を込めて、報酬と同額とした。伯爵家から今以上の支援を約束してもらえたしな。ありがとう」

「そ、そうか。話はそれだけだな?では、失礼…『待ってくれ』…なんだ?」


 タダ働き…いや、薄給を避ける為、自分で受ける依頼を吟味しようと立ち上がるも、そうは問屋が卸さなかった。


 初めに受けた説明によると、指名依頼は特殊らしい。

 普通は、受付近くに置いてある依頼ボードに貼ってある依頼を、各々が選んで受けるのだと。


 報酬もちゃんと明記してあるので、俺もそれを選びたかったのだが……

 まともな報酬の依頼を。


「カイコは……」

「要件があるなら早くしてくれ」


 依頼は早い者勝ち。

 もちろん受けられるのは、ランクに応じてだが。


 俺は最下層のFランク冒険者。

 受けられる依頼もFランクのもの。


 それなら魔物の強さも同じ順番にしてほしいものだ。

 何故冒険者ランクと真逆にしたのか。


 金になる依頼が受けたくて焦る俺。

 何故か言い淀むハミルトン。


 室内は異様な雰囲気となっていた。


「お前は…」


 遂にハミルトンの口が動く。


「『拳王』拳信 早乙女の縁者なのか?」

「え?ジジイのことを知っているのか?」


 というか、何なんだ?拳王って。



 ハミルトンは張り詰めた気配を漂わせている。

 弱いくせに。多分。

Q.蚕が何故強いのか。

A.それは拳王によって育てられたから。


だけではありません。


その辺も諸々掘り下げていきますが、まだまだ先の話になります。

今の所『俺つえーー』な感じですが、強者は沢山います。

八大列強然り、それ以外にも。

それはもう一杯に。


ですが、掘り下げるまではどうしても『俺、つえぇー』要素が濃くなってしまいます。

勿論、蚕は強いですが……


ちゃんとした敵が出るまで、今暫く『俺つえー』にお付き合い下さると嬉しく思います。

多謝。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ