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悪魔の落とし子  作者: ふたりぼっち
最強の足元
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1-6

蚕視点。時間軸も戻ります。

 





「気が済んだ?」


 天地の感覚すらない。

 俺は今、空を見上げているのか、それとも地に伏せているのか。


「ぐっ…」


 そんな俺の足を掴み逆さ吊りにするのは自称白竜。

 漸く視界が晴れ飛び込んできたのは、生気が感じられない白一色の顔面だった。


「ぅあ…」

「生きてるよね?」


 死んでねーよ…まだ、な。


 呻くことでしか口を動かす事も出来ず、幾許も時は掛からずに俺は意識を手放したのだった。















「そっか。てっきり、死にたがりなのかと思ったよ」


 俺がまだ生きているのはコイツの気まぐれに過ぎない。


「シロには『次、その名前で呼んだら本当に殺すから』…わかった」


 よく分からないが、何の拘りもないので了承した。


「アンタには目的が無いんだよな?」

「そうだよ。強くなり過ぎて敵も居ないしね。やりたい事もないし」


 その割に俺を生かし、何故か人の言葉を理解している。

 ま。コイツの過去に興味などないが。


「じゃあ、頼んでも良いか?」

「だから、何を?君、負けたくせに偉そうだね」

「負けたからだ。俺は強くなりたい。俺を強く出来ないか?」


 正直行き詰まっている。

 気晴らしにこんなところまで来てしまったが、どうせなら収穫があってもいい。


「君、馬鹿なの?僕、龍だよ?」

「知ってるさ。龍には縁があるしな」

「龍に縁?龍と出逢って生き残ったの?」


 いや、現時点で生き残っているが?


「俺の祖父が龍と相打ちになってな。お陰で生き延びさせてもらっている」

「じゃあ、仇討ち?」

「いや?俺の祖父も変わり者でな。龍を倒せたなら本望だっただろうよ。だから恨みもない」


 寧ろ、同族殺しの影響で俺が恨まれないか心配だな。


「そ。じゃあ、君は何をくれるの?」

「それは……考えてない」


 大体、コイツに手に入れられないものなんてあるのか?

 人から見れば不老不死みたいなものだし。


「じゃあ、君が強くなれなければ食べるってことで。それでどう?」

「基準が曖昧だが、別にいいぞ」

「いいの?やっぱり、君変わってるね」


 強くなれないなら死ぬ。

 それくらいじゃないと、俺はもう伸びないのかもしれない。

 それに、今の強さ(レベル)ではきっと悪魔に殺される。

 それなら、それをコイツに背負わせた方が世界の為でもある。


 心底、どうでもいいが。


 俺は証明したいだけなのかもしれない。

 ジジイが生きた証…いや、生涯を捧げたモノをこの世界へ。


「でも、不味そうだからやっぱりいいや」

「なんじゃそりゃ…」

「あれ?やっぱり死にたがり?」


 好きに言ってくれ。弱者に権利はないからな。


「暇つぶしくらいにはなってね?」


 ゾクッ…


「善処する…」


 隠す必要が無くなったのか、白竜は抑えていた魔力を解放した。


 ただそれだけで。


 俺は呼吸の仕方を忘れるのであった。
















「ご主人様…お労わしいお姿で…」


 痛くはない。

 痛みなど、とうの昔に乗り越えている。

 それでも、変形した顔面では上手く喋ることが出来ない。


「カレン。あまり甘やかさないで」

「シロちゃん…そう言われましても…」


 何故かカレンはシロ呼びを許されている。というか、自ら進んでそう呼ばせてさえいた。

 そして、時々カレンの名を間違える。アカーシャだったか。誰だろう?ま、どうでもいいが。


 痛みは我慢出来るが、体力の限界は我慢のしようがない。

 そんな俺に対し、カレンの膝枕が更なる眠気を誘発してくる。


 俺は二人の雑談を尻目に、意識を白濁の海へ沈めてゆく。


「カイコに嫌気がさしたら言うんだよ?僕が殺してあげるから」


 いや、寝たいのに……不穏な会話はやめてくれ……















 白竜の元で修行を始めてから半年が過ぎた頃。

 いつまでも『アイツ』や『アンタ』などと呼んでいる事もなく、自然と師匠呼びが定着していた。


「カイコ、漸く一段階まで辿り着けたね」


 師匠の性別は雄だった。ま、見た目通りだ。しかし、話し方は少女のよう。

 それは言葉を覚えた相手がまんま少女だったから、そう聞いた。

 その少女の名前がアカーシャだとも。そこは聞いていないのに聞かされた。


「グギギギギ……」


 そんな俺は絶賛死にそうだ。


「そう。そのまま。その状態を安定に」


 言うは易し。するは難し。


 頭の血管が切れそうなほど、全力をキープしている。

 これが第一段階。


 ここへ辿り着くまでに半年を要した。


 それでも第一段階。


 辺りには俺が解き放つ魔力により、暴風が渦巻いている。

 遮るものの無い高台。

 端の方ではガルが地面に爪を立てて飛ばされないようにと踏ん張っている姿が。

 恐らくその奥にはカレンがいるのだろう。


 もしカレンが吹き飛ばされれば、俺は間違いなく師匠に殺される。

 頑張れ、ガル。


「ふはっ!!」

「…失敗だよ。ま、ここからは慣れだね」


 極限まで魔力を高め、その状態を普通とする。

 聞けばなるほどと効果はわかるものの、やってみると不可能なのではないかと疑いたくもなる。


 強くなることに対して俺よりも貪欲だったはずのジジイも試したであろうこの鍛錬。

 それでも身についていなかったことを考えると、成功例がない限り信じられないほど難しいことに挑戦しているのは自覚している。


 そして、第一段階はクリア出来たものの、次の階段は登るどころか見つかってすらいないのが現状。


「はっ…はっ…はっ…はぁ…」

「今、落ち着いたでしょ?その状態をさっきの状態で維持するんだよ」

「頭ではわかっている…」


 闘気を極限まで高めた状態。これは所謂身体強化された状態なのだが、闘気は身体の内に秘めた魔力。

 簡単に説明すると、内に秘めたる魔力が暴走して破裂しそうな身体を気合いで押し留めているような状況といえる。


 身体は目一杯力んでいるし、魔力も制御しなくてはならない。


 それらを普通の事と捉えられる程に身につけろと、師匠は言っているのだ。


「理想はその状態で寝られるくらいだよ」

「うん…理想は理想だな」


 理想とはある意味で目標や夢と言える。

 さっきの状態で寝るなど、今の所考えられないのだ。

 さっきの状態を維持していけば、簡単に死ねそうなのにな。


 永眠と睡眠はやはり別物だな。


「じゃ、僕はカレン達とご飯の支度に掛かるから」

「わかった。()()()()()は続ける」


 師匠は甘くない。

 激辛だ。


 ご飯の支度を手伝うのは、単にカレンを構いたいから。

 時々街にもついて行っているくらいだ。


 そんな師匠は暇なはず。

 何せ悠久の時を生きているのだから、俺達と違って忙しなく時間がないなんてことはない。


 それでも、甘くない。


 成果があるかどうかより、どれだけ費やしたか。


 修行ではそこを重視している。


 俺が逆に成果あればこそと考えるのは、短命な種族だからか。


 そんな師匠だからこそ身についたのやもしれないな。


「毎度、倒れるまで修行させられるのは精神的にもキツいのだが…」


 誰もいなくなった台地で愚痴を溢す。

 それでも手を抜くことはしない。

 だって、きっと、バレてしまうから。


「ふんぬぅぅぅぅっ!!」


 誰もいない塔の上、そこでは今日も暴風が吹き荒んでいた。

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